脱社畜を目指してパルデア1のブラック企業に勤める話 作:永久冬眠
3メートル程吹き飛んで行ったギンガ団の男と慌てふためく研究所の上司を尻目に、僕は目の前の少年トレーナーの元へ駆け寄って大怪我を負った彼のポケモンに応急処置を施した。
幸いにも彼の手持ちのポッタイシの怪我は命に関わるものではなかった。とはいえ、このまま放置しておく訳にはいかない大怪我である事は事実。ギンガ団のお偉方を僕が殴り倒した事に顔を青くして、何か叫んでいるおっさん主任も殴り飛ばして、少年を引き連れ近場のポケモンセンターへと向かった。
ポケモンセンターの中でポッタイシの治療を待つ間、少年と話をした。彼の名前はコウキ、フタバタウンの出身で半年ほど前にポケモン図鑑を貰って、現在は図鑑を埋めながらバッジを集めて、いつかはシンオウリーグに挑戦したいのだと言う。
現在集めたバッジは2つ、まだまだ序盤の駆け出しもいいところだ。最近伸び悩んでいる事もあって、人目につきにくい山奥で修行に勤しんでいたところをたまたまギンガ団と鉢合わせ、その悪事を目の当たりにしてしまったようだ。
僕はコウキ君とポッタイシに対して事情を説明して、謝罪の言葉と共に頭を下げた。そもそも僕が奴らを放置していなければこんな事にはならなかったかもしれないのだと。
「情けない話、あの時僕はギンガ団を殴り飛ばしたが、僕がとった行動のツケを払わされた君達には僕を殴る権利がある。だけど警察機関へ僕を突き出すのは少しだけ待って欲しい。研究所へ戻って少しでも証拠を集めたいんだ。彼らの悪事のね」
コウキ君とポッタイシはもとより感謝こそすれど、恨んでなどいないと快く許してくれたが、僕はもちろんそれだけで許されたなどと思ってはいない。
コウキ君と連絡先を交換した後、彼をポケモンセンターに残し、僕は研究所へと向かった。先の一件から半日も経っていないからか、まだ気絶しているのか、主任も帰ってきておらず、いつも通り部下に迎えられた。
これ幸いと、僕に与えられた研究室に駆け込み、今までの研究資料と証拠になりそうな資料をかき集め、ついでに主任の部屋も漁っていたところ、流石に様子がおかしいと思ったのか、部下の一人が僕と一緒に出て行った主任に連絡を取ったらしい。
これ以上研究所にいるわけにもいかなくなったようなので、騒ぎになる前に出ようとしたところで、部下から通報を受けた研究所に駐在するギンガ団員が3人で入口を塞いでいた。
「悪いね、コヨミ博士。だけどアンタちょっとやり過ぎだよ。俺たちも手荒な真似はしたくないから、大人しく捕まってくれないかな」
3人の中でも面識があった男が僕を説得しようと声をかけてきた。手荒な真似はしたくないなどと言ってはいるが、僕は既に取り返しのつかないところまで足を踏み入れている。一度裏切りの素振りを見せた僕が今後この組織で、認められる筈がないし、はいさよならとタダで放逐されることもないと分かっている。
「どうやら、止まってくれないみたいだね……残念だよ」
そう言って彼らは手持ちのスカタンクとヘルガー、アゲハントを僕へけしかける。スローモーションのようにゆっくりと迫ってくるポケモンたちを見ていた僕の手が、ふと腰のホルダーについたモンスターボールへと伸びている事に気がついた。
親友が死んでしまってからというもの、バトルのためにそこに手を伸ばした事は一度も無かった。いざバトルをしようとボールへ手を伸ばすと、何故だか手が震えてボールを握れなくってしまうのだ。
何故だか、では無い。
最初から分かっていた。
大事なのは
僕は再び仲間を失うのが怖かっただけだ。
僕だけが恐れていた。
一緒にバトルをしようと旅の仲間に誘っておいて、リーグ挑戦を道半ばで辞めた事、皆は怒っていたのかもしれない。
親友の死を言い訳にして、皆ともっと向き合わなかったことを恨んでいるのかもしれない。
いや、恨んでなどいないか。
こんなに情けないトレーナーを見捨てずに、今まで寄り添ってくれたのだから。
僕が投げたボールから出てきたルカリオが一瞬、不安そうに僕の顔を見た。
ごめんよ、心配かけて。
でももう僕は覚悟を決めた。
まぁ、失うつもりなど毛頭無いけどね。
僕の目を見たルカリオは「やっとか」とでも言いたげに、呆れるような笑みを一瞬浮かべて、迫っていたポケモン達を牽制する。
ルカリオはコヨミの目にかつてのかつてのトレーナーとしての輝きが少しだけ戻ったように思えた。
所内ではバトル嫌いで有名だった僕が手持ちを繰り出した事に驚いているのかギンガ団員達は目を見開いている。
「これでも僕は、シンオウチャンピオンのライバルだった男なんだぜ………
舐めてもらっちゃあ困るねぇ………!」
決まったぁ………!
フフフと不敵に笑う僕を見るルカリオは、呆れたようにため息をついて、そういえばワタシのトレーナーはどうしようもなく格好つけたがる人だったと、在りし日の思い出を浮かべながら頭を押さえて首を振った。
他の手持ちについても追々