遊戯王 ビルドモンスターズ 作:最近の虫野郎
俺、マリクとリュウザキは友達だ。
と言っても、普通の友達ともちょっと違う。
共に遊戯王と言う道で出会い、そしてずっとお互いに研鑽を積んで来た……俺のラーデッキにはリュウザキの、リュウザキのレッドアイズデッキには俺の、それぞれのアドバイスによって提案されたカードが組み込まれている。
互いのマイフェイバリットを共有し、実力を認め合うライバルでもある。
だからこそ……アイツのデュエルスタイルは良く知っている。俺の戦い方も大概攻撃的だが、しかしアイツはそれ以上だ。俺が後攻ワンターンキルを主流とするのに対し、アイツはレッドアイズを用いたバーンキル戦術を得意とする。
戦闘すらしない、直接効果ダメージで相手の体力を一気に削り切る。ともすれば……先行でのバーンキルすら狙えてしまう。一応、それ以外でも戦えるように最低限のギミックを仕込んではいるが……しかし、やはり基本はバーンキルだ。
一歩間違えれば、相手から対話拒否と言われても仕方ないような戦い方だが……しかしリュウザキはこういう。
『レッドアイズの『黒炎弾』を一番活かせる戦い方や。間違ってるとは思わんで』
……そうアイツが口にしていた時の目は、確かに、恐竜染みて獰猛な色をしていると思った。
関西弁の気安い兄ちゃん――イオリ先生もそう思っているかもしれないが。本気で相手を潰しに来た時のリュウザキは……文字通りの狩人だ。血に飢えて、相手をぶっ壊す事だけに一点集中するバーサーカーと化す。
奴が笑った時……それは、相手を確実に仕留める道筋が立った時だ。
入り口に近い位置――ヤサカ少年に近い所から、イオリ先生、チナちゃん、ラルさん、リン子さん、そして俺、と筐体を囲む様に並び、俺がリュウザキに一番近い位置。リュウザキがパーツをいじくりまわしているのがよく見える。
んで、リン子さんも興味本位全開で見つめている。多分、ガンプラ『らしからぬ』ガンプラを見るのは初めてなのだろう。そして……それとは違う、真剣にリュウザキの手つきを見つめているのがもう一人
「しかし……行けるもんかね」
「それは何方の話? リュウザキ? ヤサカ君の方?」
ちらりと、傍らに立つ眼鏡の少女を見る。
銀色の細いフレームの眼鏡は――我らが委員長、ミヤノ・メイのトレードマークだ。先程、自分のガンプラを取りに一度、家に帰ったリュウザキが一緒に連れてきた。
……と言うより、委員長がリュウザキとヤサカ・マオがぶつかり合うっていう話を聞きつけて飛んできたらしい。
「ヤサカ君には私のDXを渡してあるから問題ない。十分戦えると思うけど?」
「……じゃあ俺の不安は消えちまうなぁ――ガンダムX魔王を気遣って持ってきたんだろうし? あのDX」
最も、彼女が飛んできた心配の理由と言うのは……今目の前で、最後の調整をしているリュウザキ、と言うより。対面でDXの具合をじっくり確かめている、ヤサカ・マオのガンプラの方にあったっぽいが。
「リュウザキのビルダーとしての全てが詰まった機体よ。パイロットの腕の未熟さを差し引いても、機体に大きな傷を与える可能性は十分にある。そうなれば……」
「予選大会にも影響が出かねない、か?」
「私の教えを受けた男が、関西の天才ビルダーの世界進出の夢を阻んだ、なんて言ったら申し訳が立たないもの」
いや、それも随分とヤサカ少年のプライド逆なでしてると思うが。
何せ、こっちは無名のビルダーだ。俺達の挑戦を受けてくれた辺り、イオリ先生の実力を認めて、そこから『まぁ相手してもいいか』位に思ってくれたのは間違いないだろうがそれでも格下のカスと呼ばれても仕方ないと思う。
そいつ相手に、『万が一機体が傷付いたら問題』なんて気遣われたら……そりゃああんな風に顔も引きつるというモノだろう。いや、胃が痛かった。
「――私は、リュウザキの実力を過小評価してないだけよ」
「絶対に勝てないだろうが、それでも牙を突き立てるくらいは出来る、か?」
「えぇ。ビルダーとしての腕の仕上がり具合と、アイツの『レッドアイズ』にかける執念は、歴戦のビルダーにも届きえる牙。間違いないわ」
腕組んで堂々と見つめるその姿を見てると、そんな俺と違って、当然と言わんばかりに一切の負い目無しにガンダムDXを渡したんだろうが……こういう所は流石に歴戦のガンプラファイターか。肝の座り方が違う。関西の天才ビルダーとやらを相手にしても一歩も引いていない。
「――それに関しては、同意だがね」
まぁ俺もその行動自体が間違っているとは言わない。俺も、あの作り込まれたガンプラが予選前に傷つくのは忍びないとは思う。
何せ、リュウザキがあんな風に笑ったんだ。絶対に両者無傷で、なんて俺の時みたいななまっちろい結末じゃ終わらないだろう。
今も……GPベースを筐体にセットするリュウザキのギラギラアイは、ただ一点、目の前の対戦者ヤサカ・マオに注がれている。
聞かなくても分かる。アレは。
「――ヤサカ・マオ! ガンダム
「リュウザキ! RⅡガンダム!」
「行きます!」
「出るでぇ!!」
どうやって、相手を『潰そうか』考えている時の顔だ。
「――マオ君のDX、完成度高いですね。ミヤノ先輩」
「私のお古だけど、ずっとチューンは欠かしてないからね」
さて。
先ず、宙域内を行くDXは……ゆったりとした滑り出しだ。動きを確認しているところが大きいか、と思ったが。しかし、直ぐにDXの動きが、変わった。
目を見開く。まるで、さっきまでの遊覧飛行が嘘みたく思えるほどに……一気に加速して、様々なデブリが浮かぶ、廃棄場のような空を、自由自在にすり抜けていく。
幾ら元になったガンプラの同系機とはいえ、いきなりこんなガンプラを手足のように操るとは。戦士族混合スラッシュ軸のレッドアイズと、バーン軸のレッドアイズ位に違うはずなのだが……!?
「――上手い!」
「流石にガンプラ心形流の使い手。伊達じゃないわね」
「ガンプラ心形流?」
当然、ヤサカ少年は只者ではない。拠点を関西に置く、ガンプラ及びガンプラバトルの指導教室的な所で、その後継者と専ら目されている天才ビルダーにして、優秀なファイターでもあるらしい。
……ガンプラマフィアがいるのだ。ガンプラに指導施設があっても不思議じゃない。どころか『その手があったか!!!!』と遊戯王プレイヤーワイ、驚愕。今更ながら手段を間違えたかと困惑したが、ここは精神を持ち直し、視線をフィールドへ。
「つまりファイターとしては、リュウザキが圧倒的に劣る、か」
「そうね。後は――リュウザキの想像力、ビルダー力が、本領、心形流の技術と魂を注ぎ込んだガンプラを使っていないヤサカ君との差を何処まで埋められるか」
まぁ、そうなるが……と言ってもあのDXとて、委員長謹製で、戦えるように綿密なチューンナップを受けている。その動きに既に対応して来ているヤサカ・マオと言う怪物にさて、何処から喰らいつくか――我が相棒殿の機体は、未だ戦場に姿を現してはいない。
不意打ちを狙っているのか。デブリ帯の中だ。そこら辺に潜んで先制攻撃を仕掛けるつもりかもしれない……自分だったら、この状況、どうするだろうか。デュエリストとしては見えている不穏を、避けようとは思わない。
寧ろ――
「……ふふん。DXの性能、掴めました! ええガンプラです!」
藪を突きに行く。
「これなら存分に……派手に行かせてもらいますわ!」
そう言って展開するは、両肩に乗る大型の――ってそれは突くじゃなくて藪諸共吹き飛ばす勢いじゃねぇかおい!?
「そんな、最初からツインサテライトキャノンを!?」
「隠れるなんて許しまへん! 一気に――火力で、制圧したる!」
DXの胸のクリアパーツに、光が落ちる。それは宙域にぼんやりと青く輝く、月からの雫……破滅の光の呼び水。準備完了と共に、両肩の大型砲台に、輝きが満ちていく。
ツインサテライトキャノン。ガンダムDX最大の武装で、月からのエネルギーを供給する事で発射可能。コロニーをも容易く貫通できるガンダムシリーズ屈指の最大火力の武装だったか。今この宙域には、堂々満月が浮かんでいるので使える――にしたって!
隙のデカい武装だ。それを、この序盤で惜しげもなく大盤振る舞いとは!
「――いっけぇ! ツインサテライトキャノン!!」
――発射。
MSまるまる一機呑み込んでもなお余りある程の極太のエネルギーの塊が、暗い空を引き裂いていく。デブリなんて文字通り一瞬で融け落ちて、消え失せて――!
とんでもない出力、大火力! 直線状の敵は先ず塵も残らない、もし射線上から僅かに反れたとしても、その余波で焼き尽くされても不思議ではない。
「す、凄い……こっちまで、足が竦んじゃいそう……」
「――恐らく、それを狙ったのだろう。チナ君」
「え?」
「下手に藪を突くよりは、最初からオーバーキルくらいの方が丁度いいという事だ」
……それだけのオーバーキルが必要だったのだろう。それが、ラルさんの言葉で分かった。単に相手を焙り出すだけではなく。圧倒的な火力を見せつける事で、その破壊力を常に意識づけさせ、相手を威嚇する――初手ブッパとかいうチンパンな一手に見えてその実は成程、実にクレバーなやり方だ。
「さぁ、出てきなはれ! 隠れてもこうやってその場所諸共、焼き尽くしまっせ!」
「――えぇ挨拶寄こしてくれよるやないか」
……まぁ今のリュウザキがそれで怯むとも到底思えない訳で。
その渾身の宣戦布告に応えるように――紅い光が、暗闇に灯る。
「……っ!?」
「お返しにはちったぁ地味かもしれんけど――」
二つの輝き。暗く、光を呑み込む宇宙の中に置いて、この場の誰もが目を奪われる程に、鮮烈なそれは――真紅の光。
血の流れよりなお紅く、燃え盛る焔の様にも、光に照らされたルビーの一瞬の輝きのようにも、ギラギラと煌めく……憤怒の色。
「貰っておけや――」
――もう一つ。
最後に灯ったのは、鬼火のように仄かなものだった。
しかし、瞬く間に膨らんでいく――真紅の輝きをその身に宿す何者かの姿を、映し出すように――黒を纏う紅の輝きは、その機体の牙と口の中で、一回り、二回り、と。今にも弾けそうな程に、巨大な弾丸へと。
口に湛えるは、焔。炎を吐く怪物と言えば、古今東西で代表格は決まってる。即ちは。
「――
「あれって……リュウザキ先輩のお気に入りの……!」
「黒 炎 弾!」
黒い悪魔の如き羽を広げ、鋼の如き体皮を持ち、牙と爪であらゆる獣を……否、同じ怪物すらもねじ伏せる、ファンタージの幻想の頂点。遊戯王においても、代表的な種族、ドラゴン。
今や、SFの中に突如として現れた闖入者は――文明の輝きに牙を剥くかのように、黒い焔の弾丸を、解き放つ。
「んなぁっ!?」
直線的な攻撃だ。距離もある。流石にDXも回避運動は間に合った――が、如何せん焔の弾丸のサイズがデカい。先程のサテライトキャノンにも匹敵する、特大のサイズだ。半ば必死に回避するような形になってしまう。
「っぶなぁ……っ!?」
「うそ……っ!?」
「ううむ。なんという火力……直線状のデブリを、まるで意趣返しかのように……!」
だがそこまでして回避し損ねれば――どうなっていただろうか。
黒い弾丸の飛び去った直線状……巨大なデブリにはまるで型を使って開けたが如き綺麗な穴が開き。巻きまれた小さなデブリは、まるで液体の如く、丸い鉄の粒と溶けて空間に飛び散っていた。
ヤサカ少年が。チナちゃんが、ラルさんが。驚きの声を上げる。「すごーい!」と楽しそうにしているリン子さんは兎も角、イオリ先生は声も出ない様子。
まぁ俺らにとっては予定調和と言うか。想定通りと言うか。とはいえ、こんな派手なデモンストレーション返しするとは思ってなかったので、苦笑いするしかないが。
「何ちゅう火力や……」
「――よそ見しとる暇あるんか!」
「……あっ、しまっ――うわぁっ!?」
しかしそのデモンストレーションは大成功か。最初の目論見通りは愚か、度肝を抜かれたのはヤサカ少年の方。DXが避けてぼんやりとしていた所を、挨拶代わりに黒い影が跳ね飛ばした。
ダメージは……そこまでない。あくまでただの体当たりだ。致命的なダメージには至らないが、それなりの衝撃にはなっただろうか。
「あかんあかん……完全にペース握られてしもた……んで!」
とはいえ流石にヤサカ少年も歴戦のファイター。崩れたDXの体勢を直ぐに立て直してそして――目の前に佇む、ソレを始めて、ハッキリと視認する。
「ほんまにドラゴンですやんか!?」
「ただのドラゴンとちゃうで……『
俺のウォドム・リボルヴよりも、更に黒い、ガンプラだ。
背後に搭載された、特徴的なジェット戦闘機のような形状のバックパック。そこから伸びるのは、より生物的に造形され直された翼が二枚。
モビルスーツの胴体からは、頭が本来ある筈の部分をも呑み込んで、長い、節を持つ首が伸びている。うなじの辺りは、背中のバックバックの先端部分と連結してしっかりと固定され、容易くは壊れない様に且つ、全体のバランスを保つ意匠か。
両腕は、巨大なクローを二つ。元から腕がそうなっている、と言うよりは……Gガンダムのガンダムマックスターの如く、両腕にクローを装備している。元は、肩アーマーだったそれを、変形時にはクローとなって両腕に装着されるように改造されている。
両足に関しては、完全に造形を変えてしまっている。足から生えた三本の前の爪と、踵の爪は、正にドラゴンのそれ。だろう。
元は戦闘機のような変形をするはずのその機体は……文字通り、『竜』の如き姿に変形するように、魔改造され切っていた。
「レッドアイズ・レイダーガンダム!! 略して『RⅡガンダム』や! コイツで血祭りにあげたるわ!」
リュウザキの宣誓と共に。
目の前の獲物に向けて、黒い竜が咆哮する――!!
レッドアイズが好きです(唐突)