愛ほど歪んだ呪いは有らず   作:カバー

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愛ほど歪んだ呪いは有らず その5

 

 

 

翌日朝の1年生の教室。

歌姫先生が黒板の前に立ち、呪術のイロハを丁寧に教えてくれている。…正直、そこら辺は随分前に楽厳寺学長から教えてもらってるので、復習になってしまうのだが。

 

 

私は、昨日の桃先輩の話を思い出しながら、右斜め前の席の真依ちゃんを眺めていた。

私と同じくどこか話半分で聞いている感じだ。

そのぼんやりとした横顔が、私には無性に気になった。

 

昨日の夜、真依ちゃんが部屋を一人で出ていった後、桃先輩が私と三輪ちゃんに真依ちゃんのことを話してくれたのだ。

 

「真依ちゃんはね、苗字から分かってるとは思うけど、禪院家の生まれなの。」

 

「禪院家っていうと…御三家の一つですよね?」

 

私も加茂先輩から話には聞いたことがある。加茂家と並ぶ、歴史の長い呪術御三家の一つだと。

ただ、それぐらいしか聞いたことはなかった。

 

「そう。でね、その禪院家っていうのは、可愛さの欠片もない、昔っからの男尊女卑の名残が強い家なの。」

 

「え、そうなんですか?」

 

三輪ちゃんがそう嫌そうな顔で反応する。かくいう私にとっても嫌な話だった。御三家で唯一知っている加茂先輩が優しいので、そこら辺の生々しい話は全く知らなかった。

 

「そう。その様子だと輪ちゃんも知らなかったのね。」

 

「…ええ。私も初耳です。育ての親の楽厳寺学長からも詳しくは聞かされていなかったので。」

 

「…そう。わざと言わなかったのかもね。あまり気持ちのいい話じゃないから。」

 

あり得る。私の術式は感情が昂りすぎると無条件で発動してしまう。恐らく禪院家という集団を私がそうやって大嫌いになってしまうことを避けたかったのだろう。…今は感情のコントロールを学べたので、そんなことはそうそうないけど。

 

「…その上、かなり独善的な家でもあってね。禪院家に非ずんば術師に非ず。術師に非ずんば人に非ず。」

 

「…そんな家で、三級に生まれてしまった女の子がどんな扱いを受けるのか、考えなくても分かるでしょ?」

 

「「……」」

 

私と三輪ちゃんは黙りこくってしまう。想像もできない世界だった。

 

「それなのに京都の高専に来てまで呪術を学んでる。そんな真依ちゃんを私は尊敬する。」

 

そんな世界で一人、戦っていたのか、彼女は。だとしたらさっきの私の発言はあまりにも…

 

「うわあ…酷いこと言っちゃったな、私。」

 

「まあ、ちょっと配慮は足りなかったかもね。次から気をつけなよ。」

 

「…まあ、先に煽りまくったの向こうですしね…」

 

そう桃先輩が私の頭を優しく撫でた。三輪ちゃんも慰めてくれる。二人のその優しさが余計に辛い。

 

「二人とも、よく覚えておいて。女の術師が求められるのはね、強さだけじゃないの。完璧なの。」

 

完璧…そう堂々と言い切る桃先輩の顔は、眩しかった。…私にはもうなれないな。既に両親を呪い殺している私には。

 

「さ、それじゃ気を取り直してデザートでも食べよ!私のアレンジレシピを教えてあげる!」

 

そう言って、3人でアイスをクッキーで挟んだ美味しいデザートを食べている間にも、真依ちゃんの苛立った顔が頭から離れなかった。

 

真依ちゃんを、最初は何だこの人と思った。

陰湿で、嫌な人だと。

でも、過酷な環境で過ごしてきたなら、その尖った態度も、身を守るための当たり前の処世術だったのかもしれない。

そんな中で、逃げずに呪術師になろうとしている、とても眩しい。

…そう思うと、彼女のことが嫌いにはなれなくて。気になって。

 

 

「……りん、輪!ちょっと聞いてる!?」

 

「…あ、すみません!聞いてませんでした!」

 

私は物思いに耽りすぎていたようだった。はっとした時にはもう手遅れ。呆れた顔の歌姫先生の目線が痛い。

 

「…全く。昨日よく眠れなかった?気をつけなさいよ。」

 

「はい。申し訳ありません…」

 

そう歌姫先生が私の頭に軽くチョップする。

 

「来週は実地訓練だから。…まあ、実地って言っても軽い3級程度の案件だけど。貴女は真依と組んで動いてもらうから。いいわね!」

 

「えっ!?あ、はい!」

 

…なんか、凄い偶然もあるものだ。

こうして私は、来週の真依ちゃんとの任務のことでまた頭がいっぱいになるのだった。

 

「あ、そうだ輪。楽厳寺学長が呼んでたわよ。後で学長室に行きなさい。」

 

…その前に、一つ受難がありそうだけど。

 

学長室の扉を2回ノックする。

 

「入りなさい。」

 

…声の質感で分かる。静かに説教される時の雰囲気だ、これは。

 

「…失礼します。」

部屋の中に入ると、来賓のためと思われる革張りの席に腰掛けるように促される。

ゆっくりと丁寧に座る。

 

「…なぜ呼ばれたか、お主なら分かるの。」

 

「東堂先輩との件、ですね。」

 

そう言うと、楽厳寺学長は静かに頷いた。そしてゆっくりとお茶を飲む。…この間が辛い。

 

「…呪術を目上の人間から学ぶのは大いに結構、だが、先生の言うことを聞くのがまず学生としての本分ではないかの?」

 

「……はい、仰る通りです。場の雰囲気に流され、輪を乱しました。申し訳ありません。」

 

そう私が頭を下げる。実際、悪いとは思っていた。歌姫先生にも後で謝っておかないと…

 

「分かっておるのならよい。学校はどうかのぉ?息災に過ごせておるか?」

 

そう張り詰めた雰囲気を霧散させて楽厳寺学長が尋ねてくれる。…やっぱり優しい人だ、この人は。どちらかというと、これを聞きたくて私をここに呼んだのだろう。

 

「はい!先輩にも、同級生の皆さんにも良くしてもらっています。昨日も女子会しましたし。」

 

「ほほ…それは何よりじゃ。」

 

そう心底嬉しそうに彼は笑う。…やっぱりこの人は暖かい。厳しいけれど、それでも優しさが勝る。私はそんなこの人が大好きだ。

 

「あの、真依ちゃんのことで少し聞きたいことがあるんですが、よろしいでしょうか。」

 

「…個人的なことは話せんぞ。それ以外なら、まあ話すがの。」

 

「…禪院家の話なんですが…」

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