アウラを人類と共存させてみた   作:やわら烏

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脳内のシュラハトはスパッと話を終わらせたいけど
脳内の南の勇者は未来を切り拓きたいので
フリアウの2人旅書きます


後日譚1.空飛ぶ馬車

〜勇者ヒンメルの死から328年後〜

-北側諸国 アプファールト草原-

 

 

 

グラナト伯爵領から南に広がる広大な草原。

地平線まで青々と茂る緑色の海の中を真っ直ぐ貫く街道をフリーレンとアウラは道なりに進んでいた。

 

「ねぇフリーレン」

 

「……」

 

「ねぇ……次の街はまだなのー?」

 

フリーレンのやや後方から

アウラは大きめの声で呼びかける。

 

「……」

 

「ねぇってば〜」

 

 

七崩賢 断頭台のアウラ

 

かつては魔王直下の大魔族であり、数百年の刻を生きる人外の怪物。

だが、今の彼女からは魔法の高みに位地していた知性も

凶悪な魔族としての狡猾さも毛ほども感じられない。

 

()()れる」と書いて"七崩賢(・・)"ならば

今のアウラはまさに肩書き通りの精神状態なのだろう。

 

「……アウラ、まだ伯爵領から10キロも歩いてないでしょ?」

 

ようやく口を開いたフリーレンは

この2人旅を始めて既に5度目となるアウラの駄々に溜息を漏らしながらも

優しめの口調で返事をする。

 

「もう一生ぶん歩いたわよ〜」

 

300年に及ぶ幽閉生活でプライドも自我もボロボロになり

挙句は魔法の一切が使えなくなった彼女は

膨大な魔力を帯びている事と、頭に生えた片角を除けば

見てくれは小柄のか弱い少女でしかない。

 

「うーん、どうしたものか……」

 

見てくれのみならず身体能力もか弱いアウラを連れての旅は

厳しいものになると元より予想はしていたが

想像以上の我儘ぶりに面食らっていた。

 

「(『まっさらな状態から色んな事を学んでいく……』なんて考えてた少し前の自分を引っ叩いてやりたい)」

 

「フリーレ〜ン、ちょっと休みましょうよ〜」

 

「(牢屋から連れ出した時はあんなに大人しそうだったのに……)」

 

数百年ぶりにまともな寝床で就寝し、外の空気や明るさにもある程度慣れてきたアウラは

昨日までの弱々しさが嘘のように溌剌(はつらつ)としていた。

……溌剌としているのが決して悪い事ではないのだが、

 

「(元気なのはいいんだけれど、その元気さを"歩く"という方向に持っていかないと旅にならない)」

 

数百メートル毎に「疲れた」だの「休みましょうよ」だのと足止めを食らっていては

何十年かけても目的地の聖都には辿り着きそうにない。

 

「(小さい頃のフェルンはすごく素直に付いて来てくれたんだけどなぁ)」

 

数百年前の弟子であり、長い間旅を共にした物静かな少女の事を思い出しながら

フリーレンは終わりの見えないこの旅の行く末を憂う。

 

「……フリーレン」

 

「(いや、フェルンが歳の割に大人しかっただけなのか?)」

「(子供っていうのは意外とこんなもの……)」

「(……アウラは子供じゃないけど、今は子供みたいなものだし、そう思えばまぁ……)」

 

「……フリ〜レ〜ン」

 

「(ん〜だけど、フェルンの孫は素直だったしなぁ)」

「(フェルンは躾が上手かったし、それにシュタルクも……)」

 

「フ〜リーレ〜ン、もしかしてだけど〜、南までずぅっっと歩くの〜〜?」

 

幼子とはこんなものと理屈づけて納得しようとしているフリーレンの気も知らず

さっきよりも後方でちんたらしている、アウラの間延びした声が飛んでくる。

 

「…………できれば徒歩は避けたいけど、この調子だと最悪そうなりそうだね」

 

「きのうみたいに〜、フリーレンがおぶって飛んでよ〜」

 

「北側諸国の空は危険な魔物がいるから駄目だよ」

「アウラを庇いながら長距離を飛ぶのは流石の私でも危ないから」

 

これはフリーレンが意地悪で言っているのではなく

実際、長旅で飛行魔法を乱用するのは厳禁なのである。

 

北の空には、獲物を群れで狩る凶暴な魔物や

巧みな魔力制限で死界から襲い来る鳥型の魔物などが跋扈している。

更には、飛行魔法の限界が来て地上に降り立った魔法使いを

まるで待ち構えていたかのように奇襲する陸上の魔物も存在する。

膨大な魔力を持つフリーレンが、フェルンやシュタルクとの旅でも

極力自分の足で移動していたのはこの為であった。

 

そして300年前と違い、今は魔物だけではなく……

 

「それに、魔物に遭遇しなかったとしても…………あ、丁度きた」

 

 

ふと、フリーレンが上を見上げた。

 

「…………?」

 

それに釣られてアウラも視線を空に向ける。

目を凝らすと、遠方の空に小さな点のような物が見えた。

 

「……ねぇフリーレン、あれはなんなの?」

 

「すぐ分かるよ、多分アウラも凄く驚くものだ」

 

「……もしかして竜?」

 

「もっと凄いものだよ」

 

 

遠方の空に微かに見える、小さな()

最初は大型の鳥か竜の一種と思われたそれは

みるみる内にこちらに迫り、その全体像が鮮明になった。

 

 

 

「今の時代は"アレ"が飛んでるから、迂闊に飛行魔法は使えないんだ」

 

 

ソレは、帆船から帆を取り除き、全体的に角張らせたような外観をしていた。

紅鏡竜を2匹縦に並べた程はある全長と、底面が鈍色の金属板で覆われた飛行物体。

 

「な……なによアレ……?」

 

目を丸くして唖然としているアウラなどお構いなしに

飛行物体は悠然と空を行く。

 

巨体故に大量の空気を巻き込んで飛んでいる為か、それとも動力源の音なのか

雷鳴のような轟音を出しながら突き進むソレは

太陽光を遮りながら2人の上空を通過し、

後方の空へと消えていった。

 

「ね、ねぇフリーレン…………い、いまのって」

 

「あれは『航空船』。飛行魔法を動力に物資を輸送する貨物船だよ」

 

驚愕の余りしどろもどろのアウラに対して

フリーレンは最早見慣れた光景という感じで解説を始める。

 

「大きな都市間を行き来して物を運搬する航空船は、今の時代を支える文明利器の一つ」

「鮮度が重要な食用品や、そこまで重量が無いから海路を使うまでもない貿易品なんかは全部あの航空船が担ってるんだ」

「その弊害で、商人の馬車なんて昔と比べたら半分以下しか走ってない」

「……お陰で昔みたいに馬車に同乗できないのは少し痛いけどね」

 

「……ひ、飛行魔法で……?」

 

人類よりも飛行魔法に馴染み深い魔族故に

「あんな大きな物を浮かせられる訳がない」という、信じられないような表情をするアウラ。

 

それに対してフリーレンは

やや得意気な顔で語りを続ける。

 

「原理が分からないから魔族が使ってたものをそのまま転用していた飛行魔法も、この300年でだいぶ解析が進んだからね」

「あれだけ大きな物体も長時間飛ばせられるようにもなったんだ」

 

「……魔族でもあんなおおきなもの飛ばせられないと思うわ」

 

「人類の強みは次世代に技術や知識を継承する事だ。……クヴァールの魔法を解析したように、一丸となって取り組めば大抵は何でも出来る」

 

「更に応用が利くようになれば、そのうち街一つを空に浮かべられるようになるとか一部の研究者は言ってるけど、そこら辺はどうだろうね」

 

専門的な知識を交えた、フリーレンの今後の魔法技術の発展への見解などは

アウラの耳を右から左に通り抜けてしまったが

少なくとも今の人類の魔法が『想像を絶するレベルに達している』という事だけは

彼女にも理解が出来た。

 

「……な、なんとなくすごいのはわかったわ」

 

そして、何か思いついたのか「あっ」と短い声を上げたアウラはフリーレンの方に向き直り、

 

「じゃあ、アレに乗りましょ────」

 

「アレはあくまで貨物船だから乗組員以外乗れないよ」

 

その提案は却下される事となった。

 

「えぇ〜〜!なんでよぉ〜〜〜!」

 

「物資を運ぶ乗り物なんだから、特別な理由も無しに乗せては貰えないんだよ」

 

「もぉ……せっかく楽できるとおもったのにぃ〜……」

 

再び項垂れてぶーたれ出したアウラ。

やる気が失せたのか、さっきよりも歩行が遅くなっている。

 

「(あちゃぁ……余計な事教えない方が良かったかな……)」

 

善意のつもりで今の人類の文明の凄さを見せて喜ばせ、

やる気を出させようとしたが逆効果。

これは不味いと思ったフリーレンは

何か彼女の気を引くものがないかと頭を捻る。

 

 

────キィィン

 

「(………………お、この音は)」

 

すると、遠くの音を拾ったエルフ耳をひくつかせたフリーレンが何かに気がつく。

 

「アウラ、ちょっと」

 

「……なによぉ」

 

肩をトントンと叩いて、意気消沈していたアウラの視線を空へと誘導させた。

 

「人間を乗せて走るのはアレだよ」

 

フリーレンが見ているのは先程とは別の方角の空で、そちらから急接近で何かが飛んでくる。

「またすごい物がお出ましなの?」と、おっかなびっくりなアウラも

身構えながらも空を見据える。

 

 

 

────キィィィン!

 

 

その物体の見た目は、馬に牽引されていない馬車のような形状をしていた。

空を駆けるのに必要の無さそうな4つの車輪は高速で回り

その淵から魔力の粒子が飛散して発光している。

地上から確認できる搭乗者は運転手と思われる男性1人だけだが

恐らく後部の座席には客である人間が乗っているのだろう。

航空船よりは遥かに小さく、しかし走力はずっとあるその馬車モドキは

細長い雲を引きながら一瞬で2人の上空を通過していった。

 

 

「航空船のせいで職にあぶれた商人ギルドや行商人達の一部は、客を乗せて空を行く"空飛ぶ馬車"の乗り手に転じたんだ」

「失業した彼らは寄り集まって、航空船に使われてる魔法を解析し、研究に研究を重ねて独自の方向に性能を伸ばした飛行魔法を生み出した」

「飛ばせる物の重量上限値は考慮せず、とにかく速く、もっと速くを追求したのがあの馬車だよ」

 

300年前は影も形もなかった"空飛ぶ馬車"なる新たな職業。

技術の発展によって職そのものを失った者が物乞いや野盗に堕ちる事はままあるが

かつての行商人達は時代の波に呑まれずに上手く乗り

魔法使いや魔族の独壇場であった空に進出して飛躍を遂げたようである。

 

「へぇーよくわかんないけどすごそう……」

「……ところで、あのかたちに意味はあるの?」

 

「ない」

 

「……じゃあ馬車じゃなくてもいいんじゃないの?」

 

「んー、そこはほら、前職からの拘りというか、愛着……いや、執着があったのかもね」

 

 

物を運ぶ仕事から人を運ぶ仕事に変わらざるを得なかった者なりのプライドが形として現れたのか。

考察する事は出来ても、フリーレンにその真意の全ては読み取れないし

アウラには益々分かる訳もない。

 

「ふーん、へんなの…………あ!」

「じゃあじゃあ……あの馬車に────」

 

「言っておくけど多分乗れないよ」

 

話の流れからしてその質問が来るのが分かっていたかのように

またもやフリーレンはアウラの提案を一瞬で突っぱねた。

 

「なんでなのよぉ……」

 

「あの馬車は通行証か、もしくは身分を証明できる物がないと乗れないんだよ」

「証明できる物がない場合も、名前と顔を記録して貰えば一応乗れるんだけど……アウラの場合はねぇ」

 

『魔族だから』、と口にこそしなかったが

何とも言えない表情で頭の角を見つめるフリーレンの様子から

辛うじてその意味を汲み取るアウラ。

 

時代が移り変わろうとも

魔族を乗車させるなどというのは今でも論外らしい。

 

「……見た目は人間と変わんないのにぃ……」

 

生まれて始めて、頭に生えた魔族の象徴を心底邪魔に感じたアウラは

恨めしげに己の角を撫でる。

 

「……だったらぁ、フリーレンがあの馬車の運転してよ〜」

 

滅茶苦茶な提案でまだ粘るアウラには、

フリーレンもそろそろ呆れを覚え始めた。

 

「……私は運転できないね」

 

が、無視しようと思えば無視できた質問にも

真面目に回答をする。

 

「あの馬車は飛行魔法を組み込んだ魔道具が4つも内蔵された代物だから運転がすごく難しいんだよ」

「だから専用の免許証も必要だし」

 

「……その、"めんきょ"……?とかいうの取ればいいじゃない」

 

「ずっと昔に試しに取りに行ったら実技で落とされちゃったんだよ」

「緻密に魔力コントロールすれば飛べない事はないけど『最高速度と荷台に乗せる物の安全性を両立させろ』だってさ」

「……10年くらい本気で取り組めば免許取れそうだったけど、当時の旅の仲間から却下されたし」

 

競争相手のいないオンリーワンの職種である為に

顧客からの信頼・信用は絶対的でなくてはならない。

 

卓越した魔法の技術を持つフリーレンですら落とされる辺り

質を求められる一級魔法使いの試験が並々ならぬものであるように

この空飛ぶ馬車の資格取得もハードルが高い激戦区なのであろうか。

 

「……どちらにせよ、今は気軽に飛行魔法を使っちゃダメなんだよ」

「航空船や馬車が往来してる空を飛ぶのは接触事故に繋がるからね。特に街道沿いなんかはその危険がとても高い」

「だから聖都までは徒歩か、もしくは運良く、本来の意味での"馬車"を見つけるしかない」

 

「…………わかったわよぉ、歩けばいいんでしょ歩けば」

 

観念したのか、アウラはようやく自分の足で歩き始めた。

しかし一瞬でも抱いた希望を何度も取り上げられた反動か

すっかり拗ねてしまっており、その歩幅もだいぶ狭い。

 

「…………」

 

そんなアウラをフリーレンは何も言わずに見つめる。

 

「(喜ぶと思って見せたのに、どんどんやる気を無くさせちゃったな)」

 

余計な希望を持たせてしまった事への罪悪感からか

気まずそうな、少し申し訳なさそうな顔で。

 

 

 

「…………分かったよ、しょうがないな」

 

「え?」

 

「ほら、早く乗って」

 

アウラが前を見ると、フリーレンが中腰の状態で立ち止まっていた。

 

「おぶって欲しいんでしょ?」

 

「…………いいの?」

 

「ほんの10分くらいだけ、後は自分で歩いてよね」

 

「……ッ!!ありがとう!」

 

パァッと明るい表情になったアウラが飛び乗り

その重みで「ゔっ」と小さな呻きを漏らすも

フリーレンはしっかり彼女を背負う。

 

 

「アウラは荷物少ないから軽くていいね」

 

「フンフフ〜ン♪」

 

「……機嫌が治って良かった」

 

魔法使いや戦士でもない、完全にお荷物状態の大魔族を連れての2人旅。

こんな調子で大丈夫なのかという不安は

未だにフリーレンの心の奥底に僅かだが残ってはいる。

 

 

 

 

「……賑やかなくらいが丁度いいのかもね」

 

しかし、その表情は何処となく綻んでいた。

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