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真依視点
「ハァ…ハァ…クソカスがぁ…」
私の目の前では、さっきまで私の胸ぐらを掴んでいた直哉が喉を掻きむしってのたうち回っている。…その光景が、私には信じられなかった。
あれほどの恐怖の対象が、あっけなく輪の術式で死にかけている。そのことに僅かの達成感と、同時に焦り。私が半ば呆然としていると、真希が私の肩を掴んでいることに気づく。
「おい!これ、あいつの術式なのか!?まずいぞ、このままじゃ死んじまう!」
「…何よ、別にあんなクズ死んだって…」
「そうじゃねえだろ!輪が禪院家の人間を呪殺したら、あいつ呪詛師扱いになるぞ!いくらなんでも庇い切れる次元の話じゃねえ!」
「!」
その一言でハッと我に帰る。…そうだ。あのクズが死のうがどうでも良いが、輪がこのままでは離れていってしまう。私の手の届かないところに!
「輪!」
私は、無我夢中で輪にしがみつく。そして語りかける。
「落ち着いて…!輪!私まだ…まだ貴女と一緒に居たいの!」
「…ま、い?」
輪の瞳の色が変わった。普段通りの落ち着いた色に少しずつ変わっていく。そして、怯えの色が滲み出る。
「わ、私何を…人を…呪い殺すところだった…?」
直哉の息がやがて整っていく。…術式は解除されていた。その光景に、甚一のおっさんとクソ親父は安堵すると同時に衝撃を受けている様子だった、そして何かを二人して考え始めたようだった。
二人が思案している間に、直哉がゆっくりと起き上がり、そして私と輪を睨みつけた。
「良くもやってくれたやん…ふざけんなカスが…!!」
そしてゆっくりと輪に近づこうとすると、遅れて到着した乙骨くんと、思考を取り敢えず辞めたらしい甚一のおっさんが直哉の前に立つ。
「…先に手を出したのは直哉さんですよね、これ以上やるなら流石に度がすぎますよ?」
「その通りだ。これ以上禪院家を危険に晒すつもりか、直哉。」
「ふざけんなや…!こんな目に遭わされて、黙って引き下がれるかい!」
すると、輪が私を静かに引き剥がして直哉の目を見て言った。
「そんなにやりたいなら、受けて立ちますよ。」
「な!?」
「輪さん!?」
甚一のおっさんと乙骨くんが声を上げる。が、輪は止まらない。術式は抑えられても、彼女はまだ怒っていた。
「ただし、ちゃんとした縛りを設けた決闘です。ルール無用の戦いだと、どっちか死にそうですし。」
「私が負けたら土下座でもなんでもします。ただし…直哉さんが負けたら、真依に謝って、二度とこんなことしないと誓ってください。」
「…上等やないか。二度と歩けん体にしたるわ。」
そうして止める間もなく、縛りまで設けた決闘が始まってしまった。
甚一のおっさんも渋々と言った様子で禪院家の訓練場へと二人を案内した。禪院家の躯倶留隊などの観客も集まってきており、眠っていた直毘人のクソジジイも顔を出している。…とても止められる雰囲気じゃない。
「お前の恋人は、随分愉快な御仁だな、真依。」
そう笑いながら直毘人のジジイが話しかけてくる。
「…馬鹿なだけよ。私のために、あんな無茶までして…」
「ブッハッハッ…愛されている証拠というものよ。良い酒の肴ができたわ。」
そう言うと直毘人のジジイは酒を煽る。
隣で真希も心底呆れた顔をしている。
乙骨くんは不安そうな様子だ。
「で、真依。あいつ、術式なしでも直哉に勝てるぐらい強いのか?流石に直哉もそこまで甘い相手じゃねえぞ。」
「…正直、分からない。でも、信じたい。輪なら勝てるって。」
そして、二人の決闘が始まった。
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神楽輪視点
私は本当に頭に来ていた。…決闘なんて、絶対にするべきじゃないのは分かっている。でも、このまま真依がこの男に痛めつけられたまま帰るのはもっと嫌だった!
「殺さん程度に…遊んだるわ!」
戦闘開始の甚一さんの合図と同時に、直哉が視界から消える。咄嗟に呪力で全身を固めて守りに入る。次の瞬間、背後に強い衝撃を受ける。…蹴りだ。凄まじい速度で背後に回った直哉が、蹴りを入れた。
…速い!
また次の瞬間、私が蹴り飛ばされた先に直哉が先回りし、私に触れようとする。が、
「チッ…なんやこれ。呪力特性か。」
私の呪力特性は、弾性を持つゴムのような性質である。その性質上、直哉は呪力に阻まれて私に触れることができない。
蹴りなどの打撃の威力も吸収する。
だがなぜ殴るのではなく掌で触れようとしたのか。そこら辺に術式の種があるのか…?
(触れられへんなら仕方あらへん。 最高速度でぶち抜いたる!!)
直哉は、さらに加速して私の周りを走り始める。…本当に速い。五条さんのラッシュほどではないが、それでも目でぎりぎり追えない。
…本当に術師としては凄いんだな、この人。…そう思うと、余計にムカついてきた。
…速度で追いつけないなら、相手の行動範囲を狭める!
「せやッッッ!!!」
私は足元の岩の地面を渾身の力で殴り、呪力を飛び散っていく地面の石の塊に付与していく。
「ッ!?」
直哉は、この程度なら躱すだろうが、狭まった動きの軌道は読めるようになる。そう判断したが、意外なことが起こった。
「がッ!!?」
直哉が、真っ直ぐに岩の塊に激突したのだ。そして弾性の呪力を纏った岩に激突した直哉は、そのまま弾き飛ばされる。
(…なぜ軌道を変えなかった?まあいいや。叩くなら今!)
直哉が体勢を立て直す前に、さらに無数の岩の塊を空中に放ち、呪力を纏わせる。
「これでッ!!」
そして、その岩の塊を直哉に向かって次々と殴り飛ばす。
「この…クソカスが!!」
直哉は迫ってくる狭い岩の間を今度は避けるかのように高速で移動する。が、
(細かい石や砂にまで呪力が…!?何つう呪力出力や!)
その岩の隙間にも、呪力を纏った小石や砂が潜んでいる。
直哉は弾性に弾かれ、次々とゴムボールのように弾かれていく。
そして、
「クソ…が…!!見下ろすなや!」
「…これでおしまい。」
私は地面に倒れた直哉の上にまたがり、拳を顔の前で止める。
私の勝ちだ。