好き勝手生きて何が悪い   作:バタートースト

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心理描写が乗っちゃう乗っちゃう。



手を引いて

「だから悪かったって言ってんだろ」

「一回で聞かないから言ってるんでしょ」

 

 次元船の中で俺はアインハルトとの一件をこってり絞られた。

 スバルのやつチクリやがったなぁくっそ…どうしてやろうか。

 

「大体あなたはいつもいつも」

「分かった分かった。続きは向こうで聞くから。船の中ぐらい好きにさせてくれよ」

 

 座席が端からアインハルト、俺、ギンガという順番で座っている。

 なんで真ん中なんだよ端代わってくれよ。

 

「アインハルトもごめんなさいね?普段からクロウが迷惑かけてない?」

「なんで俺が迷惑かけてる前提で話すんだよ。迷惑かけられてる側だから、何回も言うけど俺被害者だから」

「とんでもありません。私の方こそクロウさんにご迷惑ばかり」

 

 そうだそうだもっと言ってやれ!

 俺の苦労をもっと分かれ!

 

「つうかスバル、ギンガ来るなら言っとけよ」

「えへへ、びっくりするかなって」

 

 

 びっくりしたと同時に肝が冷えたわ。

 

「学校はどう?先生に迷惑かけてない?勉強で分からないところはちゃんと質問できてる?友達は出来た?授業はちゃんと受けてる?あなた興味ないことはとことんやらないから心配なのよ。魔法以外の勉強は要らないなんて言っておろそかにしちゃだめよ?それと夜更かしばっかりしてたら」

「うざっ!お前こそその癖なんとかしろっつったろうが!おいスバルどうにかしろよお前の姉だろ?」

「クロウにとってもお姉ちゃんでしょ」

 

 こんなお姉ちゃん嫌なんですけど。

 こいつのトーキングモードめんどくさいもん。

 

「ギンガさんはクロウさんとは知り合って長いんですか?」

「もうそろそろ6年ね」

「あーもうそんな経つっけ」

 

 俺とギンガが出会ったのは8歳の頃で陸士108へ移動になった時にバディを組んで一緒に仕事してた。

 だからこの中では一番長い付き合いになるのか。

 機動六課行くまで1日の大半ギンガと過ごしてたっけ…懐かしいなぁ。

 色々口うるさく言われたなぁ。

 

「昔のクロウさんはどんな方だったんです?」

「あ、それ私も聞きたい」

 

 後ろからひょっこりとヴィヴィオが顔を出した。

 急に出てきたなお前。

 

「そうね…今よりもっと怠け者でサボり魔で生意気で失礼な子だったかしら」

「今よりクソガキだったんだ」

 

 クソガキのお前に言われたくねぇ。

 

「色んな人に噛みついて失礼な態度を取るからその度に謝るの大変だったのよ?」

「あー知ってる!最初はやてさん達にもすごい悪口言ったって」

「しょうがねぇだろ航空隊嫌いだったんだから」

 

 地上部隊と本局は仲悪くて俺は地上部隊所属だったから本局の航空隊は大嫌いだった。ギンガはそうじゃなかったみたいだけど。

 優秀な人間は全部本局に取られて地上部隊には満足に予算も降りない、その上航空隊は基本地上部隊をパシリぐらいにしか思って無かった。

 そんな状態の連中をどうやって好きになれってんだよ。

 

「でもまあ、生意気だったけど本当は優しい子だって言うのはすぐ分かったけどね」

「撫でるな」

 

 優しい顔をしながら撫でるギンガの手を振り払う。

 本当にギンガとは色々あった。

 社会生活的なことは全部ギンガに教えてもらったって言っても過言じゃない。

 8歳か…ちょうど俺が右目を失った時の事。

 思い出したくもない、そう思った時だ。

 

「ああ?」

 

 俺はいつの間にか荒廃した街に立っていた。

 建物が炎と煙に包まれて肉が焼ける不愉快な匂いに一面の人の死体におびただしい量の血液。

 俺はこの光景を知っている。

 目の前には返り血で血まみれになった燃える様な紅い髪を一つに纏めた女が立っていた。

 自身の髪と同じ色の刃の長剣が2本握られている。

 地上の惨状を他人事のように見下ろす美しい満月が女を照らして女はゆっくりと俺に近寄ってくる。

 体は動かない。

 返り血を浴びた女は妖艶な笑みを浮かべながら

 

ーーーーー俺の右目に手を伸ばした。

 

 目の前が真っ赤に染まる。

 もうすでにないはずの右目に強烈な痛みが走った。

 

…さ……ろ…さ

 何かが聞こえてくる。

 だがそれよりも右目の痛みと目の前の女への恐怖にそれどころじゃ無かった。

 女はまた笑みを浮かべながら俺から奪った目を握りしめる。

 その女の左目には俺の複造眼とは違う紋章が浮かんでいた。

 俺はこの目を生涯忘れることはないだろう。

 そして女は、剣を振り下ろした。

 

「クロウさん?クロウさん!?」

「はっ!?」

 

 気がつくとアインハルトが心配そうに俺を覗きこんで体を揺さぶっていた。

 見渡すと次元船の中で、横にはギンガが心配そうに見ていた。

 

「先ほどから呼んでも反応がなかったので心配しましたよ。大丈夫ですか?」

「もしかして気分悪くなった?エチケット袋貰う?」

「あ、ああ…ちょっと船酔いしたかも。トイレ行ってくるわ」

「本当に大丈夫なの?ついて行ったほうがいい?」

「ガキじゃないんだから大丈夫だって、平気平気」

 

 俺は平静を装ってトイレに入った。

 入った瞬間急激な吐き気に見舞われたがなんとか堪えられた。

 みんなに心配かけるわけにはいかない。

 

『大丈夫か?』

「はぁ…あいつを思い出しただけだ」

『またいつものか、無理はするなよ』

 

 俺たちの部隊で一番強くて、残忍な女。

 管理局を裏切って破壊の限りを尽くして現在もどこにいるか分からない。表向きには存在しない幻の殺戮者。

 あまりに現実離れした戦果と惨状に都市伝説としか思われていないその女はきっと今もどこかで生きている。

 そして、俺の右目を奪った女。

 俺はあの光景が定期的にフラッシュバックしてしまう。

 一種のトラウマだ。

 

「願わくばどっかでくたばってくれりゃいいが…そりゃねぇな」

『あれからなんの手がかりもなしか』

 

 カルミナが血眼になって探してるのに尻尾すら掴めないって事は管理外世界にいるのか、それとも地下に潜っているのか。

 どちらにしろ探し出して殺さなきゃならない。

 あんな奴を、ヴィヴィオ達の生きる未来に残せない。

 俺のタイムリミットが来る前になんとかしなければ。

 

「クロウ?大丈夫ー?」

「大丈夫ー」

 

 扉の外からヴィヴィオの声が聞こえてくる。

 大丈夫、大丈夫だ。

 いつものとおり過ごせば良い。

 大丈夫だ…大丈夫…

 

 

◇◇◇

 

 カルナージについた俺たちはルーテシア家族にで迎えられた。

 さっきのフラッシュバックの影響もだいぶ落ち着いてきたし、もう大丈夫。

 大人達は大人達で挨拶を済ませ俺たち子供達は子供達同士で挨拶する。

 

「久しぶりクロウ、相変わらず眠そうな顔してるわね」

「ほっとけ」

「アイズも久しぶりー?どこか壊れたりしてない?」

『問題ない』

 

 少し見ない間にルーテシアもおおきくなったなぁ。

 ていうかお前アイズに会った方が嬉しそうなのなんなんマジで。

 

「前の傷はもう良いのクロウ」

「問題ねぇよ。にしてもお前また身長伸びたんじゃねえの?」

「あはは、成長期だからね」

「食い過ぎなだけだろお前」

「クロウは食べなさ過ぎだと思うよ」

「お前みたいに食っても伸びないより良いだろ」

「何をー!」

 

 エリオとキャロとも直接会うのはマリアージュ事件以来か、前見た時も伸びたと思ったけどこいつ本当成長期って感じだよな。

 俺?俺はまだ本気出してないだけだから(言い聞かせ)

 

「ねぇねぇクロウ〜?ちょっとお願いがあるんだけどぉー」

「だめ」

「まだ何も言ってないでしょ!」

「どうせ義手と義足見せてくれって言うんだろ?ダメ」

「ケチっ!」

 

 ルーテシアはデバイスマイスターの資格を持ってて機械工学にも明るい。いろんなことに挑戦するくせに中途半端にならないって言うのはすごいと思う。天才ってこういうのを言うのかね。

 で、俺の義肢をことあるごとに見たがるんだが何されるか分からないのでこうやって断ってる。

 六課時代にシャーリーにも見せたことないしな。

 

「じゃあアイズちょっとだけ見せて!」

「だってよアイズ」

『拒否する』

「絶対悪いようにはしないからぁ!」

『断る』

 

 俺たちには専属の整備士と医師がいるんだがアイズも俺もその人以外の診察を一切受けない。それは六課時代もそうだ。

 

『正直に言うと君は生理的に無理だ』

「生理的に無理って何!?」

 

 デバイスなのに生理的にもクソもあんのか。

 そういえばお前シャーリーにもメガネは無理とか難癖つけてたな。

 

「ねぇねぇクロウ、そういえばアイズってデバイスの種類的にどれになるの?」

「知らん」

『私はすごいデバイスだ』

 

 少なくともインテリジェントデバイスでは無さそう。

 

「そうなのよ!こんなに感情豊かなデバイス見たことないしあんなに可変するのも見たことないの!だから一回詳しく見てみたいんだけど…」

『そう言うところが無理』

「ガチの反応やめろって」

 

 ルーテシアそろそろ泣きそうになってるぞ。

 

『そもそもデバイスにとってデバイスマイスターなんて変態と一緒だからな』

「ヴィヴィオ、クリスなんて言ってんだ?」

「個人の感想ですだって」

 

 やっぱうちのデバイスって頭おかしいのでは?

 

「あーその、戦闘データやるからな?元気出せ?」

「うん…」

『君が悪いんじゃない。私がデバイスマイスターが嫌いなだけだ』

 

 俺初めてお前を正当な理由でゴミ箱に突っ込んだ気がする。

 

『私を捨てるなー!』

「いや今回はアイズが悪いと思うよ?」

 

 

◇◇◇

 

 数時間後、子供たちは川で水遊び、大人達はトレーニングということになったのだがクロウは両方とも参加することになった。

 もちろんトレーニングの方は拒否をしたのだがお小遣いに釣られて参加。

 なのはの課題を無事にクリアしてお小遣いをゲットしたのだが

 

「なのはさん流石にやりすぎじゃ…」

「いやぁまさかクリアするとはねぇ…」

 

 いつもは厳しいギンガだが流石にクロウの惨状を見て顔を引き攣らせる。

 なにせクロウは全員が30分でクリアする工程を10分でクリアすると言う課題を課せられたのだ。木のそばで無表情に立ち尽くし己の胃の中の物と格闘を繰り広げる彼を見て同情するのは仕方ないだろう。

 流石になのはも途中でギブアップする物だと思っていたので少し焦っている様だ。

 

「やっぱり予想を超えてくるなぁクロウは…もっと行けるかも…」

「なのはさん?流石に許してあげてください?」

 

 可能性を感じると全力で指導したくなるのはなのはの悪いくせである。

 体力を使い果たした面々に変わりギンガがクロウの介抱についていた。

 

「もう、無茶するからよ。水飲める?」

 

 無言でも首を振るクロウに呆れてしまうギンガ。

 普段怠けるくせに目標があると後先考えずに突っ走るクセは昔から変わってはいない様子にクスッと来てしまう。

 そんな風に感じているとクロウが突然深刻な顔をして身振り手振り何かを伝えようとしていた。普通の人間には分からないだろうが長い付き合いのギンガははいはいと呆れながらエチケット袋を手渡した。

 瞬間、彼は胃から全てのものを逆流させた。

 

『アホだなお前は』

「今は優しくしてあげて」

 

 ギンガはクロウの背中を撫でた時、気づく。

 自分が思っているよりもクロウは大きくなっている。

 見た目だけでは分からない彼の成長。

 あんなに小さかった彼の背中はもう一回りも大きくなって、身長ももうすぐ自分を追い越してしまう。

 昔は彼をよく抱っこしていたのに今はもう抱っこされる側。

 スバルとは違った手のかかり方をしたけど、今では良い思い出だ。

 

「はぁ…はぁ…キツかった…さんきゅ…俺チビどものとこ行くわ…」

 

 今はこんなバカをやっているけど時が来たらまたこの子は過酷な戦場に行ってしまうのだろう。止めても、怒ってもきっと…

 

「あっ」

 

 そう考えながらフラフラと歩き出す彼の背中を見ていると咄嗟に手を握ってしまった。

 なぜそんなことをしたのかギンガ自身も困惑してしまう。

 ただ、彼の背中を見て放っておくとそのまま消えてしまうのではないかという不安に襲われてしまった。

 

「んぁ?なに?」

「えっとあの、わ、私も行くわ。まだフラフラしてるし」

「えー別に良いけど…もしかしてサボり?」

「ばかっ。いいから行くわよ」

 

 彼の手を引いてギンガは歩き出す。

 彼の手を引いているとなぜか安心感が心に染み渡ってくる。

 そうだ、自分はこうやって彼の手を引いていたんだ。

 昔108に来た時、彼は休みになると日が暮れるまでお墓の前にいた。

 なにもせず、ただ虚な目で見ていた。

 その度にギンガは彼の手を引いて一緒に帰っていた。

 

ーーーーー誰のお墓?

ーーーーー色んな人

 

 8歳の子どもがそうしていることに、ギンガは耐えられなかった。

 だからギンガはなるべく彼と一緒に居た。スバルやゲンヤも一緒に。

 機動六課に出向するって聞いた時不安で仕方がなかったが、交友を広げるのは大事だと思ったからギンガは笑って見送った。

 でもそれはクロウの世界を広げる代償として負担を強いる結果になってしまった。

 自分が手を離した時に限って彼はいつも死んでしまってもおかしくない戦場へ身を投じてしまう。

 歳不相応な過酷な運命を背負わされて。

 負う必要のない責任を負わされて。

 大人になる前に死ぬという現実を突きつけられて。

 悟った様に話すが彼はまだ14歳、本来なら大人の庇護の元にいなければならない。

 もう二度も守れなかった。

 だから次はない。

 誰も彼を守らないなら、守れないなら。

 自分が守って見せる。自分が彼の手を引いて過酷な運命から守ってみせる。

 

「クロウ、今度の休み服でも買いに行きましょうか」

「え?なんで?」

「少しはオシャレに気を使わないとモテないわよ?」

「うるせぇ」

 

 クロウからはクスクスと微笑む顔が見えていた。

 余計なお世話だと思いながらもクロウは胃のムカムカと戦っていたから知り得なかった。

 前を向いた彼女の目が金色に光っていたことを。

 

 

 




軒並み登場人物重たくなってるけど大丈夫かしら
それでも描きたい感情があるんだぁぁぁぁぁ!

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