愛ほど歪んだ呪いは有らず   作:カバー

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愛ほど歪んだ呪いは有らず その33

 

 

 

 

神楽輪の領域内には、無数の血濡れの十字架があった。まるで詫びるかのように岩の地面に突き刺さるそれらを、巨大な木の菩薩像が静かに見下ろして眺めている。

 

その領域内で、夏油達と神楽輪達が静かに睨み合う。

 

 

(神楽輪の術式からして、必中必殺の領域でないのは分かっていたが…)

 

(それでも領域内での戦闘を長引かせるのはまずいな。あまり時間をかけすぎると悟が来る可能性もある。)

 

 

そう夏油は思案し、ミゲルと静かに頷きあう。

ミゲルの腕には、全ての術式を乱し相殺する黒縄がある。

 

ならば黒縄を領域に当て続ければ、自然と領域に付与された術式は相殺され意味をなくす。

そうなれば領域もただの何の意味もない結界だ。

 

 

「……驚いたよ、まさかいきなり領域とはね。随分思いきった手だ。」

 

そう夏油が遊雲を手に持ちながら神楽輪に話しかける。それに輪もまた両手に呪力を纏い、臨戦体制に入りながら応じる。

 

 

「まあ…そうですね。ですが、実際良い手だったでしょう?ここはもう私達のホームグラウンドってやつです。」

 

乙骨も里香から呪力を引き出し刀に流し込みながら輪の横に立つ。

 

「あいつの相手は僕と里香がやるよ。…大丈夫。慣れてきた。」

 

「なら三輪ちゃん、乙骨先輩のサポートお願い。他のみんなはもう一人の術師を倒そう。」

 

「了解です!」

 

「お〝お前…あんまり憂太に近づくな〝あよ?」

 

「だ、大丈夫です!私彼にはその…そういう意味での興味はないので!」

 

 

三輪が里香に絡まれながらも健気に言葉を返す。

 

そんな輪達に夏油は挑発するように言葉をかける。

 

「人は食物連鎖の上位に立ち、更に高位の存在を夢想し、『神』と呼んだ。おかしいとは思わないか?夢想せずとも、我々呪術師が居るというのに…」

 

「…行くよ!!」

 

次の瞬間、輪の言葉と共に、全員が一斉に夏油とミゲルに飛びかかる。

 

「来るか!乙骨!」

 

「はあァッ!!」

 

夏油に飛びかかりざまに乙骨が切り掛かる。

それと同時に里香も夏油に拳を振り下ろす。

 

夏油は乙骨の斬撃を躱し、里香の拳を遊雲で弾く。その隙にさらに三輪が動いた。

 

「抜刀!!」

 

三輪が今までとは比較にならない呪力を滾らせて、夏油に横なぎに斬閃を浴びせる。

 

夏油は辛うじてそれを躱すが、頬には傷ができていた。そして少なくない驚きを感じていた。

 

速い…!!!

 

そして神楽輪の領域の全てを即座に看過した。

 

「やはり神楽輪の領域は…術式範囲を領域内に限定するという縛りによる術式の強化…!!」

 

 

 

夏油傑の確信した通り、神楽輪の領域展開は、本来は日本全土に適応される神楽輪の術式を、僅かな範囲の領域内のみに限定するという『縛り』により、大幅に増強する。

 

さらに、日本全土に及ぶ術式の効果を狭めることで、その分の莫大な呪力消費も術式に乗せる。

 

つまり、この領域内では神楽輪により祝福された人間は更に呪力を与えられ、呪われた人間は更に呪力を奪われる。

 

神楽輪の術式は、基本的に常時垂れ流されているわけではない。

日本全土の術式範囲でそんなことをすれば、いくら神楽輪といえども瞬時に呪力が枯渇する。

 

故に、強力な感情とともに術式は発動し、対象を一度限り呪い、又は祝福するのだ。

まあ、距離は日本全土で遠隔でもそれをやれる時点で、途方もない呪力量だが。

 

が、領域内では話は別。

この領域内では…無制限で一度対象となった人間に術式効果が降り掛かり続ける!

 

 

 

 

 

「ウワァオォ!!!」

 

ミゲルが神楽輪に拳で吹き飛ばされ、宙を舞う。

そこに加茂憲紀と禪院真依が追撃をかける。

 

「百歛 穿血!!!」

 

喰らいなさいッ!!」

 

無数の呪力の篭った弾丸と血のレーザーが、ミゲルの体を次々と傷つけていく。

が、ミゲルは黒縄を結界の外殻に当てるかのように振り回し続けながら、じわじわと領域内の術式の効果を弱めていく。

 

「!」

 

神楽輪もその行為の意図に当然勘づいた。

 

 

「真依!ミゲルの呪具で領域の術式がどんどん弱まってる!網を!!」

 

「!ええ、分かったわ!」

 

真依が高速でミゲルの上空に飛行し、形状記憶合金のお手製呪具を網に変形させ、ミゲルを絡めとった。そのままズルズルと神楽輪の元へとミゲルを引き摺っていく。

 

「クソっ…コノ離セ!!」

 

「せやあッ!!!」

 

そして正面から神楽輪は網に絡め取られたミゲルの顔面を殴り飛ばした。

 

「ノオオッ!!!」

 

堪らず悲鳴をあげてミゲルは網から外れて吹き飛んでいく。が、それでも流石に夏油一派の中の精鋭。

黒縄を更に領域の地面に擦り付け、術式効果を弱めていく。

 

そして…

 

 

「コレデ…終ワリダ!!!」

 

 

力の限り黒縄を領域の壁に叩きつける。

そして、領域内の術式は、完全に相殺された。

 

「ちぃっ…!!」

 

こうなってはただの円状の何の効果もない結界だ。神楽輪はやむなく領域を解除。

全員が元の位置に戻った。

 

が、完全に無駄というわけではない。

 

ミゲルも決して軽くはないダメージを負ったし、夏油に至っては…

 

 

「夏油…左腕ガ!?」

 

「ああ…あの青髪の少女と乙骨の斬撃を躱しきれなかった。手痛い代償だね。」

 

 

肩から下の左腕がなかった。辛うじて呪霊で止血をしているが、それも完全ではない。

顔色も心なしか青くなりつつあった。

 

「だが…有利なのはこちら側だ。」

 

そう夏油が言った通り、領域が切れた神楽輪の呪力出力は大幅に低下していた。

領域も無理をすれば連発出来るかもしれないが、現実的ではない。

 

「ミゲル…片腕では遊雲を扱えない。君に任せるよ。黒縄と合わせれば、今の彼ら相手になら十分勝ち筋はある。援護は任せてくれ。」

 

そう言って夏油はミゲルに遊雲を放り投げた。

ミゲルはそれを手で掴み、黒縄と合わせて両手で構える。

更に複数の一級呪霊を出現させて、ミゲルを囲う。

 

「いざとなれば私の極の番もある。勝てるさ。」

 

 

神楽輪達は、呪力消費の激しい輪ではなく、乙骨が前線に出る構えを見せる。

 

「僕と里香が前線でやります。皆さんは援護してください!」

 

そして再度両者が激突しかけたその時、更なる乱入者が現れる。

 

ちょんまげ頭に上半身裸のその姿は。

 

 

 

「待たせたなベストフレンド!!俺だ!!」

 

「東堂先輩!!」

 

 

夏油もその姿を見て即座に思い出す。

 

(入れ替えの術師…!!)

 

その姿を認めたミゲルと夏油は人と人との入れ替えを警戒する。

当然だ。彼らは東堂の術式の、その一例しか見たことがない。

 

パァン

 

 

拍手の瞬間入れ替わったのは、物と物だった。

 

「ナ!?」

 

ミゲルの握っていた遊雲が、東堂の両手にある。代わりにミゲルの右手には呪力の篭った石ころ。

 

「術式の適応範囲は人だけではなかった!呪力のある物も術式範囲内か!」

 

そう夏油が勘づいても時既に遅し。東堂は遊雲を振り上げて夏油達に横なぎにぶつける。

 

 

「お返しだ夏油傑!特級呪具…『遊っ雲っ!!』」

 

 

夏油が一級の呪霊を盾にするが、それでも呪力の篭った遊雲は防ぎ切れない。ミゲルと夏油は呪霊ごと弾き飛ばされる。

 

「東堂先輩!確かAチームで戦闘中じゃ…」

 

そう三輪が問いかけると、不敵に笑って東堂は答えた。

 

「俺の分の担当地区の呪霊は既に祓い終わった。五条悟が不在と聞いてな。少しでもベストフレンドの力になるべく速攻で駆けつけたのさ。」

 

神楽輪は東堂の差し出した手をパァンと叩いた。

 

「ありがとうございます!東堂先輩!」

 

「おかえり、ベストフレンド。」

 

だがまだ戦闘は終わっていない。

全員が静かに土煙の立っている夏油達の方を見る。

乙骨が追撃に里香と突撃しようとした次の瞬間、凄まじい数の呪霊の群れが、東堂に突っ込んできた。

 

「ぬ!?」

 

呪力でガードするが、東堂は呪霊の波に押し流されて身動きが取れない。

 

土煙の中から、夏油の声が響き渡った。

 

「知っているかい?特級を冠する人間は五人。呪いだと十六体存在する。これは、その内の一体…」

 

即ち、夏油はついに切り札を切った。

 

土煙越しでも、今までとは桁が違う明らかに濃い呪いの気配が生じる。

 

「特級仮想怨霊"化身玉藻前"」

 

それは里香にも匹敵する最強格の呪いの一つ。だが夏油は更にここに手札を出す。

 

「更に……」

 

 

「今私が所有している3685体の呪いを、一つにして、君たちにぶつける。」

 

実に3000体以上の夏油傑の集めた呪いの結晶が、神楽輪達の頭上で巨大に黒く蠢いている。

 

 

「呪霊操術、極の番-----うずまき」

 

 

その場の全員に激震が走る。

里香の呪力を使いこなしつつある乙骨と特級でもかなりの呪力量を持つ神楽輪をもってしても、危機だと一目でわかる。

 

けれど、負けるわけにはいかない。

二人の目は、まだ死んでいない。

愛する人のために…愛する人の愛する妹のために…それを、奪われないために。

 

その為なら、神楽輪は死ぬ覚悟さえあった。

が、一歩踏み出そうとする神楽輪の肩を、乙骨が掴んだ。

 

「僕がいくよ。僕と…里香が。」

 

「里香。」

 

憂太は背後の里香に振り返り、抱きしめる。

 

「なぁに」

 

「里香…いつも、守ってくれてありがとう。…僕を、好きになってくれてありがとう。」

 

その顔は、全てを覚悟した顔で。

 

「……最期に、もう一度力を貸して。」

 

彼に後悔など微塵もなかった。だって隣には里香がいる。

 

「僕の心も、体も、全部里香にあげる。これからは、本当にずっと一緒だよ。」

 

「愛してるよ、里香。」

 

「一緒に逝こう?」

 

里香への、乙骨の口づけ。

 

「あ〝あ〝あ〝憂太…憂太ぁ…」

 

「大大大大大大大大大大…大好きだよおおおおお!!!!」

 

 

「乙骨くん…!!」

 

「乙骨憂太…!!」

 

それを見ていた神楽輪と夏油傑が同時に驚愕し、背筋が凍った。

----自らを生贄とした、呪力の制限解除。

 

「そう来るか!女誑しめ!」

 

「失礼だな、純愛だよ。」

 

互いが互いに照準を向ける。互いの最高の一撃を。

 

「ならば…こちらは大義だ」

 

夏油が掌からうずまきを放つ。里香もそれに合わせるかのように途方もないほどの極限の呪力の塊をぶつける。

 

 

決着が、ついた。

 

 

 

 

 

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