アウラを人類と共存させてみた   作:やわら烏

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私、このサイトに来る前に暇つぶしに独自解釈の碑文を掘ったの
"魔族の肉体の強さは魔力による身体強化によるものだ"って
もちろん意味なんて何もないわ


2.配下達からいびられるじゃない

 

「リュグナー様も人遣いが荒いな……」

 

 

森の上空を1人の魔族が飛行している。

 

主であるアウラが「面白そうな遺跡を見つけたから探索してくる」と

単身で森に入っていってから既に数時間が経過。

流石に戻るのが遅すぎると思ったリュグナーからアウラを捜索するように命じられてリーニエは

ぶつくさ文句を垂れながらも懸命に探していた。

 

「あっ、いた」

 

暫くすると、森の向こうから莫大な魔力が放射されているのを見つけた。

これだけの魔力量を誇るのは、主であるアウラか

さもなくばそれに比肩する大魔族しかいない。

 

「(あんなボロい遺跡の前でなにしてるんだろ)」

 

リーニエの視線の先には

遺跡の入り口にもたれ掛かっているアウラの姿がある。

 

リーニエが知る由もない事だが、あの後アウラは

飛行魔法を含めたあらゆる魔法が使えないが為に

遺跡最深部から地上へ延々と続く螺旋階段をひたすら登ってきた。

 

人間とは比べ物にならない魔族の高い身体能力なら苦でない筈なのだが、

魔族の身体能力の大部分は魔力による肉体強化に依存している事が多い。

魔族にとって飛行魔法と同じく意識せずに自然体で行えるものだが

それでも魔法に変わりはない。

 

見た目が華奢な少女であるアウラの素の筋力は外見相応にまで落ちており

数十メートルもある高低差を登る運動ですっかりバテてしまっていた。

 

「……誰かと思えばリーニエか、随分と遅かったわね」

 

「……」

 

勝手にほっつき歩いておいて何だその言い草はと内心イラッとくるリーニエであったが、

目の前にいるのは己の主、しかもかつては魔王に仕えた7人の大魔族が1人。

逆らった所で敵う筈もないので当然怒りは胸の内に抑えておく。

 

「探したよアウラ様。リュグナー様が心配してたし、もう帰ろう」

 

「そうね……」

 

慣れない運動でパンパンに腫れた脹脛をさすりながら

よっこらせと立ち上がるアウラ。

主が起き上がったのを見計らったリーニエは再び空に飛んで、

 

「ちょっと待ってリーニエ」

 

それをアウラが呼び止めた。

 

早いところ帰りたいのにまた何か我儘でも言うのかと

ウンザリした気持ちでリーニエが振り返ると

地面から一歩も飛んでいないアウラが見上げていた。

 

「なに?アウラ様。…………言っとくけど遺跡の探掘はまた今度に」

 

「……おぶって」

 

「えっ?」

 

「いいからおんぶしなさいと言ってるの」

 

アウラの我儘はリーニエの予想の斜め上をいくものであった。

 

大魔族・断頭台のアウラは当然の権利の如くリーニエにおんぶを所望した。

 

 

 

 

「アウラ様、どうして自分で飛ばないの?」

 

言われた通りに主をおんぶして飛ぶリーニエであったが、

この意味不明な命令には疑問を隠せない。

 

「……色々あるのよ」

 

小柄なアウラを更に小柄なリーニエが背負って飛ぶというシュールな絵面だが

当のアウラは大真面目な顔で様々な考察をしていた。

 

「(てっきりあの杖の一定範囲内から離れれば魔法が使えるかと思ったけど、予想が外れたわね)」

 

「アウラ様」

 

「(いや、そもそも遺跡付近まで来たリーニエが飛行魔法を問題なく行使できてた時点でこの仮説は破綻してる)」

 

「ねぇアウラ様」

 

「(じゃあ何?もしかして一定時間魔法が使えなくなる魔法とか?そんなの聞いた事もないわ)」

「(……というよりその場合はちょっとまずいわね。『魔法が使えなくなる』という事は、もしかしたら遺跡まで付き添わせてたアイツら以外の軍勢も……)」

 

「アウラ様、着いたよ」

 

「……ん?あら、もう着いたのね」

 

物思いに耽っていたらいつの間にか2人は拠点に着いていた。

アウラ達が拠点として用いているのは、遥か昔に人が住まなくなった廃城である。

目的地に着いたアウラはここまで送り届けてくれたリーニエの背中から降り……

 

「……リーニエ、もうちょっと低い位置まで降りなさい。怪我したら危ないじゃない」

 

「えー……」

 

今のリーニエは地面から2、3メートル程高い位置に浮遊しており

このまま飛び降りる事を躊躇したアウラは更に高度を下げるように命令する。

 

「……これでいい?」

 

「そうそう、これでやっと降りられるわ」

 

「……こんな高さ、産まれたばかりの魔族だって怪我しないじゃん」

 

魔族というよりは、ひ弱で脆い人間の相手をさせられているような違和感を抱きながらも

リーニエは言われた通りに、壊れ物でも扱うかの如くアウラを安全に降ろす。

 

配下に送迎して貰えてすっかり疲労のとれたアウラと

背中の主を気遣わされた為にそこそこ神経をすり減らしたリーニエは

アウラの玉座を置いてある城の一室へと向かった。

 

「おぉアウラ様、戻られましたか」

「あまりに帰りが遅いものでしたからリーニエを向かわせたのですが、ご無事で何よりです」

 

部屋では首切り役人のリーダー格であるリュグナーと、新参者のドラートが待っていた。

 

「……その様子からするに遺跡の中はそれ程お楽しみ頂けなかったのでしょうか」

 

「まぁ……そうね。そこそこ驚く体験はしたけど」

 

やや不愉快さが滲み出るアウラの表情から

遺跡探索の結果が外れであったとリュグナーは予測する。

アウラからすれば、"ある意味"驚く体験はあったが

それが面白いかどうかは別なのであながち間違いではない。

 

「(リュグナーが何も言ってこないという事は、もしかして不死の軍勢の方は異常がなかったというこ──)」

 

「ところでアウラ様。戻られて早々にこんな話をするのは失礼と承知しておりますが」

 

己の心配はただの杞憂に過ぎなかったと、アウラがホッとしたのも束の間、

柔和な笑みを浮かべていたリュグナーの顔が引き締まり

一際真面目なものになる。

 

 

 

「つい先刻、貴女様の魔法で動いていた不死の軍勢が全てただの骸に戻ったようなのですが……これはどういったお戯れで?」

 

この報告を聞いた途端にアウラを天を仰いだ。

 

「(あー……まぁ予感はしてたけど、やっぱりそうよね)」

 

アウラもあくまで最悪のパターンの一つとして想定はしていたが

あの杖が発動したのが解除魔法ではなく、()()()()()()を使えなくする魔法ならば

彼女が使役する不死の軍勢全てが物言わぬ死体に戻るのは自明の理。

 

「(ほんっと最悪)」

 

何の罪もない人間の村々や都市を攻め滅ぼしては集めてきた膨大な数の兵隊が全ロストしたという事実は

いざ聞かされると中々堪えるものがあった。

 

「正直に申し上げますと、これはかなり由々しき事態です。幾ら貴女様の魔法で無尽蔵に従えられるとはいえ、人間の数には限りがある」

「この28年もの間に蓄えてきた兵力が軒並み損失したのです。しかもこれからグラナト伯爵領に攻め入るという大事な時期に」

 

そんなアウラの心情はお構いなしに、リュグナーのお説教に等しい報告は続く。

本来なら主人にこのような口答えをするなど許される行為ではないのだが

伯爵領攻略の要である兵力が全ておじゃんになった現実を前に

リュグナーも色々と物申さずにはいられなかった。

 

「……ですのでアウラ様。ここに至るまでの詳細な経緯と、どのようなお考えがあっての行動なのかをですね……」

 

「……うるさい…………なくなったのよ」

 

「……アウラ様、申し訳ありませんがよく聴き取れなかったので、もう一度仰っていただけないでしょうか?」

 

 

ただでさえ魔法が使えなくて不安な状態へ追い討ちをかける説教に

ついにアウラは逆上する。

 

「うるさいッ!!私だってわざとこんな事する訳ないじゃないッ!!」

 

 

 

 

「なんでか知らないけど魔法が使えなくなったのよッ!!!」

 

「…………今なんと?」

 

発言の内容が今ひとつピンも来ないリュグナーは目を丸くしながらも、ただ事ではないと察した。

 

 

 

 

 

 

 

「…………はぁ、全部の始まりはあの遺跡だったわ」

 

アウラは遺跡に入ってからここに戻るまでの一部始終をリュグナー達に語り出した。

最初は主の冗談かと思っていたリュグナーも

いつもは高慢ちきで自信に満ちた顔をしたアウラが

真剣な表情で苛立たしげに話す様子から

それが事実である事と、事態が予想以上に深刻な事を知る。

 

「話は大体飲み込めました。……それで、アウラ様の見立てですと時間経過で魔法が戻るそうですが、それはどれ程で?」

 

「そんなの私が知りたいわ」

 

頭をガシガシ掻き毟りながらぶっきらぼうに返答する。

そんなアウラに対してリュグナーはこう口を開く。

 

「御安心下さいアウラ様。我らは"首斬り役人"、たとえ貴女様が力を失われようとも、主を支える事こそが我らの使命であり本望」

「まずは伯爵領を陥落させ、その後に貴女様の力を戻す方法を必ずや探しましょう」

 

「……そう、期待しているわ。特に後者の方にはね」

 

「行くぞ、リーニエ、ドラート」

 

配下の激励で多少気を良くしたアウラが平静を取り戻したのを見計らい、

リュグナーはリーニエとドラートを連れて部屋を出て行く。

 

力を無くして戸惑う主人を支えんとする、正に忠臣の鑑のような対応である。

……が、

 

 

 

「(『力を失われようとも、主を支える事こそが我らの使命であり本望』……か)」

 

リュグナーはアウラに対して、バレない程度にだが軽蔑の目を送っていた。

 

魔族の世界では力こそが正義であり、

魔力さえ高ければどれだけ粗野な風貌でも地位や尊厳が約束され

弱者を顎で使う事が出来る。

つまりリュグナーは強者から弱者に転落したアウラに失望したのかというと……少し違う。

 

アウラは既に絶大な魔力があるにも関わらず

従来の魔族には理解し難い、言動や身なりの上品さを気にしていた。

 

慎重にコトを運ぶ計画性

 

派手な攻撃魔法で直接的な攻撃をせず、操った軍勢で間接的に人間を殺す戦闘スタイル

 

一見無駄で、他の魔族が『姑息』と謗りそうなやり方を重視する彼女にリュグナーはある種のカリスマを感じた。

自分もそこそこ高貴な服装を着て、同じく配下である若輩者2人にもまともそうな身なりを強要するくらいには。

 

「(今の貴女様のお労しく醜い姿は、見るに堪えんな)」

 

今のアウラからは日頃の高貴な貴族の女性のような優雅な雰囲気と落ち着いた立ち振る舞いは失せ、だいぶヒステリック気味になっている。

大魔族としての強さが損なわれた以外の部分でも

リュグナーをガッカリさせるだけの醜態がそこにはあった。

 

無論そんな失望の念は決して表には出さず

強さが損なわれ、気品さも若干無くしている彼女に対して

表面上は態度を変えない。

 

 

 

 

あくまでリュグナーだけ(・・)は。

 

「ねぇリュグナー様、……"あいつ"どうするの?」

 

アウラから聴こえない位置まで離れた辺りで

リーニエはリュグナーに囁く。

 

「ん?……"あいつ"とは一体誰の事だね」

 

 

……他の2人もそうとは限らない。

 

 

 

「今出てった部屋にいる役立たずだよ。殺す?」

 

力こそが正義で弱者はゴミ。

これが魔族としては正常な対応なのだろう。

つい先程までリーニエが馬車馬の如くアウラの言いなりとなって従っていたのはその絶大な魔力量が故。

圧倒的な強さが上辺だけのもので、実際はクソ雑魚に成り下がったと分かるや否や

リーニエの中の『無敵に近い魔法を振るう恐ろしくも偉大な存在』というアウラ像は一瞬で瓦解し

彼女に向ける目も冷ややかなものになっていた。

 

「なんなら俺が戻って殺してきましょうか」

 

そしてそれはドラートも同じである。

魔力の糸を手の中で弄る少年の魔族は実に物騒な事を宣う。

 

「よすんだリーニエ。それにドラートも」

 

若さ故に短絡的な行動に出ようとする2人をリュグナーは嗜めた。

 

「仮にアウラ様を我らの手で亡き者にするか、若しくはその座から引き摺りおろしたとする」

「敵対勢力の中に"服従させる魔法"を使う厄介な大魔族が居なくなったと分かれば、グラナト伯爵は間違いなく和睦を取り消す」

 

「だったら向こうに黙ってればいいじゃん」

 

「リーニエ、もし和睦交渉が最終段階に達したとしよう。……話し合いの場にアウラ様の姿がなければどうなる?」

「組織の長がいない状況下でホイホイ約束事を結ばないのが人間だ。少なくとも和睦が締結するまでアウラ様は必要不可欠」

 

「……なにより、『魔王直下の大魔族』という肩書きはあらゆる面で非常に有用だ。魔王様がいなくなってから魔族の組織性が崩れ、今や大陸中に分散している」

「他の大魔族や将軍がこの地方に来た時、我々3人だけでは危ういが、アウラ様がいれば話は別」

「どうにか力を取り戻して貰った方が都合が良いし、……それが叶わずとも"神輿"としてはこれ以上にない適役なお方だ」

 

リュグナーの発言は現状を俯瞰して見た客観的かつ、アウラへの情を感じさせない冷徹なものであった。

 

 

 

 

「暇ねぇ……」

 

廃城の片隅の物見櫓に腰掛けたアウラは広大な森林をボーっと眺めていた。

 

「(いつもは魔力の鍛錬とか、不死の軍勢の装備をカスタマイズしたりとかやる事は幾らでもあるのに)」

 

500年と少しを魔力の鍛錬に費やしてきたアウラにとって

魔法の一切から離される生活は初めてであり、完全に手持ち無沙汰になっていた。

 

「アウラ様、こちらにいらしましたか」

 

すると、いつの間にか背後に立っていたドラートが後ろから声をかける。

 

「……なによドラート」

 

魔力探知が出来ない為に、

配下が立っている事に全く気がつかなかったアウラがくるりと振り向くと、

 

 

シュッ

 

 

「ッい゛っ!?」

 

ドラートが軽く指を振り上げると同時に

アウラは首筋に小さな痛みを覚えた。

 

「えっ……?な、なに?」

 

おそるおそる己の首に手を当てると、何やら生温かいぬめりとした液体が指先に触れた。

 

「ヒッ……!」

 

それはアウラ自身の血液であり、時間差で首筋から僅かな切り傷が現れる。

原因は、ドラートの指先から放たれた魔力の糸がアウラの首に巻きついた事だった。

 

「────ッ!ドラート!!これは一体どういう……ッ」

 

「おぉっと」

 

謀反以外の何物でもない行動に怒りの声をあげるが

それをドラートは糸の締め付けを少し強めて黙らせる。

 

「申し訳ありませんアウラ様。思わず手が滑ってしまって」

 

『手が滑って』

ふざけた理由と共に頭を下げてこそいるが

そこに謝罪の意思はまるで籠っていなく、魔力の糸も未だにアウラの首に巻きついたままだ。

 

「『魔法が使えない』とは聞きましたが、放出される魔力量が魔力量なだけに正直半信半疑だった」

「俺の魔力の糸なんて本来のアウラ様なら容易く感知できるでしょうし、そもそも俺が背後に立った時点でその存在に気付いた筈だ」

「……本当に魔法が使えないんですね」

 

「……だったらどうだって言うの?」

 

反射的に懐の天秤に手を掛けるアウラであったが、ソレが何の力もないただの天秤である事は

この拠点にいる全員が知ってる事だ。

 

「いえいえ、別に深い意味は全くありません。それでは」

 

適当にはぐらかしたドラートは糸をアウラの首から解くとその場を後にする。

アウラの血が付着した糸をヒラヒラと見せつけながら。

 

残されたアウラは、舐めた態度を取った部下の姿が見えなくなるまで恨めしげに睨み続けた。

 

「……私の配下で一番の能無しの分際で……!」

 

しかしこれはアウラにとって苦難の序章でしかない。

 

 

 

 

別の日、アウラは拠点内の廊下をブラブラと散策していた。

すると向かいからリーニエが歩いてくる。

特に用事がある訳でもないので、お互いにそのまますれ違おうとした時、

 

「あ、アウラ様」

 

リーニエの方が声をかけてきた。

 

「……リーニエ、どうかしたの?」

 

 

 

 

 

 

 

「そこ邪魔」

 

すれ違いざまにリーニエが己の肩をアウラに軽めにぶつけてきた。

 

「──ッッぐえッ!!?」

 

肩をド突かれたアウラはそのまま廊下の壁に吹っ飛ばされる。

 

「(い──ッ痛いッッッ!!)」

 

"軽めに"……というのはあくまで魔族の基準で、

リーニエは優しく撫でたつもりでも、魔力で身体強化をしていないアウラからすれば

大柄な甲冑騎士に全力でタックルされたような強い衝撃であった。

 

「ぼーっとしてたら危ないよアウラ様?今度から気をつけないと」

 

普段は無感情気味な顔のリーニエの口角が僅かに持ち上がっており、

明らかにわざとぶつかってきたのは明白である。

 

無様に吹っ飛ばされるサマを見下し嘲笑うリーニエは

アウラがどんな怒りの文句を捲し立てるか待っていたが、

 

 

 

 

「──ッぐっ、ぐうぅぅ…………ッ!」

 

「……え?」

 

てっきり激昂しながら吠えてくると思っていたアウラは大袈裟に肩を抑えながら蹲っている。

次第に、その肩部には内出血で痣が浮かび出した。

 

「リ、リーニエ……お前……ッ!──ッうぅ……」

 

「え、え?いや……だって私、そんな強く押してないし」

 

軽く冷や汗を流しアウラから視線を逸らして気まずそうにしている。

 

リーニエの言い分は嘘半分、本音半分といった所である。

確かにアウラを軽く小突いて意地悪してやろうという意図はあったのだろう。

しかし、こんな肩に大痣が残るレベルで痛めつけるつもりは無かった。

仮にそんな事をしようものなら……

 

 

「リーニエ!」

 

案の定、リーニエの上司でありアウラの右腕が騒ぎを聞きつけてやってきた。

 

「あ……リュグナー様、えっと、これはその」

 

どう見ても自分が加害者な状況を目撃されて

オロオロしているリーニエの元へ足早に歩み寄るリュグナー。

 

「アウラ様に何かあったらどうするつもりなんだ」

 

「(そ、そうよリュグナー!ガツンと言ってやって……)」

 

ドラート、リーニエ。

両者共完全に自分を舐めているが、リュグナーだけは違う。

そう信じているアウラはこれからリーニエがどんな叱咤を受けるかほくそ笑む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我々魔族は身体強度も反応速度も普通とはまるで違うんだ」

「意識せずとも魔力で身体能力を強化できる者と()()()()できない者との差を考えて行動しろ」

 

 

 

「(………………は?)」

 

そして、リュグナーの発言と共にその笑みはすぐに失せた。

 

「……でも、アウラ様も同じ魔族」

 

「そういう話をしているんじゃない……アウラ様が魔法を使えない事を知っているのだから少しは労って接しろ」

 

「で、でもこいつ(・・・)、邪魔だったんだもん……」

 

「リーニエ」

 

拗ねた幼子のように非を認めずにいるリーニエだったが、

リュグナーの冷たい一声で観念したのか、アウラに深々と頭を下げて謝罪した。

 

「……ごめんなさいアウラ様」

 

頭を上げる際、揺れる前髪の隙間から見える瞳は

『お前のせいで怒られた』と言わんばかりに睨みつけており、

反省するつもりは更々ないのだろうが、アウラにとって今そんな事はどうでも良かった。

 

 

 

 

 

「(……『普通とはまるで違う』ってなによリュグナー……)」

「(今の私が普通の魔族じゃないみたいじゃない)」

 

リュグナーが口にした言葉は、アウラの心にズッシリとのしかかった。

 

 

 

 

その後、アウラはリュグナーから手当を受けていた。

アウラ自身は「平気よ、必要ない」と突き放したが、

痛々しく怪我を庇っている姿はどう見ても平気ではなく

廃城に残されていた包帯を肩に巻かれていく。

 

「申し訳ありませんアウラ様。リーニエにはキツく叱っておきますので」

 

「……ドラートにも言っておいて」

 

「ドラートもですか……まったくあの能無しめ」

 

舐めた態度を取ったあの2人にこれから重い制裁が待っている事に清々とするアウラだったが

 

「(『普通じゃない』……ねぇ)」

 

未だに先程のリュグナーの発言が心に刺さっているようである。

 

「リュグナー、ひとつだけ聞かせて頂戴」

 

「なんでしょうか?」

 

「……さっきのあなたの発言だけれど、あれじゃまるで私が普通の魔族じゃないみたいじゃない」

 

 

 

 

 

「おや、違うのですか?」

 

「なっ──ッ!?」

 

リュグナーは当然の事のように即答し、これにはアウラも絶句する。

 

「どう見たって違うでしょ!?私は大魔族よ、大魔族!」

「……ある意味じゃ普通の魔族ではないけど、文字通り格が違う存在!魔族の中の魔族よッ!……確かに今は魔法が使えなくなってるけど」

 

「その『魔法が使えない』というのが致命的なのです」

 

叫ぶアウラの前に掌をかざして静止させたリュグナーは

ふーっとため息を吐き出し、言葉を続けた。

 

「……アウラ様、基本的に我々魔族は力による上下関係しか持ちません。基本的には」

「しかし私は貴女様に拾われた恩がある。……これを言うべきか言わないべきかずっと迷っていましたが、この際ですのでオブラートに包まずはっきり言わせて頂きましょう」

 

「……なにをよ」

 

「今の貴女様は所謂"神輿"です。かつては魔王様直属の大魔族だったアウラ様の名前には強い力がある」

「他の強力な魔族への牽制は勿論ですが……これからグラナト伯爵領に攻め入る上でも」

 

「貴女様が魔法を使えなくなったが為に『結界を解除させた後、不死の軍勢を引き連れる』という作戦は完全にパーになりましたが、伯爵領を攻め落とす案はまた練り直せばいい」

「……しかしまずは結界の解除と、形だけとはいえ和睦の締結は必須となります。その為に貴女様を生かしておいているのです」

 

「(『生かしておいている』?いずれは私を殺すみたいな言い草をよくも抜け抜けと……ッ)」

 

聞き捨てならない発言に突っかかろうとするアウラだが、

感情を汲み取ったリュグナーが再び手で宥めさせて続ける。

 

「お怒りはごもっともですが、実際今の貴女様には何の力もないでしょう?」

「もちろん命の危機に瀕するような事態からは私も最低限お護り致しますし、あの2人には口を酸っぱくして言い聞かせます」

「ですが私は貴女の部下であってもお守ではない。過保護なまでに付きっきりというのは無理ですし……」

「……現状ただの"お飾り"であるアウラ様には、もう少し身の振り方というものを覚えて頂かないと困ります」

 

「私から言いたい事は以上です」と言ったリュグナーは軽く会釈をして部屋から出て行く。

 

1人残されたアウラは、呆然としたまま虚空を眺めていた。

 

「……なによそれ」

「"お飾り"って……なによ」

 

 

 

 

「そりゃ私だって分かってるわよ……力の無い魔族がゴミみたいな存在だって事くらい」

 

アウラは理解した。

……いや、『最初から理解していた』が、目を背けていた事実とようやく向き合わされた。

 

力による上下関係が全ての魔族に情などというものは皆無に等しい。

リュグナーを含めた配下3人にとって今のアウラは

『かしずいて付き従うべき主人』ではなく『力を失い落ちぶれ、しかし支えなければならない弱者』。

普通の魔族は力以外での情などは持たないし、計画上必須とはいえ今のアウラの存在はさぞ目障りだろう。

 

……もしかしたら、神輿として担ぐという打算込みだとしても

今のアウラにこれまでと変わらない態度で接してくれているリュグナーは

力以外の何かしらの感情があるのかもしれないが、

そんなものはアウラにとって何の慰めにもならない。

 

「なによ、なによ……どいつもこいつも……」

 

膝を抱えて蹲ったアウラは暫くすると嗚咽を漏らし出す。

どれだけ泣いても、この悪夢は覚める事はなく

かつての栄光も戻っては来ない。

 

 

 

そうは分かっていても

七崩賢の大魔族は子供のように泣き続けるのであった。

 




断頭台のアウラが配下、創作では毎回ハブられがちな首切り役人が1人
後書きのドラートだ

並のドラートなら登場した意義も見出せず
訳も分からないまま死んでいるだろう
だが俺の役割はドラート界の中でも随一
アウラ様を怯えさせる一番槍を決めるという
確固たる役割を成し遂げた。

この有終の美を飾ったまま敗北シーンごと断ち切って場面外で退場してやろう
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