せっかくアウラがいなくなって平和になったっていうのに
何百年経とうが交通の便は悪いんだね
〜勇者ヒンメルの死から328年後〜
-北側諸国 ロイバー丘陵-
────キィィィン!
空気を裂く甲高い音と共に、馬車の形をした飛行物体が上空を横切る。
「……ねぇフリーレン。やっぱり、なんとかしてアレにのれないの?」
既に空の彼方に消えていった空飛ぶ馬車をジトッとした目で見上げながら
アウラはフリーレンに尋ねた。
旅の初めの頃は頭上を横切る空飛ぶ馬車に目を輝かせていたアウラも
こう何度も旅中に目にすれば流石に見飽きたらしく
寧ろ自分達が利用出来ない物を目の前でチラつかされる苛立ちばかりが募る一方である。
「アウラ、あんまり我儘ばかり言うと流石の私も怒るよ?」
「何度も言うけど、アレは身分証明が出来ないと乗れないし、そもそもアウラの場合は正体が露わになるだけでも不味い」
「魔族が人間のすぐ近くを大手を振って歩いてるってバレるだけでとんでもない大騒ぎになるんだ」
「むぅ……それは分かってるわよ」
アウラも、魔族が人類の勢力圏を闊歩している事が露呈する危険性をやんわりとは理解している。
また、野宿で就寝する前にフリーレンから人類史を読み聞かせて貰った際に
その危険性が数百年経った今でも変わらない事は寝ぼけ眼とはいえ覚えている。
「だけど……もう、足も疲れてきたし……」
それでも、幾ら整備されてるとはいえ何十kmも続くこの街道を延々と歩く苦行を思うと
文句の一つも言いたかったのだ。
「そうは言っても、歩く以外にはどうしようもないんだ」
「……飛行魔法は〜?」
「ついさっき使った分で今日は打ち止め。これ以上の魔力の消耗は私も避けたいから」
「……じゃあ浮遊魔法〜〜」
「それは不可能だって一昨日分かったでしょ」
フリーレンも好き好んでスパルタな旅を強要している訳ではない。
少しでもアウラが楽出来るようにと、一度だけ浮遊魔法で運ぼうと試みた事があった。
浮遊魔法は飛行魔法と違い、自身を浮かせられない代わりに
一定の射程内であればそこそこの質量の物も浮かせられる。
また、魔力の消耗も格段に少なく、飛行魔法を獲得する前の人類が
物質を空高くに持ち上げる唯一の手段であった。
そしてそれは無機物に限らず、生物も浮かせられる筈なのだが……
「(また封魔鉱か……)」
結果として、アウラの身体に付与してる途中で浮遊魔法は打ち消されてしまった。
考えられる原因としてはやはり体内の封魔鉱だろう。
「(アウラが魔道具を弄ってる時は何とも無かったし、私が背負って飛行魔法も発動出来てた)」
「(身体の外側でなく内側に魔法が及ぶと無効化されるのか……?)」
まだ考察を重ねられるだけの判断材料に乏しいが、
少なくともアウラに浮遊魔法を使う事は出来ないという事実だけは分かった。
「だから今日は、次の野宿出来る場所を見つけられるまでひたすら歩くよ」
「……歩く、歩くわよ。だけどあと数キロだけよ?」
「はいはい、その調子その調子」
多少ブー垂れながらも、文句を言った所で事態が好転しないと理解しているアウラは
息を整えると再び歩み始める。
そんな彼女に相槌を打ち、「流石に数キロじゃ利かないだろう」と内心思いながらも
本当にどうしようもなくなったら飛行魔法で運ぶ事も視野に入れておく。
「こんな時に馬車こないかしら……?」
アウラがぼやいた。
この場合の『馬車』というのは恐らく、普通に地面を走る何の変哲もない馬車の事であろう。
「それはちょっと期待出来ないね。このご時世、街道を走る馬車なんて滅多にお目に……というか多分もう走ってないと思った方がいい」
物質の輸送は航空船に、人の長距離移動は空飛ぶ馬車に取って代わられたこの時代に
馬に引かれる前時代的な馬車など最早絶滅危惧種と化している。
辺境の村々の間を行き来する程度なら使われる事はままあるが
今フリーレン達がいるような、辺りに何も無い場所を走る街道では
まず出会わないだろう。
「(それこそ、魔物と鉢合わせする確率の方がよっぽど……)」
端からあまり期待していないフリーレンはそう諦観し切っている。
────パカラッ
「…………フリーレン、今の聴こえた?」
その時、何かが地面を蹴る音が微かに聴こえた。
その音を拾ったアウラが尖った耳をひくつかせながら問い掛ける。
「……何も聴こえなかったけど」
聴力に関してはエルフは他の人類や魔族よりも良い筈なのだが
次に野宿できそうな場所とその距離までを、頭の中に広げた地図で算出していたフリーレンは
生憎その音に気が付かなかったらしい。
「多分後ろの方からよ」
振り向いたアウラは、後方に続くこれまで歩いてきた道を見つめる。
フリーレンも同様に振り返る。
────パカラッ パカラッ
「ほらっ!」
「……うん、今度ははっきり聴こえたよ」
まさかという驚きの表情をしながらも
フリーレンは遠方から響く蹄のような音を聴いた。
後方の街道は小丘の上に敷かれている為、二人は全景を見る事が出来ないが
その音源が丘の向こうから近づいているのは確かである。
────パカラッ!パカラッ!
次第に音は大きくなり、小丘の向こう側から正体を現した。
覆いも
その荷台を引くのには似つかわしくない、無骨な馬鎧で身を固めた栗毛の馬。
時代の波に呑まれて淘汰された筈の、本来の意味で"馬車"が
二人の方へと走ってきた。
「……こんな所でお目にかかれるとはね」
馬車は道の傍に避けていたフリーレン達の前で停車する。
そして、御者台で馬車を操っていた人物が身を乗り出し
二人に声を掛ける。
「そこのお二人さん、もしかして旅人?」
驚く事にその声は女性の、しかもまだあどけなさが残る高めのものであった。
「あぁ、そうだよ。私達は中央諸国の方を目指していて、その為に何処かの町や村を経由しながら──」
「あっ、じゃあ方向は私と同じだね!私もこれから南方の町に向かうつもりだったんだ」
「よかったら乗っていく?乗車料として銅貨数枚は貰うけど」
己の素性をある程度明かしてから段階を踏んで
同乗させて貰えないかの交渉に出ようとしたフリーレンが言い終えるより早く、少女と思われる御者は張りのある声をあげた。
「ええっと……」
商売という事を加味しても、こんな田舎道で素性の知れない相手に向けるにしては
客の値踏みやら何やらをすっ飛ばした、屈託のない口調。
そのあまりに無警戒な御者の言葉にやや調子を崩されたが
フリーレンとしては願ったり叶ったりであるし、隣のアウラも「乗りましょうよ」と目で強く訴えかけてくる。
「……じゃあお言葉に甘えて」
フリーレンはその厚意に甘える事にした。
「そうと決まったらほらっ、後ろに乗ってお二人さん」
「やった、ようやく楽出来るわ!」
「そうだね……っとと。アルム、足元気を付けないと転ぶよ」
意気揚々と荷台に乗り込むアウラと、それを見届けてから後に続くフリーレン。
馬車での移動ならば日が出ている内に次の町に辿り着けるであろうし、
それが銅貨数枚で済むというのなら破格である。
「こんな辺鄙な街道を徒歩だなんて大変だったでしょ?」
「ほんとよ!もう足がおれちゃいそうなくらいだったわ」
そんな風に路銀の事をフリーレンが考えている間に
アウラと御者は、交友のある知人かの様に談笑を始めていた。
「これも何かの縁だし、お互い自己紹介だけしない?」
「えぇそうね、私はアウ……アルムよ!」
「へーアルムさんか、よろしく!……で、そちらのエルフさんは?」
「こっちはフリーレンよ」
「フリーレン?……何処かで聞いた気がする名前だねぇ」
了承もなく勝手に自己紹介をされた事に「おいおい」と思いながらも
フリーレンは御者の方に軽く会釈をした。
「(こういう一期一会の出会いも、旅の醍醐味の一つか)」
かつては勇者一行やその弟子達との旅路で幾度も経験した些細な出会いの一つ一つが
今も記憶の中で美しい思い出として紡がれている。
アウラとの旅もその思い出に加わるのであれば、咎める事でもないのだろう。
「じゃあ、今度は私の番だね。フリーレンさん、短い付き合いかもしれないけど」
すっかり忘れていた旅の楽しさを久々に思い出し感傷に浸っていると
フリーレンの方へ振り向いた御者が、その帽子を取って顔を見せた。
「あ、うん、これからよろし────ッ」
言いかけたフリーレンが、御者の顔を見た途端に固まった。
「私はラオベン、よろしくね!」
南側諸国特有の顔立ちで、年齢は10代半ばといったところだろうか。
丸く束ねた髪が一つ、後頭部にお団子状に付いている独特の髪型。
「ん……?私の顔に何か付いてる?」
かつて一級魔法使いの試験で対峙した少女の面影がある御者の顔を
数秒程見つめていたフリーレンが我に返る。
「…………いや、こちらこそよろしく、ラオベン」
◇
「風が気持ちいいわぁ〜」
剥き出しの荷台を吹き抜ける風を顔に浴びながら
アウラが歓喜の声をあげる。
馬車の速度は精々が時速十数km、飛行魔法よりもずっと遅いのだが
馬車に座ってくつろぎながらな事も踏まえると
これまでの徒歩地獄を思えば心地良い風であろう。
「でしょー?歩きと比べたら馬車は快適だからね!」
「……それにしても驚いたよ。今時こんな馬車に乗る人滅多にいないからさ」
手綱を握るラオベンが馬車の快適さに同意を示しながらも
商売あがったりな今の時世を皮肉った相槌を打つ。
「言っちゃなんだけど、確かに普通の馬車なんて今時珍しいよね」
フリーレンも失礼と自覚しながら、自身が乗ってる荷台を見回す。
見た所、この馬車は何か積荷を運搬している訳でもなく
仮にこれから何かしらを積み込むにしても、それ等を覆う布や縛る縄すら見当たらない。
恐らくは最初から人を乗せる事を目的とした物なのだろう。
「そうそう、遠くに行きたいなら空飛ぶ馬車に乗るのが数十年前から当たり前になってるからね」
「でもほら、空飛ぶ馬車ってさ、身分証明が出来ないと乗れないでしょ?経歴を大っぴらに出来ない人もいるだろうし」
「そういう人向けに走られせてるんだよ!……所謂、慈善事業ってやつ?」
「ふーん……乗り合い馬車のようなものか」
金を取るとはいえ完全に廃れた需要の低い職を進んでやっているのだから
慈善事業と言ってもそこまで差し支えはない。
だが、『経歴を公に出来ない人種』というのは大抵ろくな者ではなく
出くわせば何かしらのトラブルに発展し兼ねない。
「ここら辺にはゴロツキや野盗もいるけど、そういう輩も乗せるの?」
「時と場合によってはね。というか、そういう人が一番この馬車を必要としてるだろうし」
「もしそいつらが襲ってきたら?」
「大丈夫、私こう見えても魔法使いだからさ!」
「…………それなら、安心だね」
今初めて知ったような口ぶりだが、フリーレンは内心合点がいったように小さく頷く。
初めてラオベンを見た時、その身に一定以上の魔力を纏っている様子から
魔法使いなのは一目で分かっていた。
「(…………とは言うものの)」
「幾ら魔法が使えるといってもそれは危ない行為だ」や「そいつら相手に採算が取れるの?」など、腑に落ちない点は幾つかあり
色々と尋ねたい事や説教紛いの言いたい事はまだまだあった。
しかし、あまりくどくどと同じ事を聞くのも失礼だと思い、話を切り替える事にする。
「ところで、馬車に魔法術式が刻まれた部品が組み込まれてるけど、もしかして魔道具?」
「へぇー、やっぱりエルフはそういうのが分かるんだね」
「エルフじゃなくても熟練の魔法使いなら分かると思うよ」
荷台の車体を撫でながら、フリーレンはそこに刻まれた魔法を凡そ予測する。
「あくまで予想だけど、刻まれてるのは"
「……意外。そこまで分かるものなんだね」
まさか一発で言い当てられるとは思っていなかったラオベンが驚きの表情を見せる。
「(まぁ、見ただけでじゃそこまでの判別はつかなかっただろうけれどね)」
フリーレンが言い当てられたのは、彼女とそっくりな容姿の魔法使いが得意としていた魔法が
"高速で移動する魔法"だったのもある。
流石に直系の血筋かは不明であるし、子孫であるからと言って同じ魔法を使えるとは限らないが
魔法に精通しているフリーレンからすれば、最初に候補を絞れれば
術式構造から予想するのは容易かった。
「ねぇフリーレン、"じるゔぇーあ"ってどんな魔法なの?」
「高速で移動する魔法のことだよ」
「こうそく……?……ッ!じゃあ、この馬車も高速で──」
「って思うよね〜、やっぱり」
言いかけたアウラに、ラオベンが被せるように返答する。
「……"やっぱり"っていうのは?」
「うーん、何か最近、調子が良くなくてねー。上手く魔法が発動しないんだよ」
「無理に魔法で走らせようとするとこの子に負担が掛かっちゃうし」
そう言うラオベンに呼応するように「ブルルッ」と馬が嘶く。
どうやら何らかの不具合のせいで、今この馬車は魔道具としての力を発揮出来ないらしい。
それが馬車本体による物理的な物なのか、それとも術式などの魔法的な要因なのかは不明だが
複雑な魔道具という物はメンテナンスを少し怠るだけで故障を起こす。
「……なんだか残念ねぇー、フリーレン」
「そうだね」
魔道具として機能しないのならば仕方ない、とフリーレンは諦める。
本来なら町まで歩かなければならない筈だったのが、こうして馬車に乗れている。
それを考えれば、これ以上を求めるのは贅沢なのかもしれない。
「(……高速で移動する馬車を一度見てみたい気持ちもあったけれど)」
とはいえ、未知の魔道具を体感してみたかったという点でいえば
フリーレンもアウラ同様に残念な気持ちがあった。
「どうしようもない物なんだし、切り替えようアウラ」
「ほら、外の景色綺麗だよ?向こうにはシュヴェア山脈が……」
そう言ってフリーレンは、アウラの機嫌取りと自身の気持ちの切り替えも兼ねて、彼方に連なる山脈を指差す。
「まだ山頂には雪が残ってて真っ白だ」
「……まぁ、きれいっちゃきれいねー。……そうそう!あの雪山、リュグナー達と超えるのすごく大変で……」
景色を眺めながら昔話に花が咲くアウラに対して、フリーレンもうんうんと同意をしながら
長閑な馬車の旅を楽しみ始め、
────ガタンッ!
「ゔフっ!」
「ふぎゃッ!?」
……たのも束の間、突如馬車全体が大きく跳ね上がり、体勢を崩したフリーレンとアウラは荷台の側板に背中をぶつけた。
「あっちゃー……。
「ごめんよお二人さん。時々こんな感じで調子悪い時があるんだ」
「一旦調整し直すから、少しだけ降りて貰っていい?大丈夫、すぐ終わるから!」
そう言ったラオベンは馬車を停め、二人に降りるように促す。
「痛ったた……な、なんなのかしら……?」
「さぁ……取り敢えず降りよう」
フリーレンとアウラはいそいそと荷台から降りて、成り行きを見守る。
「ねぇフリーレン、馬車ってこんなすぐ調子わるくなるものなの?」
「うーん……物によるだろうけど、流石にここまでオンボロなのは私も初めてだ」
アウラの疑問はかなり的を射ている。
基本馬車というのは人にしろ物にしろ
目的地まで何かを安全に、尚且つ期限までに運送する乗り物なのだから
出発する前の点検や不具合箇所の修理はかなり念入りにやる物だ。
それでも長旅で故障はどうしても出てしまうのだろうが
ラオベンの口ぶりから察するに、この不具合はかなり頻繁起こっているようである。
「(個人の馬車……というのを加味してもちょっと酷すぎやしないか?)」
「(複雑な魔道具はメンテナンスが命なのに、もしかしてサボってるんじゃ……)」
「ねぇー、大丈夫そー?」
「んー?あぁ大丈夫!すぐ済ませるからー!」
当のラオベンはというと、荷台の下に潜り込み
車輪の軸受付近で小瓶を片手に何やら塗り込む作業をしている。
心配そうに声を掛けたアウラに対して手を振り返して大丈夫と伝えるが、
その応急処置が本当にすぐ済むものなのか、それともかなり長引くものなのかは判別出来ない。
「アレって何やってるのかしら?」
「多分油か何かを塗ってるんだろうね。ああしないと馬車は車輪が回らなくなるんだ」
あくまで古い時代の馬車に当て嵌まる常識なのだが、この馬車も相当旧式のものだろうから
大体合ってるだろう、と
フリーレンは一昔前の馬車の知識をアウラに教える。
「……よーし!」
一頻りの作業を終えたラオベンが車体の下から這い出てきた。
「何とかなりそう?」
「うーん、こればかりは試運転してみないと分からないねぇ」
かなり骨の折れる作業だったのか、額の汗を拭いながらふうっと息を吐く。
そして、再び御者台に乗り込み手綱を握る。
「あっ、真後ろは危ないからもうちょい離れててよね?」
二人も言われるがまま馬車から少し距離を置いた。
「(もしこれでどうにもならないなら、私も修理に加わるか)」
フリーレンは魔道具修理は専門ではないが、魔法術式の問題ならある程度は分かるし
馬車本体の問題ならば、浮遊魔法で浮かせるなりして作業の手伝いくらいは可能である。
「……それっ!」
そうフリーレンが考えていると、ラオベンが手綱を操って馬車を少し動かした。
────ゴロロッ
車輪がスムーズに回りながら、馬車は数センチ後退する。
「……やっ!」
次は前に進む様に指示を出す。
────ゴロロッ
今度もさっきと同様に、問題なく馬車はやや前進した。
「……わあっ!フリーレン!」
「……うん、ちゃんと直ってそうだね」
これで無事に馬車での旅を再開出来るとホッとする二人。
馬車が直った喜びなのか、御者台のラオベンもクルリと振り向いて笑顔を見せる。
「……これで大丈夫!無事元通りだよっ!」
そして、これでもかという満面の笑みを湛え、
「…………じゃあね〜」
いきなり、脈絡なく
馬の手綱を強く振るった。
「「………………は?」」
その発言の意味に戸惑う二人を差し置いて、ラオベンは声を張る。
「────ハァッ!」
「ヒヒィィンッ!!」
すると、まるで指示をずっと待っていたかのように高く嘶いた馬が蹄で地面を鳴らす。
同時に、馬とその荷台に魔力が循環し、馬車全体が淡く光る。
「────ッッ!」
何かを察したフリーレンが杖を取り出すが、一手遅かった。
瞬きする間もなく魔法の馬車は、
「
残像を残してその場から消え去った。
……二人の荷物を荷台に乗せたまま。
「………………」
巻き上がった土煙が地平線まで続く様子に呆然とするアウラに
フリーレンが声を掛けた。
「……アウラ、追うよ」
「えっ、ちょっ、……えぇ?」
アウラの方は事態を飲み込めていないらしく、未だにフリーズしている。
そんなアウラの方に振り向いたフリーレンは
してやられたという感情と、静かな憤りとが入り混じった表情をしている。
「……あいつは」
そして、今目の前で起こった出来事と
自分達の荷物を乗せたまま地平の彼方に逃げた少女の正体とを
端的に一言で述べた。
「あいつは盗賊だ」