愛ほど歪んだ呪いは有らず   作:カバー

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愛ほど歪んだ呪いは有らず その31

 

 

 

 

乙骨憂太視点

 

僕たちが夏油傑の潜伏している別荘に到着すると、既にもぬけの殻で、派手に破壊されていた。…直哉という術師が、襲撃したんだろう。

戦闘の跡を辿っていくと、夏油傑と報告にあった一級相当の黒人の男が立っていた。

…どうやら先走った直哉とかいう術師は既に敗れたようで、地面に倒れていた。

 

「やあ乙骨くん。まさかここで君に会えるとはね。嬉しいよ。」

 

「………僕のことを知ってるんですか。」

 

 

警戒しながら尋ねる。…何人殺したのかも定かではない目の前の男は、底なしに親切な笑みを浮かべて話しかけてくる。

それがまた、気味が悪い。

 

 

「ああ、そりゃそうさ。何せ君は私と同じ日本で5人しか居ない特級術師だからねえ。是非友達になりたいと思ってたんだ。」

 

「……ふざけたこと言ってんじゃないわよ。人の恋人拐っておいて…」

 

真依さんの声が震える。…真依さんはここ最近ずっと塞ぎ込んでいたようだ。真希さんもその話を聞いて気が気ではなさそうだった。

 

 

 

ここに僕がいるのは真希さんに頼み込まれたからでもある。

 

「乙骨…お前に頼むのは筋が通らねえってのは私も分かってる。本当は私が行きてえところだが、…悔しいが私じゃまだ力不足だ。だからお前に託す。」

 

「真依を…私の妹の笑顔を、また取り戻してくれ。」

 

 

だから、僕もその為に動く。

 

 

 

「…ああ。君もいたのか。確か真依さん…だったね。それについては、私も大変申し訳なく思ってるんだ。」

 

「なら、さっさと輪の居場所を教えなさいよ!輪はどこにいるの!?」

 

「彼女は今私の家族と共にとっくにここから避難しているよ。残念ながら、君達に追わせるつもりはない。」

 

 

 

そう真依さんと問答しながらも、夏油傑は無数の呪霊を出現させ、僕たちを取り囲む。黒人の男も呪具らしき縄を手に巻き付けて、戦闘態勢だ。なら…ここで僕がすべきことは…

 

 

「真依さん。あいつは僕と里香が引き受ける。だから、君はその隙に輪さんを連れ戻してきてくるんだ。」

 

「君が一番輪さんを連れ戻せる可能性が高い…と思う。その呪具があるからこの中で一番機動力はあるし、だって、何より輪さんの愛する人だしね。」

 

そう言って、僕は静かに僕のはめている、里香との指輪を微笑んで眺める。

その後、真依さんを元気づけるように頷いた。

 

 

「憲紀くんと三輪さんは、あの黒人の術師の相手を頼みます。」

 

 

「……心得た。」

 

「…悔しいですが、確かに真依が一番適任ではありますしね。」

 

「…でも、あの呪霊の群れはどうするの?」

 

「それは僕がなんとかします。」

 

 

 

僕のその言葉で2人もそれぞれ弓と刀を構え、臨戦体制に入る。

 

真依さんも例の呪具を背中につけて、素早く動き出せるように構えている。

 

「残念だよ。話し合いで済ませる、と言うわけにはいかなさそうだね。」

 

その言葉には、僕もカチンと来た。

 

「そりゃそうでしょ。仙台市に何人の人が居ると思ってるんだ!真依さんの愛する人を拐っただけじゃなく、大量殺戮までやろうとするなんて…僕は貴方が分からない!」

 

「…君も猿共を人と呼ぶ口か。仕方ないね。それなら…」

 

 

 

「来い!!!里香!!!」

 

 

「呪い合いで、語るとしようか!!!」

 

記録----2017年8月17日

特級過呪怨霊・折本里香・二度目の完全顕現

 

 

 

 

「皆さん…少し、耳を塞いでてください。」

 

僕はまず先手としてアレをすることにする。

僕の大切な友達が商店街の呪霊を祓う時に見せてくれた、あの術式の再現。

 

「里香、あれをやるよ。」

 

拡声器を生成する。

その拡声器には、一つのマーク。

蛇の目と、牙の印。

 

狗巻家の呪印

 

それを見た加茂くんと夏油の目の色が変わる。

 

「あれは…三輪!真依!耳を呪力で塞げ!」

 

その言葉で三輪さんと真依さんも耳を塞ぐ。夏油と黒人の術師もだが、今はそれで良い。ウジャウジャと群れている、呪霊の群れを祓えば、真依さんが行く隙はできる。

 

夏油は即座に百足や赤子のような有象無象の呪霊の群れを僕に向けるが、もう遅い。

 

その一言の瞬間、知恵のない呪霊は全てが爆ぜて消えた。

 

「死ね。」

 

 

 

 

 

 

****************

 

 

 

禪院真依視点

 

 

とんでもない量の呪力のうねりと発動する術式、そして爆ぜ散る呪霊たちの肉体を尻目に、私は呪霊たちの合間を縫うようにして、空を飛んでいた。

 

…私の背中に付いているのは、禪院家が所有している一級呪具の一つ、蠅王乃翅

 

曰く、かつて特異的に出現した一級相当の蠅頭が受肉し、生えた羽を討伐した禪院家のご先祖様が、千切って呪具に加工したもの、だとか。

 

…まあそんなことはどうでもいい。

忌まわしい禪院家の物だろうが、私は輪を救う為には使うと決めた。

 

…禪院家の連中が今回の任務に入るようにしたのもそうだ。

甚一のおっさんに下げたくもない頭を下げた。

 

生まれた時から、私は禪院家に生まれたことを呪い続けた。

 

綺麗な世界において、ただ綺麗なものを見るだけでは済まなかった。

呪いを見ることができる目も、禪院家の凝り固まった価値観も、何度呪ったか分からない。

 

誰かに縋れるって勘違いは、タチが悪い。

 

私を守ってくれると最初に誓った真希は、勝手に大人になって、勝手に私を置いて出ていった。

 

…分かってる。そんなことは。

 

だから、同じように守ってくれると言ってくれた輪に、私は真希を重ねた。

 

 

「貴女、私と一緒に呪術師辞めてよ。そして、私からずっと離れないで。」

 

 

真希ができなかったことを、一緒にしようとした。

 

当然のように断られて。

だから、私はそこで諦めようとした。

でも、

 

 

「真依ちゃんにとって呪術師をやることが辛いのは分かってる!!でも、私が貴女を絶対守るから!禪院家からも、呪霊からも!」

 

「だから、だから…私と一緒にいて欲しい!呪術師をやってる私の隣に、いてください!お願いします!」

 

 

 

…それで彼女は終わらなかった。

 

みっともなく、私にお願いをしてきた。

心の中身を、全部ぶちまけたかのような。

 

嗚呼。私と真希に足りなかったのは、それだったのかもしれない。

互いに遠慮しすぎて、私たちは勝手に離れあった。

 

でも、輪は違った。

みっともなくしがみ付いて。縋りつこうとする私に、逆に縋り付いてみせた。

 

片方から片方に縋りつくのではなく、互いに縋りつき合えるのなら。共に、支え合って、立てるかもしれない。

 

 

だから、だから…

 

「この関係を、嘘になんてさせない。しないでよ…」

 

 

そう呟き、私は、輪がこれ見よがしに残している呪力の残穢を追って空を駆ける。

 

私の恋人に、ただ縋りつくのではなく、共に、立つ為に。

 

 

 

 

****************

 

 

神楽輪視点

 

 

私は菜々子と美々子に肩を担がれながら森道を歩いている。

…2人とも夏油さんが心配で気が気ではないようだ。

2人だけではなく、ラルゥさんとミゲルを除いた全員がそんな感じだった。

 

ミゲルは夏油さんと共に戦闘しているので、実質私たちの中で冷静なのはラルゥさんと私ぐらいだ。

そのラルゥさんは、先頭に立って私たちが見えづらい位置にいる。

 

…これは、チャンスだ。

 

私は2人に気づかれないように、密かに地面に指を付け、呪力の残穢を残していく。

 

上手くいけば、呪術師がこの残穢に勘付くだろう。

 

菜々子と美々子の2人を半ば裏切るような行為をしているわけで、胸は痛むが、それよりも今は高専所属の呪術師に接触するのが最優先だ。

 

まだ、彼女たちはやり直せる。

 

人を殺したことがあるとは聞いているが、私ほどではないだろう。

 

彼女たちの殺人は環境の影響が多い。

幼い頃から周囲全てに虐待され、夏油傑に拾われた。

それに未成年だ。

私が話を通せば、彼女たちにはまだ機会が与えられる。

 

……でも、それは辛い道だ。

 

今は彼女たちは責任も、思考も、その全てを夏油さんに押しつけて生きている。

それを自分で考え直して罪に向き合うのは、まさに地獄の苦しみだろう。

 

でも、進まないと。

 

どんなに辛くても、人は自分で道を決めないといけない。

 

他の誰かがどんなに素晴らしく見えたとしても、その人が間違えないということはないのだから。

 

それを私は幼少期に実感した。私が尊敬して心の底から愛していた優しい両親は、簡単に村一つを皆殺しにした。

 

今思えば、アレは私のための儀式だったのかもしれない。

 

でも、私はそれを否定する。

 

 

彼女たちにもそうあってほしい、というのは私の単なるわがままかもしれない。

でもそれで構わない。

 

依存の先にあるのは、単なる破滅なんだから。

 

友人には、何か別の道を見つけてほしい。

 

 

…それが済んだら、私は出来るだけ一人で罪を償うつもりだ。

100人以上を殺した罪は、二人のそれより多分ずっと重いんだから。

 

私は一人で立たないと。誰かに縋りつくのには、私は穢れすぎている。

 

 

 

 

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