愛ほど歪んだ呪いは有らず   作:カバー

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愛ほど歪んだ呪いは有らず その10

 

 

 

 

私と真依ちゃんは話しながら学長室へと向かうことになった。私はまだ体がフラついていたので、真依ちゃんが支えてくれている。…真依ちゃん、胸大きいな。

 

「ねえ真依ちゃん、楽厳寺学長は何の用か言ってた?」

 

「いいえ、特に聞いてないわ。ただ二人で来いとだけ。あと、ちゃん付けじゃなくて呼び捨てにしてくれない?…もうただの同級生じゃないんだし。」

 

そう言うと真依ちゃんは私にウインクする。それはズルくないか!?

 

 

 

「…ま、真依。」

 

「ふふ、照れてかーわいい。」

 

なんか、早速尻に敷かれそうな気がする。

もう逆らえる気しないもん。

 

そんなこんなで学長室の前に到着すると、扉の前に加茂先輩が居た。

その姿を見て真依ちゃんが一言、「げ」と露骨に嫌そうな声を出す。

が、加茂先輩はそのことをまるで気にせずに声をかけてくる。

 

「…来たか、真依、輪。体調の方は問題ないか?」

 

「はい。真依の看病のおかげで、多少ふらつく程度まで回復しました。明日には治ってますよ。」

 

「…なんであんたが居るのよ。」

 

そうまたもや露骨に嫌そうに真依ちゃんが言う。

加茂先輩を嫌っているのだろうか。二人には仲良くして欲しいんだけど。

(せっかく輪と二人きりだったのに!しゃしゃり出てくるんじゃないわよ!)

 

「…私も居た方が話が進めやすいだろうという学長の判断だ。輪の個人的な話だからな。」

 

「は?なんであんたが輪の個人的なことを話す場に居るのよ?」

 

「真依、加茂先輩は昔からの友人だから…」

 

「…あっそ。それじゃさっさと入りましょ。」

 

真依はどこか不貞腐れた様子で扉を乱雑にノックする。すると、

 

「入りなさい」

 

楽厳寺学長の声がする。…やたら厳しい声だ。私何かやっただろうか。

そんなことに気づく様子もなく、加茂先輩と私を連れた真依は部屋に入っていく。

 

「すまんの、輪。まだ体調が芳しくない時に呼び出して。じゃが、お主に関わることで話があったのでな。できるだけ早く済ませたいものがの。」

 

 

「あの、私何かしてしまったでしょうか…?」

 

そう言うと、学長は黙りこくった後、とんでもない質問を私たちにしてきた。

 

「お主、最近真依のことをどう思っておる?どんな関係なんじゃ?」

 

「へあっ!?」

 

いきなりの直球ストレートに脳がバグる。

いやいやいや、なんで楽厳寺さんがそのことを!?もう知ってんの!?

もしかして学園中に漏れてたりすんの!?

 

「え、いや、えーと…その…」

 

「…どうした、言えないのか?」

 

加茂先輩が追い討ちをかけてくる。

私が返答に困っていると、真依が代わりに答えた。

 

「付き合ってるんですよ。恋人として。」

 

その一言に、場の空気が止まる。

少ししてから、楽厳寺学長が湯呑みで茶を飲み、

 

「…なるほどの。道理で…」

 

そう小声で呟く。

 

「…あの、実はそうなんです。それで、それが何か…?」

 

そう私が問いかけると、加茂先輩が少し呆れたような声色で声をかけてくる。

 

「お前、自分の術式を覚えてないのか…?」

 

「私の術式…?私の…あ!!!」

 

その瞬間、思わず大声で椅子から飛び上がる。

色んなことがありすぎてすっかり頭から飛んでいた。そうだ!私が、誰かを好きになるってことは…

 

「…真依ちゃんが、私の術式対象になってる…?」

 

「本当に忘れてたのか。お前はたまに天然だな…」

 

そう加茂先輩がこぼす。思わず頭を抱えてしまう。そうだ!なんでそんな大事なこと忘れてたんだ!

私の『垣間見呪法』は、大きな感情を向けた者を否応がなく巻き込んでしまう。

大好きになった真依ちゃんには、恐らくとんでもない量のバフが入っている。

 

「…帰ってきた真依の呪力が妙に昂っておったので、歌姫先生が確認したところ、今までの呪力の数十倍の呪力が確認された。」

 

「す、数十倍…」

 

どんだけ私は真依のことが好きなんだろうか。それが視認化されたようで、気恥ずかしくなる。

 

「…何のことなんです?私の呪力?輪の術式?説明してください。」

 

そう唯一私の術式を知らない真依が訝しげに尋ねる。それを見た加茂先輩が、試すような声音で尋ねた。

 

「…本当に輪の術式を知らなかったのか?」

 

「は?だから知らないって言ってるじゃない。」

 

真依の様子を静かに見ていた楽厳寺学長と加茂先輩は、静かに息を吐いた。

 

「…どうやら本当のようじゃの。いや、疑ってすまんかった。この話は非常に危うい話での。どうしても疑心暗鬼になってしまう。」

 

「輪、お主の術式のことを真依に話しても良いかの?」

 

「…はい。もう既に彼女を巻き込んでしまっている以上、言わないといけません。それに…」

 

「彼女のことは、信頼してますから。」

 

それから、楽厳寺学長が真依に私の術式の説明をした。真依は静かに聞き入っていたが、最後には苛立ち混じりの目線になっていた。

 

 

 

「…要するに、私は輪を利用してたんじゃないかって思われてたんですか?」

 

「どうしてもそう思うだろう。特にお前は禪院家の者だ。家のために色仕掛けをやったのではないかと真っ先に頭に私もよぎった。」

 

そう加茂先輩が呟く。それにさらに真依は苛立った様子になる。

 

「私は、あんなクソみたいな家のことなんて知らないし、輪のことは術式なんて関係なく大好きよ!」

 

その一言に私はつい目が潤んでしまう。

…嬉しい。こんな風に誰かと愛し合うのは、初めてだったから。

それを静かに見ると、楽厳寺学長は静かに微笑んだ。

 

「それを聞いて安心したわ。良い恋人を持ったの、輪。」

 

「はい!」

 

「これで、次の話に進められるのぉ。」

 

「次の話…?」

 

何だろうか。今度こそ私はなにかやらかしてしまったのだろうか。

 

「お主のこれからの任務時の対応のことじゃ。」

 

「…お前を狙ったと思われる呪詛師が居る以上、真依のような足手まといが居るのは危険だと、私と楽厳寺学長が判断したんだ。」

 

足手まとい、という加茂先輩の一言がどうしても心に刺さった。

加茂先輩は口下手だ。私のことを思って言っているのは分かる。でも…

 

「真依は、足手まといなんかじゃありませんよ。彼女が居たから、私は術式でフルパワーを出せた。」

 

「だが、真依が居なければそもそも術式を使わずに祓えただろう?」

 

「それは…」

 

…悔しいが、確かにそれはその通りだった。    

 

「…足手まといというのは言い過ぎじゃが、事実お主の付近が危険なのは間違いない。故に、東堂や加茂といった一級術師と任務ではお主を組ませる。」

 

「異論はないな?」

 

「……………それは。」

 

私は真依を守ると誓った。色んなものから。その中には呪霊も含んでいる。だが、一緒の任務になれないのなら、どうしても付き合いは薄くなる。

確かに、学長たちの判断は合理的だ。でも…

 

そう葛藤して私が黙りこくっていると、真依が閉ざしていた口を開いた。

 

「今の私の呪力は、一級術師に届いているんですか?」

 

「……呪力の総量のみで言えば、確かに一級クラスにはなったの。だが、それだけでは…」

 

「鍛えて、一級術師になれば、輪と一緒に任務に出れますよね?」

 

「…………」

 

「ま、真依?」

 

その一言は、私にとってはとても意外だった。彼女は呪術界を心の底では嫌がり、呪術師そのものが好きではなかったはずだ。それがなぜ…

 

「言ったでしょ、一緒に居るって。その為なら、クソ面倒だけど一級にだってなってやるわ。」

 

その一言に、楽厳寺学長の目つきが一気に鋭くなった。

 

 

 

「…輪のような特級は、術師の格付けの中で斜めに外れた位置付けじゃ。」

 

「一級こそ、他の術師、ひいては呪術界を牽引していく存在だとわしは考えておる。」

 

「危険、機密、高給、準一級以下とは比べものにならん。もちろん、成るための難易度もな。」

 

「それを踏まえて、お主は一級になりたいと言えるのか?」

 

 

その迫力は、かなりのものだった。間違いない。真依は試されている。

 

「ええ。面倒だけど、決めたことですから。」

 

その一言に、楽厳寺学長が少し黙る。やがて、彼は重い口を開いた。

 

「…良かろう。一級になる為には、一級の術師の二人から推薦される必要がある。幸い、この京都高専には二人の一級の学生がおる。」

 

「加茂憲紀も、お主のように輪の術式で偶然力を得たが、一級になったのはあくまで自力の努力。」

 

その一言に、真依がチラッとジト目で私を見る。まるで、浮気現場を見つけたかのようだ。

いや、私と加茂先輩はそういうのじゃないから。

そう全力で顔をブンブンと横に振る。

 

 

「加茂憲紀、東堂葵。まずは、この二人からの推薦を勝ち取ってみせい!話はそれからじゃ。」

 

真依ちゃんは、心底嫌そうな顔をしながらも、その条件に渋々と同意した。

 

真依の受難の期間が、始まった。

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