遊戯王 ビルドモンスターズ 作:最近の虫野郎
「――そう言えばアンタ達。出るのは良いけどどっから出場するつもりなの」
委員長の部屋の中。俺達が遊戯王を教える、という事になって、意気揚々と体に仕込んだプレイマットやデッキを取り出し始めたその直後。
椅子に腰かけた委員長がそう言った、その言葉の意味が、俺達には正直に良く分からなかったのだ。
という事で、我らデュエリスト組は揃って『日本から?』と答えた。委員長はため息を吐いた。解せぬと思った。
「なんでよ。日本からじゃダメなのか?」
「ダメよ。というか……その口調からして、そもそも日本からの出場枠は限られてるって知らないみたいね、アンタら。」
「――えっ」
「いや、知らん、なんやそれ、こわ……」
いや……予選を勝ち抜かないと本選に出れないのは知っていたのだが。
委員長によると、各国から集めた選手全員で予選やって……とかじゃなくて、各国で開催される予選で、それぞれでふるいをかけてから本選に送り出す形式なのだという。
「日本は、ガンプラと機動戦士ガンダム発祥の地、っていう事もあって、基本的に一人を選出する他の参加国よりも多くの出場枠が設けられてる。だけど……それでも五つ。何処に住んでるかでどこの大会に出れるかは決まってるわよ。多少の例外はあるけど」
「「――何ぃ!?」」
……が、次の一言は俺に取っちゃ青天の霹靂染みた驚愕の極だった。もっとこう、どこからでも参加できるフリーダムな感じだと思ってたのだが。
「なんでや!? 住んでるところ関係ないやろ!!」
「あるわよバカ。アンタ日本選手権の選手ですっていってバリバリアメリカ在住の人が出場して良いと思ってるの?」
「いえすみません……そう言われればそうでした……」
至極真っ当な一言で先ずリュウザキが沈んだ。俺も後には――続かない。コイツと違って納得出来たので……しかしながら、そうなると、俺達が参加できる場所って言うのは……聖鳳学園があるこの地区のみ限られるわけでして、ねぇ。そうなって来ますと委員長。
「ユウキ先輩とイオリ先生とレイジ出るじゃねぇか!?」
「ふざけんな勝てるわけないやろいい加減にせェ!!!」
思わずリュウザキと二人して頭を抱えた。余りにも酷に過ぎる現実に。
なんでいきなり世界トップレベルの怪物と、俺達のお師匠の天才ビルダーと謎の天才ファイターのコンビが出場するような魔境に繰り出さなければならないというのか。ああいや待て、それだけじゃないぞ……!
「委員長もここから出場すんじゃねぇの!?」
「ふざけんなや!!!!! クソゲーやんけ!!!!!」
「私は地方の大会で優勝してるから、優勝者って事で態々招待来てるし、そっちから出るから心配しなくて良いわよ」
「「あ、左様で……」」
成程。委員長はちゃんと実績を積み重ねて来たから、別地方からの出場も敵うと。まぁこの委員長は、例えユウキ先輩、レイジが出場するこの区画にも一切臆さず出場するだろうし単純にご招待されたのを蹴るのが申し訳ない位の感覚で受けたんだろうな……
いや委員長がいなくなっても地獄なのは関係ないんですけれどもね。おぉ何と無慈悲! 神は死んだというのですか……!
「で、でも俺達はバリバリの日本人ですし、当然ながら他の国からの出場とか――」
「無理に決まってるでしょ」
「っすよねぇ!!!」
「――でも、抜け穴はあるわ」
絶望に頭を抱える俺達……しかし、そんな俺達と違って、委員長はあくまで淡々と言葉を紡ぐ。更に、至極当然のように――『抜け穴』がある、と言うのだという。
「そうなのか?」
「言ったでしょ。基本は各国の予選でそこからたった一人が選ばれるって……それじゃあそもそも予選が開催されていない国から出場したい人はどうするの?」
「あー……そういえば、そうやな!!」
そうだ。不正防止のための出場制限――多くの国で開催されているとはいえ、どうしたって参加できない人は出て来てしまう。流石に世界に展開する玩具の大会、子供達も楽しんで参加したいと思うような大会で、それはマズいのではないか。
となれば――
「あるのか? そう言う人達でも出れる枠が」
「……うん。確かに一つだけある。予選開催地の六十八か国以外からでも参加できる、言わば『
「おぉ!! となれば、そこしかないやんけ!」
リュウザキが手を叩いて立ち上がる。なんという都合の良すぎる展開――と、思いたかったのだが。俺は、素直に喜べなかった。
委員長が、その自由枠を語る時の表情が……余りにも、苦々しいモノだったから。
「確か……『WWF』――でしたっけ?」
俺の言葉に、ラルさんが静かに頷いた。
「そうだな。正式には、『ワールドワイドファイター選抜会』。世界のあらゆるファイターがガンプラバトル本選出場と言うチャンスを掴む事が出来る機会を与えたい、という理念から設立された大会だ」
大会が開かれた場所や生まれた国……幸運に恵まれなかった選手たちに与えられた最大のチャンス、って事になる。
「……この僅かなチャンスを掴むために、地に伏せていた実力者が一斉に集結する。その事からこの大会は『小世界大会』とすら呼ばれていた事もあった」
「うげぇ……」
ラルさんがそう言うって事は、マジもマジなんだろう。
イオリ先生とレイジのバケモンコンビと、レイジがまるで敵わなかった怪物にして世界大会のトップクラス。そんな彼らと、不確定ではあるが死に物狂い確定のWWF参加者。
前者相手にするよりは、委員長的には、多分後者の方が僅かに可能性がある、そう考えてこっちの方がいいと言ったのだろうが。
「しかし……ミヤノくんがこの大会を勧めるとは、意外だな……では、死者蘇生を発動……」
「あ、ブルーアイズ召喚するつもりでしょ。それは神の宣告合わせますねー……んで、何がすか?」
「むぅ、中々……恐らく、彼女はこの大会の事情を知らないのだろう。海外のガンプラバトル、それもあまり大々的に放映されない部分の事だからな」
しかし。
あの時の委員長の顔を思い出す。あの苦虫を嚙み潰したみたいな表情と――目の前のラルさんの顔が、重なって見える。ラルさんも、眉間にたっぷりと皴を寄せている。
デュエルの展開に対してではない。その大会について語る時だ。二人が顔をゆがめているのは。
その大会。ご立派な理念の大会……というだけではない。何かある、というのは、流石に俺でもここで察しがついた。
「ここ最近の『WWF』は、最も『荒れる予選』とすら言われているのだよ」
「荒れる予選……?」
「WWFの特徴は、どんな所からでも、どんなファイターの参戦も受け付ける『自由な参加条件』にある……だがしかし、それ故に、例え脛に傷ある者でも参加できてしまう」
「……それって?」
「要するに、裏の世界の住人達だ」
……ラルさん曰く。
ガンプラバトルでの優勝者という肩書、その輝きを目くらましに陰で後ろ暗い商売や、工作を行う……名誉というのは、そう言った悪行にも利用されやすい、という事で。
「彼らにとって、表世界で通じる看板と言うのは、想像以上に必要なモノなのだよ。故にどんな者でも出場できてしまう『WWF』は、正に狙い目になる」
『合法的に』……そう、一切誰にも文句を言われない程に正当な方法で、裏社会の住人たちが、自分達の元に金にも等しい価値を持つ看板を持ち帰るチャンス。
裏工作すら必要ない。それこそ、ガンダムバトル内のラフプレーだけで十分……そんな大チャンスを、見逃すわけないのだという。世界に蔓延るガンプラマフィア(聞いた時はマジで一瞬宇宙猫になった)達などにとっては。
「そう言った大会だ。出場する一般選手は溜まったモノではないとばっちりを受ける。ガンプラバトル内とはいえ、裏社会の住人たちを相手取る事になるのだから……では……『マンジュ・ゴッド』を召喚するとしようか」
「……なるほど、なるほど……どうぞ。発動ありません」
「ありがとう……ミヤノくんはガンプラバトルをこよなく愛する少女だ。そんな彼女が、この事実を知っていたならば、君にこの悪辣な大会への出場を勧めるとは思えない」
……成程。
ここまで聞かされて、漸くあの委員長の表情の理由が分かった気がする。
「――選手の安全は?」
「……大会運営によって固く担保されている。寧ろ、そう言った裏工作が一切許されない分、バトル内『では』なんでもありな大会なのだよ」
「そうすか……だったら多分委員長は、分かってて勧めたんだと思いますよ」
「何!?」
ラルさんが目を丸くしているが……そもそも、委員長は、ここへの出場をこう、張り切って進めて来た訳じゃなかった。『一番可能性がある』所は何処か、と言う話になった後、絞り出すように……酷く苦しそうな様子で、俺達に進めてきたのだ。
『――どうしても、出たいなら……ここ……一番、可能性は高い、と思う』
明らかに歯切れの悪い言い方だったのを覚えている。
どういう大会か知っていて。本当は勧めたくなくて。口にしたくもなくて。
それでも、俺達がどうしても出場したい、と言っていたから。奥歯噛みしめて……本当にろくでもない大会だと分かっていて、それでもなお話した。
「マジで俺達自身が危険な大会なら、口にしてなかったと思います。でも、そう言うのも無い……それなら日本からの出場を狙うよりは、世界大会に出られる可能性は高い、と」
「……成程。大会の事を良く理解していたがゆえに、敢えて、という事か」
「そうじゃないんですかねぇ」
んで。そう思って話したはいいけれど。
やっぱり自分の口からどんな大会を勧めたのかを言いたくなくて……恐らく、ラルさんならその嫌な部分もちゃんと知っていて、話してくれるだろうと信じて、こうして頼れる大人に後を託したんじゃ、ないかって。
「大人ぶって考察してみたり? なんて……」
僅かに後ろ頭を掻きながらそう口にすると……ラルさんは、一際優しい笑顔を浮かべながら、頷いて見せた。
「成程。何とも愛されているではないか君達」
「いやそんな……コレはあくまで想像ですし、確証も無いですし的外れもいい所かも……」
「そうでもない。私の知るミヤノくんの人柄を思えば、寧ろその説明なら納得できる。生真面目で……だからこそ、ドモン・カッシュの如くガンプラバトルに対して熱すぎる彼女だからな」
まあそれはそうだ。
俺たちとのガンプラ勝負の時も、マジでマナーもクソもない乱入で、突如として喧嘩を売られたにも関わらず、怒るよりも先に闘志を燃やして、勝負を受けた。
それは生真面目ぶった仮面を被っているのを脱ぎ捨て、荒ぶる本性を現した……訳ではなくて。
むしろ、ガンプラバトルに生真面目過ぎて。勝負をかわす選択肢を取れなかった。挑まれた勝負から逃げ出す選択肢を投げ捨てていた。
いつでもガンプラとなれば全力なのだ。委員長は。
「そんな彼女だからこそ、どうしても良くない事だと分かっていても、世界大会へと出場したい、君達の熱意に応えたくなってしまった。実にミヤノくんらしいではないか!」
……思わず、頷いてしまう。
本当に。別に諦めろの一言で終わらせてもいいというのに。それでも、頑張れる可能性があるなら、その一言で終わらせられない辺り、本当に……
ロクでもない大会である事は確かのは分かった。だけど……委員長が示してくれたこの可能性に、飛びつかないという選択肢は、先ずない。
心情曲げてまで示してくれたこの可能性を蹴るなんざしたくないし……何よりも。
「それに……そんな大会だからこそ、良いじゃないですか」
「うん?」
「俺達はそもそもガンプラに挑む侵略者。立場的にはそのロクデナシ共と大して変わりません。だったら先ずは――同じロクデナシ共をなぎ倒して、選ばれたロクデナシくらいにはならないとダメでしょう」
渾沌。凶悪。ルール無用。間違いなく、史上最悪のガンプラ大会だ。だけどそこには間違いなく、世界中から集まってくるのだ。理由は様々だろうとも、勝ちあがるという熱意に溢れたガンプラファイター共が。
その中で勝ち残る事が出来れば、間違いなく『強く』なれるだろう。
……今はレイジや、ユウキ先輩、世界のレベルでなくとも。生き残れば、そのレベルに追いつけるかもしれない。世界大会本選出場と、自分の腕磨きの修行……一石二鳥の最高の案だ。治安その他諸々に一切目をつぶれば。良いじゃないか、燃えてきた。
「やってやりますよ、WWF。そこを、先ずは俺達のマイフェイバリットで勝ち抜いてやる」
「……うむ! うむ! よくぞ言った若者よ! この勢い、この思い切りの良さこそ若さと言うモノだな! はっはっはっ!」
……まだ世界は遠い。
腕も、ガンプラも、足りないモノは多いけど……そこへと届かせるための道筋は何とか見えてきた気がしている。
そこを突破できるかは……これからの、俺次第だ。
「――はー、ったくお前まだやるつもりか?」
「当たり前だ。一発はぶち込んでやらない時がすまねぇぞフェリーニ」
「おーおー若い事で……ん? 大尉、何やってるんですかコレ……カードゲーム?」
「おっ、セイとやってた奴じゃねぇか。マリク、コレどっち勝ってるんだ?」
……さて。取り敢えず。これから俺達が挑むところは分かった。未来の話は改めてするとしよう。今、俺が頭脳を回すべきは。
「えー、カオスMAXが巨大化装備で攻撃力倍で8000、ジェット・ドラゴンも添えられている……んでもって墓地には復活の福音が落ちてて、伏せが一枚ある……か。うん、俺ガン不利だな」
「お、そうなのか」
……この、割と絶望的な状況を、どうやって覆そうかと言う所だ。
ラルさん、割とガチガチのブルーアイズ使いなんだなぁ……一応、生き残りはしたけどどうやって突破すっかなぁ……?
予選開催国は六十八か国って聞いて「……それ以外の国から出場したい人ってどうすればいんだろう」と思ったのがこの予選枠を作ったきっかけです。
実際一つくらいありそうですよね、世界自由枠的なの。こんな荒れてるのは私の時空だけでしょうけど(白目)