遊戯王 ビルドモンスターズ   作:最近の虫野郎

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16ターン目 「俺とやろーや!」

「――いやー、ビルドストライクガンダムのパーツが取れた時はどうなると思ってたけども、流石はイオリ先生・レイジコンビ! 押し返したな!」

 

 予選大会、開幕――日本の。

 おおよその想像通り、イオリ先生、レイジの少年コンビは、見事に快勝を続けている。その勝ちっぷりを思い出すと、アスファルトを歩く足も……若干、重くなる。

 

「ほんま……あのブロックでなくて正解やったわ……」

「うん……」

 

 リュウザキの肩が落ちる。気持ちは分かる。イオリ模型店へと向かう道すがらの予選での二人の活躍の振り返りは……非常に心臓に宜しくない。

 いよいよ完成形となったイオリ先生のビルドストライクに、未だにイタリアチャンプと模擬戦を繰り返して上がり続けるレイジの腕。対戦相手のピンクの……えっと……ガーベラなんちゃらが哀れに思えるくらいの格の差が現われる試合だった、先日は。

 

 アクシデントと言う不利を二人が背負って尚、あの快勝なのだから。

 

「あのまま行ってしまうんやないか? 優勝」

「勢いはある気がする。遊戯王も、やっぱり勢いに乗った方がドローのノリも良いしな」

 

三戦の才の二枚ドローとか、ノってる時とノってない時じゃ、ディスティニードローとポーカーくらいの差が出てくる。当然、今のイオリ先生はディスティニードロー連発する勢いで、当然のように展開札と全体除去札をセットでお取り寄せできてしまう気がする。

 

 もしやすれば……ユウキ先輩も。

 

「……応援行けねぇし、頑張ってほしいよなぁ」

「せやなぁ。イオリ先生たちが決勝に挑んどる時、俺らはお空の上……WWF出場の為に海外遠征行っとるし」

 

 正直、その瞬間を見られないとしたら、かなり悔いはある。俺らの初めてのガンプラの師匠だ。大いなる強敵を打ち破って大成するイオリ先生の雄姿を見届けたいと思うのは自然な事だと思う。思うが……しかしながら。

 

 ガンプラバトルの大会はある一定時期に揃って開催されている、と言う訳ではない。WWFの開催時期は、予選会の中でも最も遅いタイミングであり、更に言うながら此度のWWFの開催場所は、我らが偉大なる地元である日本などではなく……

 

「エジプトかぁ……ほんま遠いなぁ」

「実家に帰るには丁度いいって姉ちゃんは喜んでたけどな」

 

 そう。遊戯王に置いては、多くの謎の源流にして、全ての元凶、三幻神の眠る地であるエジプトである。一応、俺達姉弟のご実家でもあるのだが……まぁそれは良い。

 

 兎も角、それもあって、大会開催前に現地に乗り込んで慣れておかないといけない、という事で、もう暫くしたら俺達は日本を立つことになっている。正確に言えば、決勝の一戦前くらいは見れない事もないのだが……

 俺にはそれが許されない極道スケジュールが待っている。

 

「んで? 間に合いそうなんか?」

「ギリギリの所だが……後は現地での調整になるかねぇ――本選用の機体は」

 

 ふわぁ、と。大あくびが漏れてしまった。

 

 ……此度、俺がWWF予選に向けて使うのはウォドム・リボルヴではない。

 

 ウォドム・リボルヴが弱い機体とは言わない。寧ろポテンシャルなら、ビルドストライクにも劣らないと思う……完成前の、だけど。

 しかし何でもあり、修羅の巷に持ち込むには、余りにも不足。委員長との話し合いの結果として、世界大会用に設計していたプランを前倒しし、WWFに持ち込む事となった。

 

 言わば俺のマイフェイバリット……委員長に負けた日から制作を開始している新型にして本命のガンプラだ。ラルさんとの武者修行の間にも、暇を見つけては作ってた。そのお陰で、ここ最近は若干寝不足気味になってしまっている。

 

「ほなら良かったわぁ……俺が()()()()()()()()()()()()()、バッチリと、そこらへんはやってもらわんとなぁ?」

「いやホント、悪いなリュウザキ」

 

 その急速な進捗の裏には……相棒であるリュウザキの協力がある。

 

「……なーんてな。そんな顔すんなやマリクゥ、俺も納得はしとるよ」

「でもなぁ」

「しゃーないやろ……先にガンプラが完成して、バリバリ実践踏んどったお前と違て、俺は漸く委員長とガンプラバトルの本格的な模擬戦始めたくらいやしな」

 

 頭の後ろで手を組んで、天を見上げるリュウザキは、何処か僅かに黄昏れたような表情をしていた。

 

 ……単純に、何方が先に『ガンプラ』を完成させたかの差だった。

 リュウザキは、レッドアイズに拘り。俺は兎も角、先ずは場数を踏む事を優先してウォドム・リボルヴを完成させた。

 

そして、ガンプラの選抜、そこからリュウザキ渾身の『レッドアイズのガンプラ』が完成するまでに、俺は委員長と鎬を削り、そして世界のレベルがヤベェ!となってガンプラ作成やらラルさんとの武者修行やら、と……要するに速さが足りなかった。

 

『……アカン……間に合わへん……!!』

 

 委員長の作戦会議の中で、ラーの翼神竜の目の前で崩れ落ちた凡骨デュエリストの如くにレイプ目疲労困憊で、リュウザキはそう言った。ガンプラは間に合った。しかし肝心のファイターとしての腕が間に合わなかった……!

 

 同じ先行でも、じっくり罠ビートな蠱惑魔と、宇宙創造完全制圧のイシズティアラメンツとではデュエルの速さが違い過ぎる。どちらも厄介ではあるのだが……今回は、世界のレベルに追いつくのに、後者レベルの速度が必要だったわけだ。

 

「そんな俺が世界大会出るよりは、お前のサポートしとった方が、まだ『俺ら』の勝ち目はあがるっちゅうもんや。頼むで、相棒」

「おう。任せろ。お前のバックアップがあれば百人力ってもんだ」

「アホか。二千四百人力や。レッドアイズの攻撃力舐めんなや?」

 

 という事で。此度リュウザキは俺のセコンドとして、一緒にガンプラの調整と修復、改善など、色々やってくれることになった。正直、俺と同じくらいの遊戯王スピリッツを持ち尚且つ俺以上のビルダーとしての腕を持つリュウザキがセコンドについてくれるのは、ありがたすぎる事この上なかった。安心して俺の機体を預けられる。

 

「ちゅーか、そもそも俺の力添えばっかり頼んなや相棒。折角のええアイディアやっちゅうのに、変に塗装妥協してどないすんねん」

「いや面目ねぇ……どうにも足りなかったもんで」

「アカン!! その妥協が僅かな違和感に繋がるんやで!!」

 

 ……以上、というのは、正確ではないか。恐らく、今のリュウザキのビルダーとしての腕は間違いなく俺より『上』だ。

 

 今日、こうしてイオリ模型店に向かっているのも……イオリ先生の陣中見舞い的なアレもあるが、リュウザキが欲しい塗料がある、という事で買い物に来たのだ。

 正直な話、ガンプラ選定から拘ってやってただけあって、リュウザキの『レッドアイズ』の完成度はとんでもない。贔屓目無しに……委員長の影鬼よりも上かもしれない、と思ってしまう位には。

 それ位拘って作成していたからか、ファイトに力を注いでいた俺よりも、まぁ上手くなったのだ。機体を塗る塗料一つとってもかなり拘るくらいの職人と化している。

 

「ったく……ほんま頼むで。お前のガンプラ、完成したらWWFやろうが世界大会やろうが敵やあらへん。俺かて認める、マリクの集大成や。お前が手ェ抜いたらしまいやで」

「悪い悪い。お前のレッドアイズの分まで、頑張らないとな」

「ほんまや!!!」

 

 いや、単純にガンプラを組む腕や改造のアイデアなら負けてない……けど、後ほんの僅かの詰め、画竜にキッチリ仕上げをする部分では、リュウザキは俺の上を行くだろう。

 

「あーホント……俺のレッドアイズの雄姿は、大分お預けなんやで……いやー、世界大会で、暴れ散らしたかったぁ!!」

「イオリ先生とレイジと模擬戦するか?」

「あー……それもええかもなぁ。お前の行ってたとこでやるのも悪ないかもしれん……あ、見えてきた見えてきた。俺らの第二の聖地」

 

 にやりと笑うリュウザキを見ていると、思う。コイツが渾身の力をもって作り上げた、あの『レッドアイズ』の性能を、戦っている処を、雄姿を、俺も見てみたかった、と。

 コイツのビルダーとしての腕が全て注ぎ込まれた、あの機体なら……世界大会も夢じゃないだろう。絶対にあり得ないが、リュウザキが自分のマイフェイバリットを、俺に託すという事があったなら……どうなっていただろうか。

 

 そう思いながら――イオリ模型店の入り口をくぐる。

 

「――イオリせんせー、邪魔すんでー」

「邪魔すんならかえってー」

「あいよー……いやまだ塗料買ってへんやろがい!!! んでお前が言うんかい!!」

「だってイオリ先生言わないだろうし……あれっ?」

 

 ……そこで、気が付いた。

一漫才終わったというのに、何時もならカウンターか、店内の何処かで出迎えをしてくれる、イオリ先生の声が来ない。というか、イオリ先生の姿が見えない。棚の傍、レジの後ろにも。店内がガランとしているのだ。

 

「なんや、品出しかいな?」

「いや、今日はリン子さんもいるって言ってたから――どっちもいないのはおかしい」

 

 ちらり、と。隣のリュウザキと視線を交わす。相棒が軽く頷くのが見えた。ここまで何もないと……些か不安が過るのは、何方も同じ意見らしい

 

「――リュウザキ」

「おう。二階行ってみよか」

 

 ここ最近、ガンプラマフィアだとかいう素っ頓狂な単語を聞いている俺だ。ガンプラ専門の押し入り強盗がいたとしても何ら不思議じゃない……可愛い後輩兼師匠と、そのお母様の危機かもしれん。

 頷きながら、ちらりと二階の階段のある方向へと視線を向ける。

 

 すわ討ち入りか。傍から見ればそんな緊張感を持つそんな俺達の肩を――

 

「――何事だ、少年たち」

 

 大きな掌が叩いた。

 

 

 

 

 

 

「……万が一、犯人が潜伏していたり、もしくは何もなかった場合に備え、最初の一言は落ち着いて、出来るだけ、フランクに行くとしよう、二人とも」

「了解。ラルさん、万が一の時は……」

「頼みましたで」

「うむ。このラル、全身全霊をかけて不審者を打倒しよう……!」

 

 幸運だった。

中学生ばかりで戦力に不安の残るパーティに、丁度イオリ模型店にパーツを買いに来ていたラルさんが合流してくれたのは。

ラルさん程に体格のイイ大人なら、万が一にも不審者がいても対抗できる。

 

 玄関扉の前。確認したが、カギはかかっていない。不安な予感はまだ増す――だが、あくまで最悪の可能性が確定したわけではない。という事で……探る様に、三人は一歩、玄関に向けて足を踏み出した。

 

 まるきり不法侵入なのだが……しかし、反応がない。二人と視線を合わせると、黙って頷きを返してくれた。リュウザキが先頭に、切り札ラルさんには殿を任せ、リビングに繋がる廊下を一歩、一歩と行く。

 

 入る時の台詞は決まっている。この反応で、様子を見るつもりだ。

 リュウザキがそっとリビングの扉に手をかけた。振り返って此方を見たのに、小さくサムズアップだけして返した。

 

「――イオリ先生、リン子はん、邪魔するでー」

 

 扉を開き、出来るだけ内心を悟らせぬように、リュウザキが一歩を踏み出す――!

 

「あ、邪魔すんやったら帰っておくれやす~」

「「「あいよ~」」」

 

 そしてそのまま振り返って玄関へと向けてとんぼ返りに行進を開始した。マジックシリンダーもビックリな反射具合だなぁこりゃあ。

 

「――じゃなくて!?」

「いやだれ!?」

「そのガンプラの出来、実に見事ではないか!」

 

 ……で、終わる訳にもいかないので、取り敢えず三人そろって室内に再び突入。

 室内には、奥に正座で座るイオリ先生。その奥の辺りの、居間というか自由なスペースの辺りを見つめる、リン子さんとそしてイオリ先生のクラスメイトだという、委員長に負けない眼鏡っ子のチナちゃんの二人がいて……更に――もう一人。

 

 丸いハットの下の糸目が印象的な見覚えのない少年。その少年の目の前には……たぶん、ガンダムX……の改造されたガンプラ。そして、その向かい合う正面にはイオリ先生と、ビルドストライクガンダムが。

 

「……えっと、お店に人がいなかったから来たんだけど……」

「何がどうなってるん?」

 

 全く以て状況が理解できない。

 

 そんな俺達に向けて――イオリ先生は、少し恥ずかしそうに下を向き、事の次第を説明してくれた。

 京都からはるばる上京して来た少年、ヤサカ・マオの事。彼の挑発に乗ってしまって、ビルダーとしての腕を比べる勝負をしていた事、など。

 

 ガンプラを見せ合っていたのがその勝負らしい。どういう勝負なのかは分からんが白熱していたと見える。

 

「セイがムキになっちゃって、私もつい♪ 心配かけてごめんなさい、三人とも」

「あー、そういう……びっくりしたぁ……」

 

 リン子さんが軽く手を合わせて『ごめんなさい』するのを見て、思わず膝から力が抜けて尻餅つくように崩れ落ちてしまう。

 そう言う事ならせめて書置きの一つでも残してほしいと思うが……まぁ、イオリ先生は一度やる気になったら一直線な所もあるし、リン子さんもノリのいい所もあるし、チナちゃんは結構流されやすい所もあるしで……まぁ、仕方ない部分もあったのだろうか。

 

 何はともあれ、危ない事は無くて良かったが……しかし、不満がない訳ではない。イオリ先生と、この一件の元凶の挑戦的なヤサカとかいう小僧に何か言ってやろうと、立ち上がろうとして――

 

「――ほーん、イオリ先生のガンプラにあや付けたっちゅう訳やなぁ?」

「……ん?」

 

 ……妙にドスの効いた声に、ちらりと隣を見る。

 

 リュウザキが、笑いながら、先に立ち上がっていた。余りにも楽しそうに。口の端が裂けてるんじゃないかっていう結構な笑顔を浮かべて、腕組みながら見下ろす……その視線の先には、件のヤサカ・マオ少年の姿が。控えめに言って不良集団の幹部にしか見えない。

 

 チナちゃんが泣きそうな顔してるし、イオリ先生とリン子さんがそろって、曖昧な笑みを浮かべながらちょっとヒいてる。ラルさんは……あぁ、戦士の顔なさってる。

 相棒の俺からしても、若干どうしたどうしたと言いたいくらいの、余りの変貌だが。しかしながら……相棒だからこそ、この表情の意図も分かる。

 

「俺らの師匠にそないなケチつけて……このまま帰れるなんて思ってへんやろなぁ?」

「……へぇ、どないしてくれはるんですか?」

()()()()()()()()()()んも、味気ないやろヤサカ君。どうせなら、イオリ先生の教えを受けた俺とやろうや……ガンプラバトル!」

 

「「「「なっ!?」」」」

 

 あぁ、やっぱり。ロクな事を考えてなかった。

 前のめり、というか歌舞伎役者バリに一歩踏み込んで――ヤサカ少年を見据え、リュウザキはやらかしやがった……宣戦布告を。殆ど言いがかりみたいな理由で。

 

「丁度、どれだけ通用するか、試したかったところやねん、俺のガンプラが、世界にどれだけ通用するか……!」

「――凄いなぁ。まるで、恐竜みたいな目ぇしはってます……!」

 

 んで。コレでヤサカ少年が断る雰囲気なら、良かったんだけど……リュウザキの挑発むんむんの視線を受けて――彼の細い瞳が、まるで獲物を狩る狐の如く、鋭く見開かれたあたり多分……もう、この先は決まったようなものだと思う。

 

 イオリ先生と目を見合わせて。力なく頭を下げる。

 どうやら、リュウザキVSヤサカ・マオ。謎のデスマッチは誰にも止められないらしい。

 




リュウザキとマオ君に礼のお約束させたかっただけ。
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