アウラを人類と共存させてみた   作:やわら烏

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ふんッ!!ふんッ!!
いいッ!!いいぞぉ!!
アウラが共存できる環境が温まってきたぁ!!


7.牢屋は暗いし怖いじゃない

 

森の上空をフリーレンはアウラを掴んで飛行していた。

その運び方はいつかのリーニエの時のような丁寧なものではなく、

縄で縛り上げたアウラをぶら下げる形でだが。

 

「……一体なんの真似なの?」

 

宙吊りのアウラは質問を投げかける。

 

歴史上最も魔族を葬ってきた魔法使いの不可解な行動。

本来の彼女であれば、どれだけ魔族が追い詰められた状況下であろうと

情など一切挟まず"駆除"する筈である。

 

「…………さっき衛兵から聞いた話だけど」

 

それまで押し黙っていたフリーレンが、ようやく口を利いた。

 

「衛兵が行った民家に住んでた男……お前について聞かれた時、なんて答えたと思う?」

 

「…………?」

「(そんなの、うちにこの魔族が居ますとか、そういう感じでしょ?)」

「(だから私は逃げてきたのよ。それ以外に何があるというの?)」

 

己が吐いた嘘が全て暴かれた為に逃走を図ったのだ。

言っている意味が分からないという感じのアウラの困り顔を見たフリーレンは

その心情を察したのか、発言の続きを口にする。

 

 

「……『こんな魔族は知りませんな』」

「『うちは4人家族で、私と子供3人で暮らしている』……だってさ」

 

「……」

 

「どうしたんだ?……

 

 

 

……『そんな筈ないじゃない』って思ってる?」

 

「──ッ!」

 

「やっぱりそうか」

 

図星だったらしく、反応したアウラを見てフリーレンは溜息を吐き出す。

 

「本当に魔族は馬鹿だね。悪意も罪悪感もなく…………そして善意も分からない」

 

「あの家の人は上っ面だけとはいえ従順に溶け込もうとしていたお前を受け入れて、嘘をついてくれたんだ」

 

「……」

 

「『他人の為に何かをする』だとか、自己の利益に繋がらない事とはほぼ無縁の魔族(おまえたち)には理解し難い感情だ」

 

「逃げずにあの家に残っていれば、少なくとももうちょっと安全に暮らせただろうに」

「まぁそんなの見逃すつもりはないし、無理やりでも引っ張り出してたけど」

 

「…………」

 

「多分お前が私に言った事は本当で、人間の家で問題を起こす事なく、形上は"共存"出来てたんだろう」

「だけどそれは客観的に見た話だ。……お前の内心は違うんでしょ?」

 

「…………」

 

「どうせ『行く宛てがないから仕方なく取り入ってやろう』だとか、『魔法が使えるようになるまでの辛抱だ』とか、面従腹背な気持ちで──」

 

「……ッ!?ちょっと待ちなさい!」

 

何も言い返せず、ひたすら沈黙を続けていたアウラであったが

ここにきてその沈黙を破った。

 

 

 

「なに?……お前が『待って』っていう時は大抵"鳴き声"を発する予兆だからもうウンザリなんだけど」

 

「……なんで私が魔法が使えないって知っているの?」

 

アウラと首切り役人しか知らない筈の情報。

それを何故かフリーレンが把握している。

 

「……そういえばお前は知らなかったね。なんで私が『お前が魔法を使えない事』を知っているのかと……」

 

「なんでお前が魔法が使えなくなったのかを」

 

フリーレンは片手でアウラを繋いだ縄を握りながら

もう片方の手で一本の杖を取り出した。

アウラからすればもう目にするのも嫌なほどの全ての元凶を。

 

「……それは」

 

「そう、1ヶ月前にお前が例の古代遺跡で見つけたものだ」

 

 

「あの後伯爵領に持ち帰ってから、この杖について調べてみたんだ」

「そしたら色々な事が分かってきてね。この杖が製作された目的は────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『魔族から未来永劫(・・・・)魔法を奪う事』だ」

 

 

 

「──────今、なんて」

 

「まぁ言いたい事は色々あるだろうけど、最後まで聞いてほしい」

 

聞き返そうとするアウラを制し、フリーレンは己の調査結果を話し続ける。

 

「まずこの杖……便宜上『魔族殺しの杖』とでも呼ぼうか」

「この杖には2つの魔法術式が刻み込まれていた」

「一つは、『杖を握った魔族の魔力に反応して自動で魔法を発動する魔法』。…………そしてもう一つは」

 

 

 

「『握った者の心臓に封魔鉱を生成する魔法』だ」

 

 

【封魔鉱】

魔法を無効化する特殊な鉱石。

純度や大きさによってその効果範囲は変わり

その希少さ故に高額な値打ちが付く。

また、物質の中でもある最大級の硬度を誇る、

魔力を強く込めると発光するなど、様々な特徴を持つ。

 

 

 

「魔族の高い身体能力は、体内の魔力を用いた肉体強化によるものだ」

「だから、"魔法"を無効化しても魔力までは無効化出来ない封魔鉱でどうこう出来るものじゃないと思われてたんだけど」

「なにぶん、魔法による加工は勿論、一切の解析すら受け付けない物質だからね。未解明な部分が多いから、『人類が魔法と定義したものと、封魔鉱が魔法に含むもの』は若干異なるらしい」

 

「そして、杖を握った者──しかも魔族に限定して、心臓に封魔鉱を生成して魔法を使えなくする」

 

フリーレンは己の胸の辺りを指でトントンと叩いてジェスチャーする。

 

「正確には心臓の真横辺りだろうね。仮に心臓内部に生成されてたら血流が狂ってとっくに死んでるだろうし」

 

「……でね、どうやってその効果が分かったかって言うと」

 

長々とした杖の効果の説明が済んだフリーレンは、今度はその判別方法を解説し出した。

その間も、アウラは黙って……いや、絶句したまま何一つ口を挟まない。

 

「生け捕りにした魔族……名前はリーニエだっけ?そいつにこの杖を無理やり握らせたんだ。そしたら案の定魔法が使えなくなったみたいでね」

「『魔法を返して』とか『アウラ様と同じようになるなんて嫌だ』とか、すごい泣き喚き出してた」

 

「私も魔族は嫌いだけど、流石に悪趣味が過ぎるからすぐ介錯してやったよ」

「そしたら塵になって消えた彼女の死体の中から小さな封魔鉱が出てきたんだ」

「ソレが中々に凄くてね、人1人……いや、"魔族1匹分"の範囲の魔法だけを無効化するように大きさや純度が計算されて────」

 

「──待ちなさいよ」

 

研究者の解説というよりは、嫌いな相手を絶望させる為の悪意の籠った嫌味になり始めていたフリーレンの話を

アウラは再び遮る。

 

「今度はなに?もしかして配下が殺された事にでも憤った?」

 

「……未来永劫、魔法が……使えなくなる?」

 

「そうだね」

 

「……あるんでしょ……?い、石を……取り除く方法が」

 

 

「無い」

 

 

フリーレンはきっぱり断言する。

 

「悪いけど、これはお前が魔族だからとかは関係ない。無理なものは無理だ」

 

「今の人類の魔法技術に、『身体を切り開いて心臓付近の異物を取り除く事』なんて不可能だ」

「仮にどうにか出来る魔法があったとしても、体内の封魔鉱が魔法を妨害するだろうけどね」

 

「もちろん、この杖に説明書みたいなものは何処にも書かれていなかったから、製作目的は私の憶測に過ぎないけど」

「こんな限定的な魔法術式を組み込むくらいだ。恐らく、製作者の目的は魔族の無力化の可能性が高い」

「きっと魔族のことが憎くてしょうがない魔法使いの産物なんだろう」

 

「あっ、そんな話してたらもう伯爵領が見えてきた」

 

ほら、と指差すフリーレンの先には城壁で護られたグラナト伯爵領がある。

 

 

 

 

 

「────離せ」

 

フリーレンからの宣告で、生気を感じさせない青褪めた顔をしているアウラが呟く。

 

「ダメに決まってるだろ。お前を逃すつもりは」

 

「……縄を離せと言ってるの。ここから落とせと」

 

「……この高さから落としたら死ぬよ?」

 

 

 

 

 

「──ッ!!殺せッ!リーニエは殺したんでしょ!?だったら私も──」

 

「だからダメなんだって。お前への沙汰はグラナト伯爵に任せるんだから」

「そんなに死にたければ舌を噛み切ればいい。魔族は二枚舌なんだから舌くらいあるでしょ」

 

「…………ッぐゔぅぅ……ッ!」

 

それっきりアウラは小さな嗚咽を漏らすだけとなり

フリーレンの方も一切口は開かなかった。

 

やがて、伯爵領に着いたフリーレンは事の顛末と、アウラの今の状態をグラナト伯爵に話して引き渡した。

 

 

アウラの1ヶ月に及ぶ逃亡劇はこうして幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

アウラは今、地下牢に幽閉されている。

窓すらなく、換気もされていない為にカビっぽい空気で澱んでいる鬱屈とした環境。

 

「(未来永劫、魔法が使えない)」

 

獄中のアウラは虚ろな目で、同じ言葉を何度も脳内で繰り返していた。

 

「(魔法が使えない……一生?)」

「(そんなのあり得ない、だって私は大魔族じゃない)」

「(500年以上積んだ研鑽は?これまでの努力は?…………七崩賢としての私の全ては?)」

 

 

「(七崩賢……あぁ、そういえばまだ"アイツ"が)」

 

自分以外の存命の七崩賢。

アウラの脳裏に『万物を黄金に変える大魔族』の姿が一瞬過ぎったが

 

「(無理よね。他人に興味はないし、生きてるかすらも分からない)」

「(……助けになんて絶対来ない。……私だってそんな事しないもの)」

 

彼は魔族の中でもとりわけ他者に対する興味が薄い。

何より、個人主義な気質が強い魔族という生き物に他者を気にかけるような奇特な精神を期待するだけ無駄な話だ。

 

 

コツン、コツン

 

 

地下牢の廊下に、衛兵の鎧以外の足音が響いた。

近づいた足音は、アウラのいる牢屋の前で止まる。

 

「こうした形で会えるとは光栄だな、断頭台のアウラ殿」

 

「…………あなたが、グラナト伯爵ね」

 

「そうだ、この伯爵領の領主にして……10年前にお前に息子を殺された者だ」

 

 

「(…………ああ、ようやくね)」

 

ボロボロの姿で床に座る自分を見下ろす、グラナト伯爵の冷たい目線。

肉親の仇を捕縛しているのだから、これから待っている運命は自ずと分かる。

だが、その運命が今のアウラには救いに思えた。

 

「あら、それは悪い事したわ。私ってば、何万人も操ってきたからその中に御子息がいたのね」

「えーっとぉ、"ごめんなさい"、"助けてください"?」

「……で、私の刑の執行はいつなの?」

「二つ名に因んでやっぱり斬首刑?……それとも王道の縛り首かしら?」

 

生殺与奪を握られて尚、いけしゃあしゃあと喋くる牢内の大魔族。

その発言内容に、控えていた衛兵達は困惑、或いは

いつ怒りを爆発させてもおかしくないグラナト伯爵の機嫌を伺うようにソワソワとし始める。

 

「あぁ、それとも『楽には殺さない』とかそんな感じで慰み者にでもする?」

「人間って美しい異性に目がないのよねぇ?……自分で言うのも何だけど、私って結構美形だから欲情を煽ったりするんじゃない?」

 

不用意に相手を挑発し、相手の神経を逆撫でるような発言のオンパレード。

人間に対して疎いアウラは、自身が持てる限りの語彙力を総動員して

敢えてこれらの発言をする。

アウラは一刻も早く『解放される』事を望んでいた。

 

 

どれだけ必死に生き足掻いても、魔法が戻って来ないと分かった今

アウラにとっては"死"こそが最大の解放であったからだ。

 

 

 

 

しかし、

 

 

 

「じゃあ早速後ろに引き連れてる兵士達で手篭めにでもする?私ハジメテだからなるべく優しくして貰えると────」

 

 

 

 

 

 

 

「すまなかった」

 

グラナト伯爵は、深々と頭を下げる。

 

 

 

 

 

 

「────は?」

 

「(なにを謝っているの?こいつは)」

 

人間の感情を理解出来ないし理解する気が露ほどもないアウラといえ

この意味不明な行動には疑問符しか浮かばなかった。

 

「……いやいや、何を謝ってるのよ。私はあなたの息子の仇なのよ?だったらほら──」

 

「息子を殺された事を許す気はないし、これからもそうだ」

「だが、リュグナーと会話して分かったんだ」

 

アウラを遮って、グラナト伯爵は語る。

 

 

 

 

 

 

「お前達は、その………………人を殺さずにはいられないんだろう?」

「つい最近にもフリーレン殿から伺ったんだ。『魔族は人の声真似をするだけの猛獣』だと」

 

「"そういう生き物"なのに我々の価値観を押し付けて無理強いをするというのは酷な話だ」

「……いや、そもそも人ではないのだから我々の法律に則って裁きを下す事がおかしな話だな」

「お前達魔族(けだもの)の事を全く理解せず、適切とは言えない対応をしてしまったことを、どうか詫びさせて欲しい」

 

すまないすまない、と朗らかな笑みでアウラを見下ろすグラナト伯爵。

 

 

「──なにそれ……?……なによそれ」

 

 

人間の感情などわからないし、興味がない。

 

 

しかし、穏やかな顔で

魔族という生き物への侮蔑の混じった話し方をするグラナト伯爵に対し

アウラは何故か、死に対する達観の念が消え

代わりに心の内から沸々と怒りが沸いてくる感覚を覚えた。

 

「────ッ!!!なんなのよそれッ!!私が憎いならそう素直に言いなさいよッ!!復讐しなさいよ!!!?」

 

「確かに憎いが、それは人に向けるべき感情だ」

「動物にその憎しみを向けても滑稽なだけだろう?」

 

「黙れッ!私は大魔族よ!!お前達人間よりもずっと偉大な存在だ!!」

 

「なるほど、やはり野生の獣にも強弱や優劣を用いた順位制の縦社会があるのか」

「そうでなくては餌の取り合いになり兼ねないだろうしな」

 

「お……お前の息子なんて虫ケラのように殺してやったわッ!!何の意味もなく────」

 

「あぁそうだな、その通りだ」

 

「黙れえぇぇッ!!!!私は──ッ!わ、私は────ッ!!」

 

側から見れば、癇癪を起こした子供とそれを諭す親のような構図。

アウラが絶叫して捲し立てようとも、グラナト伯爵は穏やかな振る舞いで

風に揺れる柳の如く全ていなしていく。

 

 

「はあ……!はあ……!」

 

ひとしきり喚いたアウラ。

喉が枯れる寸前まで大声を出した彼女は

目元に涙を浮かべて、呼吸が荒れ、肩で息をしながらグラナト伯爵を睨みつけるばかりだ。

 

「……全くもって凄いな、この獣は。ここまで人語の真似が上手い生物は儂とて初めて見たわ」

「お前達もそうは思わんか?」

 

「えっ!?……は、はい!確かに凄いですな!このおん……獣は」

「え……えぇ全く!こんな猛獣は大陸中探してもいないでしょう!」

 

突然グラナト伯爵に相槌を求められた衛兵達も、話を合わせる。

 

「ではアウラ殿。儂はここらでお暇させてもらおう。……安心してほしい。我々は貴殿を害さないし」

 

「貴殿の事を害する存在は、一生ここに現れないだろう」

「心ゆくまで静寂な世界を堪能されよ」

 

そう言うと、グラナト伯爵と衛兵達は牢を後にした。

 

 

「……ッ!人間の……に、人間の……分際で…………ッ!!」

 

最早何も言い返せず、硬い床を殴りつけるアウラを残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「閣下、よろしかったのですか?」

 

「……なにがだ?」

 

「いえ、あの化け物をそのまま生かしておいて……」

 

「あぁ、問題ない」

 

先程までアウラの前で見せていた柔らかい表情は失せ、

グラナト伯爵の顔には煮えたぎるような憤怒の感情が滲み出ていた。

 

「フリーレン殿とも話し合ってこうすると決めたのだ」

「あいつら魔族は人間の言葉を話せても対話は不可能だ」

 

 

 

 

「ならばこちらもそれに倣うまでの事」

「アウラは我々で幽閉し続ける。この伯爵領が続く限り、永遠にな」

 

 




私の魔法は決して味わいたくないと思った不幸せな夢でさえも実現できる
悪夢と見紛う程のほの暗い牢獄の中で
アウラは尊厳を砕かれながら呻吟するのです
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