アウラを人類と共存させてみた   作:やわら烏

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私は何か選択を間違えてしまってたようですね

私も平穏に過ごそうと努力しましたし
村長からざっくり同じような事言われたし
頭の角の形もだいたい私と一緒なのに
ここまで人間からの待遇が違うだなんて

もしや角を一本に減らすのが決め手だったんでしょうか?


5.小娘に魔法の知識を自慢するじゃない

あれから1週間が経過した。

 

「(あっという間の1週間だったわ)」

 

アウラはヒルフェと一緒に野草採集に出かけている。

懇切丁寧に植物の解説をしてくれているヒルフェの横で

アウラはここでの生活を思い返していた。

 

「──で、これが食べられる野草で」

 

「(……ひたすら種を植えるだけの退屈な1週間)」

 

「──こっちは食べたらダメな毒のある木の芽」

 

「(3日目で鍵付きの納屋から移って母屋で寝させて貰えたのはちょっと有り難かったけど)」

 

「──このキノコを食べたら脳みそが鼻から溶け出て死に至って」

 

「(まだクソガキは懐いてないけど、他の2人からは少しは信頼を得られたんじゃないかしら?)」

 

 

「──アルムちゃん、ちゃんと説明聞いてる?」

 

「ん?……あぁ、ごめんなさい。ボーっとしてたわ。……何か最後に凄い解説があったのだけは聞いてたから安心しなさい」

 

打算的な事に思考を巡らしていただけなのだが、ヒルフェはやや不安な表情になった。

 

「……もしかして、まだ傷が痛むの?」

 

今のアウラは、川底を流された時の傷痕や

兄妹と出会った時に返り討ちにされた打撲痕が

未だに身体に残っている。

 

「傷?……まぁ、まだ痛い事には痛いかもしれないわ」

 

怪我の痛みそのものは既に癒えたのだが、同情を誘えると思ったアウラは

またも平気で嘘を吐く。

 

「ごめんねアルムちゃん、あの時はお腹を思いっきり蹴っちゃって……」

 

「……顔も殴られたわね」

 

「──ッ!…………ごめんなさい」

 

襲おうとしたアウラに10:0で非がある筈なのに、

ヒルフェはシュンとして謝罪の言葉を述べる。

 

「そこまで言うなら許してあげる。だから他の雑そ……"野草"も教えなさい」

 

「うん。……じゃあこの黄色い花についてだけど、これが一番危険で──」

 

再び真剣に解説を始めたヒルフェの横で、アウラは

ある意味では真剣な表情でそれを聴いていた。

 

「(……雑草(・・)なんてほんとは食べたくもないけど、ここから逃げ出した後で人間以外の物も食ってかなきゃいけないだろうし)」

「(しっかり知識として吸収しといてあげるわ)」

 

 

 

 

「いっぱい採れたね」

 

「えぇそうね。だけどこんなに山程、雑……野草を採って保存は効くの?」

 

「うん。"植物が傷むのを遅らせる魔法"があるから」

 

「民間魔法ってほんとに何でもあるのね」

 

中身が一杯になった籠を背負った2人は帰路についていた。

 

「……そういえば、お兄ちゃんからアルムちゃんが人の魔力が見れるって聞いたんだけど」

 

「(あのクソガキなんでもペラペラ喋るわね)」

 

「その……私の魔力って、どのくらい……かな?」

 

今のアウラに自他共に魔力を認識する事はできない。

しかし、ヒルフェの方をジーッと見つめ

少し考えた後にアウラはこう口を開いた。

 

「…………そうねぇ、"結構すごい"ってところかしら?」

 

「ほんと!?」

 

「ええほんと。スゴイスゴイ」

 

素直にはしゃぐヒルフェだが、 

 

 

「(取り敢えず魔力が凄い凄いって褒めときゃ気をよくするでしょ)」

 

そんな彼女を尻目にアウラは、"嘘を言った"事への罪悪感もなく淡々と心の声を呟く。

 

「嬉しいなぁ。…………私ね、昔から魔法使いに憧れてたんだ」

 

「へぇ、そう。なれるといいわね、魔法使い」

 

アウラの思惑など露知らず、己の夢を語る無垢な少女と

口八丁の出鱈目を騙る大魔族。

 

「(まぁ、こんな何の変哲もない家の人間の魔力量なんてたかが知れてるでしょうけどね)」

 

他人の夢に興味などなく適当に聴き流し、

好感度稼ぎに成功した事へのしたり顔を浮かべるアウラであったが

 

「…………ん?そういえばあなたさっき、民間魔法を野草に掛けるって言ってたわね?」

 

何となく流していた話の内容の"ある部分"に引っかかりを感じてヒルフェに聞き返す。

 

「……?そうだけど」

 

「魔法が使えるならあなたも自分や他人の魔力を探知して認識できるんじゃない?」

 

「あー……魔法を掛けてくれるのはお父さんで、私にはまだ使えないんだ」

「お父さんも『ヒルフェはすごい魔法使いになるぞ』って言ってはくれてたんだけど」

「……ほら、大人の人って自分の子供に甘い事言うじゃない?だからほんとなのかなー?って」

「でもアルムちゃんが言うんだったらお世辞じゃないんだろうね!」

 

 

 

「…………そう、なのね」

 

平静を装うも、アウラの顔は僅かに強張り、額に冷や汗が流れる。

 

 

 

「(この家に来る前からずっと魔力は制限していたけど、危なかったわ)」

「(もし制限を怠っていたら、私本来の膨大な魔力をあの男に見られていた)」

「(もしそうなったら、今頃は伯爵領に突き出されていた可能性も──)」

 

自分の思い通りにコトを運べていると思い込んでいたが、

気づかない日常の中に爆弾が潜んでいた事実に身震いする。

 

「──でね、私、魔法使いになったらやってみたい事があるんだ!」

 

気を引き締め直しているアウラに対してヒルフェは意気揚々と夢を語り続ける。

 

「あら、何がやりたいの?……もしかして、『他人を意のままに操る』とか?」

 

「ううん違う」

 

「じゃあ、『何万もの軍勢に護られて、絶対的な優越感と安心感に浸る』とか?」

 

「うーん、そういうのじゃないんだ……なんだかアルムちゃんってたまに物騒な事言うよね」

 

「人の勝手でしょ。私はそういう事が楽しいと思ってるだけ」

 

500年間人間を雑兵として使い倒してきた大魔族の認識は一般的な人類のソレから逸脱しており

魔法が使えなくなった今もそこは変わらない。

 

「ならあなたは何がしたいのよ」

 

「うん、私はね────」

 

 

予想が全て外れたアウラの質問に、ヒルフェは得意げに答える。

 

 

 

 

「魔法が使えない人でも魔法が使えるようにするの!」

 

「……はぁ?」

 

「だってみんなが魔法を使えないなんて不公平でしょ?」

「それに、それならアルムちゃんも魔法が使えるようになるかもしれないし」

 

 

アウラは拍子抜けしたような表情をする。

 

『魔法が使えるようになる』

 

普段のアウラなら、自身の現状を打開し得る、メリットしかない発言にほくそ笑んだのかもしれない。

 

「──プッ!……アッハッハ!!」

 

しかし、しばらくして破顔したアウラは大爆笑した。

 

「え〜、そんなにおかしな事言ったかな?」

 

「アッハハ──ゲホッ!……だ、だって、あんまりにもおかしいんだもの……ッ」

 

むせ返る程笑った後、ようやく正気に戻ったアウラは口を開く。

 

「無理よムリムリ。魔法っていうのは選ばれた者だけが使える代物なのよ?」

「基礎的な魔力量はもちろん、緻密な魔力のコントロール、そして魔法として撃ち出す最低限の強さがなくては話にもならない」

 

「そ、そうなの……?」

 

「ええそうよ。勿論それで終わりじゃないわ」

「それらをクリアして、初めて魔法使いとして初歩的なステージに立てるの」

「今言った3つの要素の終わりない研鑽と、自分に合った魔法の模索・探究、他にもたくさんやる事が待っている」

「で、大多数の凡人はその初歩的なステージにすら立てていないわ」

 

「……だ、だけど!それをみんなが出来るように私が──」

 

「それが文字通り夢のまた夢だと言ってるのよ」

「── 魔力は誰にでもあるものだけど、"魔法が使えない人でも魔法が使える未来"なんて絶対来ない。断言できるわ」

 

久しぶりに魔法の知識を披露できる余り、饒舌になったアウラの長話が終わる。

魔法において数百年以上のキャリアを持つ先輩として

的確に残酷な事実を突きつける。

恐らくこれは、魔族でない人間の魔法使いに聞いたとしても

こう返す者が一定以上いるだろう。

 

「むぅ……でも、私は」

 

「分かってるわよ。夢を見るだけなら誰だって出来るんだから。いつか私が言った事実を思い知るまで、精々頑張りなさい」

 

内心は叶わぬ夢を抱く少女を見下しつつも

取ってつけた激励だけは送るアウラ。

 

「……いつかみんなが魔法を使えるようになったら、真っ先にアルムちゃんに使わせてあげるからね?」

 

「それは嬉しいわね。ちょっとだけ期待しといてあげる」

 

その言葉に、顔を赤らめて照れるヒルフェ。

 

「……じゃあ、今の私がアルムちゃんに贈れるのは……コレしかないけど」

 

そして少しモジモジした後、何か意を決した彼女は

籠の中に隠していたナニカをアウラの頭に乗せた。

 

 

「アルムちゃん!この1週間、お仕事お疲れ様!」

 

アウラの頭に乗せられたのは、一本の綺麗な花の冠であった。

 

「えへへー、とっても似合ってるよ!」

 

「……?えーっと………………"ありがとう"?」

 

キョトンとした顔で、アウラはお礼を述べる。

 

「……それじゃ私は先に家に戻ってるから!アルムちゃんも早く付いて来てね!」

 

照れ隠しなのか、家の方に駆けていくヒルフェを遠巻きに見ながら

アウラは、貰った花の冠を手に取りじっと見つめる。

 

「たしか、『人間は何かの記念に贈り物をする"習性"がある』ってマハトが昔言ってたわね」

「……これがその贈り物ってやつ?」

 

もう生きてるかどうかも分からない、昔の同胞の言葉と

ヒルフェから貰った現物を照らし合わせながら

しげしげと観察する。

 

 

 

 

 

 

「……なんなのかしら。こんな花の輪っかに、いったい何の意味があるの?」

 

その意図が分からないアウラは、頭に冠を乗せ直すと家の方へ歩いて行った。





……そうか……

……わからないのか……

……なんということだ……


可哀想に……
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