神楽輪視点
真依も三輪ちゃんのアピールに気づいて、割と険悪な空気に困っているこの頃。
というのも、三輪ちゃんが私に腕を絡ませているのを見て以来、真依は明らかに私を避けていた。
声をかけても、「別に?」の一点張り。
これには困った。
…最初は三輪ちゃんの猛アピールに戸惑っていたけど、何度も受け続けて冷静になってくると、あることに気づいた。
三輪ちゃん、無理してない?
最初は私が好きで恋故にぎこちないのかと思ったけど、どうも違う気がする。
何だか、まるで好きでもない相手に無理やりアピールしてるみたいな…
その気配はメカ丸と西宮先輩も感じていたようで、この違和感について尋ねてみると二人とも頷いた。
「だと思う。あれ、霞のやつ相当無理してるよ。何があったか知らないけど。」
「正直…見るに堪えんところがあるナ」
「やっぱりですか…」
「何か心当たりはあるノカ?」
「あるにはある…かな。」
やっぱり、術式狙いかなあ。
正直、それ以外には思いつかない。
私個人に、真依や西宮先輩より優れた魅力があるとも思えないし、この醜い術式でも、真依が強くなったという実績がある以上、それに魅力を感じてもおかしくはない。
恐らく、どこかで小耳に挟んだのだろう。
メカ丸は考え込んでいる私を見て、ため息をついて続けた。
「最初はお前が三輪に強制してやらせているのかと思ったガ…どうやら違うようダ。」
「何さらっと言ってるの!?いや、ない。それはないから。誓ってもいい!」
「なら、早いとこ解決しちゃってよ。真依ちゃんピリピリしちゃってるし。」
「う…はい。真依にも心配ないよって伝えときます。」
そうだ。よりにもよって恋人を傷つけたのだ。まずそこのケアが最優先だった。
私は自分の頬を叩いて猛省した後に真依の部屋に向かった。今は在室しているはずだ。
「真依、居る?ちょっと伝えたいことがあるんだけど。」
暫くノックし続けると、真依が半ドアでこちらを覗いている。
「…何か?」
声は冷たい。私がやることは決まっている。
次の瞬間、私は全力で頭を地面に擦り付けた。
そう。所謂土下座である。
「ごめん!真依!私、恋人のくせに、真依を守るって誓ったくせに、三輪ちゃんのアピールを突っぱねきれなかった!」
「……………」
「色々話したいことがあるから、部屋に入れて欲しいです!」
すると、ため息と同時に真依は扉を開けた。
「どうぞ、入って?」
おずおずと私は部屋に入り、ベッドに座った真依の正面に正座で座る。
早速本題を切り出すことにした。
「実は…三輪ちゃん、無理して私にアピールしてるみたいなんだ。多分…私の術式のことを知ってる。」
「それに気づかなくて、私はなあなあにしてた。浮気だと思われても無理ないよね。」
「だから、きちんと無理してまでアピールする理由を聞いて、きちんと断る。筋を通せてなくてごめんなさい。」
そうまた頭を下げると、私の頭を真依が抱きしめて包み込んだ。
豊満な胸が頭に当たる。至福…いや、今はそれどころじゃない。誠意を見せないと!
「馬鹿真面目よね貴女って。でも、そういうところ好きよ?」
「それと、浮気じゃなくて、霞が何かを目当てでアピールしてるのも分かってたから。貴女気づくの遅くない?デレデレしてて分からなかった?」
「うっ…浮気じゃないって知ってたならじゃあ何で怒って…」
「デレデレしてるのにムカついたからに決まってるでしょ、馬鹿ね。」
そういうと、真依はいつものようにデコピンを私の額にする構えを見せた。思わず私が目を瞑ると、衝撃の代わりに…額に何やら柔らかい感触。
こ、こ、これはもしや。
「私から目移りしたら嫌よ?」
キスでした。真っ赤になった私を、真依は面白そうに眺めていた。
**************
その翌日の昼間。
任務がないのを確認してから、私は一人で三輪ちゃんを呼び出し、グラウンドで待った。
やがて、三輪ちゃんは慌てて走ってきた。
そして私の顔を見ると、照れるような表情で尋ねた。
「あ、あの…二人で会いたいって…その、つまり私を恋人にしてくれるってこと?」
そうおずおずと尋ねる三輪ちゃんは、やっぱり無理してるように見えて。
「ねえ、三輪ちゃん。」
「は、はい!」
「大丈夫?」
「え?」
私は三輪ちゃんの顔に手を当てる。彼女の体がビクッと震える。…やっぱり、無理してる。
「私は、好きって言って貰えて嬉しいよ。それは本当。でも、三輪ちゃん、無理してない?」
「む、無理なんて…そんな…そりゃあ、真依に悪いとは思ってますけど…」
「うん。そうだよね。三輪ちゃんは良い子だもんね。」
その一言に、三輪ちゃんはさらに体を震わせて俯く。これは…やっぱり。
「ねえ三輪ちゃん。私は三輪ちゃんを責めたいわけじゃない。ただ、どうしても何で無理してるか教えて欲しいの。」
「………」
三輪ちゃんは黙りこくっている。私はさらに続ける。
「私はね、初めて会って、お金がなくて厳しい生活を送ってる家族のために働いてる三輪ちゃんを見て、眩しいって思ったんだ。」
「こんな眩しい人がいるのかって。そんな三輪ちゃんのことが私も大好きだよ。…でも。」
「今の三輪ちゃんは苦しそうだよ。そんな三輪ちゃんを見てると、私も苦しくなる。ねえ。私の酷い術式のこと、知っちゃったんでしょ。」
その問いかけに、さらに三輪ちゃんの震えが大きくなる。確定だな。これは。
「わ、わた、私は…」
「それはさ。別に恥ずかしいことじゃないよ。」
「…え?」
「家族のために一生懸命考えた結果なんでしょ?そんな三輪ちゃんは、私なんかよりずっと立派だよ。」
「そんなこと…そんなこと…ない。」
三輪ちゃんは、ポロポロと泣き出した。そんな三輪ちゃんをそっと抱きしめる。
「私は…酷いよ。家族のためにって言いながら、真依を傷つけて。貴女のことも、台無しにしようとした。」
「私…最低だ…」
「怒ってよ…私なんか知らないって。絶交だって。それぐらいのことを、私はしたんだから。」
そんな三輪ちゃんを私はさらに強く抱きしめる。
私のせいで三輪ちゃんが泣いている。なら、私のすることは一つ。
「最低なんかじゃないよ。」
「え?」
「私はね、この術式で、自分の両親を殺してるんだ。」
「………え?」
「だからね、私の方が三輪ちゃんよりよっぽど最低なんだよ!」
そう私は三輪ちゃんに笑いかける。三輪ちゃんは呆然とした顔をしていた。
「私の術式があれば、努力も無駄になってしまう。誰でも弱くなり得るし、誰でも強くなり得る。そして…誰でも殺しかねない。最悪の術式。」
「そんな術式があったから、三輪ちゃんはちょっと道を間違えちゃっただけなんだよ。だから、悪いのは私。」
「そんな…そんなことない!」
三輪ちゃんはそう声を荒げる。
本当に優しいな、三輪ちゃんは。
さて、ここからどう説得しようか。
そう思案していると、ざわっとした感覚が私を包む。これは…呪いが近くにいる!?
どこに…空か!
私と三輪ちゃんが上空を見ると、巨大な羽の4枚あるペリカンのような呪いが、私達の前に舞い降りた。
そして、私たちの目の前に黒の僧衣と袈裟を着ている、長髪以外は、いかにもお坊さんといった姿の男が降り立った。
「あー…お取込み中だったかな?済まないね。どうにもタイミングが悪くて。ちょっと今時間いいかい?」
「…どなたですか?」
臨戦態勢に入って三輪ちゃんを背後に庇いながら、私がぶっきらぼうに尋ねる。
それに気を悪くした様子もなく、長髪の男は笑顔で告げた。
「ああ、重ね重ねすまないね。自己紹介がまだだった。初めまして、輪さん。私は夏油傑。」
「君の素晴らしい力を、世の中に役立てて欲しいんだ。…友人として、ね。」
最悪の呪詛師の名を。