愛ほど歪んだ呪いは有らず   作:カバー

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愛ほど歪んだ呪いは有らず その9

 

 

 

 

 

夢を見る。

 

暗い牢屋の中で、誰かが喉を掻きむしって苦しんでいる。そのうち、その男は地面に倒れ伏してピクリとも動かなくなった。でも、何故かそれを見ても私は可哀想とは思わなかった。

 

確かこの男は数年前に、田舎の地方で小学2年生の女児を面白半分で殺した男だった。ニュースで何となく見たのを覚えている。私はそんな人間が大嫌いだ。

 

夢を見る。

 

またどうでもいい誰かが苦しんで死んでいる。

 

夢を見る。

 

夢を…

 

「ん、あ………」

 

目が覚める。視界が定まってくると、自室の天井が見える。…何の夢見てたんだっけ。まあ、忘れてるってことはどうでもいいことなんだろう。

私の頭に濡れタオルが置いてあることに気づく。

誰かが看病してくれていたのか。

 

確か私は…そうだ。あの一級呪霊を祓った後、体にガタがきて、気を失ったんだった。…真依ちゃんは無事だろうか。

 

 

「あ、やっと起きたの?遅いわよ、馬鹿。」

 

声のする方に向くと、椅子に座った真依ちゃんがジト目でこちらを見ていた。

 

「真依ちゃん…!良かった!無事だったんだね…ッ!うっ…」

 

そう言ってガバッと体を起こすと、頭がくらっとしてまたベッドに倒れ込んでしまう。

 

「全く…そんななりで他人の心配?ほんと馬鹿ね、貴女。」

 

「…返す言葉もありません。」

 

 

 

やっぱり私の体は脆い。呪力が無ければまともに戦うことすらできないだろう。…そういえば、ここに居るのが真依ちゃんだけってことは、もしかして。

 

「真依ちゃんが…私の看病してくれたの?」

 

「まあね。貴女、丸一日寝込んでたのよ?私に感謝するのね。」

 

そう言われてみると、真依ちゃんも若干疲れているようだった。目に薄めの隈ができている。

 

「…なんで私にそこまで?」

 

「…貴女がそれを言う?あのね、貴女には色々と聞きたいことがあるの。」

 

 

 

そう言うと、真依ちゃんは椅子から立ち上がり、私のベッドの側まで来て、端正な顔を近づけてきた。

 

 

「まず第一に、私のことが大好きになったって告白したわよね、貴女。」

 

「あっ…!!」

 

 

頭がハッキリして記憶が定まってくると、そのことも思い出されてくる。

そうか、あれ、告白したことになるのか。

そういえば、私が女の子が好きというのも皆んな知ってるんだった。

顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。真依ちゃんと目を合わせられない。

 

 

 

「…なによ、今更顔逸らして。…やっぱり嘘だったの?」

 

「い、いや!嘘じゃないよ!嘘じゃないけど、結構私ハイになってたっていうか…」

 

「…ふふっ。馬鹿じゃないの。」

 

そう言うと、真依ちゃんはくすくすと笑う。

 

 

「…実は私、あんまりないのよね、貴女みたいに真っ直ぐ綺麗な告白をされたの。」

 

「え!?うそ、真依ちゃんモテそうなのに。」

 

「…私の家はクソだったから。分かるでしょ?」

 

「……」

 

 

そうだ。真依ちゃんは、禪院の男尊女卑の家に生まれたんだ。当たり前の青春も、今まで取り上げられてきたんだ。

 

「その返事をするために待ってたのよ、私。」

 

「…へ、返事…。」

 

さらっと告白した過去の私を、今更ながら恨めしく思った。どうしよう。嫌われてたらこの先の高専生活が悲惨なことになっちゃうよ。

 

そう私がグルグルと思考の海に潜っていると、真依ちゃんは私の頭を両手で優しく掴んだ。

そして…

私の唇は、真依ちゃんの唇に奪われた。

 

 

「……ッ!?ッ!?」

 

暫く彼女は舌で私の口の中をめちゃくちゃにすると、満足したかのように顔を離した。

 

「ふふっ。顔赤くしちゃって。まるで茹蛸ね。」

 

「え…ふあっ……」

 

「これが私の答え。受け取って貰えた?」

 

 

奪われた。奪われてしまった、私のファーストキス。女の子の唇って、こんなに柔らかいんだ…

 

「…つまり、その…OKって…こと?」

 

「たった一つの条件を飲んでくれたらね。」

 

「なに?」

 

貴女、私と一緒に呪術師辞めてよ。そして、私からずっと離れないで。」

 

それは…

 

「……ごめん、無理。」

 

「…そう、そうよね。」

 

そう答えた真依ちゃんは、どこか乾いたかのような、寂しそうな表情を一瞬浮かべたが、すぐに真顔に戻った。

 

「じゃあ、これで終わりね、私たちは。」

 

そう言うと、真依ちゃんは立ち上がって部屋から出ようとする。

 

「ま、待って!」

 

そんな真依ちゃんを、私は無意識に呼び止めていた。

 

「何?女のアプローチを断って、さらに惨めな気持ちにする気?」

 

「…まず、先に謝っておく。今からの私の言葉は、全部私の我儘。」

 

 

 

でも、言わなくちゃいけない。いや、言うべきだ。このまま真依ちゃんを帰したら、また彼女は一人になる。

 

「真依ちゃん、私は呪術師を辞めない。私を育ててくれた楽厳寺学長への恩を、まだ全然返せてないから。」

 

「…そうよね。なら…」

 

「でも、私は真依ちゃんと一緒にいたい!」

 

「真依ちゃんにとって呪術師をやることが辛いのは分かってる!!でも、私が貴女を絶対守るから!禪院家からも、呪霊からも!」

 

 

 

みっともない。馬鹿みたいだ。そんなこと自分が一番分かってる。でも、言わなきゃ。言わないと。

 

「だから、だから…私と一緒にいて欲しい!呪術師をやってる私の隣に、いてください!お願いします!」

 

そう言って力の限り私は頭を下げる。

 

しばしの沈黙。それからため息。

 

 

 

「…馬鹿ね。」

 

「うっ…」

 

「大馬鹿よ。前々から思ってたけど、ほんと馬鹿。私なんかに夢見て、そうかと思ったら一緒にいるなんて言って…」

 

「…挙句の果てに、私のお願いをガン無視して、自分の都合を垂れて。」

 

「ほんと、そんなのが大好きになるなんて、大馬鹿よ、私は。」

 

「…え?」

 

今、真依ちゃんが言ったことがよく分からなかった。

 

「だから、惚れた弱みで大負けに大負けして条件を一つにしてあげる。私とずっと一緒にいなさい。良いわね?」

 

「…いいの?」

 

「条件を呑むの?呑まないの?」

 

「…呑みます!必ず、幸せにするから。」

 

「…そう。ならよろしくね?私は結構執念深いわよ?後悔しないようにね。」

 

そう言うと、真依は今まで見たことのないような晴れやかな笑顔を私に向けた。

 

「うん…よろしく!」

 

 

 

つい嬉しくて涙ぐんでしまう。

こうして私に、人生初の恋人ができたのだった。

 

「あ、そういえば楽厳寺学長が貴女が目が覚めたら一緒に来いって言ってたわね。忘れてたわ。」

 

「…それを、最初に言ってよ…」

 

ちょっとお茶目な恋人が。

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