アウラを人類と共存させてみた   作:やわら烏

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これを書き始めた時は帝国編突入すらしてなくて
帝国の魔法文明の水準完全に舐めてました
まさか帝都でモブのロリショタがキャッキャしながら
民間魔法や魔道具使うレベルとは思ってませんでした


後日譚9.異名②

 

「珍しいですな、今時航空船や空飛ぶ馬車でなく、昔ながらの手段で村を訪れる方がいるとは。見たところ御三方は魔法使いのようで?」

 

出迎えた村長に対してフリーレンが軽く自己紹介をしようとするが

それを軽く押し除けたラオベンが先に前に踏み出した。

 

「うん、私は『無名のラオベン』。……で、こっちは『フリーレン・ザ・スレイヤー』と『アルム・ザ・ギロチン』、みんな魔法使いなんだ」

 

「おぉ、あのフリーレン様とそのご友人方ですか、よくぞこんな辺鄙な村に……」

 

 

「……ああは言ってたけど、やっぱりまだ気にしてるんじゃないかな……」

 

「フリーレン、ギロチンってなに?」

 

「なんだろうね」

 

村長に対して自己紹介をするが、やや違和感を覚えさせる……妙に口調の節々にも棘がある名乗りをするラオベンを遠巻きに二人はヒソヒソと話し合う。

 

「ほら二人とも、村長が私達に頼みたい依頼があるんだって、早く行こうよ」

 

「……私魔法使えないけどなにすればいいの?」

 

「取り敢えず行ってみようか、それから考えよう……ついでに、まだ怒ってるかの探りも」

 

村長に導かれるまま、一行は村の外れへと歩いていく。

 

 

 

「おぉー、結構古い銅像だねー」

 

「はい、村に300年ほど昔からある偉人の像でして」

 

着いた先にあったのは一体の女性の銅像で、植物の蔓や苔に覆われたソレは相当古い年代のものの様である。

依頼の内容は銅像磨き。

 

「だってさフリーレン、どんな異名のある偉人様か楽しみだねー」

 

「そうだねー」

 

この年頃の子供というのは気難しい存在で、口では「もう気にしていない」と言っていても

意外と根に持っていたりする。

フリーレンも幾度か弟子をとった経験からそこら辺は心得ており

しょぼしょぼとした独特の表情で「やっぱり少しヘソ曲げてるな」という確信を得ていた。

 

「ところでこの銅像は誰なの?」

 

「はい、こちらの銅像は……」

 

銅像についての話を進めるラオベンと村長。

今度はどうやって言い含めるかに集中しているフリーレン。

 

「…………んん〜〜?」

 

三者三様の反応の中、アウラだけはジッと

苔むした銅像を食い入るように見つめていた。

旅を始めてから銅像など、ヒンメルを含めた勇者一行の像しか見た事がないが

その誰にも当てはまらない、分厚い本を片手に携えた女性の姿を模った銅像。

 

「……フリーレン」

 

「どしたのアウラ、何か良い案でも思いついた?」

 

「この銅像なんだけど……」

 

「ん?」

 

銅像の方を指差されたしょぼしょぼ顔のフリーレンも、一緒になってその顔を見つめる。

そして何かに気がついたのか、「あっ」っと小さな声を上げた。

 

「そう、あの知る人ぞ知る────」

 

 

 

 

「これってヒルフェじゃない?」

 

村長が言い終えるより早く、アウラが答えた。

遠い記憶の中に朧げに残る少女を十数年ほど歳をとらせれば、丁度目の前の銅像と似た様な姿になる。

 

「……!知っていましたか!あの『お花のヒルフェ』を。近頃は大衆の間ではあまり語られない名前なのですが……その若さで随分と博識、流石はフリーレン様の旅路に同行されているだけあります」

 

「…………?お花……ヒル……誰それ?」

 

感心した様子の村長と、名前を聞いても誰の事やらさっぱりといった反応のラオベン。

 

「……アウラ、例の本に書いてないの?そのお花のヒルなんとかさん」

 

「あっ、それもそうね。ちょっと待ってちょうだい……」

 

小声で聞いてきたラオベンに促されたアウラは先程の本を開き、魔法史に名を残した著名な魔法使い達が並ぶページに目を通し始める。

 

「えぇ〜っと、ヒルフェ……ヒルフェ……」

 

 

『…………私ね、昔から魔法使いに憧れてたんだ』

『魔法が使えない人でも魔法が使えるようにするの!』

 

 

薬草を摘みながら聞かされた訳の分からない馬鹿らしい夢物語。

 

『うん、凄いどころか、魔法史に名前が残る程の革命的な発明だ』

 

今もその夢物語に理解や共感などは今ひとつないが、フリーレンの言っていたように偉人として名前が残ってるのは間違いない。

そう確信してアウラはページを捲り続ける。

 

「あぁー、アウラ……実はそれね」

 

「ちょっと待ってちょうだい。えっと……"ツ"……"テ"……デンケン、……"ト"……"ハ"…………」

 

何処か言いたげな表情のフリーレンを気に留めずに、順々に偉人の名前を読み上げていく。

 

「"ヒ"……"フ"……フェルン、フラーゼ、フランメ────あら?」

 

頭文字順に読んでいったが、ヒルフェの名前は一切見当たらずそのまま次の人物名まで通り過ぎてしまった。

 

「……名前ないわね」

 

「もしかして落丁してるとか?その本」

 

見当たらない原因を話し合う二人。

 

「………………ちょっと貸して」

 

そんな二人を見兼ねたフリーレンは割って入っていき、本のとあるページをサッと開く。

 

「ほら、ヒルフェの名前はここ」

 

 

※『ヒルフェ』

聖典に記されている女神の魔法や、魔法使いレルネンの造った救護ゴーレムの用いる回復魔法とも異なる、『回復薬』と呼ばれる魔法薬の原型を生み出した。

当時の民衆の間では『お花のヒルフェ』という愛称で呼ばれたという。

 

 

フリーレンが開いたページは、偉大な魔法使いの名前が羅列する章ではなく

【人類の回復魔法・医療法の進歩の大まかな歴史】という項目の一部分の注釈であった。

 

「「ちっさ」」

 

名前の隣に写真や肖像画付き、内容によっては文字の大きさや色まで変えて

功績・人物像が紹介されている偉人の章と比べると

暦とその年の出来事が延々と無機質に書かれた年表の、更に小さな注釈。

意識していなければ読み飛ばし兼ねない様な飾り気の無さである。

 

「……ちょっとフリーレン、すごく小さくしか書かれてないんだけど」

 

明らかに不満そうなアウラに対して、

言いたい事は分かる、という顔のフリーレンがその疑問に答えた。

 

「その本はあくまで大衆向けの魔法史の本だから、有名どころの魔法使い以外は割愛されちゃってるんだよ。……で、人物紹介以外の魔法に関係した事柄……魔法薬とか魔道具の歴史とかの方には、こうして関わった人物名が小さくだけど載っている」

 

「ヒルフェは有名じゃないってこと?『名前が残る』って前に言ってたじゃない」

 

「……有名ってのは例えば、大魔族から大きな街を救ったり、何百年経っても用いられる理論や魔法を確立したり……あとは一国の重要な役職に長い間就いてたりした人だね」

 

「でも『革命的な発明』なんでしょう?」

 

「あぁ……まぁ、アレは、有名かといえば有名……うーん……」

 

「それに一級魔法使いだったんでしょ」

 

「んー、それはねぇ……」

 

意外と記憶力は良い部類な為に、以前に村で聞いた説明と食い違っている点を逐一質問してくる。

「ひと言ふた言説明すれば納得してくれるだろう」とアウラの知能を若干舐めていたフリーレンにとって

ここまで質問が返ってくるのは予想していなかった。

 

「……アウラ、確かにね────」

 

そして、やや長めに思案した後、口を開き……

 

 

「…………」

 

「たしかに……何なの?」

 

「確かに……たしかに……うーむ…………」

 

再びその口を閉ざして考え込み始めた。

 

 

 

「(……確かに一級魔法使いはこの世界で頂点に位置する、魔法使いの最高位ではあるよ…………だからといって、必ずしもその名が後世まで轟くとは限らない)」

 

フリーレンの頭の中では、アウラの疑問に対しての解答が既に凡そ出来上がっていた。

 

「(一級魔法使いとして今も有名なのは、"始まりの一級"と謳われたレルネン、"黄金郷の奪還者"デンケン、そしてフェルンくらい……他の一級は殆どが歴史の中に埋もれたか、若しくは知られてても一部のマニアくらいだろうね)」

 

魔法学校などで教壇に立った経験はないし

流石に本職の教師ほど上手く説明できる自信はないが、それでも簡単な講義くらいは出来る。

 

「(そして、魔道具という分野で発明や技術革新で名を上げるには大きな障害になるものがある……それは帝国だ。大陸最大の魔法文明である帝国は当然、魔道具に関しても非常に高水準だけど、他国への技術供与は基本的に行わない)」

 

千年以上を生きる大魔法使いの知識量は下手な文献を上回っており、何より実際に見聞きしたものもあるから信憑性も高い。

大抵の質問に答えられる生き字引のエルフにとって

当時の国家間の情勢も絡めた歴史の変遷を語るくらいはお手の物である。

 

「(確かに、ヒルフェが幾名かの魔法使いと一緒に共同で開発した魔道具は『帝国の魔法技術の流れを汲んでいない』にしては確かに革命的ではあったし、当時の諸侯国にとっても喉から手が出る程欲しい物ではあった……だけど、歴史全体で見れば唯一無二の存在という訳ではない。千年以上の魔法史の中では、"革命的"ってだけじゃ埋もれてしまう事はザラに……)」

 

ただ一つ問題があるとすれば、

 

 

 

「(…………っていう小難しい話で納得させようにも、今のアウラに理解させるのはちょっと無理か)」

 

アウラの思慮分別が歴史観の論議を交わせる域に達していなさそうという事である。

 

以前、町一つが出来るまでの経緯を説明した時も最後まで聞いていなかったアウラに

理解しきれるとは到底思えない。

その後に街の老人がもっと噛み砕いて子供でも分かるレベルで同じ話を解説をしたから面倒な事にはならなかったし、

そもそも町の解説はあくまで小話程度の気持ちの解説であったから

アウラがその場で全てを理解する必要は無かった。

 

しかし、今は違う。

ただの興味本位ではなく、アウラは強い疑問を抱いている。

この疑問を解決しない限り納得しないだろうし、これからも事あるごとに同じ事を聞き続けるだろう。

 

「(村での説明は、詳細な部分をだいぶ省いちゃったからな……今度は塩梅を考えないと)」

 

……仮に普通の人が聞いていたとしても

よほど興味がなければ嫌気が差すような、歴史の授業の如く長々とした解説。

 

「(シュタルクやフェルン、ザインだったらこんな長話も文句を言わずに聞いてくれたんだろうけど……)」

 

理解出来るように掻い摘もうにも何処をどう簡略化したものか、下手に簡略化するとまた語弊を生みそうだと困り果てるフリーレン。

 

「(……ラオベンなら)」

 

お団子ヘアの少女をチラリと見る。

つい先程までヘソを曲げて、不機嫌な感情が滲み出た話し方をしていたラオベンだが

今は『不機嫌さ』よりも『目の前の銅像の正体への疑問』の方が勝るらしく

アウラと共に年長者エルフの語りに耳を傾けている。

 

「(ラオベンなら……いや駄目そうだね)」

 

取り敢えず二人に解説できるだけ解説して

あとでラオベン経由で噛み砕いた説明をしてもらう事を期待したが、すぐに諦めた。

恐らくラオベンに話しても結果は変わらないだろう。

 

「(寧ろラオベンはこういうのを聞くのはもっと向いてなさそうだ。……この前も馬車の話してる時に、『話の長いお年寄り』を見る様な目をしていたし)」

 

日常的な会話の中で披露できる豆知識となる雑学を聞くのは好きそうだが

専門的な歴史の授業を受けるのは得意ではないし好きでもない。

フリーレンがラオベンに抱いている印象は大体そんな感じであった。

 

「…………フリーレン、その、『お花のヒルフェ』さんだっけ?」

 

だがフリーレンの予想に反して、ラオベンは自分から質問してきた。

 

「…………ッ!……なに?何か分からない事があればなんでも答えるけど」

 

一瞬飛んで喜びそうになるのを懸命に堪えて、フリーレンは落ち着いた様子を保つ。

 

「(……ごめんねラオベン、誤解していたよ。ラオベンは私が思う以上に勤勉家で、歴史への関心を示せる子だ)」

 

自身が勝手に決めつけていた事への謝罪と同時に、解説を円滑に進められる助け舟への心よりの感謝。

 

「何から聞きたい?アウラが言ってるのは『ヒルフェが考案した魔道具』についての事だろうけど……それとも『一級魔法使い』について?これはね、少し訳ありで……かくいう私も実は……」

 

ラオベンがどんな疑問を口にするかは定かではないが、どんな質問が来てもいい様に

フリーレンは先程の脳内文章を頭の中で箇条書きに分割していく。

 

「あっ、いや、そういうのが聞きたいんじゃなくてね」

 

「うんうん……じゃあ何が知りたい?」

 

「んー、知りたいとかでもなくてね……」

 

ラオベンの次の発言をフリーレンは今か今かと待ち侘び、

 

 

 

 

「なんか……"お花の"って異名は……あんまりカッコよくはないよね。何ていうか、近所のガキンチョから付けられた渾名って感じ」

 

「……………………あー、うん…………それだけ?」

 

「うん、それだけ。だって凄い偉人らしいからどんな異名が付いてるのかと思ったのに、何か拍子抜けしちゃって」

 

「…………それだけ……かぁ」

 

だいぶガックリきて肩を落とすフリーレン。

勝手に期待を寄せていた自分も悪いとは思いつつも、もう少しいい感じの質問を求めていただけにやるせない気持ちになる。

 

「まぁ……確かに格好よくはないだろうけど……でも、そんな事言っちゃ駄目だよ?人様に失礼だし……それに、ヒルフェはアウラにとって────」

 

そしてすぐに沈んだ気持ちを切り替える。

今回は対象がヒルフェというのと、この場には村長しか居ないから良いものの

ラオベンの発言は対象や場所を誤れば、偉人などを研究する歴史家やマニアなどを怒らせかねない可能性がある。

 

「(そういう点への注意喚起は今の内に済ませとかないと、何処で失礼をやらかしちゃうか分からない。それに……)」

 

今のアウラにとってヒルフェはそれなりに思い入れがある存在である。

この発言を聞いて気分を良くする筈が……。

 

 

 

 

「ラオベンもそう思ったのね、私もなんか……パッとしないというかダッさい名前だと感じたわ」

 

「でしょでしょ?捻りがないよね」

 

……意外にもアウラは別段怒ってはいなかった。

それどころか同意を示す始末であった。

 

「(…………???……怒らないのか?)」

 

予想外の反応に唖然としているフリーレンを他所に、二人はどんどん会話を重ねる。

 

「"葬送"とか"電閃"とか聞いた後だと尚更気劣るというか」

 

「そうね、あとは"断頭台"とかね」

 

「もっとほら、"百花"とか"花弁"とかありそうなもんなのに」

 

「あと"断頭台"とか」

 

「何かさ〜……知名度のある人ならもうちょい陳腐じゃない異名つけてあげられなかったの?って思っちゃうよね〜」

 

「その通りね、聞けば聞くほどに……いろんな部分でこう、残念なかんじが……」

 

故人に対して何ともまぁ言いたい放題の二人。

そんな二人の様子を黙って見ていたフリーレンだが、流石にここらで口を出そうかと迷っていた。

 

「……おーい、二人とも。まだ話は終わってなくて──」

 

「あっ!そういやよく分からない変な異名といえば、昔爺ちゃんから聞いた事があって……」

 

「へー、なになに?」

 

「おーい」

 

『事あるごとに喧嘩をして、指示が全く耳に入らず取っ組み合う少女達』という例はフリーレンにも覚えがあったが、

この二人の場合は逆に、精神年齢がどっこいで尚且つ馬が合う為に会話が弾んで周りを忘れるパターンの様だ。

 

「(聞いちゃいないな……。とはいえ、こういう時に注意しないのもあまり教育上よくない気がするし……だけど)」

 

駄目な方にブーストが掛かって会話の枷が外れかけてる二人に水を差したいところだが、

じゃあそこから二人を大人しくさせながら簡潔な講義が出来るのか?という懸念がフリーレンの中に渦巻いている。

 

「何でも戦士の……確か、なんか動物みたいな異名だったようなー……」

 

「ほら、がんばって思い出して!笑う準備はもう出来てるから!」

 

「(…………困ったなぁ)」

 

どんどん無駄話が白熱する二人を前に腕組みをしながら、完全に手詰まりといった様子のフリーレンは渋い顔をするばかりである。

もういっそ、飽きるまで話させて

後でゆっくり教えればいいやという投げやりな考えも過りだし……、

 

 

 

 

 

「……ゴホン!」

 

「「……ん?」」

 

雲行きが怪しいのを察したのか、はたまた中々銅像磨きに移らないから痺れを切らしたのか、

ゴホン、と一回咳き込んだ村長が口を開いた。

 

「ヒルフェといえばやはり、こちらの著書が有名でしょうか」

 

そう言って懐から一冊の分厚い本を取り出した。

 

「……あ、その本……」

 

アウラはそれに見覚えがある。

確か、以前に町で野草採集の際に用いた物と同じ本であった。

 

「あっ!その本は知ってるよ。うちの爺ちゃんが山菜採る時によく見てたから」

 

続いてラオベンも声を上げる。

 

「この図鑑は今でも身近な生活の中で用いられますが、流石に著者まで把握している者はそう多くはいません故……」

 

「へぇ〜、アウラの言ってた人ってこの本を書いた人なんだ。そりゃあ偉人だ…………あっ、だから"お花"って異名なのか」

 

「えぇ、彼女は大陸のほぼ全ての植生を網羅し書き記した、正に植物学の権威……つまる所『植物学者』といったところでしょうか」

 

「ほぇ〜〜」

 

なるほど、とウンウン頷くラオベンと

日頃から村の子供へのお話などでこういう説明に慣れてる為か

だいぶ分かりやすい説明をする村長。

 

「…………ヒルフェの名前────いえ、異名の由来はなんとなく分かったわ」

 

そしてその会話にアウラも加わる。

難しそうな内容に付いていけてないのかと思われたが、今の所は理解できている様で

心なしか先程よりも精悍(せいかん)な顔つきになっている。

 

「で、ヒルフェはやっぱり植物を使う魔法使いだったの?」

 

アウラは彼女が実際に魔法を使う場面を一度も見た事はないが

アルム村の記念館にあった"花の冠を作る魔法"の魔道具から

恐らくそうだったのではないかと推察する。

 

「……確か、かのヒルフェは()()使()()()()()()()とは聞いています。……しかし、得意な魔法までは申し訳ながら把握しておらず……」

 

「ヒルフェが得意としてたのは確かに"植物を操る魔法"だよ」

 

そこからバトンタッチする様にフリーレンが話した。

 

「近代の魔法はその場にある自然物を利用するのが通説だからね、そこら辺は上手くやってたよ。……"防御魔法"や"一般攻撃魔法"は難ありだったけど」

 

「……ふーん」

 

その説明に曖昧な反応を示すも、取り敢えず直近の疑問はある程度解消された様子のアウラ。

それを見て少しホッとしたフリーレンは、村長に近づき小声で話す。

 

「すみません、お手数お掛けして」

 

「いえいえ、近頃は村の子供も昔話に興味など示しませんから。私も久々に話せて嬉しい限りです」

 

年長者同士、手のかかる子供の相手は共感できる部分があるらしく

言葉にせずとも意思疎通が取りやすいらしい。

 

「フリーレーン!じゃあ早速、このヒルフェさん像を磨こう!」

 

当のラオベン(手のかかる子供)は、何処から持ってきたのか

タワシの入ったザルを抱えて銅像の側からこちらに声を張った。

 

「……分かった分かった、今行くよ。けど、そんな物使わなくても"銅像の錆を綺麗に取る魔法"があるからね」

 

溜め息を吐きながらフリーレンも銅像の下へと向かう。

 

「じゃあアウラには、蔓や苔を落とすのを手伝ってもらおうか」

 

「…………うん、分かったわ」

 

振り返ったフリーレンがアウラにも呼び掛ける。

 

「……どうかしたの?」

 

「いえ…………別に」

 

また何か疑問がぶり返したのかと不安を抱くフリーレンだが、アウラは特に口には出さず

銅像の下へと付き従った。

 

 

 

 

その日の夜、村の離れの廃屋を借りた三人は

床に寝袋を敷いて就寝に入る準備をしていた。

 

「思ったより手間取っちゃったね。魔法でパパッと終わると思ったのに」

 

「そうだね、意外と苔がしつこかったから。明日は銅像の周りの雑草毟りまで済ませれば依頼完了だ」

 

フリーレンとラオベンは、寝袋から顔を出しながら明日のスケジュールの把握をしている。

 

「それじゃ明日は早いから、もう灯りは消──」

 

「……フリーレン」

 

「ん、なに?」

 

さぁ寝ようかと灯りに手を伸ばした時、ラオベンが囁いてきた。

 

「あ、あのさ……!」

 

「どうしたの?」

 

「…………ほんとはまだ根に持ってたんだ……異名がどうとか……ごめんね」

 

寝袋から顔を半分だけ出しながら、気恥ずかしそうに言う。

 

「……なんだそんな事か。別に怒ってないよ、子供なら異名とか二つ名に憧れるものだし」

 

「そっか……ありがとう……あっでも、ヒルフェさんとやらが"防御魔法"や一般攻撃魔法"が得意じゃないのは意外だっなー。これなら私も案外、すぐに偉人として歴史に名前を刻んじゃったり……」

 

「魔法の修行となったら私もみっちり指導するからね?」

 

「……おやすみなさーい!」

 

都合が悪い話になったからか、それとも照れ隠しなのか

話を切り上げたラオベンは寝袋に潜り込んで寝息を立て始める。

 

「あっコラ…………全くもう」

 

その振る舞いに呆れを覚えつつも、

 

「(……初めて会った時より少し子供っぽい。まぁ、悪い傾向ではないか)」

 

街道でコソコソ盗賊紛いをしていた時より年相応になっており

旅の仲間としてだいぶ曝け出してきている事に

フリーレンは安堵していた。

 

 

そして、もう一人の旅の仲間の方へクルリと向き直る。

 

「ラオベンは寝ちゃったし……アウラも寝る前に話したい事とかある?」

 

あれからアウラは、ずっと何か考え込んでいる様な表情をしていた。

それが気掛かりだった為に、今ここで話を聞いておきたかったのだ。

 

「…………フリーレン」

 

「なに?」

 

「…………村長が言ってた、『ヒルフェが()()使()()()()()()()』……だけれど」

 

「……あー、そのことね」

 

「その……『植物学者』、とかで有名なのよね」

 

「……そうだね」

 

そこまで言われて、フリーレンもアウラが言いたい事が飲み込めた。

 

『魔法使いでもあった』

 

魔法使いであった彼女が、まるで魔法使いとして以外で有名かの様な言い方が

アウラはずっと引っ掛かっていたのだ。

 

「異名がパッとしないのはちょっと……残念だったけど、仕方ないしまだ分かるわ……でも」

「なんか……よく分からないわ。魔法以外で有名になるってことは」

 

「……でも、アウラだって碧輪草(へきりんそう)を探してた時にあの図鑑を楽しそうに見てたでしょ」

 

「それとこれとは別よ。戦士ならともかく、魔法使いが歴史に名前を残すって、その……つまりは…………すごい魔法使いだった証でしょ?」

 

魔族という生物は、魔法という分野に価値観の重きを置き、強い誇りを持っている。

魔法使いでありながらその他の事柄で著名になるというのは、魔族としての精神構造がだいぶ破損しているアウラとっても理解し難い事らしい。

 

「それに、魔法史の本にも名前がほとんど載ってないじゃない」

 

「……アウラ、あの魔法史の本は子供向……大衆向けで、幾らか簡略化されてるんだよ」

 

「…………そうなの?」

 

「うん、今度大きな街に行った時に、もっと専門的で分厚い魔法史の本を買おう。そっちなら載ってるかも……いや、確実に載っているよ」

 

そう強く言い切るフリーレンの様子から

アウラも怪訝な顔を和らげる。

 

「そう……なのね。楽しみだわ」

 

「うん、楽しみだね」

 

ひと安心……かどうかは分からない。

これからもこういった価値観の違いからくる疑問をアウラが投げ掛けてくる事は幾度もあるだろう。

 

「(……今日みたいな事にならないように、もっと子供に寄り添った説明の仕方の練習をしとくか)」

 

しかし、フリーレンは千年を生きる大魔法使いである。

問題にぶつかる度に、その解決策を編み出してきた。

それと何ら変わりはない。

例え行き詰まったとしても、アウラを見捨てずに少しずつ歩み寄ろうと決意を固めた。

 

 

「じゃあ灯りを消すね。明日も忙しく──」

 

「フリーレン…………最後にひとつだけ」

 

今度こそ灯りを消そうとしたフリーレンを

再びアウラが呼び止めた。

 

 

 

 

「リュグナーやリーニエの名前…………あとドラートもだけど。あいつらの名前も、もっと詳しい魔法史の本なら載っているの?」

 

「……それも、街に行ったら探してみようか」

 

そう言ってフリーレンは灯りを落とした。

 

 

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