アウラを人類と共存させてみた   作:やわら烏

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少年と大魔族の
過ぎ去ってもう終わったお話


閑話.アウラとユンゲじゃない

 

〜勇者ヒンメルの死から28年後〜

 

 

 

「(困ったわ、変な時間に目が覚めちゃった)」

 

ある朝、アウラはいつもより若干早く目が覚めてしまっていた。

窓の外から見える景色は暗く、朝日すら昇っていない。

 

「(まだ外も暗いじゃない)」

 

すぐ横で寝ているヒルフェに目をやると、まだ深い眠りの世界にいる。

 

「(……誰も起きてないわよね。畑の準備するにしても早いでしょうし)」

 

このまま起きずに二度寝してしまおうかと瞼を閉じる。

その時、

 

 

カタッ

 

 

「(……ん?)」

 

何やら、廊下から物音が聴こえた。

 

「(何かしら……泥棒?)」

 

物音の正体が気になるアウラはこっそりとベッドから這い出し

僅かに開けた扉の隙間から廊下を覗き見る。

 

 

「(……ユンゲ?こんな時間に何してるの?)」

 

それは、別室で寝ていたユンゲが起きてきた音であった。

よく見ると、片手にボロ布で包まれた何かを携えて

忍び足で玄関の方へと歩いていく。

 

「(トイレ……じゃなさそう、農具の手入れでもするつもりなのかしら?)」

「(…………後を付ければ分かりそうね)」

 

こんな朝早くにどこへ行くのか興味を惹かれ、家の外へと出ていくユンゲを尾行する。

その進む先には、予想通り農具が仕舞ってある納屋があった。

ユンゲは納屋の入り口に近づいていき……

 

「……」

 

……そのまま素通りした。

 

「(納屋に入らない……じゃあ手入れしに来た訳じゃないようね)」

 

アウラの予想に反して、納屋を通り過ぎたユンゲは

そのまま森の中へと踏み入っていく。

 

「(森に何しに行くつもり?雑草でも摘み食いする気かしら?)」

 

距離を詰め過ぎてバレないように少し間を置いて、アウラもその後をつけていった。

 

 

 

 

「あなた、こんなところで何してるの?」

 

「げっ、アルム……」

 

声を掛けられたユンゲは、

まさかこんな早朝に自分以外の誰かが来ると思わなかったらしく、

しかもそれがアウラだったのも相まって

露骨に嫌な顔をする。

 

「……それ、もしかして弓の練習のつもり?」

 

ユンゲの手には、弧を描いた木の枝に紐を括り付けた、

実に簡素な手製の弓が握られている。

その足元には同じく手製の矢が2ダース程置かれていた。

どうやら、布の中身はこの弓矢のセットだったようだ。

 

「悪いかよ」

 

「いえ別に?人間の子供がどんな遊びをしようが興味ないもの」

 

「……"遊び"?」

 

自身の行動を遊戯扱いされた事にカチンと来たのか、ユンゲは顔を顰めながら言い返す。

 

「遊びじゃねぇよ!これは立派な修行だ!!」

「……この地方には魔物が多いから、いつか大きくなった時、身を守れるようにしてくんだよ」

 

「ふーん……」

 

「……なんだよ、興味ないんならとっとと失せろよ」

 

「私が見る分には問題ないでしょう?」

 

「……邪魔だけはすんなよ」

 

要らぬ見物人が現れたことで気分を害しながらも

ユンゲは再び矢を弓につがえて練習を再開した。

そんな彼を、切り株に腰掛けながらアウラは眺める。

 

「(人間って不思議ね。どんだけ足掻いたって数十年もすれば死ぬんだから、必死になる意味ないのに)」

「(それに、魔族より弱いんだから些細なことですぐ死ぬし」

 

大魔族という強者としての高い自尊心から来る、

人間の脆弱さを嘲る思考で日頃の彼への鬱憤晴らしをするアウラだったが

 

「…………んー……」

 

それにも飽きたのか、ユンゲが矢を10発程撃った辺りで口を挟んだ。

 

 

「……あなたもしかして、弓が向いてないんじゃないの?」

 

「────あぁ?」

 

眉間に皺を寄せて、明らかに苛立った彼が振り向くも

怯むことなくアウラは続ける。

 

「だってそうでしょ。あなたがさっきから飛ばしてる矢、全然(まと)に命中してないじゃない」

 

「ほら」とアウラが指差す方には

木に貼り付けられた円形の的と、彼が放った無数の矢が刺さっている。

それらの矢は的の縁にすら擦りもしておらず、

全て別の方向に飛んでいるか、そもそも刺さりもせず地面に散乱していた。

 

「……風で変な方に飛んだだけだ」

 

「風、吹いてないわよ?」

 

「……手作りだから上手く飛ばないだけだろ」

 

「へ〜、武器のせいにするのねぇ」

 

ニヤニヤ笑うアウラの煽りに、拳を握り締めながプルプル震えていたユンゲは

ついに怒髪天を衝く。

 

「うるせェなッ!!!下手なくらいいいだろ!?」

「今はまだ下手だけど、いつか北側諸国一の弓使いになるんだよ俺は!!」

 

「…………"北側諸国一の弓使い"?」

 

「あっ」

 

それを聞いたアウラは、意外そうに目を丸くした。

 

「なんだ、ただの自衛だけが目標じゃなかったのね」

 

恥ずかしそうに赤面して俯くユンゲを

アウラは面白そうに見つめる。

 

そして、

 

 

「…………俺の」

 

観念したのか、ユンゲは包み隠さずに話し始めた。

 

「……ガキの頃からの、夢なんだよ」

 

「あなたは今でもまだガキでしょ」

 

「うるせー、小さい頃から憧れてたんだよ……お伽話の英雄に」

 

ユンゲは、己の内に抱いていた夢や願望をアウラに語る。

 

「この北側諸国にかつて名を馳せた英雄達……」

「敏速のシュネルや聖騎士フリッシュ、あとはほら、鏃の貴公子の……」

 

「(すごい、1人も分からないわ)」

 

ユンゲがつらつらと並べ立てているのは古代の著名な英雄達の名前なのだろうが

人類の歴史がからっきしのアウラが彼らの事など知る筈もない。

 

「……矢雨のプファイル、それから定番の、銀弓のボーゲン……」

 

「(二つ名からして弓兵だけに限定して挙げてるのかしら?)」

「(けど弓使いって嫌いなのよね……戦士や剣士みたいに馬鹿正直に接近して来ない癖に)」

「(目視しにくい遠距離から魔力探知出来ない矢を飛ばしてくるから、やり辛いったらありゃしないもの)」

 

元より魔族にとっては目障りこの上ない、英雄だとか勇者に好印象はないのだろうが

アウラ個人としてはこれまでの人類との交戦上、弓兵の事を特に好かないようである。

 

「……そんでもって三大騎士のヴァールハイト!」

「みんな偉大な弓使いなんだぜ!」

 

そんなアウラの心情は露知らず、ユンゲは活き活きと話し続ける。

 

「……もちろん父さんの畑の手伝いはこれからもするけどよ」

「でも俺は、この土地の開墾だけで一生を棒に振るつもりはない」

 

弓を高々と掲げ、自信に満ち溢れた表情で

夢見る少年は高らかに宣言をした。

 

「俺も彼らみたいなすげぇ弓使いになるんだからよッ!!」

 

 

 

 

 

「……あー、はいはい。頑張れ頑張れ」

 

ようやく長話が終わったかという感じで

アウラは感情の籠っていない雑な拍手を送る。

今の語りから感銘を受けるものは全く無かったらしく、軽く欠伸をしながら。

 

「え?なっ…………お、お前なぁ……俺の力説をよぉ……」

 

「だって、クソガキのおめでたい戯言を真に受けてたらキリないもの」

「それに人間が語る夢や希望なんて、私さんざん聞いてきたし」

 

アウラが聞いてきた"夢や希望"というのは

大抵は彼女が殺してきた人間の今際の断末魔なのだが

当然それは伏せる。

 

 

「……あと、あなた北側諸国一の弓使いになるって言うけど」

 

「まだ難癖があんのかよ」

 

「難癖じゃなくて"指摘"よ"指摘"」

 

まだ己の夢を嘲笑う気かと身構えるユンゲに対して

アウラは先程と打って変わって、少し真面目な口調になる。

 

「……例えば、あの向こうの方に飛んでる鳥……」

 

アウラの指差す、距離にして数百メートルは離れてそうな大空を

一羽の鳥が旋回しながら飛んでいた。

 

「あなたアレ射落とせるの?」

 

「……は?……んなもん、出来る訳が」

 

「私が昔に殺……出会った弓兵達はそれくらいの芸当をやってのけてたわよ?」

 

はるか昔に果敢に挑んできた人間達の勇姿を思い起こしながらアウラは言う。

 

「……いつかは出来ると思──」

 

「その"いつか"っていつ?」

 

「……いつかだよ。もっと練習して大人になった時に」

 

「誰に習うでもなく、我流で下っ手くそな練習ずっと続ける気?」

「実を結ばない無駄な努力ほど無意味なものはないわよ?」

 

「……む、無駄じゃ……ねぇし」

 

次第にしどももどろになるユンゲへズケズケと棘のある言葉を放つ。

 

「……じゃあ何だよ……一生畑仕事だけしてろってか……?」

 

「別にそれでも私は構わないけど、そこまでは言ってないわ」

「私の予想だと、あなたはもっと向いてる武器があるんじゃないかしら?」

 

"もっと向いている武器"というワードに反応したユンゲは

俯いていた顔を少し上げて尋ねる。

 

「……なんだよ、言ってみろよ」

 

アウラは、しっかり聞いておけと言わんばかりに胸を張り

多少勿体ぶらせた後にその武器の名前を口にする。

 

 

「棍棒よ」

 

「……"棍棒"?」

 

 

「あなた初日で私をぶん殴った時、なかなかキレがあったじゃない」

「アレの方が伸び代あると思うわ。だから棍棒よ」

 

「棍棒……棍棒なんて……原始人みたいでダセェじゃんか」

 

「ダサい?ダサくてもいいじゃない」

 

年端もいかない子供に対する大人げないダメ出しだったり

遠慮というものが一切ない発言ばかりだが

当のアウラは、無駄な努力を重ねようとする彼に対する真摯なアドバイスのつもりで言ったつもりだった。

故に、彼に適切だと思ったものを思うがままに口にする。

 

「私はダサいだの何だの言われても強くなる方が正義だと思うわ」

 

 

 

 

「私だって昔は周りの魔族から『ダサい』だの『姑息』だの散々な言われようだったけど」

「"服従させる魔法(アゼリューゼ)"を完成させた途端に、みんな掌返して…………」

 

「…………あぜりゅーぜ?」

 

「あっ」と、慌てて口に手を当てる。

目標に向かって直向きな少年に何か心を動かされる部分でもあったのか

思わず余計な事まで口走ってしまったようだ。

 

「……なんでもないわ。要は、己の得意不得意を客観的に見た方がいいってことよ」

「積み重ねた努力は損なわれないし、決して無駄にはならないもの」

 

咄嗟の誤魔化し半分、点数稼ぎ半分と不純な理由ではあるが

アウラにしては珍しく、真っ当かつ嘘偽りのない激励だった。

 

「……もういい。そろそろ日が登るし、家帰って薪割りでもする」

 

が、当のユンゲには逆効果だったか

それとも今の言葉も全てふてぶてしい物にしか感じなかったのか

撃った矢の残骸を回収し、帰路につこうとしていた。

 

 

「……じゃあそうすれば?私も帰って髪くらい整えたいし」

 

止める義理のないアウラは、散らばってた残りの矢を拾って手渡すと

2人揃って森の中を歩き始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『積み重ねた努力は損なわれない』、か」

 

家へと歩を進める中、ユンゲが呟く。

 

「……お前、偶にだけど良いこと言うよな」

 

「ん?……なにか言ったかしら?」

 

「なんでもねぇよ」

 

そして、アウラにも聴こえないくらいの小声で言った。

 

 

 

「…………明日から、樫の棒持ってこようかな」

 




戦士ユンゲの生涯の宝物はヴァールハイト本人からサインして貰った棍棒だそうです
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