「大尉、お前明後日までに荷物纏めとけよ」
「え゛」
寮からの出勤一番に上司にそう伝えられる。
当然何が理由なのかは彼には見当もつかない。食事中だったと言うこともあり驚愕のあまり箸を落とす。
「え、中佐? 自分何かしましたか?」
「何かって、別に問題行動は起こしてないだろ?」
「では何故荷物を纏めろと?」
「なんだ。話聞いてないのか」
「話とは?」
「アレだよ。難民孤児の里親の話」
いまいち上司の話に納得できないが、朝食の時間は限られている為、仕方なくトレーに落とした箸を拾い直して食事を再開する。
しかし里親の件など彼は一度も聞いた事がない。むしろそう言った話は同じ難民の家庭や民間に話が回されやすい。
それに里親、しかも難民となるとかなりハードルが高く、特にダルクス人に関しては文化の相違を受け入れられる家庭か、同じ難民でも余裕が無ければ受け入れられない等かなりの制約がある。
それ故に里親が見つかり辛く、孤児院はちょっとしたマンモス校となっており収容人数的に逼迫している。
故に少しでも施設と職員の負担を軽減する為、ある程度余裕があり審議会の厳しい審査の下で問題ないと判断された公務員などに孤児を引き取らせる措置を取っているのだ。
「ま、待って下さい! 自分里親契約なんてした事無いっすよ!?」
「いや、そんな事言われても役所からのお達しだからなぁ。俺に拒否権ねぇし」
「ちょっと! 誰の為に遥々本土に足運んで新型プレバン買いに行ったと思ってるんですか⁉︎ 此処こそ恩返しの時でしょ‼︎」
「そんな事言われたって決定事項は決定事項なんでね……」
「そこを何とかしてくれません?」
「公務員の義務。以上」
「そんな薄情な!」
「取り敢えず、荷物纏める時間は作ってあるから何とかしろよ〜」
彼の階級的に決定権があるのは上司である中佐であり、その上司が覆せないとなるともはや彼にどうする事も出来なかった。
これ以上絡まれると面倒だと感じた彼の上司は、のらりくらりと意見を躱しながら早々に朝飯を食べ終わらせ、食堂を後にした。
残された男は何故かいつもよりしょっぱい味噌汁と焼き鮭を食べ、食事が終われば歩いてきた道を戻って課業の職場へ行った。
なお、温情なのか彼の私物などの荷物を郵送する際、送料は彼の上司持ちだった。
「で、来た訳だが……」
荷物を纏めていつぶりかの旧宅があるマンションに帰ってきた。シベリアに赴いた当初、宿舎の数が足りないと言う事で借りた一室だったがほんの数ヶ月の間しか利用していなかった為、家電や生活に必要なものはほぼ入っていなかった。
両親や祖父母からの贈り物を受け取る場所が宿舎にない事、戦利品を保管する事が不可能な点で住んではいないものの、部屋を空けてからはほぼ倉庫として機能していた。また大家の厚意で家賃の半額で賃借してもらっていた為、電気も水道も止められてはいなかった。
どうしてだか重い足を動かしながら、男は自分の旧宅を目指して階段を登る。私物や家具の類は前日の段階で全部入っている為、その分の手間はなくなっている。
彼は自分の部屋の前まで辿り着き、大家から渡された鍵を手にいざ鍵を鍵穴に入れる…………が、鍵は掛かっていなかった。
空き巣か、それとも引越し業者か、はたまた知り合いの誰かか、とにかく大家から一言も無かった為に少し警戒して玄関の戸を開ける。
《あ、お帰りなさい!》
開けた先に居たのは、ごく当たり前の様に荷物整理をしている特徴的な民族衣装を着た少女だった。
《今日からお世話になりますね!》
《ちょっと待って。タンマタンマ》
男は状況を飲み込めず混乱する。そりゃそうだ、孤児の里親になる場合大抵は保護者が施設に引き取りに行くのが普通。誰も孤児の方からエントリーしてくるなど想像できない。
《まず聞こう、何で君勝手に入ってるの?》
《大家さんに言ったら開けてくれました!》
《…………では何故荷物整理を?》
《お世話になる以上はこれくらいは……って、駄目でしたか?》
《……いや、駄目じゃないかなって》
一応道理も通っているし、子供のすることにしてはかなりしっかりしている。別段怪しい事ではないがそれ故に言い返せないのが悔しく少し頭を抱える。
ただ幸い、男の秘蔵本やら際どい本の保管部屋までは手付かずだった。当然駐屯地への持ち込みなんてのは御法度なので、必然的に管轄外でプライバシーのある旧宅に保管する様にしていた。まぁどっちにしたって上官より見つかったらやばい相手など出来ると思ってもいなかった為に少々混乱しているが。
《兎に角、上がったらどうですか? 外も寒いでしょうし……》
《そ、そうさせてもらいます……》
これ以上押し問答をしていると自分が悪いみたいになる。彼はそう感じ諦めて家に上がることにする。
こまめに掃除していたつもりだったが、年がら年中足を運ぶ事ができない関係で少し埃をかぶっていたはずの部屋は、勝手に上がっていた少女によって隅から隅まで綺麗になっている。
流石にリビングは換気されており、以前の様に埃の籠った様な空気はなくなっている。
荷物をさっさと自室に押し込めて、男はいつの間にか設置されたソファに腰掛ける。
《……所で》
《はい?》
《君、名前は?》
《え゛》
信じられない、嘘でしょ……そう言った顔で少女が固まってしまう。なお、された方もされた方で困惑している。
《ほ、本当に覚えてないんですか⁉︎》
《え、いや……覚えていないって言われても……》
《そんな……!》
絶望のあまり彼女は膝をつき項垂れ、瞳には涙を浮かべている。当の男は何がいけなかったのかを考えると同時に、この少女と過去に会った事があるのかと今一度自分の記憶と対面している。
しかし此処数年、難民が途絶える事が無かった為に同じ様な顔と境遇の人間は複数人心当たりがある。
間違えたら絶対まずいのに答えが出てこない状態に焦りを覚えるが、思い出す一環で大事な事を思い出す。
確かに心当たりが多いのは事実、ただ思い返してみれば名前を聞いたことはただの一度しか無い。もう2年も前になるだろう、雪が降り止まない日に背中に乗せた少女の事を思い出す。
もしあの時の少女が今自分の目の前にいる彼女だとしたら、そう思い恐る恐る口を開く。
《……アフーノヴァ?》
《‼︎ はい! 私です!アフーノヴァです!!》
悲壮感に打ちひしがれていた先程と打って変わって、その顔には快晴の様な笑顔が現れる。
孤児院での食事と健康管理で体つきもしっかりしており、身長も年齢相応の高さにまで伸びていた。足りなかった分の栄養が足りた事で、彼女はこの2年で劇的に様変わりしたのだ。
《……なんか、随分変わったな》
《お陰様で施設では良くしてもらいましたから!》
《いや……そうだろうけど……いや、うん……》
出かけた言葉を飲み込む。これ以上何を言った所でアフーノヴァが何処かに行く訳でもない。
それ以前に自分の為にあれやこれやとしてくれていた彼女にあーだこーだと言うのは、なんかちょっとDVみたいで嫌だな……
彼はそう思い潔く現状を受け入れることにした。
《取り敢えず何か作るわ、食べたいものとかある?》
《料理なら私も出来ますよ? 何なら料理なら任せてください!》
《いや、成人男性の公務員が未成年に食事作ってもらってるってちょっと外聞が……》
《別にいいじゃないですか、私が好きでやってる事です》
《……分かった、なら一緒に作ろう。調味料の位置とか材料の場所わからないでしょ?》
《言われてみればそうですね。じゃあ早速!》
そうとなればと足早に立ち上がってキッチンに向かう。食器や調理器具を並べ始める。いざ彼女が部屋の中を動き回っている所を見ると、案外様になっている事に少し驚く。
なんだかんだ嫌々と言い訳がましく言ってきたが、彼女の成長を間近で見守れるなら悪い事ではないかな、彼はそう思い始めた。
それにしたって一人で料理をやらせる訳にはいかない、重くもない腰を上げて彼女の隣で支度を手伝う。
「……今日からよろしくな。アフーノヴァ」
「はい、お願いしますね?」
「……へ?」
2人の生活は始まったばかりである。
「……日本語、話せるんだな」
「はい! あ、今更なんですけど、お兄さんの名前聞いてませんよね? なんて言うんです?」
「浪川頼三。名前が頼三だな」
「お帰りなさい、頼三さん」
「……そう言うのズルいと思うんだよね」
アフーノヴァ
シベリアで保護されてからまともな食事とまともな教育を受ける様になり大分成長している。今でも“貰った“水筒は大事に使っている。なお本人への申告はなし
浪川頼三
2年越しに宅配便が届いてくるなんて知らなかった為何の準備もできていない。が、相手が出来たら娘なので結果的にその心配は必要なかった
最近たまにシャツが紛失する為困っている
帝国&エディカス
「で、出来た!」(戦車)
二重帝国&共和国
「あああああああもうやだああああああ!!!!」(全成人徴兵)
プロイセン&フランス
「早うその戦車前線にもってこいやぁ!!」
ヒスパニア
「シテ……コロ…シテ……」(肉壁追加徴兵)
日本
「はえ^〜…これが咒術ですか……」
ステイツ
「な、何故そんな手間な事を……(石油の代わりにラグナリンで代用した欧州を見つつ)」
コロンビア
「マライカイボ油田見つけたけどこれうちの技術じゃ掘れなくね?」(非在来型原油)