神楽輪視点
京都高専に私たちが戻ってから数日、真依は一級昇格のための禪院甚一との任務があるということで、私は三輪ちゃんと私の自室で寛いでいた。
最近は以前にも増して呪霊の発生報告が少ない。
…一部では、呪霊が発生した跡はあっても、肝心の呪霊が何故か消えている、という件もあったそうだ。
そんなこんなで…
「暇ですね…」
「暇だねえ…」
二人して、完全にだらけてお菓子を齧りながら駄弁っていた。
三輪ちゃんを始めとした学友の皆は私が女性を(恋愛の面で)好きだと知っても、何でもない態度で接してくれている。それが少し嬉しい。
ただ…ちょっと無防備すぎないかな?
先程から位置的に寝そべった三輪ちゃんのお腹がTシャツが捲れてチラリズムしている。
ただでさえ三輪ちゃんは魅力的なんだから、色々気になってしまう。
「…ん?顔赤いけど、どうかした?」
「あ、あいや、何でもない」
「ふうん…変な輪。」
そんな女子会の空間に、仏頂面で一人、男ながら入ってくる強者が居た。
加茂先輩だ。
「任務がないから話ついでに鍛錬にでも誘おうと思ったら二人してダラダラと…暇なら付き合え。」
「あ、は、はい!そうですよね、こんな時間も有意義に使わないと…」
三輪ちゃんが焦った様子でそう言い、慌ててお菓子の袋を置いて立ち上がる。
「久しぶりですね…加茂先輩との手合わせ。」
「そうだな…弛んでないか見てやる。訓練一つ一つが実力につながるからな。」
「はい!」
私と加茂先輩はまるで師匠と弟子だな、と我ながら思う。
加茂先輩の教えは分かりやすい。
呪力操作を掴むときには、随分と世話になった。
私は領域展開だけは不完全ながら両親からの指導で身につけていたから、覚える順番がちょっと特殊だったみたいだったけど…
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「それでは、今日はここまでにしようか。日も暮れてきたしな。」
「は、はい…お疲れ様でした!」
「おつかれさま…でした…」
京都高専の広大な敷地内にあるグラウンド、そこで一通り体術の訓練をしたら、もう日が暮れていた。私は体が弱いのもあって途中でバテてしまって、見学していたのだが。
「体の方は大丈夫か?輪。」
加茂先輩が座り込んでいる私に近づいてきてそう尋ねる。
…やっぱりこの人は厳しいながら優しい。兄さんが居たら、こんな風なのかなと思う。
「は…はい。なんとか。」
「大丈夫?自販機でスポーツドリンク買ってきましょうか。」
「ああ、そうだな。三輪、頼む。」
「ありがと…三輪ちゃん…」
そう言って三輪ちゃんは駆け出した。
…三輪ちゃんも疲れてるだろうに。私は本当に学友に恵まれた。
加茂先輩と私はしばらく他愛もない話をしていたが、真面目な顔で加茂先輩が聞いてきた。
「…聞いたぞ。禪院家での騒動。禪院直哉に術式をかけた挙句、決闘までしたそうだな。」
「あっ………はい。」
思い出した。この顔の時の加茂先輩は…割と真面目に怒ってる。
「向こうが無礼な態度で来て頭に来るのは分かる。だがな。お前の行動の責任は楽厳寺学長が取るんだ。分かってるな?」
「……はい。」
「あの後、上層部から楽厳寺学長の指導に不備があったのではと通告があったそうだ。知っていたか?」
「えっ…いや、知りませんでした。」
「…学長はお前に気を遣って言わなかったのだろうがな。気をつけろよ。」
「……はい。」
そうだ。あれだけ派手に暴れておいて、私の保護者である楽厳寺学長に話がいかないはずがなかった。
思わず自責の念に駆られる。でも…
「でも…すみません加茂先輩。私は多分、真依が傷つけられたら、また同じことをすると思います。それに後悔はないです。」
そこだけは、譲れない。
すると、加茂先輩はしばらく無言だったが、やがて大きなため息を一つ溢すと、私に諭すように話し始めた。
「…なら、せめてやり方は考えろ。お前が感情を抑制して初めから決闘という手段を選んでおけば、何の問題もなかったんだ。」
「うっ…それは…はい。その通りです。」
私は返す言葉もなく項垂れる。
「にしても、お前の真依を思う気持ちがそこまで強いとはな。正直驚いた。」
「…そうですね。私、真依が大好きですから。」
「大事に守れよ。悔いのないようにな。」
「はい。」
「それと…お前の術式の影響で真依が強くなった、というのは周りに悟られていないか?」
私の術式を知っているのは、御三家と上層部以外にはまず居ない。
というのも、私が上層部と御三家の最低限の人間以外には術式が漏れないようにとお願いしているのだ。
私は私とこの術式が嫌いだった。
これのせいで、両親は死んだ。
村のみんなも、私のためにと両親が殺した。
真依が強くなって状況が改善できたのは嬉しいけど、その想いはそう簡単に消えてくれない。
実の親を殺した術式、術師、そう思われるのが、怖かった。
「はい。大丈夫だと思います。私のこの好感度如きで人の実力や生き死にを左右する醜い術式は、真依と加茂先輩以外には誰にもバレていません。」
その一言に、加茂先輩は顔を顰めて言った。
「お前の術式は何も醜くなどない。真依を見ただろう。あいつはお前に救われたんだ。それにあの件はお前に責任はない。お前の両親が…」
「…それ以上は、言わないでください。」
分かってる。加茂先輩は優しいからそう言ってくれる。
でも、それは違う。私が悪いんだ。
私のせいだ。
しばらく、気まずい沈黙が続いた。
「…そういえば、三輪のやつ、どこまで行ったんだ?遅いな。」
言われてみれば。もう20分近く経っている。とっくに戻ってきていい頃だ。
すると、三輪ちゃんが丁度よく3人分のスポーツドリンクを持って戻ってきた。
「す、すみません!お手洗いに行って遅くなりました!」
「ああ、済まんな三輪。助かる。」
「ありがとう三輪ちゃん。」
私と加茂先輩はスポーツドリンクを手に取る。が、そこで少しの違和感。加茂先輩が顔を顰めて呟く。
「温いな…?どうしたんだ三輪。買ってからしばらく経ったみたいだ。」
「あ、いや…実はちょっと戻る時に道に迷ってしまって」
「道に迷った?…まあ、ここは広いからな。だがもう入学してから暫く経つだろ。いい加減慣れろよ。」
「あ、はい。気をつけます。」
そう言った三輪ちゃんは、どこかぎこちなくて。
その視線は、なぜか私に向かっているようだった。