アウラを人類と共存させてみた   作:やわら烏

22 / 32
エルフの時間感覚でエタってました
不定期ですが更新します


後日譚8.異名①

 

〜勇者ヒンメルの死から328年後〜

-北側諸国 エング街道-

 

 

切り立った崖壁を蛇行しながら走る狭い街道。

他の主要な街道と比べて人通りの少ないこの場所は

落石や土砂崩れを防止する為の簡素な結界が岩壁に張られているが

石畳すら敷かれていない、切り出されたままの無骨な道や

うっかり足を踏み外せば転落死は免れない断崖絶壁ぶりは

昔から何一つ変わっていない。

 

 

そんな悪路を、三人の人物を乗せた馬車が登っていく。

 

「コレを徒歩で登ってたのかもと思うとゾッとするね」

 

荷台の上のフリーレンは、300年前から変わり映えのない山道を眺めながら言う。

かつて眼下に広がっていた森林は姿を消して

畑や人工林になってしまったという点では

全く景色に変化が無い訳ではないのだが

小石が地面に無作為に転がり、馬車の車輪がガタゴトと跳ね上がる登山道の荒れようは相変わらずである。

 

「この道相当酷いからね。私も通るのは中央諸国から逃げてきて以来かも」

 

御者台のラオベンは軽く振り向きながら

馬が道を逸れないように手綱をしっかりと操る。

 

「…………」

 

そして、三人の内の残る一人はというと

荷台に揺られながら手にした本を時折りパラリと捲り

周囲の景色には目も暮れずに読み耽っていた。

 

「アウラはこの道来たことある?」

 

「…………」

 

「おーい、アウラー?」

 

「……んん?あぁ、何か言った?」

 

二度の呼び掛けでようやく意識を本から切り離した人物────アウラは

ラオベンからの会話が全く耳に入っていなかった事を隠す素振りも見せない。

そんな彼女にラオベンは怒るでもなく

もう一度同じ質問を投げ掛ける。

 

「いや、アウラはここら辺に来た事あるの?って聞きたかっただけだよ」

 

「……ん〜、たぶんないと思うわ。ずっと昔から北の方にばかりいたから」

 

「へー。……じゃあ、これから行く場所はアウラの800年の人生の中でも『新天地』って事になるね!ちょっぴりワクワクしない?」

 

「……そうね、そうなるのかしらね。まぁ……ちょっとワクワクはするわ」

 

それだけ言うとアウラは再び視線を本へと移し、自分だけの世界へと没頭した。

 

「うーん……?」

 

言う事がないから会話が続かない、というよりは

一刻も早く本の続きが読みたいが為に速攻で切り上げた、という感じ。

さっきから無愛想な態度の連続に対して、ラオベンは小首を傾げてからフリーレンに小声で問い掛ける。

 

「フリーレン、今日のアウラって……なんだか大人しくない?」

 

「ん?……確かに静かかと言われたら静かだね」

 

「いつもはもっとはしゃいでるイメージがあるけど……今は部屋で本読んでる時のフリーレンに雰囲気がそっくり」

 

「祭りで買った魔法史の本がよっぽど面白いんだと思うよ。あぁなったらちょっとやそっとの刺激じゃ外への関心は向かないだろうね」

 

そういう傾向が己にもある事を知っているフリーレンは、食い入るように本を読み進めるアウラを微笑ましく見つめる。

一方のラオベンも「そういうもんなのかね」と、今一つ共感しないまま馬車を操る事に意識を戻した。

 

「…………ねぇねぇ、ラオベン」

 

が、それから数分もしない内に

御者台に身を乗り出してきたアウラがラオベンの肩を軽く叩いた。

 

「ん、どしたの?」

 

「ほら、ここここ」

 

安全の為に馬車の速度を緩めて振り返ると

何やらにやけた表情のアウラが、魔法史の本のとあるページを指差しながら見せてきていた。

 

「あぁーっと………………、『断頭台のアウラ』……?」

 

そこは【かつて大陸に実在した恐るべき大魔族】というページで、物々しい異名と簡単な説明書きがズラリと並んでいる。

そんな中で一際目立つ、【魔王直下の大魔族・七崩賢】という項目の中に、アウラの名前があった。

 

「……どう?カッコいい名前でしょ?」

 

七崩賢として名を馳せていた頃の異名をいたく気に入っているのか

自信満々に見せつける。

 

「えと、……うーん、カッコいい事にはカッコいいかもだけど……」

 

"魔王直下の大魔族"という肩書きから

思いの外凄い魔族だったというのは伝わる。

……というより、ラオベンもそこにはだいぶ驚いていた。

 

「(魔王直下……、ってことは魔王の次に偉いって事じゃん)」

 

以前のアウラとの会話の中で

彼女が人類に対して危険な存在だったのも認識はできていたし、

勇者ヒンメルと対峙して生き延びているという事はそれ相応の悪名を馳せていたのだろうとは思っていたが

まさか魔王軍のほぼ最上位の役職というのは予想外であった。

 

つまり、それ相応に魔王軍の幹部として働き、圧倒的な力で人類を虐殺してきた訳だが……

 

「(……"大魔族"、アウラが…………ねぇ〜……)」

 

本の中の人々から畏怖された大昔の怪物────"大魔族"という肩書きと、目の前にいる等身大のアウラを結びつけるのはやはり困難らしく

恐怖や畏怖よりも困惑が勝るラオベンはいまいちピンと来ていない様子だった。

 

「それに……"断頭台"、ねぇ……」

 

また、異名である『断頭台』というのもラオベンの頭に疑問符を浮かべさせた。

これでアウラの容姿が身長2m超え、体重が100kg超はある厳つい風貌だったり

血塗れの鉄仮面を被った処刑人のような出立ちならば納得はいったのだろうが

実際の彼女は華奢な少女そのもので、杖より重い物を持てるかどうかすら怪しそうな見た目だ。

「どこら辺に断頭台要素があるのか?」とラオベンが疑問を抱くのも仕方ないのだろう。

 

「…………あっ!」

 

何か思いついたのか、拳で掌をポンと打ったラオベンはアウラに言う。

 

「……もしかして、頭の角でクワガタみたいに首を挟んで攻撃するの?」

 

「…………」

 

「あ、当たり?」

 

「……さぁねー」

 

ジトーッとした目をしたアウラが何も言わないので

己の予想が当たったのかと一瞬期待したラオベンであったが

少ししてフイッとそっぽを向き、再び本を読み耽る作業に戻ってしまった為に

外してしまったと察する。

 

「あーあ、いじけちゃったね」

 

二人の寸劇をずっと黙って見ていたフリーレンが茶々を入れる。

 

「え、えぇ〜……だって、"断頭台"って雰囲気が全然ピンと来ないんだもん!」

 

「魔族の異名は大抵は扱う魔法を由来にする事が多いから、見た目からだけじゃ判断は難しいよ」

 

「へぇ、魔法を由来に……かぁ」

 

「勿論それだけじゃないし、魔族本人の所業や経歴も含まれるけど」

 

巨大な斧を構えてよろけているアウラや、見えない魔法の刃を飛ばすアウラ。

剽軽(ひょうきん)なアウラから、意外と格好いい戦闘をするアウラなど様々な予想図を思い浮かべ

その都度吹き出しかけたり、やや感心したりとコロコロと表情を変える。

そして、ひとしきりイメージしきったラオベンは

 

「由来……由来…………お!」

 

何やら良いこと思いついた、という表情で再びフリーレンに向き直った。

 

「じゃあ私も、何かカッコいいの付けちゃおっかな?」

 

「……あのねぇ、異名っていうのは自分で付ける物じゃなくて──」

 

「えっとねー、私の場合は"高速で移動する魔法(ジルヴェーア)"でしょ?……だったらー」

 

「おーい」

 

すっかり乗り気の様でフリーレンの声は殆ど届いていない。

そして、十数年の人生で蓄積した、あまり豊富とは言えない語彙から

あれでもないこれでもないと取捨選択を続けること数十秒。

 

「んー…………よし!、『敏捷(びんしょう)のラオベン』ッ!!」

 

どうだ!という感じで自信満々なラオベン。

 

「……うーん……」

 

だが、当のフリーレンはソレを聞き、

呆れるでも感嘆するでもなく、何やら複雑な顔をしている。

そして、言うべきか否か、とボソボソと呟いた後に

 

「『敏捷なる鋭刃(えいじん)ネーエルン』」

 

と、一言だけ告げた。

 

「…………えっ、それは……どちら様?」

 

「大魔族だね、200年以上昔の。まぁ要は……もう使用済みの異名ってこと」

 

「……………………えぇ〜〜〜〜!滅茶苦茶頑張って考えたのにぃ〜〜〜ッ!」

 

まさかの名前被り。

懸命に考えて思いついた異名に先約が居た事にショックを受けたラオベンは意気消沈し項垂れる…………も、すぐに顔を上げ、

 

「だ、だったら……『神速のラオベン』ッ!これでどう──」

 

「『神速の重騎兵(じゅうきへい)モートル』。こっちも既に使われてるね」

 

言い終えるより早くフリーレンが被せた。

 

「あ、そいつらなら覚えるわ。図体がデカいやつでしょ?」

 

少し時間をおいて機嫌を直したアウラも会話に加わり、手元の魔法史の本を捲って該当のページを開き、「ほら」とラオベンに見せる。

 

「どっちも大魔族、確かシュタルクやフェルンに倒された連中だね」

 

「…………何でカッコいい異名を先に使っちゃうのかなぁー……一つくらい取っておいてくれてもいいのにぃ……」

 

「異名を付けるのは魔族本人じゃなくて人類側だから、恨むならそっちを恨んだ方がいいよ」

 

「そもそも今ここで考えた異名でどうこうなる訳でもないのだから、被るくらい気にしなくてもいいのに」という根本的な部分は思いこそすれど、フリーレンは心の内に留めた。

 

「……よーし、なら……!」

 

そこからラオベンは、思い付く限りの格好良さそうな単語をお経の様に捲し立てるが、

 

「"迅風(じんぷう)"の──」

 

「『迅風のファイゲ』、石化の大魔族の腹心だった奴」

 

「"瞬速"の──」

 

「『瞬速のグライヒ』……ついでに似たのだと『瞬歩のナーエバイ』」

 

「そんなのもいたわねぇ……どっちも落ちついてない奴らだったわ」

 

「えっとぉ、なら〜……あっ!"閃光"……いや、電光石火……ん〜〜…………よしっ!!"電閃(でんせん)"の──」

 

「『電閃のシュレーク』、これは将軍だね」

 

「」

 

一通り異名を口にしてその全てが撃沈。

項垂れて「カッコいい異名なんてどうせ一生付かないよー」といじける彼女の頭をアウラがヨシヨシと撫でる。

先程と真逆の立場になってる状況にフリーレンは吹き出しそうになるも

流石にラオベンが可哀想なので何とか堪えた。

 

「……ッ!……じゃあさじゃあさ……そういうフリーレンは何か格好いい異名はあるの?」

 

「えっ、私?」

 

撫でられて立ち直った……か、自身より子供っぽいアウラにいつまでも慰められる状況が恥ずかしくなってきたのか。

項垂れるのを辞めたラオベンはフリーレンに尋ねる。

振り向いた彼女の表情はやや悪戯っぽく

安っぽかったり安直な異名だったら揶揄ってやろう、という気が満々である。

 

「(私……私の場合は"葬送"だけれど……)」

 

フリーレン自身は別に己の異名が格好良いだの威厳の有無だのと気にした事がない。

が、世間一般でいえばそれなりにセンスがある部類なのは自覚している。

 

「(言ったら益々いじけそうだなぁ……)」

 

ここで言えば更にヘソを曲げそうだが、大人気なく正直に言おうか

それとも即興の異名でも言おうかと悩み、

 

 

「(……どうせ旅を続けてればバレるから、今言っちゃうか)」

 

 

 

「おやおやぁ〜?フリーレン様。さっきから答えがちっとも返ってきませんが……?」

 

なかなか返答が来ない事から、「これはフリーレンも大した異名が無いのでは?」と謎の確信を得たラオベンは

完全に有頂天となっている。

 

「もしやあなた様ともあろうお方に異名が無いだなんて事はまさか無──」

 

「『葬送のフリーレン』」

 

「──いとは思わ……れ………………………………」

 

「『葬送のフリーレン』」

 

「……」

 

「『葬送のフリ────」

 

「分かってるよ聞こえてるよ!『葬送のフリーレン』でしょッ!?」

 

案の定、というべきか。

フリーレンの予想通りの反応であった。

最後のささやかな抵抗も失敗に終わったラオベンは、これ以上続けてもどんどん惨めな気持ちになるだけだと

前方を向いて馬車を操る事に集中した。、

 

「…………えっ、"葬送"、何それ、ずっる。────めっちゃくちゃ格好いいやつじゃん」

 

ボソボソと聴こえてくる小言からだいぶいじけてるらしく、これは相当根に持ちそうだなフリーレンは思った。

 

「フリーレン、ラオベンは名前がついてないのが嫌なの?」

 

御者台の方から放たれる負のオーラを察知したアウラが、小声で話しかけてくる。

 

「まぁそうみたいだね……異名なんて付いててもいい事は少ないんだけれど」

 

魔族を駆除する事に専念していた時は、なるべく歴史に名を残さない様に心掛けていたフリーレンにとって

第三者が勝手に付けた異名によって有名人となる事はあまり喜ばしい事ではない。

しかし、冒険譚や英雄譚のようなキラキラしたものに憧れる年頃の子供には

実戦を想定して動くフリーレンら熟練の魔法使いのそういった機微はあまり分からないらしい。

 

「じゃあ、『盗みのラオベン』なんてのどう?」

 

「……アウラ、それ絶対ラオベンに言っちゃ駄目だよ?」

 

確実に火に油を注ぎかねない爆弾発言を嗜めながら、「どうやって機嫌を直してもらうか」と物思いにふける。

 

「ラオベン」

 

「……なに?」

 

「異名ってのはね、何か偉業を成したからこそ付けられるんだ。自分で付ける物じゃなくて、周りの人が自ずと付けてくれる」

 

「……ふーん」

 

優しく諭すような口調で語り掛けられても

ラオベンは口を尖らせたまま不服そうな姿勢を崩さない。

子供じみた理由で不貞腐れている自覚はあれど、それを認められる程大人ではないらしい。

そんな捨て鉢な態度の彼女にフリーレンは短く息を吐き、

 

「ラオベンって今何歳だっけ?」

 

「…………13歳」

 

「なら前途有望、可能性は無限に等しいね。努力次第で色んな魔法を覚えられるし、凄い偉業を成して有名になるのも夢じゃない」

 

"凄い偉業"と聞いてピクリと反応したラオベンは、やや間を置いて尋ねてくる。

 

「……ほんと?」

 

「本当だよ。歴史に名を残した魔法使い達も幼少から凄かった訳じゃないんだし、何事も小さな積み重ねが大事なんだ」

 

実際の所、フリーレンの言っている事が全て正しいかは分からない。

偉人というのは大抵幼少期から何かしらの才覚を発揮していて、それを努力で伸ばしている場合がかなり多い。

 

「(……なんて冷たい現実を今のこの子に突きつける必要はないしね)」

 

当然フリーレンもその事は承知の上だが口には出さない。

 

「(それに……何を以って『才能がある』かを決めつけられる程、私はまだラオベンの全てを見れていない。今ここで下手に"才能の有無"を押し付けても、本来あった筈の可能性を潰すだけだ)」

 

ただの気休めだけでなく、魔法使いの先達としてそれなりに考えての発言でもあった。

 

「…………分かったよ、確かにヘソ曲げてたよ」

 

ずっと仏頂面だった表情を少し和らげたラオベンが振り返りながら言う。

 

「(これは機嫌を直し……たのかな?)」

 

機嫌を直したのか、気休めと思いつつもフリーレンの心遣いを汲んでその場限りの譲歩をしたかは不明であり、

フリーレンもそこに引っ掛かりを覚えたが。

 

 

 

「あっ、機嫌なおしたみたいね……ところでフリーレン、私の可能性ってどれくらいある?」

 

「そうだねぇ、アウラは……んん〜…………前途多難、かな?」

 

「……それすごいの?」

 

「まぁ凄いよ、可能性は恐らく無限だ」

 

そうこうしている内に狭い街道を登り切った馬車は、崖の上にある小さな村の方へと走っていった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。