遊戯王 ビルドモンスターズ   作:最近の虫野郎

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12ターン目 「挑め世界へ」

「……なんでこんな所に俺連れてこられてるんだろう」

 

 ぼやきながら、思わずして天を仰ぐ。空は僅かに星の瞬く、雲一つない透き通った夜の帳に包まれて。暗闇の中に僅かに灯る街灯の明かりが、俺をスポットライトのように……あぁ駄目だ、詩人気取ったけど気持ち晴れない。

 というか、繁華街って訳でもなく、微妙に寂れた商店街のハズレ……そんな所に連れてこられて、一体何をしろと言うのか、と言う話で……人通りの少ない道を、ちら、と眺めつつも……少し前を行く二人に視線をやる。

 

「マリク君、此方だ」

「ほら早くしろよー」

「うぃーっす……」

 

 片方は……委員長から連絡を受けて、俺を預かる事となったラルさん。

 もう一人は、どうやらラルさんが元から誘っていたらしい、レイジ。

 会話からして、彼らは世界大会に向けて、なんかしらの特訓をしていたらしい……俺と同じ様に。んで、その中に俺も混ぜて貰ったと。

 

 しかし……俺としては微妙にテンションが上がり切らんのだが。こちとら健全な学生だぞ。こんな夜中のちょっとディープな雰囲気の漂うエリアに来て『ヒャッハー!』出来る程覚悟決まってないんだよ。

 

「はぁ……恨むぜ、委員長……」

 

 

 

 

 

 

「無謀ね」

 

 一発だった。一撃だった。必殺の一言だった。思わずして、我ら二人して委員長の部屋の床に膝をついて崩れ落ちる。棚からガンプラの入っているケースまで、キッチリと整理整頓された学生にとって理想的なこの部屋のように。

 分かりやすく、把握しやすい、そして直線的でもある、一言だった。

 

 一体何の話だと言われると、それは委員長に話した……俺達の掲げる『世界大会出場』の目標の事だ。

 

「うぅ……一刀両断……」

「砕け散りそうや……手加減してーや……」

「手加減してどうなる物でも無いわ。世界大会への出場もそうだけど、アンタ達の『本当の狙い』なんて、それこそ無謀というしかない」

 

 ……いや、正確に言おう。俺達が誰にも話さずに掲げていた『遊戯王の復権』までも、全部纏めて吐いた。吐かされた。

 全国大会出場の事を話したら『それならイオリ君に頼むこむような真似までする必要ないでしょ』と睨まれて……並々ならぬ熱意の理由まで。全部。

 

 んで、全部聞いた後に……これである。丸裸にされた上に『貧相ね』と言われるようなものである。精神の凌辱だ。訴えたら勝てるぞ。

 

「なんや、俺達の宣伝は上手く行かん言うんか……」

「そうじゃないわよ。というか、そっちがどんな効果を生むかなんて、広告の専門でもないんだから分かる訳ないでしょ……問題は、アンタ達がもう世界大会に出れる気でいる事」

 

 委員長にそう言われ……顔を見合わせてしまう。

 

「いや、流石に俺らだって世界大会調べたから分かるぞ」

「せや、全国の予選を勝たないと出れない事くらいは調べもついとる」

 

 ガンプラバトルの世界大会――世界選手権は、当然ながら、ただ出場しようと思えば出れる広い門戸なわけが無い。先ずは、日本は愚か、世界各地で行われる予選を勝ち抜いて、その各地区の代表者にならなければ、本選への出場権は出られない。

 

「んで? アンタ達、予選に出て勝つ気でいるの?」

「当たり前やろ! なぁマリク!」

「あぁ、取り敢えず予選はウォドム・リボルヴで出るが……本選には、俺の全てを注ぎ込んだ、『マイフェイバリット』で出場する予定だ」

 

 とはいえ、だ。

 流石にこちとらフルスクラッチも込みで鍛え上げられた改造機。そんじょそこらのガンプラ相手に遅れは取らんし……なんなら、圧勝まで視野に入って来るだろう……ちらり、と机の上に置かれたウォドム・リボルヴを見る。

コイツのリボルバーの火力で粉砕できないガンプラなんざいない。委員長レベルなら兎も角、あの火力を見せられて怯まない奴なんざそうはいない筈だ。

 

「予選をソイツで突破できるって?」

「当たり前だ。流石にイオリ先生程じゃないが、こっちもそれなりの――」

「――予選にも、イオリ君のレベルのビルダーはゴロゴロいるわよ。そして、レイジ、って子クラスのファイターも、ね」

 

 ――そう、思っていた。

 

 え、と。口から、漏れだす言葉。頭の中に浮かぶ、大きなハテナマーク。委員長の言葉の意味が、よく分からなくて、何度か、彼女の言葉を頭の中で繰り返す。

 

 ……イオリ先生レベルのビルダーが沢山いる? あんな凄いフルスクラッチのガンプラを組み上げるような、とんでもないビルダーが?

 レイジクラスのファイターが何人も出場してる? 冗談だろう、俺はアイツとガンプラバトルして、結局一回も勝てなかったんだぞ。

 

「う、嘘やろ……?」

 

 リュウザキの口から、零れた言葉に、弱々しく、頷く事しか出来なかった。

 今の俺達は、それなりに世界にも通用するんじゃないか、と言うレベルになったと思っていた。確かに委員長には完敗したけれど。それでも、ウォドム・リボルヴの火力は間違いなくそんじょそこらのガンプラを上回っているし、バトルの腕も、今から上げて行けば間に合わないという事もないだろう

 

 予選の中で成長して、本選に向けてちゃんと備えていければ――そう思っていた。

 

「イオリ君は確かに腕の良いビルダーよ。でも、それは世界から見ればさして珍しいレベルでもないし。私は……そうね」

 

「以前出た世界選手権で……予選突破も、叶わなかった」

 

 だが、現実はどうだ……絶望しか見えない。

 

 俺たちの中で、委員長は間違いなく、強いファイターの一人で。ビルダーとしても一流だろう。あのユウキ・タツヤにも肉薄出来る程の怪物だと思っていた。だけど……そんな委員長ですら、予選突破が、出来ない?

 それ程の魔境か、ガンプラバトル、世界選手権……!

 

「ウォドム・リボルヴ……凄いガンプラだと思う。初心者が組み上げたにしては、なんて冠も必要ない位。凄い熱のこもったガンプラよ」

 

 ……そっと、机の上のウォドム・リボルヴを、委員長は手に取った。三つの砲塔を指先で磨くように、優しく撫でている。

 

「艶消しガンメタルの重厚な色合い、リボルバーの砲塔部分の螺旋の作り込み。牙の一本一本の綺麗な丸みに尻尾部分の可動域。コレは、元ネタへのリスペクト……ウォドムの武装をいろんな場所に無駄にならない様に組み込んでいるのは、ウォドムへのリスペクトよね」

 

 まるで……幼子を慈しむ様に、穏やかに委員長は笑って、俺のガンプラを見ていた。

 なんだか、気恥ずかしくなってくる。その一つ一つ、俺が確かに拘って、作り上げてきたものだ。それをなぞられるように、口にされると……物凄い、背中に来る、むず痒い気持ちになって来る。

 

「私には分かる……本当に、頑張って作ったんだっているのが分かるわ。マリク」

 

 こんなに委員長に素直に褒められたのは、何時ぶりだろうか――そう思っていた所でしかし、委員長の顔が、急に先程の真剣な物へと戻る。

 

「でも……ううん。だからこそ、これではダメ。『頑張った』、だけではダメなの。予選にもアンタと同じくらい、自分の作品に熱を込めた猛者たちは出てくる……そんな中から、更に選び抜かれた怪物が、『本選』に出られるの」

 

 委員長の瞳は、とても真っすぐで。理屈ではなく、心で理解できる。委員長の言葉に嘘はない。俺達の努力では……本選へと勝ち進めるかなんて、議論の余地に乗る所まではまだ至っていないんだと。

 

「世界大会。アンタ達の目標を考えるなら、それこそ本選出場は必須でしょう。でも今のアンタ達じゃ、出口の見えない迷宮に、備えも無しに挑むようなモノ……本篇への道へは決してたどり着けない」

 

 ……委員長の耳飾りに描かれた『迷』と『宮』の文字が、ちりん、と音を立てて微かに揺れる――頭に浮かぶ、名もなきファラオが迷い込んだ底なしの巨大な迷宮。

 壁にはモンスターをも喰らう鬼が潜み、通路を鋼の無慈悲な処刑機械が巡回する……油断すれば、地雷の如き潜んだ大蜘蛛に足を掬われて、喰い尽くされる。

 そんな地獄の一丁目に潜む魔神の如き修羅は――少なくとも一人ではないだろう。

 

『――コレが、僕のガンプラ』

『諦めんな――前に、出ろォ!!』

『燃え上がれ……ガンプラぁ!!』

 

 少なくとも、三人――清水と称せる程に透き通った覚悟でガンプラに向き合う求道者。疾風の如く迷わずに前へと進む若き戦士、そして一瞬の雷鳴にも似て――その強さを焼き付ける絶対強者。

 

 そして俺達の目の前にも……確かに『番人』の如く、少女が立っている。

 少なくとも、今の俺達では敵わなかった、本物のガンプラファイターが。

 

「今のままならね……どうする?」

 

 俺を、見つめながら――

 

「――ハッ」

「……何笑ってんのよ」

「いや、ガンプラバトルの先達ってのは、どいつもこいつも器がデカくて……厳しいもんだと思ってな」

 

 その目は。憐みのモノではなかった。届かない事を哀れと慰める、そんな優しいモノではない――それは、覚悟を問い直す、鋭い視線だった。

 ここから先に進むなら、更なる地獄が待つだろう、と。それでも尚、進むのか、と。

 思い出すのは、イオリ先生の事。俺にとっては、大事な師であり……ガンプラバトルの深淵に進む、その覚悟を決めさせてくれた人。

 

「最後は結局、俺達が決断するしかない――地獄に赴く、その覚悟をよ」

「へっ……今更やで、委員長……俺ら、もう退く事が出来ない所まで、来てしもたんや」

 

 立ち上がって、瞳を見返すようにそう返す。

 迷宮を守る――迂闊な侵入者を優しく返すために、そこに立つ番人に向けて。

 

「――良いわ。イオリ君はこれから大会に向けて自分のガンプラに集中しなきゃいけないでしょうから、アンタ達の面倒は、変わって私が引き受ける。言っとくけど、イオリ君ほど優しくはないから、覚悟しておきなさい!」

 

 ……椅子から堂々と立ち上がり。

 両腕を組んで此方を睨みつける少女は、同い年とは思えない程の……それこそ、先ほどユウキ先輩を睨んでいた時とは、比べ物にならない程の威圧感……それこそ、覇気と呼んでも良い程のモノを纏っている。

 

 思わず、足が竦みそうになる。

 コレですら世界のレベルの一歩手前だ。若干学生ながら、ここまでの迫力を身に纏うようになる程の彼女ですら、未だ予選を突破できていないと来た。

 

 ……面白いじゃないか。環境を席巻する頂点のデッキを下した時ほど、心躍る事もない。

 

「んで……アンタ達、先ずは何がしたい?」

「腕を磨く!」

「俺は……先ずは相棒、ガンプラ構築やな! 漸く、アイツを組み上げるのに必要なガンプラ、見つかったんや!」

 

 それぞれやる事は違う。だが……それでも、世界大会までに必ずや終わらせる。

 リュウザキと視線を合わせ――互いに笑う。これからが、勝負だ!

 

「そ、ならリュウザキは私と一緒にガンプラの制作。並行して、モデラーとしての腕を上げられるようにキッチリ揉んでやるから。んで、マリクの方は……そうね。ちょっと待ってなさい。腕を上げるなら、一番いい方法を、あの人が知ってる筈」

 

 

 

 

 

 

 ……んで、それから数日ですよ。

 俺はラルさん、レイジと共にここへと訪れる事となった……この、妖しげな……地下へと続く階段と……その奥の扉の前へと。

 

「……ラルさんが幹部やってる犯罪組織への入り口?」

「そんなわけないだろう失敬な!!」

 

 そしてそこへと続く階段の前へ立っているラルさんは……基本的に気のいいおじ様、みたいな顔つきしてるのだが。

ちょっときりっとすると、なんか軍人さんみたいな迫力を醸し出すんだよ。それがこの暗がりと、秘密基地みたいな空気にエゲツない位にマッチしてるっていう……んで、それぞれの相乗効果でビビるような迫力を生んでるっていう。

 

「気持ちは分かるけどなぁ……ラルのおっさん。ここは何なんだ?」

「ふふ……なぁに、入ってみればわかるとも。着いてきたまえ二人とも!」

 

 ……陽気に言われても、ちょっと躊躇してしまうんだが……まぁでも、流石に分別ある大人……だろうし、そんな危ない所に連れてきたりは、しない、とは……思う……思いたい。いや、分別ある大人って分かるくらいに付き合いがある訳じゃないんだけど。

 

 そう思いつつ、こつ、こつと階段を下っていくと……鼻に香るのは、僅かなアルコールとそして……塗料の、匂い?

 

「――さぁ、入りなさい。此処こそはガンプラを愛する者達の社交場だよ」

 

 頭に浮かぶハテナマークを解消する暇もなく、ラルさんは重厚そうな木の扉を開ける。その先に広がっていたのは――

 

「こ、これは……!?」

 

 入り口傍のカウンター、その奥に並ぶボトルのビン。

 バーのような、シックで赴きある空間に、ドンと置いてあるのは――余りにも唐突なガンプラバトルのステージ。そしてそこで行われているのは……モノアイタイプの機体が多めの、白熱するガンプラバトル!

 

「どいつもコイツも、ギラついた目してんじゃねぇか……!」

「成程なぁ……武者修行って感じ、してきたじゃねーの?」

 




ドイツ代表で世界大会常連が普通に負けるような本選。一国からイオリ君、マオ君にメイジンと、三人も世界に通じるような怪物が出てきて、当然のように本選も勝ち抜いていく。

予選でも、ビルドストライクに一矢報いたマラサイもいたという……あれ? 控えめに言って世界選手権って修羅の巷では?
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