願い灯りの契約者   作:朱花

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その精霊は旅に出る

 それはただのランプであった。

 誰が何の目的で作ったのか、それすらも分からないそのランプは、大噴火と共に地中に埋もれることとなる。

 火山灰に埋もれながら長い時を過ごしたそのランプの中には、いつしか意思すらも薄弱な下級の精霊が宿っていた。

 精霊は再び長き時をランプの中で過ごした結果、精霊としてより大きな存在となるため、自己を確立する依り代となるものを探し始める。

 再び長い時を浪費しながらも薄弱な意思で考えている最中、精霊はとある一つの感情を知覚した。

「願い」。 そう形容されるその感覚を微弱ながらも知覚した精霊は、それを依り代として、つまり「願いを叶える精霊」としての自己を確立していく。

「願いを叶えたい」純粋な小さな思いは、波打つ水のごとく精霊の中で自己を拡散させ、精霊の存在をより大きなものへと成長させていくことになる。

 三度長い時を使いながら、精霊はランプの中で「願い」を持った人間がこのランプを手にするときを待ち続けるのであった。

 

 ★

 

「はぁ…はぁ…」

 

 少女は孤児だった。

 遊牧民の侵攻により壊滅した国の、生き残りの孤児だった。

 少女は遊牧民に捕まり、奴隷として売り払われる寸前で逃げだしたが、その代償として家族を失った。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 少女には力が無かった。

 逃げることに精一杯で食料も水もなく、着の身着のまま逃げ出したため寒さを凌ぐ服すら無い。

 少女の体力は限界に達していた。

 

「誰か…誰か…助け、て」

 

 しかし少女の願いは誰にも届かない。

 いや、仮に届いたとしても誰も救いはしない。この大陸において、力のない者は搾取されるだけの存在なのだから。

 

「死にたく、ない。 私は…《生きたい》」

 

 そんな願いをポツリと口にする。

 もはや少女の命は風前の灯であった。

 

 ★

 

『願い』を感知した精霊はランプの中で歓喜する。

 火山灰に埋もれ、荒廃した廃都で初めて感じる純粋な『願い』を感じて。 

 しかし、難点もあった。 

 精霊はランプの中から自発的に出ることはできない。 どうにかしてランプの外に精霊は出たかった。

 少女の「願い」を叶えるために。

 精霊は一縷の望みを託して、少女に自らの存在を知らせるべく、ランプを発光させるのであった。

 

 ★

 

「だ…誰……?」

 

 極限状態によって神経が研ぎ澄まされた少女は、精霊が灰の下から発する淡い光の存在に気がついた。

 深く積もった火山灰は悠久の時を経て、もはや人間に、ましてや死にそうな少女に掘り起こせるはずがなかった。

 

「お願い……私を、助けて」

 

 少女は最後の力を振り絞り、枯れるような声を発した。

 少女の『願い』を感知した精霊は歓喜する。

 より近くで、より強固な願いを感じ取った精霊は、その願いを叶えるべく火山灰の下からその姿を顕現させるのであった。

 

 ★

 

 少女の目の前に現れた精霊と共に、固い火山灰の下から、精霊が入っていたランプが現れ、精霊が外に解き放されたことで抜け殻となったそれは地面に転がり落ちていた。

 精霊は眼前で倒れ伏した少女の『願い』を叶えるべく少女に手を伸ばそうとしたその時、物質世界においての実体を持たないことに気がついた。

 

「私は……《生きたい》」

 

 少女は精霊の伸ばした手を取ろうと、最後の力を振り絞って手を伸ばす。

 しかし少女の手は実体を持たない精霊の手をすり抜けるとその場に倒れ伏し、そのまま絶命するのであった。

 

 ★

 

 精霊は絶命した少女を前に思案する。

 死にたくない、生きたいという少女の『願い』を叶えることができなかったのだ。

 ただの肉塊と成り果てた少女を前に、精霊は『願い』を叶えられなかったことを悔やんだ。

 しかしすぐに別の感情が芽生える。

 少女は死んだ。 

 しかしながら「生きたい」という願い自体を、別の方向性で叶えることは…あるいは可能なのではないだろうか。

 精霊は思い浮かんだ考えを実行に移すべく、少女の死体に手を伸ばした。

 

 ★

 

 少女は目を覚ます。

 キョロキョロと周囲を見渡し、自分の手足を確認した後に頷いた。

 五体満足で蘇った少女であるが、以前と一部明確に変わった部分があった。

 怖いほどの無表情。

 眉一つ動かさずに少女はむくりと立ち上がり、地面に転がったランプを拾い上げた。

 それもそのはず。 そのランプは自分が長く過ごしたねぐら。 

 いわば家のようなものであったのだから。

 精霊が選んだ別の方法とはつまり、自分が少女の身体の中に入ること。

 個体としての少女は死んでしまったものの、その身体を使うことによって「生きる」という願いを叶えようとしたのだ。願いを叶えることができた、という満足感と同時に空虚さを精霊は感じ取っていた。

 ともあれ精霊は足を得た。 

 長い間を火山灰に埋もれて過ごしてきた精霊は、この日「より多くの人の『願い』」を叶えるという使命と共に世界に旅立つことになる。

 

「カナ…エル…」

 

 成熟しきってない意思と、不完全な少女の身体を持ちながら。




あらすじ、タイトルなど改良予定ですので、なにか良い案があればお願いします
また、本作はやがて小説家になろうなどで投稿する予定ですので、気になる点などがありましたらお気軽にご指摘ください
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