愛ほど歪んだ呪いは有らず   作:カバー

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愛ほど歪んだ呪いは有らず その39

 

 

神楽輪視点

 

 

 

「ど、どうかな?私の水着姿、変じゃないかな?」

 

「超似合ってますよ!可愛すぎます!」

 

顔を手で覆うオーバーな仕草も、そこからちらちらとコチラを見つめる空の様な透き通った青い瞳も私なんかには畏れ多いほど魅力的だった。

ここが呪霊の領域内でなければだけど…。

私は三輪ちゃんが可愛い可愛いと私に着せたがった水着にやむなく着替えてプールに居た。フリフリとした純白のフリルがあしらわれたワンピース型の水着だ。暗に少女体型と言われているようでちょっと何ともいえない。いや前はこんな格好体質的にとてもできなかったから、嬉しいっちゃ嬉しいんだよ…状況がこうでなければ…。

 

三輪ちゃんはスポーティーで爽やかなパンツスタイルの水着だ。正直スタイルの暴力的差を思い知らされている。

 

このアミューズメント施設には、とても素敵な事に温泉だけでなく屋内の温水プールまで完備されている。

土足で無理やり温泉施設の調査に踏み込もうとした私は、受付のお兄さんに怒られた。それだけなら別に無視できたんだけども。

三輪ちゃんが怒った。

 

「ちゃんとしなきゃダメですよ!めっ!」

 

そしてノリノリで水着を選び出した。

三輪ちゃんは完全に呪霊の術式にやられている。

いつもより相当言葉節が上擦っている様子でしたし…何よりなんかやたらと密着してきていて…いや、腕に抱きつくとかこの状況じゃ絶対有り得ないよ!

この領域に付与されているらしき術式の効力を解く為に領域展開をしようとも思ったのだけど…

 

(やっぱり。呪力が吸われてる。)

 

えいっと両手で水飛沫をかけてくる三輪ちゃんを微笑ましく思いながらも、自分の体からじわじわとまるで霧になっていくかのように霧散していく呪力を観察する。領域展延を解くと意識が朦朧とするだけでなく、すぐこれだ。

 

(最初は微細な吸い方だったのに、私にだけどんどん吸い方が露骨になってる。三輪ちゃんより私の方が吸われてる速度が速い…。)

 

三輪ちゃんは元気にプールに入って二回私の手を引いてスライダーに乗った。私を前に抱きしめて。

 

 

実はここに来る途中に、三輪ちゃんに簡易領域を使ってもらおうと試みた。少なくともそれでこの厄介極まりない術式が領域に付与されたものかの判別はできるだろうと思った。

「シン・陰流・簡易領域!!」

 

私と三輪ちゃんだけの女子更衣室で、水着になった彼女のかっこいいところを見たいとお願いして何とかふわふわした感じの三輪ちゃんにやってもらった。

 

(ああ…これでやっと普段の三輪ちゃんに)

 

「どう?かっこいい?惚れ直した?輪♡」

 

「!?」

 

完全にその希望は打ち砕かれた。

それでも三輪ちゃんは元気いっぱいだ。

そして完全に困惑するしかなかった。

ならば確実に私の領域展延の空に染み込んでくる様な、この術式は何なのか!?

 

 

満面の笑顔に少し朱色が差しているものの、彼女はすぐどうにかなりそうではない。

安堵はするものの、現状が差し迫ってるのは変わりがない。

私が彼女を何としても生還させなかれば。

それに残りの人質も…。

 

最初にプールに行きたがってる三輪ちゃんだったものの。

 

「その…三輪ちゃん♡まず何があるのか全体を見ておきたいなあ。ほら、その方が色々二人で楽しめるでしょ?」

 

まっったく慣れない取り繕った媚び(頭の中で真依と三輪ちゃんに100回土下座しようと思った)で何とか施設全体の調査に持っていけた!

 

ただ…

 

「人質三十人以上…無理やり領域を壊す事も視野に入れてはいたのに…。」

 

明らかに事前情報より厳しい案件な現状。

この温泉施設は3階以上娯楽施設が連なっており、その一層一層がこのアミューズメントプールやホテル、そしてメインの温泉施設とだだっ広い…それでもまだ見落としはあるかもしれない。

事前情報で見た受付を除いた五人は、全員が受け答えはできたものの、意識が朦朧としている様子でぐったりとして倒れていた。

そのうえ…

 

「しあわせだ…ここは極楽だぜェ〜…しあわせの繰り返しだよォ…。」

 

他の領域内に囚われた人々は誰もそれを不自然とすら考えていない。いや、温泉施設ならリラックスチェアとかにだらんとしているのは珍しくもないと思うけども。

 

私はプールではしゃいで、私にまたスライダーに乗ろうと誘って子供の様にしている元気一杯の三輪ちゃんにまた意識を戻して、チラリとプール横にバルコニーから不自然に移動されているカップルチェアの方へと目を向けた。

 

そこには写真で見たカップルと推測できる女子高生二人組が、ほぼ裸で互いにもたれかかる様に倒れ込んでいた。私は先ほど慌てて布を被せた。(もちろん清潔なタオルを)

でもそうしようとする私に受付の男性でさえ興味を示していなかった。

 

(…いや、うん。これに違和感を覚えないどころか、注意もしていないんでしょ?まずヤバいなあ…正気なの私だけ…?)

 

三輪ちゃんがもっと健全でアクティブな欲求に夢中になってくれているのは本当にせめてもの救いなんだけども…

いやさっきから…スライダーに滑り出すたびにめちゃくちゃ接触してきてるんだけども!

なんか三輪ちゃんの普段から鍛えてある逞しさと女の子らしさの同居した太ももとかさあ!

私が小柄だから私が前になるとこう…なんか色々包み込まれてる!

なんかやたらと手で締め付けてくるし…!

 

こうでも思考してないとおかしくなりそうなんだ…私を撃ち殺してくれ…真依…私は最低だ…ノミ以下かも!ひん!

 

「やっぱりこういうのはプールの醍醐味ですね!」

 

まずい。何でもない三輪ちゃんの無邪気な台詞にさえ邪さを覚え初めてない!?嘘でしょ私!?

 

…いや、落ち着け。落ち着け!それより今は呪力消費の問題!三輪ちゃんと色んな攻め手で襲ってくるスライダー中も今も領域展延をキープはできてるけど、それがいつまで持つかでしょ!

 

プールのカップルチェアで失踪が起きていた以上、あそこが起点かと思って女子高生二人をタオルで包んだ時に調べたのに、違った!

 

少なくとも大元の呪霊はもうどこかに移動してる!

これ見よがしにプール脇にあれを移動させたのは、恐らくそう来るだろうと呪霊が私の行動を見透かしたブラフ!

 

「ひゃあ!あちち!あはは!楽しいですね!!」

 

バシャンとプールまでスライダーを滑り落ちて何度目かの落下を果たす。

まずい…このまま時間を浪費することだけは絶対にまずい!

でも三輪ちゃんも置いてはいけない!

諸々の状況を踏まえると、呪霊はまず間違いなく私に的を絞って呪力を吸い上げている!ここで私が三輪ちゃんと離れたら、今の三輪ちゃんの状態では恐らく自分の身も守れない!

どうする…気絶させる?

 

私を包み込む様に抱き締めたまま滑り落ちた三輪ちゃんの顔を見上げる。

悪戯っぽくにひひと笑っている。心なしか顔色が更に赤くなっている様な…

 

(…赤く?)

 

違和感。

そういえば、ここに入ってから、恐らく他の人間を誘い込む用の受付以外の人間を見るたびに薄らと違和感を感じてたけど。

温泉なら有り得るのかと思ったけど。

プールで?

…いくら温水とはいえど…温水?

 

そういえばここのプールって確かスマホで調べた時は温水じゃなくて…

 

いや待って、そもそもこんなに湯気立ってたっけ?

 

…そういえば。

私はつい夏油さんに拉致監禁されて色んな人に…東堂先輩や憲紀さん、三輪ちゃんや真依に助けてもらうまで日光にさえ焼かれる様な体だった。

それは罪深くも下劣な他人からの搾取という最悪の術式で恐らく治ってしまったのだけれど。

 

だから今日までこういった場所に来たことはなかったんだけど。

 

受付からここまで、こんなに湯気がある様なところなのか?こういうとこ…?

 

「ねえ三輪ちゃん!」

「どうしたの?やっと私の…」

「その…私こういうところに来るの初めてなんですよ。」

「こんなにプールって湯気が立つほど熱するものなんですか?」

 

私の問いかけに、きょとんとした顔を浮かべた三輪ちゃんは、ふにゃあとした笑みでまるで茹っているような声音で答えた。

 

「言われてみれば…不思議かも。でも、温泉アミューズメントって言うぐらいですから。そんなことより輪。やっと私の気持ちに気づいてくれたと思ったんですけど?」

 

(確定!そうか!というより私の馬鹿ったらありゃしない!)

 

つまりこの術式を作用させているのは…

 

「この蒸気か…!!」

 

人間にとって酸素は不可欠で、それを取り込むための呼吸は生きるために不可欠なもの。

それと同時に、体内に術式効果を齎す蒸気に混じった何かを取り込ませる…!

 

(でもどうする…?それを私が理解する事も呪霊にとっては恐らく想定内!どのみち領域を解かない限り蒸気から流れるのは無理!!)

 

不満げに口を窄めてスポーティーなブラの様な水着の前で腕組みしていた三輪ちゃんが、何かを思いついたかのようにピコーンという擬音が付きそうな顔になって目を輝かせると、自分の水着のブラを…いや、ダメダメダメダメ!!!それはしちゃダメ!!私は慌てて手を後ろに回した三輪ちゃんの手首をガッと掴んだ。

 

「三輪ちゃん!!!!」

「…何ですか?」

 

三輪ちゃんは明らかに不貞腐れた様な顔になった。私の胸からガーっと感情が湧き上がってくるような気がする。

 

「そういう気持ちが私にあるのなら、すごく嬉しい!!嬉しいけど今はダメ!今は三輪ちゃんが三輪ちゃんじゃなくなってるから!」

 

「…この気持ちが嘘だって言いたいんですか?素直に断ってくれればいいのに…。」

 

「違うよ!今の三輪ちゃんは自分じゃないものに突き動かされてる!!そんなのダメだよ!三輪ちゃんが傷つくだけだから!!」

 

「私のこの気持ちは--「受け止めるよ。」」

 

「受け止めるから、今は待って。」

 

「それと--ほんとにごめん。」

「え?」

 

瞬間、私は腰に三輪ちゃんが括り付けていた刀を掴んで、すらりと抜いた。

そしてその刃を私自身に向ける。

三輪ちゃんの顔の朱色がサッと引いたような気がする。

 

「何を---」

 

これは賭けだ。

うまく騙すには、これが多分一番いい。

 

ずぶり

 

自分の胸元にまるで全てを凍てつくす氷柱が刺さってきたかのような感覚。

抜き身の刃が胸を突くという比喩表現は見聞きしたことはありますけども。

実際に二度も経験した私から言わせて貰えば、そんなに良いものでもないなとぼんやりと思いながら、胸に渾身の呪力を押し流す。これは実戦では初めての試み。

乙骨さんから前に電話で感覚は聞いた事があった。特訓もした。成功したのは数回のみ。まだ誰にも話した事はない。話せる段階になかった。

だが今は不思議と、確実に成功するという自信が溢れていた。

 

今回のはあの時とはちがう。生きるための------

 

薄れゆく視界の中で、三輪ちゃんが必死に私の肩を揺する後ろで、ぬるりと何か巨大なものが水面から立ち上がった。

血のように真っ赤で、ぬらぬらとしたテカリを見せ、表面にはびっしりと吸盤が付いているのが見える。

 

「人を茹でて殺す…なる…ほど。」

 

その異様は間違いなく、巨大な蛸のそれだった。

 

 

 

 

 

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