愛ほど歪んだ呪いは有らず   作:カバー

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愛ほど歪んだ呪いは有らず その11

 

 

 

 

それから二週間ほどが経過した。

私は東堂先輩と加茂先輩と一緒に一級相当の任務を3つほどこなしたが、不気味なほど何事もなかった。例の呪詛師は影も形もない。

良いことなんだろうけど、どうも気味が悪かった。

 

 

京都高専のグラウンド。普段なら静かな陽の光が辺りを照らし出す早朝に、複数人の凄まじい声が響いた。

そんな中で、二人の人間が組手をしている。

一人は上半身半裸の東堂先輩。もう一人は…

 

「全ッ然ダメだ!もう一度行くぞ!」

 

「…この…あああああッ!!!」

 

ジャージ姿の真依ちゃんである。呪力を用いた組手をひたすらに行い、今は絶賛東堂先輩に投げ飛ばされている最中である。

 

 

「…お前はあれだな。呪霊の影響で呪力が急に増えたらしいが、にしてもセンスがなってないな!」

 

そう。私の術式を伏せるため、高専の一部の者以外には、真依は任務で遭遇した特殊な呪霊の影響下で呪力が急増した、という設定になっている。

 

 

「はあ…はあ…ゼェ…ふざけないでよ、ゴリラ…」

 

真依のいつもの悪態にもキレがない。それも無理はない。東堂先輩は、私が恋人の真依の指導をして欲しいと頼むと、快く受け入れてくれた。

ただし、一級への推薦をする条件として、東堂先輩は、真依が自分の認めるレベルの体術を身につけることを提案したのだ。

 

 

 

「そもそも、なんで…ハァ…体術なのよ…私は遠距離攻撃主体の術師なのよ…ゼェ…」

 

「真依、それは俺とて重々承知している。だがな!一級レベルの任務ともなれば、近、中、遠距離全てに対応する対応力の高さが求められる!」

 

「体術というのはすべての基礎だ!呪力の廻し方、体の動かし方、そして即座の判断力!全てが一気に養われる!」

 

「安心しろ!お前は女の趣味はいい!ベストフレンドを選んだ目は確かなんだ!眠っているセンスを俺が引き出してやる!」

 

「……」

 

 

 

どうやら真依は皮肉をいう気力もなくなってきたらしい。無言で項垂れている。

 

「真依!飲み物欲しくなったらいつでも言ってね!」

 

私はそうクーラーボックスで冷やしている水やお茶を見せながら言う。

 

 

 

「真依ちゃん!頑張れーッ!あんなゴリラ、ぶっ潰せェ!!」

 

「が、頑張ってください!」

 

桃先輩と三輪ちゃんも応援に来ている。

桃先輩は私たちの交際、そして真依の一級術師になるという覚悟に痛く感動して、私と一緒に真依のサポートを手伝ってくれている。

必然的に女子で一人になった三輪ちゃんも、なし崩し的に応援隊に加わった。

 

「よし!今日はここまで!」

 

「……ハァ…ゼェ…」

 

 

真依は、ぐったりとしてグラウンドに倒れ込む。

慌てて私と桃先輩が駆け寄って水と冷やしたタオルを差し入れする。そして、少し落ち着いた真依と一緒に、私は更衣室に向かう。

 

「どう?気持ちいい?」

 

「はぁ…冷たくていい感じよ。ったく…あのクソゴリラ…」

 

そして、私が疲労困憊の彼女に代わり、更衣室で濡れタオルで彼女の汗を丁寧に拭き取り、服も着せてあげるのが習慣になっていた。

彼女の艶やかな背中を拭いていると、煩悩がチラッと顔を見せるが、それを無理やり押さえつけて真依を労う。

 

「でも、2週間前から比べたらだいぶ動けるようになったと思うよ!」

 

「そりゃ、毎日筋肉痛になるレベルだもの…こんなに努力したの、生まれて初めてよ。」

 

 

 

「…ありがとね、私の我が儘に付き合ってくれて。」

 

「いいのよ、言ったでしょ?私は執念深いのよ。」

 

そう言うと、真衣は静かに微笑んだ。…本当に美人だ。振り返って微笑むと、まさに見返り美人。大丈夫だろうか、釣り合うんだろうか、私なんかで。

 

「…それより、私的には午後の方が憂鬱よ。」

 

「あー…」

 

 

 

 

午後の一時。女子陣みんなで仲良くお昼を食べた後は、真依と私は教室の一室に缶詰になる。そこには…

 

「それでは、本日はこの5冊の術師の書き残した平安、室町時代の古書を読み取り、術師としてのあるべき姿を原稿用紙3枚に書き私に提出すること。後日私が添削し、問題点を伝える。」

 

…あんたとゴリラは、私に何か恨みでもあるの?

 

加茂先輩が分厚い辞書のような平安から室町時代のものと思われる古文の本を大量に持ち込み、私と真依の前に積んでいた。

 

「恨み?まさか。むしろ、私はお前たちを応援しているんだ。」

 

「…昔の術師の面倒な本ばかり読ませて、どう応援になるって言うの?頭腐ってるのかしら。」

 

真依の表情が凄いことになっている。

 

「…お前も御三家の出で、一級術師を目指しているんだ。最低限、この程度の知識はないと恥だぞ。」

 

「お生憎様。あんたと違って、私はもうとっくに恥よ。そんなことのために私は一級術師になりたいんじゃないわ。」

 

「…だからこそだ。努力で埋められる部分で見下されるのは、辛いぞ。自分の愛する人の評判を下げることにも繋がる。」

 

 

…加茂先輩の言葉には、実感が篭っていた。私は知っている。この人の本当の母親は、加茂家の側室だが、正室が術式持ちの男子を産めなかったため、無理やり正室の子ということにされたのだ。

それでも、やはり側室の子という目で見られ、影で罵倒される経験もあった。

 

そんな彼の愚痴を聞いてあげ、私も嫌だったことを愚痴るのが、昔からの私たちの仲だった。

 

 

 

「輪は、この程度の知識なら10歳で身につけている。お前も最低限その域にまで達しなければ、推薦はしない。」

 

「…そんなに素晴らしい知識なら、私達だけじゃなく他の学生にも伝えたら?立派な嫌われ者になれるわよ。」

 

「当然そのつもりだ。この時間だって、誰でも受けられるように私は調整しているのに、希望者は輪だけだった。…何故だろうか。」

 

 

真依に、一緒に加茂先輩の授業を受けようと懇願されていた時の桃先輩の苦渋の顔が思い浮かぶ。

真依のために共に拷問を受けるか、否か。

…あまりにも凄まじい苦悶の仕方だったので、代わりに私が参加する事で落ち着いた。

 

 

 

任務のない日は、いつもこんな調子で一日が過ぎた。真依はそうして泥のように眠りにつく。

…私と同じベッドで。改めてみても、凄いスタイルだ。まるでモデルさんみたいだ。欲情もあるけど、尊敬が先にくる。

 

真依が言うには、せめてこの程度のご褒美がないと割に合わない、とのことだ。

向かい合っている物凄く綺麗な寝顔を見つめる。

睫毛がなっがい。顔立ち整いすぎ…!!

艶々とした唇が魅力的すぎる。

 

触れ合っている箇所から、トクトクと互いの心臓の音がする。それに無性に安心する。

彼女はあんなに動いて汗をかいたのにいい香りがして、女の子として凄いと思う。東堂先輩と同じぐらい良い匂いだ。

何故か本人をそう褒めたら、物凄い顔をされたけど。

私では女の子として遠く及ばない。

 

そんな彼女が、私のためにこんなにも努力をしている。

 

「………私は、真依を絶対に守らなきゃ。」

 

そう。それが、例え命に変えることになったとしても。こんな私を、選んでくれたのだから。

 

 

 

 

「…ダメね、全然イメージが湧かない。」

 

雨のしとしとと降るある日、何となく手持ち無沙汰になった私は三輪ちゃんと高専の図書室に寄ってみる。

真依が何かの本を読みながら唸っていた。

 

「あ、彼女さんですね。それじゃ、私一人で面白そうな本探してますから。」

 

そう言うと、三輪ちゃんはそそくさと一人で退散していく。…三輪ちゃんは本当にいい人だ。

 

「どうしたの?私に、何か力になれることはある?」

 

彼女に近づいてそう言うと、真依は本を閉じてこちらを振り返る。

 

「…あら、輪。私に会いに来てくれたの?嬉しいわ。それじゃ、ちょっと私の自慢の彼女にも手伝って貰おうかしら。」

 

そう嬉しそうに言うと、彼女は自身の今現在の課題を話し始めた。

 

「私の術式…『構築術式』はね、呪力の効率がめちゃくちゃ悪いのよ。」

 

「貴女の術式で、私の呪力は確かに伸びた。それでもそこを突き詰めないと、一級クラスにはなれそうにないのよ。」

 

「…それで、本を読んで昔の『構築術式』の人の話を調べてた…ってこと?」

 

「ええ、そう。加茂のおかげみたいで頭にくるけど、読まされた本の中にチラッと出てきたから。」

 

「その…(よろず)って平安時代の術師は、何かの…虫?をモチーフにして『構築術式』を使ってたらしいわ。」

 

「…ただ、それ以上の記録は残ってないわね。結局は、独学でやるしかないのかしら。面倒ね。」

 

 

 

そう言うと、物憂げに真依は窓から雨が降っている外を見つめる。そんな何気ない所作も彼女が行うと絵になって、胸がドキドキしてくるから不思議だ。

 

「…こういうのは、人が多い方が良いアイディアが出るかも。ちょっと待って、三輪ちゃんも居るから、呼んでくる。」

 

「あら?私を放って、二人で居たの?それは…妬けるわね。」

 

 

真依は、ジト目で私を見つめてくる。

…真依は意外と、嫉妬深い人だというのが付き合ってみた感想だった。そういうところがめちゃくちゃ可愛い。

 

「…ごめんなさい、邪魔かと思って。今度からは一声かけるよ。」

 

「分かればよろしい。」

 

そう言った後に三輪ちゃんを呼んでくると、彼女は一通り話を聞いて、感嘆の声を上げた。

 

「…真依は凄いね、一級になるためとはいえ、そんなに努力するなんて、凄いよ。私も見習わなきゃ!」

 

「そういうのは良いから。貴女の知ってる一級が居たら教えて。どんな感じなのかも。」

 

「うーん…一応私の師匠の日下部って人も、一級術師だよ、一応ね。…でも、術式は持ってなかったよ?」

 

「そんな奴も居るの?」

 

 

 

そう真依は目を見開いて驚いた顔をする。私も割と驚いた。

…準一級までなら分かる。ある程度の呪力と体力、戦闘センスさえあれば、術式が無くても割とトントン拍子で行ってもおかしくはない。

 

だが、一級は違う。

つい先日に東京の呪術高専に入ったという、乙骨憂太を含めて5人しか居ない特級を冠する人間を除けば、人間の呪術師の頂点である。

 

「三輪ちゃんのお師匠って、凄い人だったんだ…」

 

「え?いや、全然そんなことないですよ?」

 

そう真顔で三輪ちゃんが答える。…即答。三輪ちゃんにここまで言わせるとは、ひょっとして人格的に割とアレな人なんだろうか。

 

「霞のお師匠ってことは…戦闘スタイルも同じなの?」

 

「うん。基本的には日本刀を使ったシン・陰流の戦闘スタイル。」

 

「…その人独自の特徴とかは?何かあるんでしょ?」

 

「え、うーん…戦い方自体は、私とさほど変わらないよ?まあ、役立たずの私とは実力が違うけど!」

 

そう言うとたはー!と三輪ちゃんは笑う。

 

「…ねえ、真依。一級になるって言っても、戦闘スタイルを今から大幅に変えることもないんじゃないかな。」

 

「どういうこと?」

 

(あ、役立たずってのは訂正してくれないんだ。)

 

 

「三輪ちゃんの師匠さんもそうだけど、やっぱり基礎的な能力を高めるのが一番だと思う。それに、今の真依の戦い方自体も応用を効かせれば、決して悪くないと思うよ。」

 

真依の基本的な戦闘スタイルは拳銃に呪力を込めての遠距離攻撃。そこから『構築術式』で弾を一発余剰に生成し、相手の裏を突くというものだ。

 

「…こんなの、弱者のやけっぱちよ。とてもじゃないけど、禪院家のクソみたいな一級連中には遠く及ばない。」

 

「…真依って、意外と自分に否定的なこと言いたがるよね。私、そういうところは嫌いかな。」

 

(え、輪がそれ言う?)

 

三輪ちゃんがちょっとビックリしたような顔で私を見つめてくる。…何か変なこと言ったかな。

 

「嫌い…?…」

 

真依の顔が急に青くなる。胸がキリキリと痛む。でも、真依には劣等感は直して欲しい。真依に自己肯定感を上げて幸せになって貰うためにも。あえてそれを無視して、言葉を続ける。

 

 

「…真依の銃を使うって戦闘スタイルは、昔には無かったよね。それは現代の術師の強みだと思う。良い着眼点だよ。」

 

「…逃げよ。私は真っ当に強くなることを諦めた。」

 

これは禪院家の影響だろうか。どうしても古臭い御三家なら、銃を使うというのは否定的に映るだろう。

 

「いや、強さに真っ当も何もないと思うけど…とにかく、今の真依の呪力なら、同じ戦闘スタイルでも取れる選択肢はかなり幅広いよね。」

 

「散弾銃の弾だって、狙撃銃の弾だって、なんなら武器そのものだって生成できる。…まあ、私は弾だけ生成する今のスタイルの方が効率よくて良いと思うけど。」

 

「どういうこと?」

 

「だって、弾だけの生成に集中すれば、今まででは無理だった色んな種類の弾が作れるだけの呪力はあるでしょ?例えば、術式で生成した酸を中に詰めるとか。」

 

「うわあ…えっぐ…発想がえっぐ…」

 

三輪ちゃんは軽く引いているが、真依は静かに黙りこくった。…いい調子だ。基礎に余裕ができて、術式の応用にまで頭が回るようになった。こうなってくるといよいよ…

 

「…ありがと、輪、霞。少し考えたいから、一人にしてくれない?」

 

いよいよ、術師としての芽が出てくる。

 

 

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