脱社畜を目指してパルデア1のブラック企業に勤める話 作:永久冬眠
「………皆の衆、由々しき事態だよ……」
パルデア地方のテーブルシティ郊外の人目につかない草原にキャンプを設営したコヨミは、自身の相棒であるポケモン達に語りかける。
いつになく深刻そうな主の雰囲気に彼のポケモン達も真剣な顔で息を呑み、コヨミの顔を見つめて続きを促す。
「………無いんだ………!」
━━━━━━ごくり
「…………仕事がっ………!!」
━━━━━はい、解散解散、きのみ採ってくるわねー。
手をパンパンと叩きながら歩き去っていくルカリオがそう言っているような気がした。
シンオウを揺るがすスキャンダルから早一週間、パルデア地方にて冒険を兼ねた職探しの旅を開始したコヨミだったが、シンオウ地方からやってきた前歴が怪しすぎる男を正規で雇用してくれる会社等は見つからず、希望していたテラスタルとやらの関連事業に関しても、一般人に対する募集はかけていないとのことで出鼻を挫かれる形となったのだった。
ぞろぞろと周囲を散策しに向かう自身のポケモン達を横目に、コヨミはテーブルにパルデアの地図を広げ、一匹残ったヌメラを膝に乗せ、その柔らかい体躯をムニムニと揉みしだきながら明日の目的地を吟味する。
「ここから近場で目ぼしい街は…………チャンプルタウン、か…………何々?えーと、ビルの多いビジネス街であり、大人な食べ歩きを楽しめるB級グルメもたくさん………か、どう思う?ヌメラ?」
「ヌメェ〜」
コヨミの問いかけに対して、顔(身体?)を揉まれて気持ちがいいのかご満悦なヌメラはまるでメタモンのように身体をふにゃふにゃにして目を細めて鳴いた。
「………うん、何言ってるか分からん………どういう感情?それ…………まぁ、パルデアに来てからキャンプ続きだったし、補給の為にも行きますかね、チャンプルタウン」
「ヌメェェ〜」
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「…………ところでヌメラはいつになったら進化するんだい?」
「ヌメッ……」
太陽も山の影へと隠れ始め、空が茜色に染まる頃、数時間程ヌメラを腹に乗せて空を見上げていたコヨミはふと、ずっと疑問に思っていたことを口にする。
ヌメラはコヨミの手持ちの中で一番の新参ではあるが、シンオウ地方の湿地帯にて一匹でほっつき歩いていたのを捕獲してから、もうかなりの年月が過ぎている事に違いはない。
パルデアに来てからはリハビリも兼ねて野生のポケモンとのバトルをさせたりしているが、ヌメラでありながら明らかにそこいらのポケモンとは比べ物にならないレベル差を感じるにも関わらず進化はしない。
「ヌ、ヌメェェ………」
一瞬びくっと身体を揺らしたヌメラ自身も、いつまで経っても進化しない自分に思うところがあるのか、何処か申し訳なさそうで哀愁漂う顔をして鳴き声を漏らす。そんなヌメラの様子を見たコヨミは少し焦ったようにヌメラを顔の位置まで抱え上げて目を合わせて話す。
「ごめん、ごめん……責めてるわけじゃ無いんだよ、単純に気になっただけだよ………君の様子を見るに、進化したく無い訳じゃ無いんだね?」
「ヌメッ!ヌメッ!」
ヌメラはぶんぶん!とコヨミの手から転がり落ちそうな勢いで、身体全体を縦に振る。
実を言うとコヨミにはヌメラが中々進化できない理由に何となく心当たりがあった。
「……………ごめんね………君の大事な成長期に、僕はバトルをやめてしまった……もしかしたら、僕のせいなのかもしれない」
━━━━━━━━違う!そんな事無い!
ヌメラは内心そう叫びながら、さっきとは逆に力一杯に身体を横に振った。
本当の所は未だわからない、コヨミの言う通りなのか、ヌメラに進化するだけの素養がなかったのか、或いは………
「見てごらんよヌメラ、君のご先祖様は鋼の殻をもってたんだって」
「ヌメェー」
主の体が今の半分くらいの大きさだった頃、見せてもらった図鑑に載っていた遥か昔の同族の姿を思い出す。巨大な鋼の鎧を纏う姿を見て憧れ、自分もいつかこうなりたいと強く願った。
「あっ、今の時代のヌメルゴンはこっちね」
「ヌメェッ!?」
━━━━━えぇ!?ヤダ!僕も鎧欲しい!!
仲間の一匹が命を落としたのは、そんなやり取りの数週間後の事だった。
実のところ、今までに進化の予兆は何度か起きていた。ただ、ヌメラが思い浮かべる
理想の進化を遂げる為に。
━━━━━僕が進化したら、みんなを護る盾になるんだ。
あの日泣き叫ぶ主を見てから
もう二度とこんな思いはさせないのだと。
道は自分で定めた。
━━━━━だから今は、弱いままの僕を許してほしい。
うるうると目に涙を浮かべながら、じっとコヨミの目を見つめるヌメラを見てふっと息を吐いたコヨミはヌメラに語りかける。
「……まっ、君がどんな姿であろうと僕は気にしないさ」
「ヌメ………」
「それに………」
コヨミは未だ表情の暗いヌメラを懐に抱え直し、全身を使って抱きしめる。
「君が大きくなっちまったら、こうやって抱っこできなくなっちゃうからね」
「ヌッ……ヌメェッ〜!」
嬉し恥ずかしと言った様子で身じろぎするヌメラに一安心したコヨミは、散策から戻ってきた他のポケモン達の姿を見て、ヌメラを地面に下ろしてから、急いで晩御飯の用意に取り掛かった。
本当は叶わない願いかもしれないけれど
何物も通さないあの鋼殻に
仲間を守る鉄壁の盾に
どうしようもなく憧れた
弱いままでいるつもりはないけれど
少しだけ、
━━━ヌメラ
曰く、最弱のドラゴンポケモン。
しかし侮る事なかれ、
一度愛した者ならば、何があろうと守り抜く。
そんな気高い夢をみる、
慈愛に満ちたポケモンである。