愛ほど歪んだ呪いは有らず   作:カバー

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愛ほど歪んだ呪いは有らず その14

 

 

 

 

「…真依、大丈夫かな…」

 

神楽輪こと私は、校舎の入り口の窓際でソワソワしながら真依の帰りを待っていた。

最近は呪霊の発生頻度も少なくなっているらしいので、その影響で私にはこの1週間任務が無かった。

 

 

東堂先輩にしごかれて、ある程度は鍛錬で気を紛らわすことができたが、真依が初の一級相当の任務に行くということで、その前後はそわそわしっぱなしだった。

時間の都合で夜出るということで、一日真依と一緒に眠れなかっただけで、物足りなさが心身を包んだ。

 

 

「大丈夫かな…怪我とかしてないかな…」

 

「大丈夫だロ。一級術師がついてるんダ。よっぽどでなければなんて事はなイ。」

 

たまたま同じように暇をしていたメカ丸が慰めてくれる。

あと少しで帰ってくる予定の時間だ。

 

「…あら。送り迎えのために待っててくれてたの?嬉しいわ。」

 

愛しの彼女が、玄関口からやってきた。

思わず駆け寄って手を取る。

 

「真依!大丈夫?どこか怪我とかしてない?」

 

すると、真依は嬉しそうにしながらも不満げに口を尖らせて私の額にデコピンをした。

 

「もう、貴女の彼女を信じてなかったの?大丈夫よ、これぐらい。」

 

「…俺は邪魔のようだナ。退散させて貰おウ。」

 

そう言うとメカ丸は静かに去っていく。

それと入れ替わりに、歌姫先生がやってきた。

 

「あ、真依、戻ったわね。早速で悪いんだけど、次の任務決まったわよ。」

 

「もう?少し休みたいんだけど…」

 

「大丈夫よ、決まったって言っても1週間後の話だから。ただ、その…」 

 

そう言うと、歌姫先生は言いづらそうな顔をして、少し躊躇う仕草を見せる。

 

「何?」

 

「禪院家からの指名よ。任務の前に一度実家に戻って、顔を出すようにと。」

 

 

 

 

 

 

「はあ…めんどくさ。」

 

その話が来てから、真依は私の自室で私の膝枕の上で項垂れていた。

…無理もない。

よりにもよって今更、自分を冷遇してきた実家から共同任務に指名されたのだ。

 

「…大丈夫?嫌なら断っても…」

 

「そしたら、一級昇格の話が遠のくでしょ。ただでさえ禪院家は無駄に力が強いんだから。嫌がらせしてくるに決まってるわ。」

 

そんな風に真依を励ましていると、真依の電話が鳴った。

誰から電話がかかってきたかを見ると、真依の表情がさらに暗くなった。

 

「ほんっと…最悪。」

 

「誰から?」

 

「母からよ。…産まなきゃよかったって散々言ってた娘に、今更電話なんてね。」

 

「は?なにそれ…」

 

信じられない。いくらなんでも実の娘にかける言葉ではないだろう。そんなもの…親ですらない。

真依は渋々とした様子で、電話に出る。

私にも聞こえるように、スピーカーにしている。

 

「…もしもし?出来損ないの娘に何か用?」

 

「そんな言い方はよして。聞いたわよ、一級になれそうなんですってね。」

 

「ああ、そう。それで今更親面しようってわけ?」

 

「…だから、反抗的な態度はよしてちょうだい。私は感謝してるのよ、貴女に。」

 

「…は?感謝?」

 

「そう。貴女が一級になれそうって事で、私も母親として産んだ甲斐があったとね。優秀な術師になって、子を成して、禪院の血を繋ぐ。それが私たちの義務なのよ。」

 

…何だよ、それ。聞いているだけで気分が悪くなってくる。親は子供に、そんなものを背負わせるものじゃないだろ。

 

「それはお生憎様。私、神楽輪って女の子と付き合ってるから。子供を残す気なんてないわよ。」

 

「………は?」

 

暫しの沈黙。そして、怒声が続いた。

 

「いい加減にしてちょうだい!!ようやく…ようやく、貴女を産んで良かったって思えたのに!そんなふざけた…」

 

 

そこで、真依は電話を切った。

 

「………なに、今の?」

 

怒りで、声が震える。

少しの会話だけで、ここまで苛立ちを覚えるのは、初めての経験だった。

 

「…輪、これが禪院家よ。女なら子を残してようやく一人前。術式がない子を産めば役立たず。ほんっっと、嫌になるわね…。」

 

思わず、私は真依を抱き寄せる。

真依は小さく震えて、やがて落ち着いたように体を預けてくる。

 

「私、今度の任務の前の実家に顔を出すって話、ついて行くから。絶対に。そこで認めさせよう、私たちの交際を、真依の存在を。」

 

「…ありがとう、輪。」

 

私が真依に同行するという頼みは、なぜか禪院家にすんなり通った。

とにかく、一度行くべきだろう。真依の苦しみの元凶、伏魔殿。禪院家に。

 

 

 

 

 

************

 

 

 

 

 

所変わって、同日の数時間後の東京高専。

夕陽が照らすグラウンドで、特級の乙骨優太と呪具で打ち合いをしている禪院真希は、荒れに荒れていた。

 

「クソッ…クソッ!!!」

 

「真希さん、一度休憩しよう?さっきから体の調子が悪いみたいだし…」

 

 

乙骨は足をほつれさせて倒れた真希に駆け寄り、心配そうにそう提案する。

 

「そうだぞ、真希。もう2時間もやってるだろ。いくら何でも無茶しすぎだ。」

 

「しゃけ…」

 

心配そうに見ていた同級生のパンダと狗巻棘も、そう訴える。が、

 

「何言ってんだ…!こんな…こんなところで止まってられないんだよ!私は!」

 

 

それを校舎の2階の窓から眺めていた五条悟は、苦い顔で呟いた。

 

「僕は発破をかけるつもりで言ったんだけど…裏目に出ちゃったか。」

 

禪院真依の一級昇格の話。

真希のやる気の起爆剤になるかと思って五条悟が話したそれは、真希の精神を抉るには十分すぎる話だった。

 

「なんかさ、君の妹ね。僕の後輩と昨日仕事で一緒だったらしいんだけど、もう一級一歩手前だってさ。」

 

「…………は?」

 

 

「こりゃ真希も負けては…」

 

真希は血相を変えて五条の胸ぐらを掴んだ。五条もこれには少しばかり驚いた。

 

 

「なんだよそれ!?真依は呪力がほとんど無い筈だろ!?何でそんなことに…」

 

「何でも、特殊な呪霊と戦闘した時に呪力がぐーんと伸びたって話だよ?」

 

「な!?…にしたって…」

 

「ま、それからもかなり努力したみたいだけど。歌姫が褒めてたよ。」

 

「……………」

 

真希はしばらく呆然としていたが、顔を歪めて一目散に鍛錬場へと走り出した。

 

 

(劣等感…じゃないな、責任感か。あの焦燥の仕方は。)

 

五条がそう分析する通り、真希は責任感で押しつぶされそうになっていた。

 

(私の我儘で真依は呪術師にならざるを得なかった。私が当主になって真依を守ってやるって…なのに、なのに何だよこの体たらくは!?妹に先を越されて!私はまだ4級。何が当主になるだ…!!)

 

(少しでも早く追いつかないといけない。なのに…なのになんで!?)

 

 

五条悟は、真希の不調の原因がメンタル面だけでは無いことにも気づいていた。静かにため息を溢す。

 

「一卵性双生児か…厄介だな。」

 

 

呪術的には、一卵性双生児は、同一人物として認識される。故に、真希には深刻な問題が発生していた。

 

「大方、輪の術式で真依の呪力が格段に増加したせいで、真希の天与呪縛の制約がほとんど意味をなさなくなってるんだろ。」

 

 

真希の天与呪縛のフィジカルギフテッドは、呪力を捨て去る事で身体能力のとんでもない上昇と呪霊の探知能力を手にする縛り。

五条はその恐ろしさをその身で体感した事がある。

 

が、妹の真依と同一存在と認識される事で、縛りが中途半端な状態になっている。真依の呪力も真希の呪力としてカウントされてしまうからだ。

 

 

「…このままじゃ不味いな。でも、解決策がない事もない。」

 

そう。五条の頭には既に名案が浮かんでいた。ただ、そのためには輪の術式が必要になる。

 

「今度、輪を東京高専に借りれないか歌姫に相談するか。」

 

「その事前準備で、真希には輪と会ってもらった方がいいだろ。よし、あの話も真希には伝えとくか。」

 

そう独り言を終えると、五条は窓から飛び降りてグラウンドまで瞬間移動する。

 

「やっほ〜〜!!真希!精が出るね!そんな君にスペシャルサプラ〜イズ!!」

 

「…なんだよ。今は、冗談に付き合ってやれる気分じゃねえぞ。」

 

「君の妹さ、禪院家に呼び出されてるらしいよ。今週末の土曜日だってさ。神楽輪って同級生の特級術師も一緒らしいよ。」

 

「…は?何でバカ目隠しがそんな事知ってんだよ。」

 

「歌姫から聞いたんだよ。割と不穏そうな感じだったから、心配なんだってさ。」

 

その一言で、真希の表情が変わる。

そしてブツブツと呟き始めた。

 

「…何だ?まさか、無理矢理縁談でも結ぼうって腹か?あのクソ親父ならあり得る…」

 

そして暫く目をつぶって思案すると、五条に向かって問いかけた。

 

「おい、バカ目隠し。今週末は私も特に任務無かったよな。」

 

「うん、無いよ。」

 

「なら、私も禪院家に行く。妹だけで行かせるわけにはいかねえ。」

 

そう真希が断言すると、それまで話の成り行きを見守っていた乙骨が話に入ってきた。

 

「なら、僕も行くよ!」

 

「は?何で乙骨が…お前は関係ねえだろ?」

 

その一言に、乙骨は普段の気弱な姿では想像もできないほどはっきりと意思表示を始めた。

 

「真希の妹さんが危ないかもしれないんでしょ?だったら、僕が力になれるかもしれない。こんなのでも、一応特級だし。」

 

「それに…真希さんは僕の大切な友達だから!」

 

乙骨は、真希の禪院家での扱いについてはよく知らない。ただ、思い詰めている真希の力に少しでもなりたかった。

 

「乙骨…お前。」

 

真希のピリピリとした空気が穏やかになっていく。そして真希はフッと笑った。

 

「分かったよ。よろしく頼むぜ。」

 

その光景を、パンダと狗巻、五条は穏やかに眺めていた。

…こうして、禪院家の出来損ないと言われ続けた姉妹と、二人の特級が、禪院家へと向かう。

 

 

 

 

 

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