脱社畜を目指してパルデア1のブラック企業に勤める話 作:永久冬眠
タイトルを変えて短編でもいい気すらする
明日、無事に土砂が撤去されたトンネルを抜けて、街に到着したら私達はいつものように現地解散する事になる。
私はもっと彼を知りたいと思った。別に恋愛感情とかではない。多分。少なくともこの時はまだ。
彼と彼のポケモン達との在り方を見ていると、私が目指すべきトレーナーとしての姿が見えてくるような気がしたのだ。
だから暫くの間、コヨミに同行させてほしいとお願いした。まさか昨日まで自分を嫌っていた人間が、頭を下げて旅の同行を願い出るとは思っていなかったのかたじたじとした様子で私の頼みを了承した。
それから暫く、もっと具体的には6つ目のバッジを獲得するまで一緒に旅を続けた。彼との旅はとにかく大変で、忙しなくて、楽しいものだった。具体的にどうだったのか?………それはまた今度。
でも間違いなく、私の人生の中で最も鮮やかな青春の記憶と言えるわね。
先にも述べたように、6つ目のバッジを獲得した頃にはお互いにシンオウリーグへの挑戦という目標が見えてきた。私とコヨミは友人である以前にライバルでもある。
当然、お互いリーグに挑戦する以上そろそろ手の内を晒し続けるのも不味いなという互いの同意もあり、別々に旅をする事に決めた。
次に会うのはシンオウリーグで、挑戦する前に先にバトルをして勝った方が先にリーグに挑もうと約束をして。まあ、近況報告くらいはしていたわ。
澄まし顔で彼と別れたけど、正直彼との旅が名残惜しいと思っていたのは内緒。
お互いにジムバッジを8つ集めいよいよシンオウリーグへの挑戦権を得るころには流石に自分の気持ちにも気付いていた。彼と旅をして、彼と別れておそらく理解した。多分私は彼が好きなのだろう。私は恋愛事は得意ではないし、経験もない。コヨミともう一度会って、バトルをして、勝っても負けても気持ちは伝えよう。そう心に決めて私はチャンピオンロードの先でコヨミを待っていた。彼もそろそろここにくるはずなのだ。けれど、待てど暮らせど彼はやってこない。
数日経ったある日突然、コヨミからリーグへの挑戦をやめるというメッセージが届いた。
何の説明もなくただやめるというメッセージだけを伝えられた私は疑問と怒りの感情でいっぱいだった。メッセージだけで済ませていいような内容ではない。私との約束はどうしたんだと、私は彼に通話をかけて問い詰めた。出会ったばかりの頃のように、私が一方的に捲し立てるように。しかし、飄々とした彼にしては珍しく、どうにも要領を得ない回答にむしゃくしゃした私は彼から聞いていた故郷の話を頼りに彼の実家へと向かった。
彼の家は小さな町はずれにある湖のほとりに建っていた。近隣の住民に聞き込んでようやく見つけ出した。どういう事だと息巻いて彼の家を訪ねると、ドアを開けたのはコヨミのお母様だった。息子から話はいつも聞いていたわと、私を笑顔で家に迎え入れてくれた。
彼のお母様に事情を話すと彼女は悲しそうに顔を沈めて
「そう………ごめんなさいね……貴女にもまだ言っていないなんて、なら私から説明するわけにもいかないわね………どうか直接会ってあげて」
そう言って2階にあるコヨミの部屋へと通された。
ノックをしてドアを開けようとしたが鍵がかかっていた。どうにか開けてもらおうと声をかけようとしたところでがちゃりと鍵が開く音がして、少しだけドアが開いた。中から顔を覗かせたのは彼のルカリオだった。ドアの隙間から部屋の中を覗くと、その他の彼の手持ちのポケモンも部屋の中にいた。全員が悲痛な面持ちでベッドにしゃがみ込むコヨミに寄り添うように体を寄せていた。
目を疑った。私の目の前にいるのは本当にコヨミなのかと。私にどんな悪態をつかれてもヘラヘラと受け流していた彼の姿はそこにはなく、どこを見ているかも分からないような暗い眼をしていた。
「何が……あったの」
声を震わせながらやっとの思いでしぼり出した声にようやく、コヨミが反応を示した。
「……どういう事か……説明して……どうして」
そう彼に詰め寄ろうとして、ルカリオに腕を引かれて引き止められた。私がルカリオの方を見やると、彼女はただ私を見つめ、部屋の窓から見える大きな木を指差した。
彼の家の庭でも一際目立つ大きなモモンの木。その根本に何かが建っているのが見える。あれは………墓標?
ふと振り返るように彼の部屋を見渡す。
ルカリオ、ドラパルト、ヌメラ、ミミッキュ、ブラッキー………旅の途中で何度も見た、彼の相棒達。そこにいつもあった彼と一際仲のいいポケモンの姿がない事に気付いた。
「ねぇ………ルガルガンは……?」
声にもなっていないような掠れた声でコヨミに問いかける。
ルカリオはただ私を見つめ、もう一度あのモモンの木を、その根元を指差すだけだった。
「ッ………!」
もう声は出なかった。コヨミに何と声をかけたらいいのか。私はその答えを持ち合わせていない。下手な慰めは彼を傷つけるだけだ。
本当ならこの場で想いを告げて、引きずってでもシンオウリーグへと向かうつもりだった。
出来る訳が無い。
どうしていいのかも分からない私はいつの日か私の相棒にそうしたように、彼の頭を抱き寄せていた。
「……ごめんなさい」
事情を知らなかったとはいえ、アナタに酷な事を求めたこと。
アナタの悲しみを和らげる方法がわからないこと。
相談もしてもらえなかった自分の頼りなさ。
何に対してのごめんなさいだったのか私にもわからない。数分か数十分かその状態が続いて、落ち着きを取り戻した私はまたいつかと言い残して彼の家を去った。
彼が立ち直るにはきっと長い時間がかかる。自分の相棒を失うなんて考えたくも無い事だ。その悲しみは想像もつかない。
だから私は彼が置いてきた分も背負ってリーグに挑んだ
彼が、彼の親友と共に歩んだかもしれない道を
チャンピオンの座を掴み取った。
「もう、10年も経つのね………」
音を鳴らし続ける端末を眺めて物思いに耽っている私をいつの間にか部屋の中に入ってきていたガブリアスが小突く。
はよでろ、ヘタレ。
「違うわよ!躊躇ってないってば!」
もう、失礼ねと、端末の通話ボタンを押すと聞こえてくる、懐かしくも、少しだけ低くなった彼の声。
「ゴメン、タスケテ」
「は?」
「ヒェ」
10年ぶりに聴く彼の第一声は助けを求める声だった。
でも、最後に会ったあの時の雰囲気ではない。
私と共に旅をしたかつての