愛ほど歪んだ呪いは有らず   作:カバー

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愛ほど歪んだ呪いは有らず その32

 

 

 

 

美々子視点

 

しばらく森の中を、夏油様が教えてくれたように進んでいく。

私はもうほぼ覚えてないけど、ラルゥは流石に覚えているようで、一見すると何の目印もない森の中をするすると進んでいく。

 

が、次の瞬間、ラルゥが凄い速さで振り返った。

 

「ちょっと輪、アンタ…!!」

 

そう言ってずかずかとこちらに近づいてくると、ラルゥが輪の手を掴んだ。

 

そこには…明らかに呪力の篭った指があった。

 

「やられたわね…呪力の残穢を丁寧にここまで残してたのね?」

 

「………まあね。」

 

驚愕。全員の間にざわめきが広がる。

これではわざわざ迷路のような森の中を進んできた意味がない。

 

そんな理性的な焦り以上に

 

「輪…どうして…」

 

「何でアタシ達を裏切ったの!?友達だと思ってたのに…」

 

初めての同世代の友達に裏切られたというショックで私と菜々子は放心状態だ。

 

「……ごめん。」

 

「…今はもう言ってる場合じゃないわね。すぐに移動を…」

 

そうラルゥが言葉を途中で区切り、空を睨む。

 

「…遅かったみたいね。」

 

「!!」

 

全員が空を見ると、紫色の毒々しい翅をつけた黒髪の女の術師が、凄い勢いでこちらに降りてきた。

 

「真依…!!」

 

輪がそう心底驚いた顔で女の術師を見て呟く。

 

ならアレが禪院真依…!輪の恋人の!

 

一目散に輪に近づき、即座に輪を抱きかかえようとする。が、

 

 

「させないわよッ!!!!」

 

ラルゥが即座に真依の横腹に飛び膝蹴りを仕掛け、妨害する。

 

「くッ…」

 

真依は辛うじて右手で腹を守るが、ラルゥのパワーに吹き飛ばされ木に激突する。

 

「真依っ!!!」

 

輪が真依の元に走って向かおうとするが、それをアタシと美々子が必死で止める。

こんなところで夏油様の計画を邪魔するわけにはいかない!!

それに…折角できた友達を、失いたくない。

 

 

でも輪はそんなアタシ達より真依の方に夢中で。

 

「真依に傷が…!!」

 

そういうと輪は、凄まじいまでの呪力を放出し始めた。

 

「嘘!何でアタシの術式が…!感情が爆発的な呪力を生んで、輪を写真で固定できなくなった…!?」

 

そう菜々子が叫んだと思うと、目に見えないほどの速度で輪はラルゥと真依という術師の間に入り込んだ。

 

静かに輪とラルゥが睨み合う。

 

「………ラルゥさん。すみませんが、ここは引いてくれませんか。」

 

「無理ね。アタシの仕事は家族を無事に送り届けること。それには輪ちゃん。貴女も含まれてるのよ?」

 

その一言に、輪は静かに黙るが、やがて絞り出すかのように一言呟いた。

 

「…それは嬉しいです。本当に。でも、これ以上真依を傷つけるなら、私は貴方達のことを嫌いになるかもしれない。それは互いに避けたいことでしょう?」

 

 

沈黙。先に折れたのはラルゥの方だった。

やれやれと首を振ると、静かに輪に背中を向けた。

次の瞬間、輪は真依という術師に抱き寄せられて空へと飛んでいった。

 

 

「…仕方ないわね。行きましょ、皆んな。」

 

それに最初に食いついたのは菜々子だった。

 

「ちょ、ラルゥ!ふざけないでよ!輪を連れていかないなんて有り得ねーし!」

 

私も同感だった。

菜々子のそばでこくこくと頷く。

 

が、真奈美が大声で叫んだ。

 

「いい加減にしなさい!輪の呪力の残穢にも気づかないどころか、夏油様の指示にも従わない気!?仰ったでしょう!神楽輪がもし万が一術式の出力を取り戻すような事態になったら、我が身を最優先に動けと!」

 

そして、私たちが最も嫌いな言葉を続けた。

 

「いい加減…大人になりなさい!!!!」

 

次の瞬間、菜々子と私の堪忍袋の尾が切れた。

即座に二人で神楽輪を追って走り出す。

 

後ろで叫ぶ真奈美の声と、それを嗜めるラルゥの声が聞こえるが、今は無視する。

 

 

とにかく、友達を取り戻すために。

今はそれだけで私たちは走っていた。

 

 

 

 

****************

 

 

神楽輪視点

 

 

今私は真依に抱きしめられて空を飛んでいる。

背中にどうやら特殊な呪具を付けているようだった。

助かったけれど、正直複雑な気持ちだった。

今私が一番会いたかったのが真依で、一番会いづらかったのも真依だ。

 

「……………どうしたの。何で黙ってるのよ。折角一ヶ月ぶりに恋人と感動の再会ができたんだから、何か喋りなさいよ。」

 

「えっと、真依。助けてくれて本当にありがとう。嬉しいよ。本当に。」

 

「……でもって続きそうな流れね?」

 

真依が憂いを帯びた顔になる。

その顔も美しいけれど、罪悪感でおかしくなりそうだ。

真依には笑顔が一番似合ってる。

胸がしきりに痛みながらも、私は続ける。

 

「でも…私は真依と…その…別れようと思う。」

 

真依の動きが止まった。

 

「なに…言ってるの?」

 

「私ね…その実は…「やめて!!!」

 

 

「…………貴女も、私を置いていくの?」

 

「私は、罪人だから。真依とは一緒に居られない。」

 

「私ね?両親を殺したって言ったでしょ?それだけじゃなかったんだ。私は8歳の頃に、100人以上の人を呪い殺してた。」

 

苛立ちと悲しみを露わにして、真依は私に反論してくる。その姿にまた胸が痛む。

 

「……夏油から吹き込まれたの?貴女を操りやすくするための嘘かもって少しは考えなかったわけ?」

 

「……帰ったら楽厳寺学長に確かめるよ。それでハッキリすると思う。でも本当だったら。」

 

いや、まず確実に本当のことだろう。それは私はある程度確信していた。

夏油の説明は辻褄が合っている。

私の体質の改善も、術式によるものなら理解できる。

というか、改めて考えれば天与呪縛がそれ以外の要因で簡単に治っていくとは思えない。

 

「分かるでしょ?私は一人で罪を背負わないといけない。誰にも縋れない。だって私は罪深い…」

 

そう言うと、真依は心底呆れたとばかりにため息をついた。そして淡々と話し始める。

 

「……どうでもいいわよ。そんなこと。」

 

「え?」

 

「そりゃあ、お気の毒とは思わなくもないわよ?でも、愛してる貴女が赤の他人を何人殺してようが、私は貴女が好きなの。それは何がどうなっても変わりようがないわ。」

 

「それに、子供の頃のことなんでしょ?半分事故みたいなもんじゃない。今は術式が制御できてるから、貴女は処刑されてない。」

 

「いや、でも…そういう問題じゃ…」

 

「そういう問題なのよ…それでも、貴女が罪を背負うって言うなら…私も背負うから。」

 

真依は何か吹っ切れたような顔でこちらを涙ながらに見つめている。

 

「ほんっと…貴女ってバカ真面目よね。んなことさっさと忘れりゃいいのに。」

 

「そんなこと…できないよ。」

 

 

「まあ、だから貴女なのよね…。なら私との約束も忘れないでよ。」

 

「まず私を助けてよ。貴女が居ないと私はダメなの。貴女が思っている以上にね。」

 

「………」

 

「その代わり、私も貴女を勝手に助けるから。貴女が笑って前を向けるようになるまで。」

 

「身勝手だよ…真依ちゃん。」

 

私は気がつけば泣きながら笑っていた。

酷いぐらいの開き直りなのに…嬉しくて涙が止まらない。

本当は怖かったのだ。

私の罪深さを知って、真依に嫌われるのが。

だから、その前に距離を置こうとした。

でも、少なくとも、私にもまだ真依を幸せにすることができる。

 

 

「言ったでしょ?私は執念深いのよ。」

 

そう言って、真依は不敵に笑った。

ああ、ごめんなさい。私は今…幸せだと思ってしまっています。

 

 

 

 

 

****************

 

 

一方、夏油達と乙骨達の戦闘は、苛烈さを極めていた。

 

「ハァッ!!!」

 

ミゲルが黒縄で瓦礫を投げながら、自身も高速で加茂憲紀に接近して近接戦をしかけんとする。が、

 

 

「シン・陰流・簡易領域!抜刀!」

 

「チィっ!」

 

瓦礫を切断した返しで、鮮やかな斬閃がミゲルの脇腹に刺さる。切れはしないまでも、ミゲルは僅かに呻く。

後退した後、ミゲルは三輪にお返しと言わんばかりに手に持っていた石粒に呪力を込め、投げつける。

 

「ッ!?」

 

細かすぎる石粒を抜刀で防ぐことはできず、三輪も全身に鈍い衝撃を喰らう。

 

が、その隙に加茂憲紀が動く。

 

「赤血操術…苅祓!!!」

 

円状の血の塊の斬撃が、凄まじい勢いで回転しながらミゲルへと迫る。

 

「シッッ!!!」

 

その斬撃を辛うじてミゲルは黒縄で弾く。

その一瞬の攻防で、それぞれがまた振り出しに戻った。

 

「三輪!大丈夫か!」

 

「はい…問題ないです!まだ行けます!」

 

そのまだ余力がありそうな三輪を見て、ミゲルは静かに分析していた。

 

(アノ女術式、明ラカニ以前トハ動キガ違ウ…神楽輪ノ影響ト考エルノガ妥当カ。)

 

(先ニ遠距離主体ノ糸目ノ男ノ方ヲ潰シタイガ…簡易領域ヲ突破スルノモ骨ダナ。)

 

戦場は、均衡しつつあった。

が、それでも自分達がこのまま行けば勝つとミゲルは確信してもいた。

 

何故なら、自分はまだほぼ無傷なのに対して、青髪の女術師は明らかに手傷を負い始めている。

簡易領域で守りを固めているとはいえ、それでも崩れるのは時間の問題…

夏油は乙骨と里香の相手で手一杯だが、こちらの勝敗がつけば、自ずと流れは決まる。

 

このままいけば、だが。

 

 

 

次の瞬間、その場の全員が森の中から彼女が来るのを感知した。

夏油達は苛立ちを、乙骨達は安堵と達成感を感じながらそれを理解する。

 

莫大な呪力の塊。

 

それは森の上空を駆ける真依に運ばれている神楽輪。

 

二人は静かに戦場に降り立った。

 

三輪が涙ながらに呟く。

 

「もう…遅いよ!バカ!」

 

「ごめんね。随分待たせちゃった。」

 

そう吹っ切れたような笑顔で神楽輪が応じる。

 

夏油はそんな彼女を一瞥して、真底残念そうに呟いた。

 

「君は、結局そっちを選ぶのか。」

 

「…はい。ごめんなさい。私は、真依の隣に居ます。夏油さんの力には、なりません。」

 

僅かの沈黙。だが、即座に夏油は無数の呪霊を生み出し、戦闘態勢に入る。

 

「私は諦めが悪いんだ。なら、もう一度君を真依さんごと家族にしてみせるさ。」

それぞれがまた各々の武器を静かに構える。

神楽輪もまた夏油傑の戦闘態勢に無言で応じ、静かに胸の前で左手の人差し指を立てて残りの指を握り、その人差し指を右手で包み込む。

 

それは智拳印と呼ばれる印相に似た構え。

 

「領域展開 自戒瞋恚菩薩」

 

神楽輪の領域展開はその場の全員を包み込んだ。

いよいよ、この戦争の本番が始まる。

 

 

 

 

 

 

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