脱社畜を目指してパルデア1のブラック企業に勤める話   作:永久冬眠

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プロローグ side シロナ 1

 

 その日は突然やってきた。いつものようにリーグの仕事をこなしつつ、シンオウ地方の神話に関する新しい文献を少し(・・)散らかった自宅で読み耽っていた時。

 

 今はほとんど使わなくなった古い携帯端末から着信音が鳴り響く。

 

 この端末のアドレスを知っている人間は一人しかいない。

 

 

 いつもの端末とは違う着信音に驚いて、それが誰からの着信かを理解すると同時に椅子から転げ落ちるように立ち上がり少し離れた机の上に置かれた端末に手を伸ばそうとして、足元に放置されていた文献の紙束に躓き尻餅をつく。

 

 

 きゃん、と少女のように短い悲鳴を鳴らしながらリビングの大窓から庭を見れば、相棒であるガブリアスが呆れたような三白眼でこちらをじーっと見つめている。

 

 

 いや、いい加減片付けろよ

 

 

 と、言外に言っているようなガブリアスの視線に気恥ずかしさを感じ頬を赤く染め、咳払いをして改めて端末を手に取る。画面に表示されているのはコヨミの三文字だけ。

 

 

 最後に彼に会ったのは10年ほど前だっただろうか。当時10代だった私と同時期にバッジ集めの旅をしていたコヨミという少年を思い出す。

 

 

 彼とはジムバッジを求めて訪れた最初のジムで出会った。初対面はなんてことはない、ただの同世代のトレーナー。

 

 ただ彼とほぼ同時期にジムバッジを集め始めた私は行く先々で彼と出くわした。最初こそストーカーなどと茶化していたが、余りにも行き先が被っていたので暫く一緒に旅をしていた時期もあった。

 

 

 当時の私は若かったこともあり、とにかくバトルに勝つ事に固執していた。一方でコヨミは勝とうが負けようが楽しめたのならそれでヨシというスタンスだった。その能天気な姿が当時の私には眩しくて、何故こんな奴にバトルで負けるのか理解できなくて、素直に仲良くはできなかった。

 

 だからそう、出会って暫くは険悪だった。私が一方的に嫌っていただけなのだけれど。

 

 

 

 ある日毎度の恒例行事のように、次の街への道すがらで出くわした私達は、いがみ合いながらも次の街へと歩調を合わせて歩いていた。

 

 

 街に着くまで半分を超えたあたりの山道で土砂崩れで街へのトンネルが塞がれてしまって、食糧等をついた先で調達する予定だった私は仕方なく彼のキャンプにお世話になった。

 

 本当に癪だったけど世話になっている手前何か手伝わせてほしいと、料理の手伝いを願い出たが、彼からは想像以上に危なっかしく見えたのか、真顔でこれ以上何もしないでくれと言われた時には流石にはっ倒してやろうかと思った。

 

 

 焚き火のそばに置かれた丸太に腰掛けて炎を見つめていると、その奥で手持ちのポケモン達と談笑するように一緒に料理をするコヨミのすがたが見えた。

 

 

 

 彼の手持ちのヌメラという小さなドラゴンタイプのポケモンが彼の鳩尾に頭を擦り付ける。ヌメラから発せられた粘液で彼の服は汚れているが、彼はそれを気にする様子もなく、愛いやつよのーと、おちゃらけたように撫で回している、その状態のままルカリオやルガルガンに触ろうとして容赦なく拒否されて落ち込むコヨミ。そんな彼に再び突撃するヌメラと、濡れていない箇所に優しく触れる他のポケモン達。

 

 

 

 

 最後にあんな風に心の底からポケモン達と笑い合ったのはいつだっただろうか。最後にガバイトをあのヌメラのように抱きしめたのはいつだっただろうか。決して私は相棒のガバイトや他のポケモン達を蔑ろにしていたつもりはない。でも、彼らを見ていると本当にそうなのだろうかと疑問に思えてしまうのだ。

 

 

 

 

 ああ、どうりで私は勝てない訳だわ

 

 

 

 

 ボールから出たガバイトをじっと見つめる私をガバイトは不思議そうに首を傾げて見返した。

 

 

 今よりもさらに幼い頃、卵から孵ったばかりのフカマルだったこの子に無邪気に抱きついてさめはだで顔が擦り傷だらけになって、心配するフカマルをよそにケラケラと笑ってた頃を不意に思い出した。

 

 

 私がガバイトの頭に手を伸ばそうとすると、ガバイトが頭を引っ込めてしまった。嫌われてしまったのかと思ったがそうではない。この子はただ自分のさめはだで私が傷つくのが嫌だっただけ。成長して、見た目に気を使うようになった私を見て、私を傷つけまいと我慢していたのだ。

 

 

 バトルにばかりかまけていた私はそんな事にも気づけていなかったらしい。

 

 

 私の手から逃れようとするガバイトの頭を両手で掴んで抱き寄せ、今までの分を取り返すように撫でる。ガバイトに触れている肌がズキズキと痛みを訴えるが関係ない。この痛みも含めて私の相棒(ガバイト)なのだから。そう言葉にしてみると、今まで心にのしかかっていたバトルへのある種使命感のような感情は不思議と消えていた。

 

 

 私もガバイトも静かに涙を流して暫く抱き合っていた。彼は気を遣って私たちの視界に入らないように少し離れた場所にいってくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルーを入れる前の火をかけたカレー鍋を放置して。

 

 

 

 

 

 

「あ"あ"!?タマネギが消えてる!?」

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