神楽輪の呪詛師夏油傑による誘拐
その報を聞いた上層部は、揺れに揺れた。
わざわざ自分達に都合が良いからというのが半分、処刑したら自分達に被害が出るかもしれないという恐れ半分で、非術師にそれなりの被害を出しても、生かしておいた神楽輪の矛先が自分達に向くかもしれない…
その恐怖は、彼らを普段ではあり得ないほどの迅速な行動に動かした。
全国に点在している、元・盤星教の夏油傑が支配する新興宗教団体の施設全てへの強制的かつ徹底的な捜索。
全国に散らばっている「窓」を総動員した神楽輪及び夏油傑、他襲撃犯2名の徹底的な捜索。
調査の結果分かったことは二つ。
まず、夏油傑は強制捜索を見越して新興宗教団体の全て(幾らかの持ち出した金銭以外)を放棄したこと。
二つ目は、夏油一派は早々に見つからない場所に潜伏したということ。
つまりは、八方塞がりであった。
三輪霞視点
私たちの京都高専は、甚大なまでの被害を受けた。
施設は確かにかなり壊れたが、そんなことどうでも良くなるほどに、人が壊された。
一番外傷的に重症なのは東堂先輩。
両腕の骨が折れ、肋骨も数本逝っている。
東京から治療に来た硝子さんが処置しても、1ヶ月は病院暮らしとのことだった。
それよりも…一番心理的に傷ついているのは真依。
今でも忘れられない。
輪の伝言を伝えた時の、何もかもに絶望したような真依の顔。
一級に無事昇格したばかりにも関わらず、任務以外では完全に部屋に閉じこもってしまっている。
『私の恋人になってくれて、本当に嬉しかったって。守るって約束、守れなくてごめんって。』
…輪の馬鹿。自分のことを卑下してるくせに、自分が周りにどんなに影響を与えてたかなんてまるで分かっちゃいない。
…私にだって。
最初は演技なだけだった。
私を無理矢理にでも好きになって貰って、私が強くなって。
両親と弟二人にいいもの食べさせて。それだけで良かったのに。
そのために、真依が傷つくかもと負い目に感じながら輪を利用しようとした。
「私はね、初めて会って、お金がなくて厳しい生活を送ってる家族のために働いてる三輪ちゃんを見て、眩しいって思ったんだ。」
「こんな眩しい人がいるのかって。そんな三輪ちゃんのことが私も大好きだよ。」
…そんな私は、あんな馬鹿正直に好意を伝えられた。
彼女を騙そうとした私を、本気で彼女は守った。
分かってる。夏油達についていったのも、真依や私たちを傷つけたくなかったからなんでしょ?
馬鹿正直に私たちのためだと嘯く夏油を、信じたからなんでしょ?
でも、でもそれじゃ…
「ううん。謝るのは私の方。私のせいで皆んな傷ついてしまって…ごめんね、本当に。」
自分が、何よりも報われないじゃないか!
腹が立つ。本当に腹が立つ。
神楽輪は、何でもないかのように自分を簡単に使い捨てる。
卑下して、何の価値もないと言い切る。
馬鹿だ。あんな馬鹿見たことない。
だから、言ってやるんだ。
貴女のことを好きな人がここに居るんだよって。
だから、さっさと戻ってこい馬鹿って。
そのための力は、彼女に貰った。
今の私は、何故か以前より呪力も身体能力も、数倍強くなった。
その理由は、分かりきっている。
今回の件で、一番変わったのは、私。
苛立ちの裏の感情を見ないふりをして、私は神楽輪を、彼女から貰った力で救うと誓った。
その為には、真依の力が要る。私は、真依の部屋の扉の前に立っている。意を決して、扉を叩く。
しばらくして、真依がドアを半分だけ開けて私を迎えた。目の下には涙の跡がある。
「……なに?」
私たちの反撃は、ここから始まる。