愛ほど歪んだ呪いは有らず   作:カバー

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愛ほど歪んだ呪いは有らず その15

 

 

 

禪院家に訪問する当日の移動中、京都の最寄りの駅で昼食を食べた後に、私たちはその二人組と遭遇した。

片方は真依にそっくりな顔立ちの緑髪のポニーテールの眼鏡の女の子、片方は気弱そうな黒髪の男の子である。

すると、真依がその二人組を見た途端「げ」と声を出し、そそくさと私を連れてその場を離れようとする。

すると向こうもこちらを見ていたようで、ツカツカと近づいてくる。

 

「ちょっと待てよ、無視すんな。」

 

「…あら、どちら様かと思ったら、真希。落ちこぼれすぎて気づかなかったわ。」

 

 

…真依の言い分から、やはり彼女が真依の姉の真希さんのようだ。

その真依の一言に、真希さんは顔を曇らせ、後ろの男の子が顔を歪める。

 

 

「ちょっと、真希さんにそんな言い方…!」

 

「いいんだ、乙骨。真依の言う通りだから。」

 

 

どうやら後ろの男の子は、私と同じ特級の乙骨くんのようだ。こんな気弱そうな青年だとは意外だった。何の用だろうか。彼らも禪院家に呼び出されたのか。

 

 

「…ごめんな、真依。不甲斐ない姉で。」

 

「な、なによ。いつもみたいに言い返してきなさいよ。」

 

真希さんはかなり落ち込んだ様子で、真依が若干たじろく。

 

「でも、私も必ずお前に追いついてみせる。禪院家の当主になってやる。だから、もう少し待っててくれ。」

 

「…………」

 

微妙な空気が流れる。

その空気を変えようと、私は咄嗟に二人に質問をした。

 

「そ、そういえばお二人も、この駅に居るってことは禪院家に用事が?真依と一緒で呼び出されたとか?」

 

その一言で、真希さんはこちらに気づいたようだ。

 

「お前が神楽輪って特級術師か?」

 

「あ、はいそうです。初めまして。」

 

「お前…真依の何なんだ?」

 

その瞳は、どこまでも真っ直ぐで真剣だった。

…この人、真依のことが、本当に大切なんだ。

 

「…別に、あんたには関係ないでしょ。」

 

「何言ってんだ。関係あるに決まってるだろ。お姉ちゃんだぞ、妹。」

 

そう姉妹で軽口を叩き合っている。

真依の優しさに甘えたいけど、ここはハッキリと言っておいた方がいい。

 

「私、真依さんとおつき合いさせて貰ってます。」

 

「…マジで?」

 

一瞬、場を沈黙が満たす。部外者の乙骨くんがどこか気まずそうにしている。

 

(…これ、どう反応したら僕は正解なんだ!?というか、部外者の僕が口を出せる話なのか!?)

 

「えーと、真希さん的にはどうなの?妹さんに彼女ができて…」

 

「…別に私は、妹を大事にしてくれる恋人なら男だろうが女だろうが気にしねえよ。…というかそういうことは言えよ!真依!」

 

「嫌よ、面倒臭い。」

 

すると、真希さんは私の目の前まで来て見下ろす形で質問をしてきた。

 

「で、お前にはあんのかよ。」

 

「何がですか?」

 

「真依を一生守り抜くって覚悟だよ!それがなきゃ交際は認めねーぞ。」

 

 

そう言うと、真希さんはこちらを見据えるかのように見つめる。…なら、私も本気で答えないといけない。

 

「ありますよ。例え死んでも、私は真依を助けます。」

 

「…………」

 

 

真希さんは感心したような目を、真依は一瞬だけ悲しそうな目をする。そして真依が私の額にデコピンをした。

 

「…馬鹿、あんたが死んだら意味ないのよ。生きて、ずっと私の隣にいなさい。」

 

「…うん、ごめん。」

 

そのやり取りを見て、真希さんと乙骨くんは笑顔を浮かべる。

 

「お熱いねぇ。妹が二人になったか。お姉ちゃんって呼べよ?」

 

「それじゃあ…今日は任務の確認と家に挨拶しに来たの?」

 

そう乙骨くんが首を傾げて尋ねる。

 

「挨拶というか、無理矢理認めさせようって話よ。」

 

「ま、あのクソ親父相手ならそうなるだろうな。」

 

そう二人は頷き合っている。どんだけ酷い人なのだろうか…

 

「禪院家って、そんなに酷いのかな…僕らには想像できないね。」

 

「ですね…。」

 

そう乙骨くんと頷き合った。

 

 

 

そして四人で駅の外に出ると、バスをいくつか乗り継いで徒歩数分で禪院家へと到着する。立派な門構えの木造建築の集まりだ。

玄関先には、髪を後ろで結っている短髪の青年が待っている。私たちが近づくと、静かにお辞儀をする。

 

「真依、神楽輪殿、ようこそおいでくださいました、禪院家へ。」

 

「何よ、気色悪い…」

 

「はっ、私たちなんて腫れ物扱いだったのにな」

 

 

 

真依と真希の辛辣な言いように青年は顔を顰めると、真希に向かって語りかける。

 

「真希、今日は君が来るとは聞いていないんだが…そちらの彼は?」

 

すると、乙骨くんが控えめに自己紹介をする。

 

「どうも、始めまして。乙骨憂太です。今日は真希さんの付き添いできました。」

 

 

黒髪の着物の青年は少し驚いた顔をした後、自己紹介を返した。

 

「これはご丁寧に。始めまして、禪院蘭太です。それで真希、彼と何のようで?」

 

「真依の付き添いだよ。あのクソ親父なら真依だけだと色々やらかしかねねえからな。」

 

「自分の父親をそんな風に…はあ、分かったよ。ではこちらへ。」

 

 

 

そう言うと、蘭太さんは私たちを先導して屋内を進んでいく。そしてとある部屋の前で止まった。

そして襖を開いて中に入っていく。

 

「来たか、真依。…なぜ真希までいる?それにそちらの少年は?」

 

その畳敷きの部屋には、長い髪をポニーテール風に後ろで纏めた、痩せ身の壮年男性に、ツンツンした頭髪の筋骨隆々とした男、そして着物を着た壮年の女性の3人が居た。

 

「そりゃこっちの台詞だっての、何で甚一のおっさんまで居るんだよ。」

 

「特級の客人が来るのなら、相応のもてなしはせねばならん。で、彼は?」

 

「どうも、乙骨憂太です。始めまして。」

 

「乙骨…」

 

筋骨隆々の男性は、甚一さんと言うらしい。

乙骨くんを見て少し驚いたようだが、すぐに冷静に戻った。

 

 

痩せ身の男性は、静かに語り始めた。

 

「真希ともう一人の御客人はともかく…真依、よく来たな。それに神楽輪殿。私の娘と仲良くやっているとか。妻から聞いている。」

 

「私は真依の父親の禪院扇だ。こちらは私の妻だ。」

 

目も合わせずに扇さんはもう一人の女性をさらっと紹介する。それがやけに不気味に私には映った。

 

 

「ふん、母さんから聞いてるってことは、私たちの用事も分かってるんでしょ?」

 

そう真衣が顰めっ面で座り、扇さんに話しかける。扇さんが何か言う前に、真依の母親ががなり声で叫ぶ。

 

「まだあんなことを考えてるの…!!いい加減にしてちょうだいよ!女同士で結婚なんて…!」

 

「何をいうか!そんな言い方はあるまい!」

 

 

 

扇さんが割り込んで急に叫ぶ。それに彼の妻は驚いたように口をパクパクとさせるが、暫くして目を伏せて黙り込む。

 

「妻が無礼なことを言った。私は君たちの交際と結婚に全面的に賛同する。」

 

「「……は?」」

 

その一言に、真依と真希さんは思わず口を開いて呆然とする。暫くして、真依が声を絞り出した。

 

 

「…どういうつもり?」

 

 

「どういうつもりも何も、言葉通りだ。その気なら、式の段取りまで今日話し合ってもいい。」

 

「…それこそ何の冗談だよ。私たちは不出来な出来損ないなんじゃなかったか?何でそこまでする?」

 

「そんな言い方を普段からしてたんですか…!?」

 

 

 

真希さんの言葉に、乙骨くんが苛立ちを滲ませる。すると、扇さんは真依に向かって頭を下げた。

 

「……な!?」

 

「私は真依に対して的外れな言動を繰り返した。そこに関しては申し訳ないと思ってる。済まなかった。」

 

(それは真希さんには的外れじゃないと思ってるってことじゃ…)

 

乙骨くんがさらに苛立ちを募らせて立ちあがろうとするが、真希さんがそれを手で制する。

 

「何でですか、真希さん!?」

 

「…いいんだよ、今はこれで。」

 

そんな二人のやり取りはどこへやら、扇さんは私に向き直って声をかけてくる。

 

「君の方でも、真依と婚姻を結ぶことを望んでいる、ということで構わないな?」

 

「あ、はい。勿論です。真依さんは私が生涯をかけて幸せにしてみせます!」

 

その一言に、扇さんは笑みを浮かべる。…何故だろうか。その笑顔に、どこかゾッとしてしまうのは。

 

「それなら、話は早い。なら次は、真依の一級昇進への任務の話だ。俺と扇と真依でそこは話す。神楽輪殿は蘭太に案内させるから、禪院家を見て回るといい。長い付き合いになるだろうしな。」

 

そう言って、甚一さんは立ち上がると襖を開けて蘭太さんを部屋の中に呼び寄せる。

 

「いや、私は真依の傍に…!!」

 

そう言ってその提案を断ろうとする。

だって、明らかに何かある。

扇さんの態度もそうだけど、こうもすんなり話が進むことには裏があるとしか思えなかった。

それに、真依をこの家で一人にするわけにはいかない。誓ったんだ、私が守るって。

だけど真依は

 

「ここは良いわよ。行ってきて。」

 

「真依!でも…!!」

 

それでもゴネようとすると、真依は顔を寄せて囁いてくる。

 

「あのクソ親父、多分輪の術式を知ってる。猫かぶってるし、輪が居ると本音が引き出せない。」

 

「そうか…!」

 

違和感の正体。禪院家は私の術式を知っている。当然といえば当然。彼らは呪術界でも屈指の影響力を持つ御三家の一つなのだ。そりゃ情報も入ってくる。

だから彼らは私に非常に丁寧に接している。

 

「でもそれじゃ真依が」

 

「真希もいるから大丈夫よ。それに私も、もう守られてばかりなほど弱くはないわ。」

 

「…分かりました、それではお言葉に甘えて禪院家を見学させてもらいます。」

 

「真希と乙骨殿は?もう話は終わった。帰ってもらっても構わないぞ。」

 

甚一さんが二人にそう話しかける。

が、真希さんはどかっと座り直すと言った。

 

 

「私は真依が残るなら残る。乙骨、お前は輪についていけ。」

 

「でもそれじゃ僕がここにきた意味が…!」

 

「良いんだよ。こうもすんなり話が纏まったんだ、別にこれから荒れることもねえだろ。せっかく禪院家に来たんだ。良い呪具の一つや二つ見繕ってこいよ。」

 

そうニヒルな笑顔で真希さんは乙骨くんの背中を叩く。かっこいいな、この人。

 

「それでは、お二人とも、ご案内します。」

 

蘭太さんに続いて、いくつかの部屋を巡る。まずは禪院家の長である禪院直毘人さんの部屋。

彼は寝ていたので話をすることはできなかった。

やけに酒臭かったのだけは印象的だ。

 

廊下を渡っていると、黒い着物を着た金髪のやや吊り目の男性が歩いてくる。

 

「あ、直哉さん…」

 

そう蘭太さんが気まずそうに声を出す。

 

「何や、蘭太。人の顔見て変な声出すなや。…ああ。例の客人の世話かいな。大変やのう。」

 

…彼の目線は、どうも不愉快だった。まるで、私のことを探っているような、それでいて心底見下しているような目。

 

彼は私たちに一瞥を向けると、スタスタと歩き去っていく。

 

「すみません、彼ああいう人なんです。あまり気にしないで…」

 

そう言う蘭太さんの疲れ切った声から、禪院家でもだいぶ嫌われてる人なんだな、とは何となく判った。

 

 

 

 

 

 

 

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