エルフを愛した魔族の話   作:No.9646

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何となく思いついたネタ。
タイトルの通りです。



1話

 

「そうだ」

 

野営の最中、ぽつりとフリーレンが何かを思い出したように呟く。

 

「言い忘れてたけど、次に行く所では魔族を殺しちゃダメだよ」

 

シュタルクたちは揃って眼を剥く。

 

「どうしたんだよ、アンタがそんなこと言うなんて」

 

この中で、最も魔族への嫌悪や殺意が強いのは、間違いなくフリーレンだからだ。

以前グラナト伯領ではリュグナーたちを見るや否や街中でさえ躊躇わず葬ろうとした。

 

「そういう所なんだよ」

「次の街って、アルテア?ってとこだっけ?」

「北方諸国の中でもとりわけ豊かな所だと聞いていますが」

 

魂の眠る地オレオールを目指すフリーレン一行が立ち寄ろうとしているのは、未だ情勢の危うい北方諸国の中でも安定している街だ。

北の地においても土地が豊かで、魔族の侵攻もない。そんな場所だと、フェルンたちは耳にしていた。

 

「アルテアって街はね、魔族が支配してるんだ。表向きに人間の領主はいるし法も機能している。だけど、あそこが豊かなのも、他の魔族の侵攻を受けないのも、すでにあの場所が絶大な力を持つ魔族の縄張りだからなんだ」

 

普段あまり表情を変えないフリーレンの眉間に僅かに皺がよる。

彼女がその魔族の名を口にするが、その声は棘があり、苦々しいモノだった。

 

「そいつはね、『人と魔族は共生できる』『わかり合えるかもしれない』そんな誤認を人類に与えた元凶ー慈愛のアルテローゼ」

 

──────────

夜が明ける。

昇る太陽に照らされ、朝露が煌めいていた。

森の中で、1人の魔族がねぐらにしている大木の空からのそのそと這い出る。

上半身は人、見ようによっては女にも見えるような美しい男の姿をしていて、額には申し訳程度の乳白色の角があった。

下半身は蔦でできていた。無数の茨を蠢かせ移動する。魔力で衣服を型取り足元まで覆ってしまえば、一見して人間のように見える。

要は、上半身は擬似餌。

脆弱で、美しく、言葉を発するそれで獲物を欺き捕食する。

言葉を話すものの間では一般にアルラウネと呼ばれる植物性の魔物の生態によく似ていた。

しかし有する魔力量も知性も桁が違った。

己のような生き物は、魔族と呼ばれる存在らしい。

同じ魔族だと言う全く姿の違う通りすがりに名を尋ねられ、自身を表すモノがないのは不便であったので、視界に入った己の紅い髪を見て、連想的にアルテローゼと定めてからは、そう名乗っている。

ただ、彼等と全く同じかとは言えない。

朧げに覚えているのは、一度生まれ、一度死んだ記憶。

どこで生まれてどう生きなぜ死んだのかはとんと覚えてはいなかったが、なんとなく、昔己は人間であったと知覚している。

だからだろうか、同族と違い人類の事を少しは理解しているし積極的に人を食べようと言う気にはならなかった。

この身は半分くらいは植物のようなもので、光と水と土があれば足りてしまう。

せいぜい、その辺の獣や魔物の食い残しを見つけると土に埋める程度。

そうするといい塩梅に養分になるのだ。

森には他にも落ちた木の実や朽ちた木々、獣の死体もあるのでやはり余計にはいらない。

魔物や魔族は死ぬと黒い粒子になってしまうので埋められない。魔力の足しにならないかと生きたまま根を張ってみたがダメだった。

魔力。

おそらく、前に生きた時には無かった力だが、今生では当たり前に持ち、当たり前に扱える力。

毎日、日当たりの良い場所で根を張って身体の魔力を巡らせる。

太陽から光を、雨から水を、大地から養分を吸い上げ、代わりに魔力を流す。

『良い土を育てる魔法』とでも言えるだろうか。

土が肥えれば植物が育ち、実りが豊かになれば小動物が増え、それを狩る大型の獣が増える。そしてそれら全ては短い時のうちに土に還り、この身に返ってくる。

日課も繰り返せば鍛錬になり、魔力量はどんどん増えた。

雨が降らない日が続くと『水を出す魔法』、冬の寒さが堪えるので住処には『適温を保つ魔法』を。

苦労したのが『植物が育つ光を作る魔法』で、ただの明るいだけの光ではダメなのだ。全く美味しくないし栄養にならない。

試行錯誤の結果、紫っぽい光になった。

この身は老いこともなく、相当な年月が経ったが姿は変わらないままだった。

変わったのは周囲の景色。

森は大変豊かになり、増えた魔力で範囲を徐々に広げていった為か周囲の土地も肥え、人の集落ができた。

少しばかり森や水場が荒らされないかと心配していたが、移住者たちは必要な分だけ森を切り拓いただけだったので胸を撫で下ろした。

ある日、子どもがやってきた。

耳が長く先端が尖っていたので、エルフと呼ばれる種族だろう。

「お前、どうした?迷子か?」

暗がりで足と角が見えなかったのか、子どもはオルドローズを人間と勘違いした。

木の実採りに夢中になり、挙句魔物に追いかけられこんな所まで入り込んでしまったらしい。

途中でせっかくとった物も放り投げてしまったという子どもに籠を編んでやり、『植物を育てる魔法』で成長を促進させた木の実を持たせて集落の近くまで送りとどけてやった。

死んでいたら埋めて養分にするが、生きているのなら殺すまでもない。

エルフは長寿だが不死ではないので、いずれ死んでから近くに土葬してもらえたらそれでいい。魔力量も多そうな子だったので、将来が楽しみだ。

子どもを帰してからそれほど間も無く。

日向で光合成がてら魔力鍛錬をしているとまた来訪者があった。

 

「こんにちは」

 

白い肌に月明かりのような銀色の髪、星を散らした紫紺の瞳をした、美しいエルフの少女が立っていた。

 

「あなたが妹を助けてくれた人?」

 

この世界のいつかどこかで前例があったのかなど、2人には知り得ない。

ただ、2人にとってその出会いは間違いなく。

魔族と人。

種族すら異なる者同士の、恋の始まりだった。

 

────────────────────────────

フリーレン一行は到着したアルテアの街並みを眺めながら歩いていた。

城壁は高く立派で、通りには店が軒を連ね、人々で賑わっている。

 

「すっげー人だな。建物も立派だし、豊かな街ってのは本当なんだな」

 

屋台では飴や果実のジュースも売られていて、子ども達の顔も明るい。平和な証拠だ。

 

「魔族が支配してるって言ってたけどさ、そんな風に見えねえよな。どんな奴なんだ?」

「変わってる。魔族の中でも異端だと、自分で言っていたくらいだ」

「会った事があるんですか?」

「うん。それと、単純に強い。私より遥かに長く生きている魔族だ。奴がその気になって魔王を名乗れば、奴は魔王だ」

 

シュタルクが怯えたような顔をする。勇者ヒンメルと共に魔王を討伐したパーティの戦士アイゼンの直弟子で実力はあるくせに、妙に弱気というか、ヘタレであった。

 

「そ、そんなのがいるのかよ…やべえじゃん、なあ」

「フリーレン様、魔族です」

 

フェルンが堂々と姿を晒して歩く魔族を見つけ、声を硬く低くして知らせる。

シュタルクは短く悲鳴を飲み込んでいた。

 

「うん」

 

フリーレンは冷ややかな眼差しを送るが、それだけだった。

周囲の人々は、道行く魔族を気にも留めていない。

 

「どういうことでしょう?」

「言ったでしょ。ここはそういう所なんだ。あいつは多分、アルテローゼの配下だよ」

 

彼女の認識では、魔族とは人の声真似をするだけの魔物だ。

発する言葉は人間を騙し捕食するためのでしかない。

基本社会性を持たないが、唯一、力による支配と隷属の関係を持つ。

魔族達が通り過ぎ、フェルンとシュタルクはようやく肩の力を抜く。

 

「なんか一気に疲れた。なあ、そろそろ宿探そうぜ」

「そうですね」

「その必要はないみたい」

 

不意にフリーレンが立ち止まる。

急に前を歩いている彼女が止まったことで、シュタルクが「うわっ」と蹈鞴を踏む。

 

「向こうから迎えがきた」

 

言われて初めて知感した。

 

「「!!」」

 

ぞわりと背が泡立つ。

反射的に2人は武器を構えていた。

フェルンは呼吸を潜め、シュタルクは手が震えていた。

いつの間にか。

目の前に、少女が立っていた。

白皙の顔に月明かりのような銀色の髪、星を散らした紫紺の瞳、長く尖った耳をした白い少女。

 

「こんにちは、フリーレン。会いたかったわ」

「こっちは会いたくなかったよ」

 

相対するフリーレンは、ただただ冷たい眼をしていた。

 

「なあ、なんか、あいつ、似てないか?」

「そう、ですね」

 

お互いに視線を交わさず、少女から視線を逸さぬままシュタルクは問い、フェルンは肯定する。

少女は、瞳の色こそ違えど向かい合うフリーレンと顔立ちがよく似ていた。

しかし2人には決定的な違いがあった。

少女の額には、淡い乳白色をした、一本の角が生えていた。





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