愛ほど歪んだ呪いは有らず   作:カバー

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愛ほど歪んだ呪いは有らず その34

 

 

 

 

神楽輪視点

 

 

膨大な呪霊が圧縮された塊の奔流が、里香から迸る信じられないほどの呪力の…そして愛の塊に押し流されていく。

 

やがて極の番--うずまきは完全に里香と乙骨くんの前に敗れ去り、夏油さんもその波に飲み込まれた。

 

 

私たちの勝利。だが、私たちの間には喜びよりも、しんみりとした雰囲気が流れた。

 

何故なら…乙骨くんは…里香と誓約を結んでしまった。黄泉への旅路を。

 

 

「乙骨くん…ごめん。私を助けるために。」

 

そうだ。これは私の責任。私がもっと要領よく領域を維持できていたら、こうはならなかったかもしれない。私がもっと…

 

だが、乙骨くんは爽やかに微笑んで答えた。

 

 

「君のせいじゃないよ。僕がそうすべきだと思ったからしたんだ。全部僕の判断で、僕の責任だ。君が背負うことじゃない。」

 

「でも…」

 

 

それでも言葉を続けようとする私に、唐突に東堂先輩が近づいてきたかと思うと、私の頬に思いっきりビンタをしてきた。そして諭すように話し始める。

 

 

「いいか?ベストフレンド。ここに居る術師全てが、何かのために立っている。確かにそれはお前のためでもあっただろう。」

 

「しかし!ここに立つことを選んだのは全て己自身だ。全ての術師がその誇りを持って立っているんだ。それを否定するのは…侮辱だぞ。」

 

 

その言葉に頷くように、周りの皆んなも視線を向けてくる。

そうだった。私は言葉を間違えた。ここで言うべきは一つだ。

 

「みんな…本当にありがとう!」

 

 

ありったけの感謝の言葉。

 

 

 

 

 

 

**********************

 

 

 

 

 

「これからどうする?街の支援にでも行くの?」

 

 

そう一連の流れが済むと、唐突に真依が切り出した。

が、それに加茂先輩が待ったをかける。

 

「いや、夏油傑の死体を確認しなければならない。それに、先程から姿を見せないあの黒人の術師も気にかかる。」

 

「その必要ある?あの乙骨くんの一撃で二人とも蒸発したんじゃないの?」

 

 

それはないだろうと私は思い、話に入る。

 

「いや、ミゲルほどの実力者が、あそこまで離れていた攻撃をみすみす喰らうとは思えないよ。それに夏油さんもまだ死んでないと思う。うずまきで大分攻撃が相殺されてたし…」

 

「となると…トドメを刺す必要もあるな。早く捜索しよう。」

 

 

が、次の瞬間、全員が急接近するその強大な呪力を感じ取る。

間違えようもない。

東堂が不敵に笑って言った。

 

「その必要も無くなったようだな…五条悟が来た。」

 

 

空を五条さんが猛スピードで駆けて行った。こちらを気にかけずに全力で。ならその方向には…夏油さんが居る。

 

「ごめん、皆んなここで待ってて!私五条さんの所に行くから!」

 

そう言って私はその場を駆け出す。

まだ夏油さんとは話さなければならないことがある。

…私の大事な、二人の友人に関して。

 

 

 

 

 

 

****************

 

 

その場に到着すると、血まみれで物陰に倒れ込む夏油さんの前に、五条さんが立っていた。

夏油さんを庇ったのだろうが、ミゲルは付近の壁にめり込んで静かに倒れている。

…まあ、五条さんにやられたんだろうな。

 

 

「五条さん待って!まだトドメは刺さないで!」

 

私は慌てて五条さんに駆け寄る。するといつもの目隠しを外し、六眼を晒している五条さんが胡乱げに振り向いた。

 

「ああ、輪か。…無事でよかったよ。」

 

「…で、なんで止めるわけ?まさか君が夏油傑に着いていくってわけじゃないだろ?」

 

 

「そんなつもりありませんよ。ただ、私はまだ彼と話して区切りをつけるべきことがあるんです。」

 

「大事なことかい?」

 

「友達のことです。」

 

暫く見つめ合って沈黙の時間が続く。

が、五条さんはため息をついて私に譲ってくれた。

 

「早くしなよ。」

 

「…ありがとうございます。」

 

 

私が目の前に立つと、至る所がボロボロになってぐったりと座り込んでいる夏油さんは、少し困惑したような顔で話し始めた。

 

 

「やあ、輪さん。…今更私に何の用だい?直接トドメを刺しに来られるほど嫌われてはいなかったと思いたいんだがね。」

 

「そんなつもりで来たんじゃありませんよ。…話に来たんです。菜々子と美々子のことで。」

 

 

そう言うと、夏油さんは少々驚いた顔をした後に、探るような声音で問いかけた。

 

 

「まさかここであの二人の名前を出すとはね。言っておくが、君はそっち側を選んだんだ。もう彼女たちと会うこともないだろう。」

 

「そんなことありませんよ。私は意地でもあの二人を見つけ出して連れ戻します。友達なんですから。」

 

 

夏油は更に解らないと言わんばかりの顔になって問いかける。

 

「連れ戻す?どこに。」

 

「私の隣にです。」

 

 

そう言うと、夏油は呆れたように微笑んだ。

 

「…君は理解しているのかい?あの二人はもう猿を何人も殺している。君達の側にはつけない呪詛師なんだよ。」

 

「それを言うなら、私だって人殺しです。」

 

「…そうだったね。だが、君とあの二人では根本的な認識が違う。あの二人は何の後悔もしていないよ。そんな状態で改心なんてしたら…苦しむことになる。分かるだろう?」

 

 

そんなこと分かってる。でも、だからこそあの二人はこのままじゃダメなんだ。夏油傑という道標を失った二人は、ただズルズルとその象徴に縋り続けて生きるだろう。

 

 

「分かりますよ、私だって苦しみましたから。でもね、私。あの二人には正しく苦しんで欲しいんです。」

 

その言葉に、夏油は苛立ったように眼光を鋭くする。それでも私は続ける。

 

 

「苦しんで悩んで、もがいて叫んで、改心して。それでまた、今度は自分の足で立って歩いて欲しいんですよ。」

 

「だって、それが大人になるってことでしょ。本当の意味で、本当の自分の道を選べるのは、その経験があるからでしょ?」

 

「あの二人は子供ですよ。本当の意味でね。だって、貴方が全てにおいて正しくて、素晴らしいと疑っていない。私が里に居た頃と大差ないですよ。」

 

 

 

そうだ。そのままではダメなんだ。それでは決定的な場面で、絶対に後悔する。

特に世間を猿と見下す彼女たちの場合は、絶対に、酷いことになる。

 

 

「…そうかもしれないね。でも、彼女たちはもうやり直せないだろ。私がそう育ててしまった。」

 

やり直せない?確かにそうかもしれない。でも!

 

「確かに今までの行いは、無かったことにはできません。どれだけ後悔しても、例え被害者全員に許されてもね。」

 

「でもね、それでも前に進むことはできるんですよ。今までの罪全部背負って、誰かを助けて、笑いながら一緒に進むことはできるんです。」

 

「それを私は…真依に教わりました。だから、今度は私が教える番。」

 

これ以上の言葉は要らないだろう。私は肝心の情報を聞こうとする。

 

「だから、教えてください。あの二人を含めた皆は最終的にどこに避難しようと…「「夏油様!!」」

 

次の瞬間、信じられないことが起こった。

聞き覚えのある二人の少女の叫び声。

 

菜々子と美々子が、そこには居た、

二人とも汗だくで、制服の至る所に葉っぱが付いている。全速力で走ってきたんだろう。

息が切れて汗ばんで制服の下の菜々子の派手な色の下着が見え…ってそんなことどうでもいい!

 

 

 

五条さんがその二人に視線を向けながら話に入ってきた。

 

 

「それがあの二人か。…ったく。子供にまで手を汚させるとはね。」

 

「で、奇跡的な出会いだけど、お二人さん的には結論出たわけ?」

 

 

夏油さんと私は僅かな間沈黙して向き合うが、根負けしたのは夏油さんの方だった。

 

「…あの二人を、君に託すよ。確かにそれが一番安全ではある。…もしあの二人が早めに私のところに来たら、君を呪うからね?」

 

そう言って夏油さんは皮肉げにこちらに笑いかけた。

 

「…分かってます。命に変えても守ります。」

 

その言葉を聞いて、夏油さんは少し離れた、菜々子と美々子に聞こえるように語りかけた。

 

 

「菜々子!美々子!どうやら私はここまでだ。ここからは輪の言うことを聞いてついて行きなさい。それが私の最後の君達へのお願いだ。」

 

 

「そんな!夏油様!いや!!」

 

「この!五条悟!夏油様から離れろし!!」

 

 

菜々子がスマホを五条さんに構えた瞬間、五条さんは二人の背後に移動して二人を瞬時に気絶させた。

 

「これで良かった?」

 

「はい。ありがとうございます。…目が覚めたら、私から色々と説得しますので、その死刑には…」

 

 

そう五条さんを縋るように見ると、彼は分かりきった問いだと言わんばかりに、そっけなく答えた。

 

「ならないでしょ。まず未成年だし、何人殺したかも定かじゃないしね。それに、君の頼みなら上層部もまあ聞くだろ。」

 

すると、今まで倒れていたミゲルが唐突にムクリと起き上がった。

 

「ナラ、俺モ助ケテクレヨ。」

 

「お前まだ生きてたのか。割と本気で殴ったんだけどな。」

 

そう五条さんが呆れたように呟くと、ミゲルは私に黒縄を差し出して言った。

 

「俺モコノ状況デナントカナルト思ウホド馬鹿ジャナイ。コレデ手打チニシテクレナイカ?」

 

…どうやら黒縄を渡すので、命は見逃してくれという意味らしい。五条さんは興味津々でその縄を手に取ると、すぐに私に返して感心したように言った。

 

「へえ…面白い呪具だね。特級格だ。術式が乱される。輪が持ってなよ、戦闘に術式使わない君なら適任だろ。」

 

「デ、俺ハ見逃シテクレルノカ?」

 

「ま、上も特級呪具に夏油傑の死までついてくれば納得するよ。ただ呪術界は常に人手不足でね…君には後で話がある。」

 

そう言って五条さんはミゲルを怪しく見つめる。ミゲルは思わず後退するが、大人しく待つようだ。

 

すると話が終わったと見做したようで、五条さんは静かに私たちに言った。

 

「悪いけど、話が終わったなら傑と二人にしてくれ。」

 

私は無言で頷くと、ミゲルと共に菜々子と美々子の二人を担いでその場を去った。

 

その後に五条悟と夏油傑がどんな話をしたのかは、神のみぞ知るところだ。

 

決定的な情報はただ一つ。

 

特級呪詛師夏油傑は、死亡した。

 

 

 

 

 

****************

 

 

補助監督の人の車で京都高専に帰る途中で、色々と真依から話を聞いた。

 

何でも、実は乙骨くんは菅原道真公の御子孫であり、呪術師のかなりの優等生の家系だったこと。乙骨くんが、里香に呪いをかけていたこと。

あの後で乙骨くんは実は里香ちゃんの解呪に成功していたことが判明し、死なずに無事に呪いから解き放たれたこと。

 

仙台市の民間人の死者は逃げ遅れた人を中心に9名で、怪我人は34名ほど出て、術師は3級や2級、そして禪院家の駆倶留隊を始めとして、23名が殉職したこと。

 

暗い顔をする私に、真依は

 

「あのゴリラが言ったでしょ?貴女の責任なんて一丁前に考える必要ないわよ、バカ。それに…もしそうなら、私も背負うから、一人で背負わないでよ。」

 

 

そう言って優しく額にデコピンをしてくれた。

その感じが何とも懐かしい。

 

その後で、真依は私を抱きしめて、私の唇を唐突に唇で塞いだ。口内を優しく解される感覚を感じながら、私は目を閉じる。

 

運転手の補助監督の田辺さんは、気まずそうにしながらも気を遣って何も言わないでくれた。

 

 

京都高専に着いた私に、真依は微笑んでこう言った。

 

「おかえりなさい。」

 

うん。その言葉を聞くと自然と涙が出てくる。

 

「ただいま!!」

 

 

 

 

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