この言葉はね、魔王様が教えてくれたの
私達の祖先は、人をおびき寄せて捕食する為に
物陰から「助けて」という単語を発する魔物だったの
それが長い年月を掛けて、人の言葉、人の姿、そして人の振る舞いを模倣し
現在の魔族になったという訳よ
だけど現在に至るまで私たちの内面は人類とは大きく異なったまま
この世に誕生してから永い生涯を天涯孤独に暮らす私達に
寂しいという概念はなく、
他者と触れ合うことでの喜びもない
ただ己の魔法を研鑽し続けることでの充足感こそが生き甲斐と言えるわね
そんな人類と共存すら叶わない私たち魔族が
未だに意味を理解せずに人類の言葉を発し続けるの
面白いでしょ?
〜勇者ヒンメルの死から29年後〜
『アウラ様……』
────リーニエ!?てっきり殺されたとばかり……!
『アウラ様、ごめんなさい。……あんな偉そうな態度を取っちゃって』
『私、魔法が使えなくなるのがこんなに辛いだなんて知らなかった……ッ!』
────そんな事を気にしていたの?……安心して、もう怒ってないわ
『……ほんと?』
────えぇほんとよ。……正直ここから逃げ出せる算段はない。だけど、問題ないわ
────こうして大切な配下と出会えたんですもの!魔法が使えなくたって、お互いに──
「──── 助け合って、いき……ま……ショ…………ウ?」
アウラが目を覚ますと、自分以外は誰もいない冷たい牢の中だった。
「……リーニエ」
アウラは膝を抱いて蹲った。
◇
〜勇者ヒンメルの死から31年後〜
『アルムちゃん!今日も畑仕事に行こうか!』
────もう少し寝かせてください……
『アルム起きろよ!ぐずぐずしてたら毛布ひっぺがすぞ!?』
────うるさいわねユンゲ……
『……じゃあアルムちゃん、一緒に野草を摘みにいかない?』
────しょうがないわねぇ、分かったわよ!今起き──
「────るか……ら」
「…………」
「寒い……」
◇
〜勇者ヒンメルの死から50年後〜
「……なぁ、お前聞いた事あるか?」
「何をだよ」
「『地下牢の怪物の話』だよ!」
「夜な夜な、『たすけてぇ……たすけてぇ……』っておどろおどろしい声が聴こえるっていうアレ!」
「……アレはただの噂話だろ?」
「そうじゃねぇって!絶対にいるんだよ怪物が!」
「なんでも、ずっと昔にこの屋敷の地下牢の最深部に閉じ込められた魔物が今も呻いていて……」
「俺はここの衛兵になって10年になるが、そんな話聞いた事がないな」
「数年前に辞めた衛兵隊長の爺さんも、この伯爵領で魔物が捕えられただなんて話、一度もした事なかったぜ」
「そもそも結界が阻んで魔物なんて入れねぇだろ」
「なんだよつまんねぇな……ただの作り話なのは俺も分かってるし、ちょっとくらい乗ってくれてもいいじゃねぇか……」
◇
〜勇者ヒンメルの死から57年後〜
ねぇ、誰かいないの?
あれから何ヶ月経ったの?何年経ったの?
……何十年経ったの?
〜勇者ヒンメルの死から90年後〜
誰か、私に話しかけてよ
魔王様…………マハト……グラオザーム……ベーゼ……シュラハト
〜勇者ヒンメルの死から94年後〜
だれか、助けて、助けて、助けて
リュグナー、私を助けてくれるんじゃなかったの……?
魔法が無い……苦しい
"孤独"が辛い……苦しい
私が何百年も生きた証は、なにも残らないの?
〜勇者ヒンメルの死から106年後〜
生きた証……生きてきた意味
……私はなんのために生きてきたの?
〜勇者ヒンメルの死から120年後〜
ここには"虚無"しかない……くるしい
辛い、辛い、辛い、辛い…………痛い、痛い、痛い、いたい、いたい、いたい……
〜勇者ヒンメルの死から130年後〜
たすけて、たすけて、たすけて、たすけて
〜勇者ヒンメルの死から135年後〜
〜勇者ヒンメルの死から150年後〜
〜勇者ヒンメルの死から200年後〜
〜勇者ヒンメルの死から250年後〜
〜勇者ヒンメルの死から────
「たすけて」
いいじゃないか
年月の経過が僕の死後表記で
僕は百年後も千年後も"ヒンメルの死から〇〇年後"として使われて
実質暦になる
そうすればフリーレンも寂しくない