愛ほど歪んだ呪いは有らず   作:カバー

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愛ほど歪んだ呪いは有らず その25

 

 

 

 

 

 

神楽輪視点

 

大きなカラスの呪霊は、暫く高速で飛んだ後、多分…東北あたりの森の中に着陸した。

 

「それじゃ、すまないがここからは徒歩で行こう。ま、2時間もあれば着くさ。」

 

そう夏油さんは言い、迷いなく森の中を歩き始める。

それにミゲルさんとラルゥさんも続く。

 

「ほら、行きましょ?」

 

そう言ってラルゥさんが私を振り返る。

 

「えっと…この森の中で、目的地が分かるんですか?」

 

そう私が問うと、夏油さんが笑顔で掌の上の小さな呪霊を見せて答えた。

 

「ああ。この呪霊が教えてくれるんだ。この呪霊はね、二つで一組の変わった呪霊なんだよ。互いの方向を指し示すんだ。便利だろ?」

 

確かに、手のひらの上の醜い子供の頭だけのような小さな呪霊は、一定の方向を向くように微かに動いていた。

 

 

それから暫く歩いて日が傾きかけた頃、私たちはポツポツと豪邸が立っている山の近くの別荘地らしきところへと辿り着いた。

 

その内の一軒の前には、スリムドレスを着た、長髪の麗しい若い女性と、鋭い目つきの、顔の右半分に大きな傷がある男が立っていた。

 

二人はこちらを見ると手を振った。

夏油さんも手を振って返している。

 

 

「やあ、真奈美、利久。無事に会えて本当に何よりだよ。首尾はどうだい?」

 

「抜かりなく。この別荘地を買っていたうちの信者の猿の痕跡は、跡形もなく消しておきました。」

 

夏油はキョロキョロと辺りを見回すと、二人に問いかけた。

 

「美々子と奈々子は?もう中かい?」

 

その一言に、真奈美と呼ばれた女性は深いため息をこぼして額を揉んだ。

 

「……街に出ましたよ。仙台観光とかいって。あの二人は、ほんっとに子供なんだから…」

 

「そうかい。ともかく、無事で良かった。ただ、残念だなあ。すぐに新しい家族の紹介をしたかったのに。」

 

 

そう言うと、二人の視線が私に移る。

夏油が私に振り返って話し始めた。

 

「この二人は菅田真奈美と祢木利久というんだ。二人とも誇らしい私の家族だよ。ほら、自己紹介して。」

 

「はい。初めまして、神楽輪です。よろしくお願いします。」

 

「あら、礼儀正しいですね。そういう人は好きですよ。初めまして、菅野真奈美です。これからよろしくお願いします。」

 

「…利久だ。よろしく。」

 

二人とも素面で自己紹介してきた。まあ私もそうなんだけど。

今は色々ありすぎて、私も気の利いたことを言うような余裕はない。

 

 

「それじゃ、取り敢えず中に入ろうか。輪も疲れただろう?だいぶ歩いたからね。」

 

「…はい。正直、座って頭を整理したいです。私に夏油さんがやらせたいこと、というのも気になりますし。」

 

そう。いくら夏油さんが本当に私には優しいし気を遣っているからといって、それを聞かない限り協力していいかは判断できない。

 

6人で別荘の中に入る。

洒落たコテージの別荘といった感じだ。

全面木造りで、居間には囲炉裏まである。

私たちはそこに腰を落ち着ける。

真理恵さんが茶碗で緑茶を入れてくれて、私たちに出してくれた。

 

「あ、どうも。」

 

夏油さんは私の正面に座った。

静かに茶を一口飲む。

 

そして、日常会話のように何でもないかのような軽い口調で言った。

 

「なに、君に頼みたいのは簡単なことだよ。君の術式で、まずはこの日本の非術師の猿どもを皆殺しにしてほしいんだ。」

 

 

…………………え?

 

 

思考が止まる。

今なんて言った?

 

 

 

「えっと、すみません。今、何て言いましたか?」

 

「ん?ああ…だから非術師の猿を皆殺しに…」

 

 

 

その一言で私は急速に目の前の人物への感情が冷めていくのを感じた。

 

そうだ。いくら一見術師には素直で優しくても、彼は『最悪の呪詛師』

 

…何が、真依のためにも、だ。

 

初めから、分かり合えるはずなかったんだ。

 

 

 

 

「ふざけないで!!!」

 

 

気がつくと、私は大声をだして立ち上がっていた。

 

「わ、私は…自分の両親を術式で殺したことがある。さ、最悪の気分だった。もう、あんなことしないって誓ったんだ!そんなことに協力なんてしない!この、人の皮を被った悪魔!!!」

 

 

そう言い切って、私はハァ…ハァ…と息を切らせる。少しの間の静寂。

そして、真奈美が私の胸ぐらを掴んだ。

 

 

 

「貴女、夏油様になんてことを…!!」

 

「いいんだ、やめてくれ、真奈美。彼女はまだ非術師の醜さを知らないだけなんだ。」

 

 

 

そう静かに夏油は言う。

やがて真奈美は私の胸ぐらを離した。

 

「…君の両親の『術師』に起きたことは、確かに悲劇だった。でも、非術師を殺すことは、何も悪いことなんかじゃないんだ。むしろ、善行なんだよ。」

 

「君が今までしてきたように。」

 

 

 

目の前の男は、更に理解できない発言を続けた。

私が今までしてきた?何を言ってるんだ。私は非術師を術式で殺したことなどない。

 

「何を言ってるんですか?私は非術師を殺したことなんてありません。」

 

「…いいかい。だから、ゆっくり落ち着いて聞いてほしいんだ。取り乱さずに。」

 

慎重に私を見て夏油は私に言い聞かせる。

それが私の言いようもない不安を加速させる。彼は何かを知っている。私の知らない私の何かを。

 

 

「君は、今まで確認されただけで、108名の非術師を、術式で殺してるんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

…そだ。

そんなの。

 

「嘘だ!!!!!!」

 

 

「嘘じゃないよ。君が呪術界に拾われた7歳以来、10歳で術式の制御を覚えるまで、君はそれだけの数の猿を殺している。上層部は自分達に矛先が向くのを恐れて何も伝えていなかったようだがね。」

 

 

「何を証拠にそんな…」

 

「残穢だよ。君の呪力の残穢が、被害者から出た。それに死に方が異様だった。呪力を吸われ尽くして、生命力も尽きて、無傷なのに死んでいた。」

 

 

その説明で確信する。この男は嘘をついている。

私の術式は、好感度で対象の力の強弱を変えるだけのもの。死ぬのは、生命活動を停止させるのは、あくまでその副産物に過ぎない。

 

そう指摘すると、夏油は信じられないといった顔をした。

 

「君は、自分の術式すら嘘を教えられていたのかい!?いや、その説明も結果から見れば間違いではないが…」

 

「嘘…嘘って何ですか?楽厳寺学長が嘘を言ってたって言うんですか!?」

 

あり得ない。彼は私が知る中で最も厳しくも優しい人だ。

私をここまで育ててくれた、私の大好きな人。

 

 

「彼は君を傷つけたくなかったんだろう。これは私が数年かけて徹底的に調べ上げた情報だ。間違いはない。」

 

 

「……………」

 

 

頭が真っ白になる。それでもなお夏油は続ける。

 

 

「不思議に思わなかったかい?幼少期には天与呪縛で臓器が欠けて、日光に浴びるだけで激痛に苦しんでいた君が、何故今や多少肌がヒリつくだけで、日光の下で戦闘までできるのか。」

 

 

「君が、無数の猿から生命力を奪っていたからなんだよ。その生命力で、君は欠けた臓器を補い、皮膚を強くしていった。」

 

 

「え、あ…」

 

心当たりがある。

確かに私は、7歳程度から外でも遊べるようになっていった。

 

「何故、天与呪縛でもあり得ないほどの呪力を、君が得ているのか。」

 

 

「やめて…」

 

「何故?君が気に病む必要はない。所詮猿を殺しただけだ。君の術式は素晴らしいよ。力の簒奪と、力の付与。まさに、猿が夢想した古の神のような力だ。」

 

「非術師の猿に死を、そして術師に祝福を。そう、君は天に選ばれた存在なんだ。君を知った時、私は本当に感謝したんだ。君と言う存在に。」

 

夏油は陶酔したかのように天を仰いで涙を流す。私は…視界がぼやけ始めた。ふらついて頭がはっきりしない。

 

納得、してしまった。

 

なら、私、私は…目の前の人を悪く言う資格なんてなかった。

自覚もなく、人をたくさん殺した。

自覚もなく、簒奪した力を人に与えた。

 

なんだ、1番のクズは

 

「私だったんだ…」

 

私は自然と、手に持っていた茶碗を砕いて、鋭利な形にした。

 

「!?何を…」

 

夏油さんと周りがそれに気づいて警戒の構えを見せる。

 

その鋭利な先を私は…自身の胸に思い切り突き刺した。

 

「!?やめろ!」

 

夏油さんが慌てて私に駆け寄ってくるのが見える。

信じられないほど胸が熱くなっていく。

視界が更にぼやけていく。真っ赤に視界が染まっていく。

 

最後に思い浮かんだのは、真依の笑った顔だった。

 

「ごめん…真依…私…」

 

貴女に近づく資格すら、なかったんだ。

 

 

 

 

 

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