原作:葬送のフリーレン③
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それからしばらくーお互いにとってはそれほど長い時間ではなかったが、2人は森の中で共に過ごした。
正しくは、アルテローゼがミーシャを離さなかったのである。
少しでも視界から外れることすら厭い、どこに行くにも最低蔓の一筋を繋いでいた有様であった。
それでもミーシャはアルテローゼを拒絶することなく寄り添った。
やがて森が元通りになると、アルテローゼはミーシャに連れられ彼女たちの集落を訪れた。
手を引かれながら、何度目かわからない問いかけを口にした。
「本当に、行って大丈夫か?」
アルテローゼは自分の姿形が人のそれでないことを自覚している。上半分はともかく、下半分は明らかな異形だ。
拒絶されやしないかと、しかし彼女と離れるのはもっと嫌だとうだうだと問答を繰り返す。
森を抜けると畑が広がっていた。
2人を見つけ、畑仕事をしていた小さな女の子が「あ」と声を上げる。その子には見覚えがあった。
「お姉ちゃん帰ってきた」
駆け寄ってきた女の子は、迷子になっていたミーシャの妹だった。
「おにいちゃん、病気治ったの?」
「病気?」
アルテローゼは首を傾げる。
突然に森が腐ったのは縄張りにしている人妖花が病にかかった所為だと言われていたらしい。
「確かに病みはした…」
精神的な面で。
結果だけ言えば、拒絶を恐れていたアルテローゼの心配は杞憂に終わった。
穏やかな気性のエルフの里に、アルテローゼはさっさと馴染んだ。
元よりエルフという種族は感情の起伏が小さい。
ミーシャのようにころころと笑う者は少ないが、同時に嫌悪や恐怖を露わにするものも少なかった。
一時的に森に被害を出したがそれは
特に知識と技術は歓迎された。
時折ミーシャが持ち帰った盤上遊戯や工芸茶などが功を奏した。
昔の記憶から効率の良い作業方法や、数字の書き方を覚えてからは四則演算を教える。外に出る者は少ないが計算ができれば騙されることも減ると重宝された。
代わりに文字や文化を教わる。
山向こうの人間の町にも行ってみた。
人に紛れるべく下半分の蔓茨は2つに束ね、布を巻いて固定してズボンとブーツで隠したのだが、そこで問題が起こる。
「ミーシャ⁉︎離すな!離さないでくれ⁉︎」
「あんよがじょーず、あんよがじょーず」
二足歩行の仕方を忘れていた。
額の小さな角はバンダナを巻いてしまえば、すっかり薬草売りの青年の出来上がりである。
人間と違い、エルフの中では魔法は禁忌とされていないようで、魔法で育て改良した薬草は良い収入になった。
なお人間の文化に関しては聞いていた話と
里では商品になる薬草をはじめとする植物の品種改良も行っていた。
最初のうちは畑の片隅を借りていたのだが、改良中の大壺蔓(弱酸性)にミーシャの妹が頭を突っ込む事故があった為撤去した。
「暗いよー!怖いよー!」
今後研究や作業は森の奥で行う事とする。
晴れた日はミューシャと
日課の食事を兼ねた
曇りや悪天候が続く時は『植物が育つ光を作る魔法』が役に立った。
アルテローゼは基本的に食事は土から摂るが、ミーシャたちと一緒に食卓を囲む為、少しずつ食べられるものを増やしたい。
が、バリエーションが少ない。
そこで考えた。
「何を作るの?」
「固くない肉料理」
昔の記憶から引っ張り出したのは、小さな子どもでも食べられる挽肉を使った料理だ。
にんにく、しょうがを擦りおろし、その傍らで屑肉を骨からこそぎ落として包丁で細かくして叩いて挽肉にする。
玉ねぎもみじん切りにし、硬くなったパンを削り器で粉にする。
それらを混ぜ合わせ、オールスパイスと塩、胡椒は貴重なので少量振るう。
今度は魔法でこの辺りの気候でも育つ香辛料を作ってみようかと考えながら、捏ねてまとまったら小さくちぎり、空気を抜いて平たくしてそれを熱したフライパンで焼く。
肉の焼ける匂いに惹かれてミーシャと一緒に来ていた彼女の妹が横から覗き込んでくる。
「油跳ねるから気をつけろよ」
中まで火が通ったのを確認して、添え合わせの茹で野菜と一緒にさらに盛り付ける。
小さな家のテーブルで、3人で食卓を囲む。
かれこれ云百年ぶりの料理であるが果たして。
「美味しい!」
ミーシャは瞳をきらきらさせて、妹も口いっぱいに頬張っている。
後日彼女たちの両親にも振る舞い、やがて噛む力が弱くても食べられる肉料理は屑肉やくず野菜、乾燥したパンの消費に良いと集落内の家庭に、行商により他の街から街へ広まっていった。
後にハンバーグと呼ばれる料理の原型である。
穏やかな毎日。
愛しい人と、善き隣人たちに囲まれる日々。
エルフと魔族にとってはそれほど長くない時間。
それがずっと続けばいいと、続くのだと、そう思っていた。
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「では、失礼。これはほんの気持ちですが、どうぞ皆さんで一杯」
「いや、いつも申し訳ない。お気遣いありがとうございます。そうだ、昨日暴れ猪を仕留めまして。よろしければ、後で届けさせましょう」
「それは楽しみだ。赤を用意してお待ちしていますよ」
見送りの兵に金貨を1枚握らせ、アルテローゼは衛兵の詰所を後にする。
用向きは先日邸に乗り込んで来た冒険者の処遇についてだった。
魔王討伐を掲げる勇者一行を名乗る連中に家人が斬られたのだ。
彼ら人間の使用人は領主からの派遣――貴族に持ち物である。それを斬ったのだから厳罰は当然。家財の弁償も到底彼らに支払える額ではない。
「本日の夕食は肉になさいますか?」
馬車に同乗する配下が訊ねる。
「そうだな。偶にはガッツリしたモノもいいだろう。この前のオレンジソースか、スジ肉なら煮込みにしてくれ」
「畏まりました。そのように」
「残りはいつものようにお前たちで分けるといい」
「ありがたく」
邸に戻れば、使用人が来客を告げた。
「
客は同族――魔族の男であった。
それなりに名のある魔族の遣いで、彼自身そこそこの魔力量。
待たされている間も茶も出されず、人間の文化であれば礼を失した応対であったが、元より魔族は群社会を構成しない種族であるので、客自身も気にした様子はなかった。
魔族は群る習性を持たない。それを覆したのが魔王軍である。
「元魔王様の側近であった貴方に、魔王軍にお戻りいただきたく」
アルテローゼは鼻を鳴らす。
「俺は既に奴とは袂を分かった」
それはそれは盛大にやり合い、数多の同族を巻き込み、昔の拠点を大破させた。
今の魔王城が大雪山脈の頂、年中分厚い雲に覆われて日光も殆ど差さない森林限界を越えた地に移されたのはそれが原因だ。
実質出禁である。
「お引き受けくださるのであれば、魔王陛下が支配権を握られた暁には北側諸国をお譲りすると」
それはつまり大陸の3分の1を渡すと同義であった。
「貴方は狩をされないと伺っています。いえ、この街自体が貴方の狩場であり、飼育場。貴方の抱える配下も増えている。そろそろ拡げる必要がお有りかとー実に上手いやり方をなされる」
「それほど難しいことではない。
人は野山の獣を家畜化して食糧にしている。
囲いの中で、外敵から守る代わりに餌を与え、増やし育て肥えさせ殺して食べる。
「俺は狩をしない代わりに人の真似事をしているに過ぎない」
「それを数百年。貴方は人類に悟らせていない」
「若い連中は意味も理解せずに聞いた言葉を馬鹿の一つ覚えで繰り返すだけ。表情、視線、言葉の抑揚、話し方、所作は指先の動き一つ。魔力の揺らぎに至るまで。騙しは技術だ」
コツは完璧にしないこと。
完璧なモノを人は有難がり称賛するが、同時に畏怖し遠ざかる。
よってアルテローゼは言葉遣いを少しだけ粗雑にしている。
「そういえば、シュラハトの小僧は死んだんだったな。昔は良く来ていた。お前と同じことを言いに」
「はい。七崩賢の半数と共に南の勇者と相打ちに」
「相打ち、ねえ。南の勇者の死体は上がらなかったんだったか。ついこの間クヴァールも封印されたと聞いた。ソリテールも最近顔を見せんがどうしている?」
「残りの七崩賢の方々の様子までは」
ふむ、とアルテローゼは思案する。
南の勇者とシュラハトはどちらも未来視を使う。
そのいずれもが承知も上で共倒れになったのであれば、既に両者とも何かしらの策あっての事だろう。
「珍しく急いていると思えば、使える駒の減りが速いというわけか」
「はい。かつて魔王様の元で軍の創立に携わった貴方に、再度お力添えをと」
「随分と前の事を。もう1000年以上も前だ。お前、歳は?」
「300と少し」
「そうか。若いな」
次の瞬間、首が宙を舞っていた。
「ー!」
胴と切り離された頭が、目を見開く。
やっと状況を認識できた時には遅く。
アルテローゼの蔓の一振りで彼の首は刎ね飛ばされていた。
魔法と見紛う速さで、しかし魔法ではない為に邸内の誰1人魔力の揺らぎすら感じ取れない一瞬の出来事。
やがて転がる首と倒れた身体は血を振り撒いて、それごと黒い塵と化し霧散して消えた。
「若い芽を摘むのは気が引ける」
全く、微塵たりとも思っていない声音で、アルテローゼは宣う。
「シュラハトすら俺を取り込むのを諦めた。ソリテールもここには近付かない。その意味を理解できれば、死なずに済んだものを」
引き際を見極められない愚か者には死が付きまとう。
「この程度の木っ端を使いに寄越すようなら、
次にまた誰か送り込まれてくる可能性もあるが、何人か殺せばその内飽きるだろう。
お互いもういい歳だ。寿命が尽きるか、斃されるか。
アルテローゼがカップを置けば、控えていた配下がすかさずそれを下げる。
1客しか茶を出さないということは、客などはじめからいなかったことを示していた。
「それにしても、先触れもなく手土産もなし。土産話も持ってこないとは、最近の奴は
優に1000年以上を生きる名持ちの大魔族“慈愛のアルテローゼ“。
その瞳の奥は、実に魔族らしく無機質で冷え切っていた。
「お食事をお持ちしました」
夕食。
豪奢なテーブルにはグラスに注がれた赤と、ステーキが1人分だけ並べられた。
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「起きてください、フリーレン様」
翌朝ー
「…うーん…あと5時間…」
案の定、フリーレンの寝起きは最悪だった。
フェルンはほとんど夢うつつなフリーレンの髪を梳かし着替えさせる。朝食は部屋に持ってきてもらえた。
「たまにはフェルンもゆっくりすればいいんだよ。
もそもそと朝ごはんを食みながら寝ぼけ眼のフリーレンがそんな無責任な事を宣う。
「警戒しなくてよろしいのですか?一応魔族の懐ですよね?」
「結界は張ってるよ。前に来た時も最初は交代で不寝番してたけど何も仕掛けてこなかったんだよね。ハイターなんか二日酔いで寝込んでた」
勇者ヒンメルたちと今のパーティでは天と地ほどに力量が違う。
「奴の魔力は見た?」
フェルンはこくりと頷く。
「アルテローゼの魔力からは害意や敵意は読み取れませんでした」
それどころか、こちらに対してなぜか友好的。
ただ、その量。
「フリーレン様なら勝てますか?」
「どうだろう」
歴史上最も多くの魔族を葬った魔法使い“葬送のフリーレン“。
その彼女が勝ち目を語らない。
でも、とフリーレンは続ける。
「やらないよ。2人が死んじゃうからね」
さも当然のことのように言われ、2人は内心複雑であった。
「そういやさ、アルテミーシャって奴、フリーレンに似てね?」
「そう?」とフリーレンはスープを掬う。北側諸国の食糧庫だけあって、新鮮な野菜の甘みが舌に優しい。
「エルフじゃよくある顔だと思うけど」
「そうなの⁉︎」
「多分違うと思います」
自分たちが出会ったエルフは彼女の他ではゼーリエとクラフトだけであるが、それでも適当言ってんなとは感じた。
「私も気になってはいました。それに、あの子の魔力反応がアルテローゼと全く同じなのも気になります。
「ここはアイツの魔力が満ちていて他を判別しづらいんだけどね。それが判別できるようになったんなら、成長したねフェルン」
師に褒められ、表情にこそ出さないがフェルンは沈んだ気分がほんの少しだけ回復する。
「知らないんだ。何で私に似ているのか」
フリーレンは魔族は嫌いだ。里を滅ぼされた、家族を殺された怨みがある。
アウラの時は、奴と少しだけ話して、自分たちとは違うのだと再認識できた。
「聞いてみようかな」
これは、知る為の旅だ。
朝食を食べ終わるとノックの音と共に訪問者があった。
「おはよう」
件の少女ーアルテミーシャであった。
「昨日約束したお話聞かせて」
そういえば昨夜そんな話をしていた。
「約束は守らなきゃだろ?」
茶を運ばせて、シュタルクは子どもに聞かせるように少しばかり誇張を含めた冒険譚を語る。
「………」
それを、フェルンは時々横目でちらりと視線をやる。
「それで、どうなったの?」
「んでそいつがさー」
「………」
否が応でも楽しげな声が耳に入ってくる。
フリーレンは一日中でも本を読んでいられるが、フェルンはそうでもない。
尤も、理由は読書の好き嫌いだけではなさそうだ。
「………むぅ」
パタン、とフリーレンは本を閉じる。
どうしてフェルンがむくれているのか、根本的な解決法はわからなかったが、とりあえず気分転換をさせよう。
「よし、外に行こう」
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なんだろうア◯カジュがア◯ージョになった感。
メンタルよわよわ、よちよち歩きのばぶちゃん(3桁歳)だったのに
そしておかしい3話で終わるはずだったのに全く終わらない(д゚lll)
なお本シリーズは見切り発車のため場面の時間軸がぶっ飛びます。
構成?ぷろっと?なにそれお肉よりおいしい?( ˙༥˙ )モグモグ〜冒険者風直火焼きステーキ オレンジソース添え〜
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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また、僕のヒーローアカデミアの2次創作「一輪花の咲くまで」も掲載していますので、そちらもよろしくお願いします。(宣伝)