好き勝手生きて何が悪い 作:バタートースト
「防護服と武装の準備を」
「へいへーい」
軽口を叩きながらクロウはバリアジャケットと武装を展開する。
黒いインナーに黒いフードのついたジャケットを羽織り、腰周りと膝から脛まで装甲が展開され最後に黒いブーツが出現した。
そしてアイズは形を変えて鋭い大口径ナイフへと変化する。
「黒…です…か…」
「隠密奇襲が十八番のもんで」
クロウが軽口を叩くと覇王は少し苦しそうに顔を覆う。
「どうしたー調子悪いのかー?」
「あなた…に…君に黒は…似合わない!」
自分に向け叩きつけられた拳を後ろに飛んで避ける。
拳が叩きつけられた地面はあまりの衝撃に抉れていた。
「なんなんお前情緒不安定かよ!」
「はぁ…はぁ…失礼。続けましょう」
「…なぁ、やる気になったとこ申し訳ないがやめとかね?お前調子悪そうだし帰って寝た方がいい」
彼が言い終わるその前に覇王の拳は眼前へ迫る。
話聞けよ、と思いながらもクロウはその拳を弾き、そのままくるりと後ろに回り込んで彼女の後頭部に裏拳を放った。
手慣れたその動きに、ギリギリのところで反応して覇王は防ぎ何度も拳を放つが、顔色変えずにクロウは全て避け距離を取る。
「どうすっかなぁこれ、長引くと思う?」
『知らん。だがなのはさん達が帰る前に戻っておかないと説教は免れんだろうな』
「しゃあない保険打っとくか」
クロウが指を鳴らすと魔法陣からもう一人のクロウが出現する。
その姿はバリアジャケットではなく先ほどまで来ていた私服だった。
「バレない様に頼んだぞ」
「りょうかーい」
そのまま分身はどこかへと去っていった。
「レプリケーション…ですね」
「当たりー。魔力を分け与えて自立行動する実体を持った分身を作り出す魔法。幻術魔法とは似てるけどちょっと違う。まあスペックは本体よりちょい下がるし、ちょっとのダメージで消えちまうが色々役に立つのさ」
本来であれば多数対一という状況を擬似的に作り出すために使われる魔法だ。
「分身に魔力を分け与えた状態で勝てると?」
「うーん、まあ頑張る」
「バカにして…!」
怒りを孕んだ拳を力の限り叩き付ける。
それをクロウは危なげなく確実に避けていく。
当たらない。
持てる全ての技術を総動員しても、目の前の黒い少年を捉えることができない。
しかし打ち込んでいる時に違和感を感じた。
彼にの右腕に打ち込んだ時、明らかに人体ではない金属の様なものを殴った様な感覚が伝わる。
「あなたの右腕…人のものではないのですか」
「まあそうだけど長くなるから割愛!」
彼は今度は自分の番だと言わんばかりに攻撃を仕掛ける。
早いだけでなく変則的に変わる動きに翻弄されつつもなんとか反応し紙一重で防ぎ避け続ける。
そして重い一撃を両手で防いだ時彼女は、信じられないものを見た。
その拳はさっき彼女がクロウに放った拳そのままだったからだ。
「その動きは私のっ!」
彼はそのまま己の覇王流の動きをこの短時間で模倣して見せた。
「あなたは…あなたと言う人はっ!」
悔しかった。腹立たしかった。
長い年月をかけて伝わり鍛え研鑽した覇王流をこんな短時間で模倣されるなんて。
しかし、その時不意に少年の姿がある女性と重なる。
瓜二つの、大切な女性に。
そうか、似ているのは外見だけではない。
「
「げぇっ!?何で知ってんのお前!?」
目にした技術や魔法を全て解析し使用できるようになる特別な眼。
普段は黒色の瞳だが、発動すると金色に輝き瞳に刻まれた五芒星が浮かび上がる。
その眼の保持者は古代から現在において殆ど存在せず、半ば都市伝説になっており、かなり魔法や歴史に詳しい人間でないと知り得ないもの。
そして、かつてその眼は記憶の中の彼女も持っていた。
「いい眼をお持ちですね」
「欲しくてもあげられないぞ。先約あるからな」
「結構です。その眼は眺めている方が良いですから」
「マジで何なのお前…」
調子狂うなぁとため息をつく。
「行きますっ!」
風を纏い足に力を込めそれを拳へと伝達させる。
クロウは距離を取らずに構える。真っ向から受けて立つつもりか。
「覇王断空拳!!」
音速を越えるその拳を彼はその金色の瞳で捉え、躱し
「スパイラルブレイク」
覇王の腹部へ己の魔法を叩き込んだ。
乱回転する魔力の塊が甲高い音を立てながら彼女の魔力と腹部抉り、削り、すり潰す。
彼女の目に映ったのは、彼の右眼にはあるはずの五芒星が無かったということ。
◇◇◇
同時刻 高町家
魔法の練習を終えたヴィヴィオとなのはが帰宅した。
「ただいまー」
「たっだいまー!」
「おかえりなさい。ねぇ近くでクロウに会わなかった?」
「会わなかったよ。クロウどこか行ったの?」
「コンビニ行ってましたよーただいま」
二人の後ろからレジ袋を持ったクロウがひょっこりと顔を出していた。
「コラっ、こんな遅い時間に出歩いちゃダメでしょ。フェイトちゃんもちゃんと注意してよー」
「言った時にはもう外に出ちゃってたんだよぉ」
フェイトがなのはに少し叱られているのを尻目に、クロウは冷蔵庫に買って来た飲み物を入れてさっさと部屋に帰る気満々であった。
「ねぇねぇクロウ」
「何だね」
「どう思う?」
「何が」
「だからこれだよこれ!」
ヴィヴィオは彼の目の前でクルクルと回る。
まるで新しい服を買ってもらった女の子の様に。
「あーうん、可愛い可愛い」
「何そのリアクション!もっとちゃんと褒めてよー」
「分かった分かったまた明日なー」
全然話を聞く気のないクロウにむくれるヴィヴィオだったが、すぐに悪い顔になり後ろから彼に抱きついた。
「うおっ!?」
「えへへ、どう?クロウより大きくなったよ?」
「分かった分かった…妹が大きくなってくれて嬉しいですよお兄ちゃんは」
「ねぇ、ドキドキ…する?」
自分でも少し恥ずかしいことを聞いている自覚があるのか顔が熱くなっていくのを感じる。鼓動が早くなっていくのを感じる。
クロウの匂いに幸せを感じる。
ヴィヴィオはそれを深く感じていた。
「ヴィヴィオ…」
「なに…?」
「汗臭い」
ヴィヴィオの中で何が激しい音を立てて崩れてると同時に、線の様なものが切れる様な感覚を覚えた。
「クロウ…それはないよ」
「今のはクロウが悪いかな…」
「えっ?えっ?何が?ヴィヴィオさん?肩がミシミシ音を立ててるんですけど…」
「クロウの…バカァァァァァァァァァァ!!」
ドゴォォォという音が聞こえて来そうな勢いでヴィヴィオの拳がクロウへと突き刺さった。
「クロウのバカ!変態!最低!信じられない!」
「女の子に臭いはないよ…」
「ライン越えだね…」
保護者二人が可哀想なものを見る様に少年を見つめていると彼の姿がボシュンと消えてしまった。
まるで彼がレプリケーションで作り出した分身の様に。
それまではヴィヴィオが禍々しいオーラを纏っていたのだが今度は保護者二人から強烈なプレッシャーと熱量が発生した。
「バルディッシュ。広域検索」
「レイジングハート。アイズに通信。出るまでかけて」
「「all right master」」
「あー私お風呂入って来よぅ…」
ヴィヴィオは逃げた。
数分後の地獄を見たくないから
◇◇◇
「ほらよ、スポドリでいいか?」
「あっ、ありがとうございます」
土手っ腹にスパイラルブレイクをぶち込んだ後、なんかほっとけなかったからそのまま介抱してた。
何してんだろ俺…
「腹大丈夫か?威力はかなり抑えたけど」
「少し痛みますが歩けない程ではありません」
「そうか…」
よかったって言いかけたけど考えたら良くはなくない?
傷害事件の犯人なんだからぶちのめすべきなんだろうけどなぁ…なんかなぁ。
「貴方の目…右眼は
「あー言っていいんだっけこれ。まあいいか』
俺はイングヴァルトに右眼が良く見える様に近づいた。
ちょっとビクってされたのは地味に傷つくんですけど。
「これ義眼なの」
「義眼…ですか…」
「そうだよ。右腕右脚もそうだ。いろいろあってね」
「そんなっ…」
俺がそう言うとイングヴァルトはショックを受けていた。
まあ普通そんなこと聞いたらびっくりするよな。
いやそれにしてもショック受けすぎじゃない?今にも泣き出しそうなんだけど。
あー機械埋め込んでる人生理的に無理なタイプ?
まあ免疫とかの問題で普通は機械化とかできないしなぁ。
しょうがないよねー。
「あーごめん、気持ち悪いか」
「いえ、そうではないのですが…すみません」
「気にすんな。あーそのさ、なんで片っ端から喧嘩吹っかけたり聖王とか冥王とか探してんだ?恨みとか?」
「そう言うわけではありません…私はただ強さを証明したいだけです」
「強さぁ?」
こいつの話を超ざっくり説明すると、自分には先祖の記憶があって、その無念とか苦しみとかそう言うものを抱えてるらしい。
とりあえずヴィヴィオとイクスに恨みがあるわけじゃなくて良かった。
正直、なんかこいつを攻撃すんのなんか抵抗感あるし。
「分からないんです。自分が何者なのか」
「俺と戦ってた時のあれか」
「クラウスの記憶と感情が津波の様に押し寄せて…抗えないんです。それも私がもっと強ければ…こんな事は起こらないんです。だから己の最強を証明するまで私は…笑う事など許されない」
「はぁーなるほどね…」
大体こいつっていう人間がわかって来たぞ。
はいはいそういうことね。
「つまりお前はアホだって事だな」
「あっ、アホっ!アホとはなんですか!」
「不器用だし、要領悪いし、真面目過ぎるし、融通効かないし…なんかこう全体的に頭が弱いよねお前。いや、アホはアホなりにアホな悩み抱えて生きてんだな。俺が悪かったよ」
「アホアホ言い過ぎです!貴方に何が分かるというんですか!記憶継承者でもない、この苦しみを知らない貴方が!」
「わかんねぇよ。お前がバカという以外わかんねぇし分かる気もねぇよ」
「ばっ!?」
さっきまでしおらしかったのに急に顔真っ赤にして怒り始めたよ。
「あ、貴方はなんなんですか!初対面の人にバカとかアホとか!失礼にも程があります!」
「初対面の相手に殴りかかってくるほうが失礼ですー。そんな事も分かんないならやっぱりお前アホじゃん。やーいアホー」
「取り消してください!これでも学業の成績はっ!」
「あはははは!自分が分からないって言いながら、お前ちゃんと自分持ってるじゃねえか」
きっとさっきまでの覇王としてのあいつは、記憶継承者として色んなものを背負い込んでしまってできた心の鎧みたいもんなんだろう。
本当のこいつはきっと、今怒ってるこいつだ。
「本来のお前はそうやって一言一言に素っ頓狂な声で反応する面白い奴なんだろうよ」
「アホと言われて怒らない人がいますか!」
「そうだよ。だからお前は普通なんだよ」
そういうとお前は何を言ってるんだみたいな顔をするイングヴァルト。
あー説明が悪かったか。
「記憶継承者とか、覇王流とか小難しい事言ってても。お前は嬉しい事があったら嬉しい、悲しい事があったら悲しい、ムカつく事があったらムカつく、ちょっと生まれが特殊なだけの普通の女の子だろ?」
「普通の、女の子」
「難しく考えんな。記憶がとか先祖がとか、辛いなら一旦置いとけよ。別に人の命がかかってるわけじゃあるまいし」
「しかしそれでは…!」
「大事なのは先祖が、じゃない。お前が、どうしたいかだろ?」
「私が…どうしたいか…?」
「そうそう。どうせこの先何十年と生きていくんだから今すぐ結論なんて出さなくて良いんじゃね?覇王流を極めるもよし、覇王流なんか全部放り投げて好きに生きるもよし」
きっとこの先もこいつには辛いことだって起きるだろうし、現実に打ちのめされる事もあるだろう。でも人生には楽しい事だってたくさんある。
俺と違ってこいつには色んな未来が待ってるんだ。
「お前の人生は他の誰でもない、お前のものなんだからさ」
「あなたは…」
『流石にセリフが臭すぎはしないか』
うるせぇちょっとくらいカッコつけさせろ。
「何故あなたは…私を気にかけてくれるのですか。自分で言うのもなんですが、私程度簡単にねじ伏せる事ができたでしょう?なのに、何故それをせずに私の話を聞いてくれたのです」
あー言われるとなんでなんだろ。
柱に括り付けて管理局に通報して終わらせりゃ良いのに、なんで真面目に話聞いてんだ?俺のこと襲撃して来た奴だぞ?
うーん…
「なんとなく…じゃだめ?」
俺がそう言うと、イングヴァルトは眼を見開いた後目からポロポロと涙をこぼし始めた。あれぇ!?俺なんか悪いことした!?アホアホ連呼しすぎたから!?
「おいおいおいおい!なんで泣くんだよ。やっぱお腹痛いか?」
『加減を間違ったのではないか?』
「他人事みたいに言ってるけどもしそうだったらお前にも責任あるからな!」
加減ミスってるんなら警告とか入れるもんじゃないですかねぇ!
「おーい勘弁してくれー!他から見たら俺が泣かせたみたいになるからね?」
『何も間違っていないじゃないか』
うるせぇからゴミ箱にシュートした。
お前の軽口に付き合ってる場合じゃねぇ!
『私を捨てるなー!』
「申し訳ありません…もう…大丈夫です…」
何故か泣いていたのにその顔は少し晴れやかだった。
なんかよくわかんねぇやつだなぁこいつ。
なんて考えてる時に俺の中に記憶が入って来た。
家のキッチンでヴィヴィオにぶん殴られて消えた記憶。
レプリケーションの分身は消滅した時その経験が本体に還元されると言うこれまた便利な特性がある。
それが俺に還元されたと言うことは即ち
身代わりがバレて俺が保護者二人にバチクソ怒られる事が決定したということ。
「やっべぇぇぇぇ分身消えたぁぁぁぁぁ!」
『なのはさんから鬼の様にコールが入ってるぞ。繋ぐか?』
「繋ぐな!切れ!着拒しろ!」
キョトンとしてるイングヴァルトを置いて俺は走り出す。
こんなことしてる場合じゃねえ!あかんこれじゃ俺の精神が死ぬぅ!
「悪い!まぁなんだ!先輩からの人生を楽しく生きるためのコツってことで!話半分に聞いといてくれ!」
「えっ、あの…」
「気をつけて帰れよー!」
保ってくれ俺の足ぃぃぃぃぃぃぃぃ!
◇◇◇
自宅に無事に着いた私は倒れ込む様にベットに入った。
クロウ・アストレイ。
彼のことを思い出すと心が苦しくなる。
こんなに苦しいのはきっとクラウスの記憶が入り混じってしまっているから。
彼が彼女と瓜二つだから。
ーーーー何故僕を助けた?君に利点なんてないだろう
ーーーーうーん…なんとなく、じゃだめ?
彼女はきっと本当になんとなく助けたのだろう。
でも、クラウスにとってそれは大きな事だった。
ーーーーあなたって本当アホねーなんでそんな事になんの?
ーーーーアホは言い過ぎじゃないかい!?
きちんと自分を叱ってくれる大切な人。
自分を愛してくれる大切な人。
幸せにできなかった大切な人。
ーーーーあなたはアホ面ひっさげて鍛錬してる方が似合ってるわよ
ーーーー君はどんな顔をしても綺麗だよ
ーーーーはぁ!?何よいつもの反撃のつもり!?
ーーーー心からそう思ってるよ。僕の妻なんだから
ーーーーあーうっさいうっさいバーカ!腕立て伏せでもしてろ!
そんなやりとりを思い出してクスッと笑ってしまう。
ああ、私はちゃんと笑えるんだ。私は…笑って良いんでしょうか。
あなたは…笑えているんでしょうか。
右眼と右手足が義肢になっているなんてよっぽどのこと。
貴方に何があったのですか?
知りたい、貴方を。守りたい。今度こそ…
アインハルトさんこんなに重く考えてたっけ…
※クロウくんはアインハルトさんの名前をフルネームでしか聞いてないのでイングヴァルト呼びになっています。