神楽輪視点
私は静かに夢から覚める。
そしてボーッとした頭で私が涙を流していたことに気づく。
どんな夢だったっけ?
すごく胸糞が悪くて…悲しい夢を見た気がする。
でもその夢の内容は、霧に包まれたかのようで。
意識がはっきりした頃には私は何も覚えていなかった。
知らない天井だ。
部屋を見回してみると、どうやらさっきのコテージの一室だったようだ。木造りの落ち着いた部屋で、私はふかふかのベッドに横になっている。
私が居るのは地獄ではないらしい。
窓際からの光が明るく部屋を照らしている。
ただ…
「シナナイデ?」
涙を溜めた巨大な紫色の分厚い目…呪霊が私の頭の上に浮いており、そこから伸びている管を私の頭に当てている光景が、異質だった。
そして私の手には手錠がかけられており、ベッドに拘束されているようだ。
「あ、やっと起きたし!美々子!」
「…丸3日も寝てた割には元気そう」
そんな少女たちの声が横から聞こえたので咄嗟にそちらに首を向ける。すると、二人の少女がベッドの横の椅子に座っていた。
歳の頃は…高校生ぐらいだろうか?
一人は金髪のお団子頭でセーラー服の上にカーディガンを羽織っている、ギャルっぽい女の子。
スカートはかなり短めである。
もう一人は肩につかない長さの黒髪で黒いセーラー服を着ている女の子。こちらは逆に長めのスカートを履いている。
なんというか…対照的な女の子二人だ。
だが今重要なのはそこではない。
私は腕を必死に揺らして、手錠を外そうとする。が、何故か呪力が全く出ない。非力な力で、逆に私の腕が痛むだけだった。
「いっ…!!」
「ああもう!やめなって。今のアンタじゃ、その手錠は外せないよ。」
「…私に、何したの?」
そう問いかけると、金髪の女子高生はスマホを取り出して、得意げに話し始める。
「アタシの術式のおかげ。アタシは、このスマホで撮った写真の中に存在する呪力のある生物の状態を固定できる。凄いっしょ?」
「それで…なにを?」
「ビックリしたし。帰ってきたら夏油様達の居る居間が血まみれで、あんたがその中心でぶっ倒れてるんだから。そんで、慌てて写真を撮って取り敢えず死なないようにして、呪力だけ弱めに固定しといたの。」
「…それって、格上にも通じるの?凄い術式…」
「いやいや、普通はアンタみたいなのに効かせるのは無理だしぃ。でも、なんせアンタ死にかけだった。」
…つまり、今の私は呪力も使えず、脱出するのも無理。完全に監禁されてるわけだ。
「それで、この私の頭の上の呪霊は?」
その私の問いに、今度は大人しめの黒髪の女の子が話し始めた。
「それは…夏油様が貴女が自死しないようにと与えてくれた呪霊。意識のない状態の人間に、一つだけ思考を強制できるの。」
「それには、死なないようにという夏油様の思いが篭っている。だから、貴女は真っ先に死のうとするのではなく、脱出しようとした。」
……本当に、夏油の掌の上ってわけだ。
死ぬこともできず、逃げることもできない。
「つまり、詰みってことね、私。」
「…別に悲観することなくない?せっかく夏油様の家族になれたのに。よく分かんないなー。」
「ほんとに、不思議。」
そう心底理解できないとばかりに二人の少女は言う。
…私には一見普通に見えるこの二人の少女が、酷く歪に見えた。
まるで、自分で考えることを放棄しているかのような
「何でって…そんなの当たり前でしょ。私は沢山の人を殺してた。それを知らずに、ヘラヘラ笑ってた。なら、罰を受けて当然じゃない。」
「でも、所詮猿でしょ?」
「夏油様が正しいと言ったんでしょ?」
「「なら、白」じゃん。」
「………なんで、そんな当たり前みたいに非術師を猿と言えるの?」
ずっと不思議だった。目の前の少女二人も、本当に純粋にそう思っている。
でも、目の前の少女二人も夏油傑も、私には根っからのクズには見えなかった。
その証拠に、彼らは私を本当に大事にする。
利用しようというのではなく、協力を求めた。
目の前の少女二人も、私に気さくに話しかけてくる。
「「だって、夏油様がそう言ったから。」」
「…理解、できないよ…。」
分からない。この二人が本当にわからない。
でも、何故か目の前の二人が…可哀想に、思え始めた。
そんな私を見て、二人は自己紹介を始める。
「それじゃ改めて、アタシは菜々子。んで、こっちが双子の妹の美々子。」
「…よろしく。」
「しばらくは、アタシ達がアンタの世話しろって夏油様に言われてるの。」
「だから、ゆっくり休めばいい。」
「「夏油様の素晴らしさを分かる、その日まで」」
…私が助かる道は一つ。
この二人を、説得する。
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「はい、輪。あーん。」
美々子がカレーをスプーンで掬い、私の口に差し出してくる。
私に拒否権はない。
照れ臭く思いながらも口を開け、彼女の差し出したカレーを一口食べる。
甘い。私が刺激物が苦手(というか、体が受け付けない)と聞いて、甘口を作ってくれた。
美味しい。
「…その、食事ぐらいは自分で食べさせてくれない?」
「そんなこと言って、まーた逃げようとしたら困るし。」
「それに、美少女姉妹二人に手料理をあーんで食べさせてもらうって、女好きのアンタには嬉しいでしょお?」
「………」
…確かに、この状況は普通ならご褒美案件だ。
実の双子姉妹であるスタイルも顔も良い美少女に、つきっきりで世話をされる。
…そりゃあ、こんな妄想したことありますとも。
ただ、今はもうそれどころじゃない。
それに、真依への裏切り行為に感じて、辛い。
いや、もう彼女のことを想う資格も私にはないんだが。
「ん?そういえば、お風呂とトイレはどうするの?」
嫌な予感がしたので、つい尋ねる。
「…食事と同じ。手錠を付け直して、トイレに連れていったり、風呂場に行く。」
「えーと、手が使えないで、どうやって体を洗ったり、お尻を拭いたり?」
「アタシ達がやるし。」
「…………………マジで?」
「マジで。」
…………なんか、マトモな神経を保てるか、不安になってきた。
骨抜きにされずに、彼女達を説得する。
その道のりがやけに険しく思えた瞬間だった。