愛ほど歪んだ呪いは有らず   作:カバー

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愛ほど歪んだ呪いは有らず その4

愛ほど歪んだ呪いは有らず その4

 

 

 

「よし!それでは行くぞ!お前も遠慮はするなよ!」

 

「はいっ!東堂先輩!」

 

そう私たちはグラウンドの真ん中でストレッチをして体を解しながら叫ぶ。

 

グラウンドの前では他の生徒と歌姫先生が集まっている。

 

「えーと…止めなくていいんですか?あれ。」

 

そう三輪ちゃんが歌姫先生と加茂先輩、そして桃先輩に言う。が、

 

「無理よ。ああなった東堂くんは止まらない。」

 

「ああ。止めようとするだけ無駄だ。輪も完全に乗せられているな。あいつ雰囲気に飲まれやすかったのか…」

 

「…と言うわけで、とりあえず見学しましょう。あんな変人と不思議ちゃんでも、一級術師と特級の組手。皆んなも得るものは多いはずよ。」

 

そう歌姫先生が締めくくる。

 

「…特級って言うけど、あの娘、明らかに貧相よね。あんなムキムキな東堂先輩と戦って大丈夫なのかしら。」

 

その真依の懸念も、尤もなものだった。彼女は内臓の一部が欠け、体力は最弱クラスである。

が、唯一神楽輪の戦闘能力を知っている加茂先輩は鼻で笑う。

 

「ふっ。体格だけで術師を判断するとは、まだまだ素人だな。」

 

「は?」

 

「ちょ、ちょっと二人とも…仲良くしましょう。」

 

そう三輪ちゃんが間に入る。

 

「あいつは強いよ。東堂でも勝ちの目は薄いだろうな。」

 

「…へえ。」

 

その加茂先輩の断言に、桃先輩が意外そうに感心の声を上げる。

東堂先輩の実力を嫌と言うほど知っている加茂先輩の言葉だから、謎の説得力があった。

その瞬間、東堂先輩が全力で私の顔面に拳を打ち込んだ。

 

「ひっ!」

 

その光景に三輪ちゃんが思わず悲鳴をあげる。

が、次の瞬間東堂先輩の腕は弾かれたかのように後ろに押し戻された。

 

「…ほう、面白いな。術式、いや、呪力特性だな。」

 

「ご名答。流石ですね先輩。」

 

私の呪力特性は、ゴムのような弾性である。

私の呪力は、衝撃を弾く!

全身にその呪力を纏わせる。

その光景に、東堂先輩がほう、と短く声を上げる。

 

「…その呪力出力。見事と言う他ない。弱い体を、補ってあまりある呪力の塊。さあ、打ってこい!」

 

「はいっ!」

 

その瞬間、私は足の呪力で地面を跳ね返し、猛烈な速度で東堂先輩の腹に拳を打ち込む。

東堂先輩は、辛うじて右手でその腕を掴む。が、そのまま吹き飛ばされる。

 

「凄い…」

 

「なんて呪力…」

 

その光景に、周りの生徒は威圧される。圧倒的な呪力出力。これが、特級。

 

「早めに決着いきます!」

 

そう叫ぶと、私は倒れ込んだ東堂先輩に上乗りになり、拳に呪力を纏わせて打ち付ける。が、

パアン!!

東堂先輩が手を鳴らすと、私と東堂先輩の位置が入れ替わっていた。

私の拳は虚しく空を切る。

 

「な!?」

 

「まだまだァ!!!」

 

東堂先輩が逆に上乗りの状態で拳を私の頭に打ち付ける。辛うじて呪力を多めに回し、その衝撃を抑える。

 

「今のって…」

 

「東堂の術式か。私たちも初めて見るな。」

 

 

その後は、しばらくイタチごっこが続いた。私の攻撃に対し、東堂先輩が術式を使い優位に立つ。が、東堂先輩の打撃は私の呪力に阻まれダメージにはならない。

 

「目で、追えない…」

 

そう三輪ちゃんがポツリと呟いた。目の前で起こっている打撃の応酬が、あまりにも異次元すぎた。

 

「どうした!?壁を越えてみろ!そんなものかお前は!」

 

そう東堂先輩が叫ぶ。その思いに私は答えなければならない。

 

「了解!!」

 

私は地面に呪力を与えると、脚にも呪力を纏った。

 

「2倍の!弾性!」

 

そして思いっきり地面を蹴り、互いの弾性を利用して更に加速して東堂先輩に急接近し、

 

「はあっ!!」

 

腹を殴った。

防御も拍手も間に合わず、モロに突き刺さる。

 

「見事…だ。ベストフレンド。」

 

そう言うと、東堂先輩は地面に倒れた。

こうして、組手は終わった。

 

「全く…東堂はともかくとして、あんたも大概よ、輪!反省しなさい。」

 

「…はい。すみません。」

 

「何、謝る必要はないさ、シスター。得るものの多い組手だった。」

 

私たちは教室に戻り、私はグロッキーになって机に倒れ込みながらも、歌姫先生からお叱言を頂いていた。…確かに冷静になれば、私は何をしていたのだろうか。皆んなの前で性癖を暴露し、結果的に殴り合いまでしてしまった。

不良少女でもここまでしない。

この話が楽厳寺学長に伝わるかと思うと、気が重かった。

 

「へえ…じゃあ何を得たのか、言ってみなさいよ、東堂。」

 

そう歌姫先生が言う。

 

「ベストフレンドは、一見して打撃には無敵にも見えるほど強い。流石にあの五条悟には敵わないが、それでも一般の術師から見れば規格外だ。」

 

「が、呪力のコントロールがまだ甘い。所々で呪力の調整に気を取られすぎだ。そのせいで俺の不義遊戯に絡め取られていた。」

 

「うっ…」

 

「それに、地面に呪力を与えて呪力の足で蹴ることで、弾性を倍増させる技。あれに僅かに溜めがあった。俺に疲労がなければ付ける隙だ。」

 

「なるほど…」

 

「…なんか、東堂先輩ってちゃんとしてるんですね。」

 

「ちゃんとイカれてるのよ。」

 

そう三輪ちゃんと桃先輩が受け応えている。

 

「…ご指導ご鞭撻、痛みいります。」

 

そう私は東堂先輩に頭を下げる。

 

「おいおい、他人みたいな言動はよしてくれベストフレンド。俺は可愛い後輩に当然のことをしたまでだ。」

 

「なんか…いい先輩してるし…」

 

そう歌姫先生が呆然と呟く。彼女がこんな東堂を見たのは2年間で初めてだった。

 

その後は、1年生と2年生に分かれ、歌姫先生から明日からの授業のカリキュラムを教えてもらって解散になった。

といっても、今日から学校暮らしなので寮でまた集まるんだけど。

 

…なんか、今更ながらとんでもない発言をした後に寮に行くのしんどい。早速、今日から女子会をしようと桃先輩に誘われて、私たち4人は桃先輩の部屋に集まっていた。

 

「そういえば、制服のデザインってみんな違うんですね。」

 

そう可愛らしい青玉のパジャマ姿の三輪ちゃんが言った。

 

…確かにみんなバラバラだった。一応は指定のデザインもあるはずだが。保守派の京都らしくないと言えばそうかもしれない。

 

「そうね。私のは着やすくて可愛いのにしたくて、ワンピースにしたけど色は変えられなかったのよね…」

 

そう桃先輩が、不満げに呟く。

…なんか、京都の高専は思いの外堅苦しい感じではないのかもしれない。

 

「そこまでカスタムできれば、十分ですよ…」

 

「制服といえば、加茂くんのはアレよね。」

 

「ああ、あのダサい狩衣風の衣装?」

 

「ちょ、ちょっと言い過ぎですって…」

 

「ああいうのって人間性が出るのよね。ああ、ヤダヤダ。あんなクソ真面目そうな人間とは関わり合いになりたくないわ。」

 

…どんどんと真依ちゃんは加茂先輩の悪口で盛り上がっていく。

その流れには、流石に私も一言言いたくなった。

 

「…加茂先輩はかっこいい人だよ。ダサくなんてない。」

 

「…へえ?」

 

その一言に、真依ちゃんが眉を顰める。…空気が重くなる。三輪ちゃんがあわあわしている。でも悪いけどここは譲れない。

 

「ああいうのが好きなの?輪は。それは何というか…趣味悪いわね。」

 

「ちょ、ちょっと真衣!」

 

思わず三輪ちゃんが場を収めようとする。

が、どんどんヒートアップしていく。

 

「…彼は、一生懸命で、努力家で、だから自分を戒めるためにああいう古風な制服を選んだんだよ。そんな彼を、何も知らないのに馬鹿にしないで。」

 

「ふうん。そんなに特級様に入れ込んで貰えるなんて、加茂家の次期当主様も安泰ね。嫁にでも娶るのかしら。」

 

「いい加減に…!!」

 

私の頭に血が昇る。幸いまだ嫌いというほどではないけど、怒りの方は限界に近かった。

それに気づいた真依ちゃんが若干怯む。

その雰囲気に飲まれた三輪ちゃんが顔を赤くさせ、とんでもないことを口走った。

 

「り、輪は女の子が好きだって言ってたじゃないですか!娶るなんてことありませんよ!」

 

「「「……………」」」

 

暫しの沈黙。

その後に、ドッと真衣ちゃんと桃先輩の笑いが溢れる。

…恥ずかしい。頭の血が急速に正常に戻っていくのを感じる。

 

 

「あっはっは…それもそうね。寝込みを襲わないでよ、変態。」

 

「ぐはっ」

 

そう真依ちゃんがとどめを刺してくる。

 

「ま、まあまあ真依!輪はそんな人じゃないよ!」

 

三輪ちゃんの優しさが身に染みる。

ありがてえ…ありがてえ…

 

ポンと私の肩に小さな手が置かれる。桃先輩が、笑顔でサムズアップしていた。

 

「大丈夫。私は気にしないから。楽しくやろう。」

 

「桃先輩…」

 

ひしっと私は桃先輩に抱きつく。体格的にほぼ同じだ。

頭をなでなでしてくれる。癒される…

 

「にしても、凄いよね輪は。一年生で特級なんて。」

 

そう心底感心したかのように桃先輩が呟く。それに真依ちゃんが答える。

 

「ほんとよね。世代的にはあの五条悟以来の特級でしょ?将来成功が約束されてるようなものじゃない。あー、羨ましい。」

 

「え、もしかして割とポンポン特級って出てくるんですか?」

 

そう三輪ちゃんが心底びっくりした感じで呟く。

 

「そんなわけないでしょ。輪が化け物なだけよ。普通3級ぐらいなんだから、一年ってのは。」

 

…さらっと酷いこと言うなあ、真依ちゃん。

 

「ば、化け物って…輪はす、凄いってことだよね!」

 

三輪ちゃんが咄嗟にフォローを入れてくれる。

やっぱり優しすぎるやこの子。

…まあでも、化け物ってのもあながち間違っちゃいない。私は村の人々を殺したようなものだから。

 

「にしても、術式も使わずに一級を倒すのは本当に化け物よ。なんで使わなかったの?余裕があったから?それとも案外ゴミ術式だったりするのかしら。…まあ、特級様ならそんなことないでしょうけど。」

 

「ま、真依!流石に言い過ぎだよ!」

 

「いや、別にいいよ。実際ゴミみたいな術式だし。」

 

そうだ。私の術式は、人の明暗を左右してしまう。私の一方的な感情で。それをゴミと言わずになんと言うのだろうか。

 

そう言うと、真依ちゃんは少し驚いたような顔で目を見開いた。

 

「へえ。なら本当に呪力量だけで特級に?」

 

「あー。いや、術式も判断されてるとは思うよ。結構強力なものではあるし。」

 

「はあ?さっき貴女ゴミ術式だって言ってたじゃない?私を揶揄ってるの?」

 

場の空気がまたもやピリつく。三輪ちゃんがあわあわとして私と真依ちゃんの間を右往左往し、桃先輩は静かに場の成り行きを見つめている。

 

「いや、違うんだよ。強力な術式だけど、戦闘向きではないというか。」

 

「ふーん。なら、なんでゴミ術式なんて言ったの?」

 

「…だって、これは強力すぎてタチが悪すぎるから。人の運命を左右しかねない。危険なんだよ。」

 

その一言に、真依ちゃんの表情に露骨に苛立ちが籠もった。

 

「……なによ、それ。…底辺でもがいてる私達が、馬鹿みたいじゃない。」

 

「え?」

 

「…悪いけど、私はもう寝るわ。3人で楽しく盛り上がってて。」

 

そう言うと、真依ちゃんはスタスタとドアを開けて出ていってしまう。あわあわと三輪ちゃんが止めようとするが、叶わなかった。

桃先輩は、どこか悲しげにその背中を見つめていた。




ナチュラルボーン煽りストの真衣ちゃん、本領発揮です。
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