エルフを愛した魔族の話   作:No.9646

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前回投稿から2年…
ほったらかしにしてましたが、メインにしていたシリーズが完結できたので、こちらもと。
エタらせるのももったいない精神で!


4話

「おおー…」

「すごいですね」

 

出掛けるといっても宛てのなかった一向はアルテローゼが所有する植物園を訪れていた。

見知った薬草から奇怪な形状をした植物まで、天井代わりに空を覆う薄紫の結界に囲まれたそこには、様々な草花が育てられている。

時期によっては一部開放されていて、市民の憩いの場になっているらしい。

 

「これ魔物避けの木だろ?見たことある」

 

シュタルクが見つけたのは幹が三つ編み状になっているすべすべとした触り心地の変わった木の苗だ。

魔族の住処に魔物避けがあると言うのもおかしな話である。

 

「魔物と一口に言っても色々種類があるでしょ?好みや嫌う臭いも違う。でも共通して魔力には過剰に反応する。この木には魔力を貯められる性質があってね、自分より強い魔物がいると思わせて追い払うんだよ。あんまり長く持たないのが欠点なんだよね」

 

長くはエルフにとっての長さであるので、十年は保つ代物である。

 

「開拓地とかフランメの防護結界が張れない所とかに使われるんだけど、高いんだよね、これ」

「どんぐらいすんだ?」

「えっとね、今の相場だと…」

 

金額を聞いた2人は物理的に数歩引いた。

庶民の数十年分の収入が軽く吹っ飛ぶ金額。とてもではないが何かあっても弁償できない。斧を背負っているシュタルクは思わず身を縮めた。

屋敷の敷地内に植物園があるのもそうだが、裏手の森まで所有地だそうで、相当だ。

 

「でもさ、聞いてるとアルテローゼって魔族だけどそれなりに人間と上手くやれてんじゃねーの?」

 

こんな物を作るくらいだ。街の人々にも慕われている。食料調達の仕方はちょっとアレだが。自然の摂理に当てはめて考えてみれば、僅かに気味の悪さは薄れた。

 

「ダメだよシュタルク」

 

静かではあるが、それは断ずる声音であった。

 

「前にもあったんだよ。アルテアでは魔族と人が暮らしているから大丈夫だろうって魔族を人里に住まわせてしまって食い殺される事が。魔族側もアルテローゼを真似て一時の利益を与えて信用を得て、騙して、結果街が全滅した所もある」

 

魔族は基本社会性を持たない為に情報が共有される事はあまりない。例外は、魔王軍。

短期間かつ少しの労力で成果の上げられる「騙し方」は奴らに好まれた。

 

「人は忘れてしまうからね。魔族の危険性、天災の脅威、戦争の悲惨さ。それで繰り返す」

 

言ってフリーレンは例えが良くなかったことに気がついた。

弟子のフェルンはハイターの養子で、元は戦争孤児だ。 

 

「…ゴメン」

「いえ」

 

妙な空気になってしまい、それを払拭しようとシュタルクはキョロキョロと辺りを見回す。

 

「見ろよ〜これ変な形してんな」

 

シュタルクがぷっくりと膨らんだツボ型の奇妙な植物を指し示す。

 

「それは壷葛。虫や小動物を捕まえて食べるんだけど、とても強い溶解液で触ると手が溶けちゃうから気をつけてね」

 

シュタルクはスス…と伸ばした手を引っ込めた。

 

「服だけ溶かす薬の材料にもなるんだよね」

「………」

 

じろりとフェルンに睨まれ、フリーレンは今度は別の意味で失言したと目を逸らす。

 

「…ゴメンて。まあ、変な薬じゃないんだよ。本来は怪我した時に、火傷や血とかで張り付いた服を溶かすのに使うんだって」

 

なるほど、とフェルンは納得する。あの下品な薬も物は使い様。

なお開発製作者の真意は藪の中である。

 

「あ」

 

フリーレンはふと足を止めた。

 

「フリーレン様?」

 

視線の先には花壇の一角。そこには、淡く輝く月の様な蒼い花。

 

「蒼月草ですね」

 

以前は半年も森の中を探したというのに、ある所にはあるものだ。

フェルンは近くに植え込みにも目をやる。

一つの茎に爽やかな紫色の小さな花がたくさん咲いている、優雅で美しい花だ。

隣のシュタルクが呟く。

 

「綺麗な花だな」

「それはー」

「紫姫蘭。花言葉は『守護』『大切に守る』あとは『受け入れる愛』『淡い恋』なんて意味もある」

「ヒュッ」

 

急に背後から聞こえた艶のある男の声に、シュタルクのどこかから変な音が漏れた。フェルンなど杖を取り出している。

フリーレンだけはこれが地中の根を介した分身体だと見抜いていた。

 

「根に薬効もあるが、贈り物にも人気がある」

 

いつの間にか現れたアルテローゼはそんな彼らのことは気に留めず、そっと花を撫でる。

 

「口に出来ない言葉も、届かぬ声も何かしらの形でならば伝えられることもある。花言葉とは託された想いだ」

 

無表情のまま2人が思い浮かべたのはそれぞれの髪飾りと、指輪。

 

「命というものは、強くもあるが儚くもある。握っていた手の温もりもある時簡単にこぼれ落ちてしまう。伝えられるうちに伝えておかなければ後悔する。俺たち魔族やエルフと違って人間の時など瞬きの間。気になる花があれば摘んでも構わんよ。押し花にでもすると良い」

「アンタ、本当に人間みたいなこと言うんだな」

 

復活したシュタルクはそんな感想を素直にこぼした。

 

「良く言われるが俺は魔族だ。俺とて人を食った事がないわけじゃない。ちゃんと魔族だよ、俺は」

 

ーーーーーーーーーー

それは、突然のことだった。

アルテローゼはすっかり集落での生活にも慣れて、人間の街にも出かけるようになっていた。

あまり使う機会はないが飛行魔法は元より、二足歩行も完璧で、走ったり跳ねたりもお手のもの。

申し訳程度の角を髪や帽子で隠してしまえば、下衣を捲ったり脱いだりしない限り、人に擬態できた。

山向こうからやって来る麗しの行商人の青年は街の女性陣から絶えず熱視線を受けたが、彼が一度として応えることはない。

 

「よう兄ちゃん、今日は1人か?」

 

買取の査定を待つ間、市場をまわっていると何度か立ち寄ったことのある露天商に声をかけられた。

稀に遠方からの品も扱っていて、以前香辛料に大盤振る舞いをしたので覚えられたらしい。

今は試験用の畑に生やしているが、新しいものがないか見ていこうか。

 

「ああ、ちょっとな」

「なんだぁ?もしかしてコレかぁ?」

 

ミーシャが居ないと見て、気安い男が腹を膨らませる仕草をする。

 

「少し体調を崩しただけだ」

 

集落で流行風邪が出ている。

幸い、薬になる草花は大量に用意したので命を落とすものはまだ居ない。

治るまで側にいるとごねたが、タイミング悪く備蓄が無くなりかけていたので渋々、本当に渋々追い立てられるようにして出てきたのだ。

一刻も早く帰りたい。

 

「んだよつまんねえなぁ。じゃあ、いっちょ贈り物でもしていい感じにさせてみるってのはどうだ?」

 

要は、世間話ついでに金を落としてけと。

アルテローゼは苦笑する。

懐に余裕はあるし、付き合いで乗せられてやろう。

商品を端から眺めて、目を止めた。

 

「指輪ー蓮の花か」

「お?お目が高いね。そいつはズバリ恋人や新婚向けさ。永遠の愛を誓いますってなヤツよ」

「なんだそれ?」

「指輪を贈るってのはそういうこった。あとな、こういう意匠にはな、意味があるのが多いのさ。花とか動物とかな。まあ、おれも仕入れの時に聞き齧った程度だ」

 

既に遠く薄らぼんやりとした記憶の中に、それっぽい雑学的なものがあるのを思い出す。

 

「花言葉、みたいなものか。じゃあ、これをくれ」

「毎度あり!」

 

購入した指輪を小さな皮袋に入れる。

 

「ミーシャは、喜んでくれるかな」

 

けれども。

その指輪は、渡されることはなかった。

 

「……ミーシャ」

 

集落が燃えていた。

感知範囲に入った途端、馬車を捨ててアルテローゼは飛行魔法で飛んだ。

駆けつけた時には。

血溜まりの中に倒れた彼女は、もう息をしていなかった。

背中から斬られて。

 

「ああ……ああ……」

 

野盗か、兵士崩れの略奪か、エルフ狩りか。

どれでもいい。どうでもいい。

なぜ。

何故なのか。

何故こんな。

 

「なんだ、まだ残りがいたのか」

 

背後で声と、金属を振り上げる音。

それが振り下ろされるより速く。ひゅん、と風切音を立てて。

 

「ー!」

 

二の句を告げる事なく男の首が、近くの壁に叩きつけられた。

 

「ああ……」

 

なぜ。

何故こんなにも。

流れ出た血が、()()()()()()のだろうか。

 

「こいつ!化物め!」

 

箍が外れた。

悲しみか、怒りか、絶望か。

それとも酔うほどに充満した血の匂いか。

人の記憶という理性で封をされていた、魔物としての獣性が暴れ、溢れ出る。

一度決壊したそれを止める術は、すでに彼の腕の中で喪われてしまっていた。

 

「ばけもの…?」

 

どちらが。どちらもか。

血肉という養分を得て、更なる獲物を求めて荊棘が蠢く。

ある者は胸を貫かれ、ある者は首を吊られて、ある者は地面に引き倒され。

あらゆるものが荊棘の中に引きずり込まれ、埋め尽くされ。

阿鼻叫喚、とはこのことか。

もっとも、声は直ぐに止んだ。音すらも。

その頃には、掻き抱いたミーシャの体以外、人間もエルフも、肉片のひとつすら残ってはいなかった。

 

「ミーシャ…」

 

『私たち、ずっと一緒よ』

 

彼女の言葉が、声が、脳裏に蘇る。

 

「ああ…俺たちは、ずっと一緒だ……」

 

言って。

アルテローゼはミーシャの白く冷たい肌に唇を落とす。

後に慈愛の二つ名で呼ばれる大魔族アルテローゼ。

彼が貴婦人のような姿をするようになったのは、この日からであった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

愛し合う二人はいつも一緒

 

元ネタをご存知の方へ:そういうことです。

元ネタをご存知ない方へ:検索は自己の判断・責任でお願いします。

 





最後のが書きたくて書き始めたの作品だったので、ここをかけて満足。
ゲームなら狂気状態での戦闘で弱点として露出すると思われ。

紫の花はアガパンサスをイメージしています。ねじれた木はパキラとかベンジャミンとか。
霧草は霞草あたり。
溶かす植物はまんまウツボカズラ。
ウツボットでもいいけどカズラーで分かる人はお仲間です。
デカイのとかスイカとか。アニメ&新作楽しみ。
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