愛ほど歪んだ呪いは有らず   作:カバー

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愛ほど歪んだ呪いは有らず その30

 

 

 

 

五条視点

 

「ったく…まさかこんなことになるなんてね!」

 

僕は本来の作戦から大きく外れた、山形市付近の森林部上空にいた。

眼下には、無数の呪霊の群れ。

 

 

 

 

ことの始まりはこの数十分前

 

作戦開始地点である別荘の手前に、僕達が夏油捕縛及び神楽輪救出のため到着する数分前に、仙台市周辺に凄まじい数の呪力が解き放たれた。

 

 

「チッ。」

 

「五条先生!これって…」

 

そう乙骨も他の生徒も気配を感じたようで僕に話しかけてくる。

 

「ああ。傑のやつ、僕たちに勘づいたな。誰がヘマやった…?」

 

 

作戦では、僕たちが傑達の別荘地に突入する直前までに他の術師が仙台市を囲うように待機、避難警告を出してから僕たちが突入し、傑を捕縛する手筈だった。

 

明らかな異常事態に電話を取り出すと、ちょうど伊地知から着信が来た。

即座に電話に出ると、伊地知の切羽詰まった声が聞こえて来た。

 

 

「伊地知?何があった。」

 

「そ、それが…Bチームにて参加予定の禪院直哉特別一級術師が、その…所定の場所を離れ、夏油傑達の方向へ術式で移動したと…」

 

 

「…バレた原因はそいつか。ったく禪院のジジイも息子の教育ぐらいしとけよ!で、街の避難状況は?」

 

 

「前倒しで避難警告を即座に出して、チームの皆さんにも動いてもらっていますが‥やはり予定より避難が大幅に遅れていて、かなり切羽詰まっています!ですがそれよりも…」

 

 

「なに?まだなんかあるの?」

 

「そ、それが…冥冥一級術師からの報告によると、その…結界のないはずの位置から800程度の呪霊が発生し、山形市に向かっていると…!!」

 

「は?どういうことだよ。」

 

「そ、それが…どうやら夏油は、結界で呪術的に隠していた呪霊達とは別に、物理的に地中に無数の呪霊を隠していたようで…!!」

 

「結界に目を向けさせつつ、本命はそこじゃなかったわけだ。傑らしい嫌らしい手だ。」

 

 

「他の術師の方々は仙台市の防衛に手一杯で…!今それほどの呪霊に対処できるのは」

 

 

「僕しかいない…ってわけだ。」

 

 

 

傑の奴、思ったより露骨に僕対策をしてきたな。

これで時間を稼いでさっさと本人は逃げるってわけだ。

 

「ですから…残念ながら、夏油傑捕縛と神楽輪の救出作戦は一旦中止に…」

 

「は?何言ってんの。そんなことしたらまた他の場所でこれが繰り返されるだけでしょ。イタチごっこになるよ。」

 

「し、しかし学生だけではあまりに危険です!相手は夏油傑なんですよ!」

 

普段は弱腰の伊地知もここを引くつもりはないらしい。まあ、学生の命がかかってるなら当然の判断なのかもしれない。でも

 

「…僕たち大人が心配するほど、憂太達は弱くないよ。作戦は続行する、僕抜きでね。話終わり!」

 

 

 

まだ何か言っている伊地知を無視して、電話を切る。

そして目の前の学生達に向き直る。

 

「さて、というわけで僕は行くよ。で、どうする?止める?作戦。」

 

 

 

すると全員が揃って横に首を振った。

 

 

「僕は今日…真希さんの妹さんの、大切な恋人を助けるために来ました。ここで止めるつもりはありません。」

 

乙骨が。

 

 

「悪いですけど、輪を今度こそ絶対に助けるって、決めて来てますから。私。」

 

真依ちゃんが。

 

 

「同感です。輪にはちゃんと伝えたいこともあるし…絶対、手放したくありませんから。」

 

三輪ちゃんが。

 

 

「加茂家の次期当主として、夏油傑はここで放置しておくにはあまりに危険すぎる。それに…輪を助けたいという意味では、絶対に引けん。」

 

憲紀が。

 

 

 

全員が、僕が想像していたよりずっといい顔をしていて。

 

 

僕は思わず笑顔になりながら皆んなに伝える。

 

「よし!なら行ってこい!傑の奴をぶん殴ってやれ!ま、他の呪霊を祓い終わったら僕もすぐ行く。くれぐれも、死なないように!」

 

そう言って僕は憂太とハイタッチをして、すぐに上空へと駆け出した。

 

 

青い春を行く若人は、僕が思っているよりずっと逞しく咲いているみたいだ。

 

 

 

 

 

************

 

禪院直哉視点

 

 

 

勝算はあった。

 

夏油傑は既に千体以上の呪霊を仙台市の攻めに使い、手札から外しとる。

その状態では残りの呪霊の数も層も手薄やろ。

 

さらに神楽輪が本調子でない状態で囚われていることも薄々察していた。

 

何故なら、未だに神楽輪の術式で死んだと思われる非術師が一人も出ていないからや。

 

もし神楽輪が夏油傑に屈しているのなら、もう当然死人はバンバン出とるはずやし、もし万全の状態で屈しとらんなら、さっさと夏油から逃げおおせとるはずや。

 

つまり、神楽輪はまだ夏油に屈しておらず、実力を発揮できない程度には弱った状態で捕らえられている。

 

つまり、夏油と神楽輪の共闘はない。

 

なら、万全やない夏油を殺して、その後に弱りきった神楽輪を殺せば全部終わり。

 

そんなもん、甚繭くんなら容易くやってのける。

俺も「あっち側」へ行くための踏み台。

 

それにおあつら向けの戦いやった。

 

そのはずやった。

 

なのに

 

 

「どんだけ呪霊おんねん…!!!」

 

 

俺は忌々しさから舌打ちし、夏油の周りを飛び回る。既に200以上の雑魚は祓ったが、祓った側から無数の呪霊の群れに押し戻される。

 

その繰り返しに、さすがの俺も息が上がり始めていた。

 

 

 

「おやおや。強気な割に、結構息が上がるのが早いじゃないか。大丈夫かい?」

 

そう苛つくニヤニヤ顔で夏油が俺を煽ってくる。血管が切れそうになりながら、夏油に笑顔で返して言葉を放つ。

 

 

「そういう夏油くんこそ…随分な大盤振る舞いやないか?もうそろそろ手持ちの雑魚もストック切れそうなんちゃう?」

 

すると、夏油はさらに笑みを深めて、大笑いをし始めた。

 

「…何がおかしいんや!?」

 

「いや、すまない。この程度で大盤振る舞いとは、君は意外と慎み深いねえ。」

 

「そうだね…私の残りの手持ちは、あと4500と少しといったところかな?まあ、割とピンチだねえ?」

 

その嫌味に思わず絶句する。

4500?嘘やろ?つまり、こいつは6000体近くの呪霊を飼っとったんか?

 

「さて、もう君の実力は分かった。時間もなさそうだし、そろそろ終わりにしようか。」

 

そう言った瞬間、夏油の周囲にかなり大型の呪霊が5体現れる。

感覚で分かる。こいつらは雑魚やない。最低でも、一級クラスの奴らや。

 

…手持ちが切れるのを待っとったのが間違いやった。

 

これ以上消耗するのは不味い。

 

なら…

 

 

 

 

直接夏油本体を、最高速度でぶち抜いたる!!

 

 

俺は夏油の周囲をさらに加速し続けながら移動し、一級のデカブツ共を翻弄し続ける。

 

「来るか…!!」

 

夏油のその一言の瞬間、俺は夏油の背後から直線的に蹴りの姿勢で夏油に突っ込む。

 

多少の被弾は覚悟の上や!最高火力で夏油を殺す!!

 

近かったデカブツの一体が辛うじてその射線上に入って俺に立ち塞がる。

 

 

「邪魔や死ね!!デカブツがァ!!!!」

 

 

俺は蹴りでそのデカい人形の呪霊の腹部を貫き、呪霊は断末魔を上げながら消滅する。

 

威力は多少落ちたが、これなら…

 

 

俺の蹴りは、夏油の背中に突き刺さり、夏油の体を貫通した。

断末魔と共に夏油が倒れる。

 

が、違和感。

 

 

 

「あっけなさすぎるやろ…」

 

そう。感触が軽すぎる。特級どころか、まるで雑魚の呪霊を祓った時のような…

 

 

 

「上手く行くと思ったかい?」

 

「な!?」

 

蹴り終わって立ち止まった俺に、地面から夏油の声。

咄嗟に下を見れば、地面から夏油の腕が生えており、俺の足を掴んでいる。

…足が動かへん!!

 

「あれは低級の呪霊だが擬態機能を持っていてね。咄嗟に入れ替わっておいたのさ。」

 

次の瞬間、俺の周りに無数の雑魚呪霊が纏わり付き、俺の肉を噛み始める。

 

「クソが!」

 

残った呪力でガードするが、防ぎ切れない。

体の各部位がじわじわと削られていく。

 

「君の視界をあの大きな一級呪霊で潰せたのは運が良かった。その隙に入れ替われたからね。まあ、残念だったね。」

 

終わるんか…?俺がここで…何も成せずに…?

 

 

瞬間、浮かび上がる甚繭くんの顔。

その顔は、俺のことなんか気にしてないままで。

 

嫌や!「あっち側」に行くんは…

 

 

「俺やああァァァァ!!!!!」

 

俺は残りの呪力を振り絞り、腕に全呪力を乗せる。そして夏油が潜んでいる地面に向かって

 

「おらァァァァ!!!!!」

 

 

 

全力でぶつける!!!

 

「ぐあッ!?」

 

拳は骨を殴った鈍い感触

耳には夏油の短いうめき声。

 

やった…これで…

 

次の瞬間、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

************

 

夏油視点

 

 

「オイ…大丈夫カ?夏油。最後ハ少シヒヤリトシタゾ…」

 

そう言いながらミゲルが私を地面から引き摺り出す。

それに私は苦笑いながら答えた。

 

「いや、私もだよ。だが大丈夫さ。呪力で咄嗟にガードしたからね。だが少々驚いたよ。彼がここまでやるとは思わなかった。」

 

そう言いながら私は軽く痛む頬を撫でる。

最後の拳は顔面にクリーンヒットだった。

…あの猿を尊敬する愚か者とは言え、流石に禪院家の術師か。

 

「他の術師の気配はあるかい?ミゲル。」

 

「イヤ?本当ニ奴一人ダッタヨウダナ。ドウスル?今ナラ逃ゲラレルガ。」

 

そこで私は思案する。…が、特に残る必要性もない。足止めなら呪霊で事足りるし、どうやら悟はうまく山形市の方に向かったようだ。

 

ならば、

 

「そうだね。なら、さっさと私たちもお暇するとしようか。真奈美達に合流しよう。」

 

「ダナ。デ、次ハドコニ潜伏スル?」

 

「そうだねえ…面倒だが、国内で潜伏するより海外に飛んでも良いかもしれないねぇ。私の呪霊なら、多少手間ではあるが飛んで国外へ行ける。」

 

空港は見張られているだろうという理由で海外は避けていたが、長時間かけて呪霊に乗っていけば問題ない。

 

疲れるので嫌だが、それ以外の選択肢はもっと面倒だ。

 

実際、また同じことを繰り返すのも難しいだろう。

今回の件で仙台のような地方都市は確実に網が張られる。

田舎部に潜むのも現実的じゃない。

我々のような集団が田舎に住み着けば、当然目立つ。

菜々子と美々子が嫌がったので国内の都市に潜伏したが、ケニア辺りも悪くないだろう。

 

菜々子達も親しくなった神楽輪の身を守るためと説得すれば、まあ認めてくれるはずだ。

 

そう思考を巡らせながら私は立ち上がる。

 

…が、そこで私とミゲルが同時に気づく。

 

特大の呪力反応が、私たちに向かって突っ込んできている。

この反応には覚えがある。これは…

 

「…夏油。」

 

「ふふふ…いやあ今日は実にいい日だ。予定変更だミゲル。彼がここに来るのなら、少し待とう。」

 

「同じ特級として彼にも挨拶しておきたい。」

 

その一言に、呆れたようにため息を吐くとミゲルは頷いた。

 

「ナラ、好キニシロ。二兎追ウモノハ…トナランヨウニナ。」

 

「大丈夫。ちゃんと二兎とも物にして見せるさ。…嬉しいなあ。」

 

 

さあ、来るがいい。

乙骨憂太。そして特級仮想怨霊…

 

「折本里香!!!」

 

 

 

 

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