遊戯王 ビルドモンスターズ 作:最近の虫野郎
「食らい付けや、レッドアイズぅ!!」
装備された鉄球の代わりと言わんばかりに、DXに向けて伸びる竜の頭。
「その竜の腕、切り落としたります!!」
ビームソードが振り回し、突っ込んで来る竜の首を払いのけるDX。
ぶつかりあっては離れ、距離を取ったならば、瞬時に互いの砲が火を噴き合う。
連続で吐き出されるレイダーの代名詞、頭部高エネルギー砲『ツォーン』。
お返しとばかりDXから乱れ飛ぶ、バスターライフルとマシンキャノンの弾丸の嵐。
互いの間で激しい銃撃戦を経て尚、何方も致命の傷は追っていない。融け落ちて歪み、打ち抜かれ粉々になるのは、無数のデブリと空に浮かぶ石ころばかり。
小回りの利くようになったレイダーは、至近距離での凌ぎあいで、DXに完全についていけるようになっていた。
「はっ、ツォーンで撃ちあうなんて、兎に牛刀使うようなもんです!」
「獅子は兎を狩るのにも、なんとやらや! そっちこそ、このPS装甲に実弾ぶっ放すなんざ、随分舐められたもんやないか!」
DXは、純粋なパイロットの技量でツォーンの連射を華麗に回避。RⅡは、至近距離では防げぬと公言した大出力のビームだけを狙って躱し、網の如くばらまかれた実体弾に関しては無理矢理PS装甲で受けて突破する。
「装甲のエネルギー切れを狙うんは――趣味やあらへんもんで!」
技量の差が、無理矢理に細工で埋まる事で生まれた、膠着する状況。
敢えてDXはそこに一歩踏み込むように加速する。実弾を弾くなら、確実に両断できるであろう接近戦で。ビームソードを腰だめに構え、青い巨星の操るグフに切り込む初代ガンダムにも匹敵する程の突撃。
が、あと一歩。その切っ先が届く前に。
「それに付き合う程アホちゃうわ!!」
上に向けて掲げられた腕から、真っすぐに射出されたドラゴンアームが宙を舞い。
そこに向けて、胴体を再び竜の身体に変形させたRⅡが真っ直ぐに飛ぶ。インパルスもかくやと言わんばかりの、空中合体シークエンスを経て――再び、全身を黒く染め、レッドアイズと化したRⅡガンダムが宙を翔ける。
「精々頑張ってついてこいや、DXぅ!」
「ガンプラ心形流、舐めとったらあきまへん!」
尾を靡かせ、宙を飛ぶ鋼鉄の黒竜。
自分を嘲笑うように飛ぶ竜を睨みつける、鋼の戦士。
ここまで、両者はほぼ互角。緊迫の攻防と言っていい。
その圧倒的な迫力にあてられていたのか。イオリ先生が、漸く、と言った様子で大きく息を吐くのがちらりと見えた。
「……すっ、ごい……!」
……それは、感嘆のため息だった。天を舞う竜を、瞳をキラキラと輝かせて見つめるその姿は、年相応にかっこいいものに憧れる少年そのもの。
「竜に変形する、レイダーガンダム……! 両腕に、肩アーマーを利用した新たな変形機構を組み込むなんて、凄い発想だ! それに、物凄いカッコいい!」
「うむ。変形時に股関節の幅を広げられるように改造しているのだろう。人間とは僅かに違うドラゴンのプロポーションを再現する為に……!」
ラルさんも鼻息を荒くしていらっしゃる。ついでに言えば、その変形して、空いた部分の股関節に、尻尾に繋がるドラゴン形態変形時用の『胴体』が入り込んでいるので、尻尾に向けてスムーズに繋がる、レッドアイズのプロポーションを上手く再現している。
MS特有の四角いボディに合わせて造形しているので、あの尖った胴体までは再現しきれなかったが……しかし、その分『機械化したレッドアイズ』という中々男の子心をくすぐるような造形に仕上がっている、と思う。
「……えっと、凄い事なんですか?」
「うむ。チナ君は初心者だから理解するのは難しいかもしれんが……本来存在しない筈の機構をガンプラに組み込むのは、実に難行なのだよ。しかも、リュウザキ君のガンプラはそのギミックを、美意識と実戦力の双方を活かした形で成立させている」
「へぇ~! 凄いのねぇ、リュウザキ君のガンプラ!」
そう。凄いのだ。思わず鼻も高くなるというモノ……リン子さん。チナちゃん。もっともっと褒めなさい……主に委員長を。
「……ギミックをどうすれば無理なく組み込めるか。苦労しただろ?」
「ホントに。あのバカ、『レッドアイズっぽいじゃアカンのや! ココの造詣は何よりも全力で拘るで!』って言って聞かなくて……」
「はは、アイツらしいねェ」
……俺が特訓している間、リュウザキのガンプラ作成を見てくれていたのは、主に委員長だ。俺もどういうギミックを仕込むかなどは、相談に乗ったが……ガンプラの制作を手伝ったのは、主に委員長だ。
そして……ガンプラバトルに置いて、さらに上に向かうための重要なピース、『
「――フルに生かしてるよな。本当に」
「当然。私が肌で学んだ全てを叩き込んだわ。一切の抜かりなしよ」
「いやぁ、本当に……完璧に仕込んだ事」
本当にキッチリと、付きっ切りで仕込んだんだろうと思う。アイツの譲れない部分もちゃんと尊重して……躍動的に飛ぶRⅡガンダムの動きを見ているとそれが良く分かる。この世界を構築する粒子の中を、実に自由にはばたくあのモンスターの姿を――
「……ホント、アイツに甘いんだから、委員長」
「はぁ?」
「昔っから、俺には微妙に当たり強かったじゃん。まぁ本当に微妙な違いだけど――何その顔こわっ」
熊顔の犯人を追い詰める兎探偵みたいな瞳をしてらっしゃいますけど……俺なんか変な事言った? めっちゃ面倒見良いな的な意味で言ったんですけど。眼鏡の端ギラついてますよ委員長。怖いっすよ。
「え、えーっと……」
「……差別しているつもりは無いわ」
「そ、そうすか?」
「ちょっと熱くなりすぎる事はあったけどね……実際、この勝負も贔屓目無しに見てる」
「……そりゃあ、まぁ。んで、その贔屓目無しに見て、リュウザキの勝ち目はどんくらいある?」
……だが。次に見せた表情は、別の意味で怖いと言える。無表情に、冷徹に、勝負を観察する瞳だ。幼馴染、仲が良い、等……一切の考慮なく、実に冷静に判断を下す。
その彼女が示した答えは――ただ、黙って首を横に振る事だけ。
「……マジ? ゼロ?」
「間違いないわ。もうそろそろ決着もつく」
「あー……もしかしてもうバレかけてたりする?」
「多分ね。フェイズシフト、ツォーン……あともう一つ、かしらね」
委員長の言葉に、思わず天を仰ぐ。ここから、ホログラムの中の少年たちの様子は見えないが……しかし、ヤサカ少年は既に確信を得ているというのだろうか。
「根拠は?」
「気づいていないなら、エネルギー切れだけを狙う必要、ある?」
「……あー、成程? その時点で、『そこ』には気が付いてた……であれば、そこから違和感をもって、って事か……あっ」
……その答えを示すかのように。
変形して空を飛ぶRⅡガンダムに、DXが攻撃手段として選んだのは――ビーム攻撃への体勢すら突破できるであろう、サテライトキャノンではなく……まさかの実弾兵装であるマシンキャノンだった。
本来、フェイズシフト装甲持ちならば、何ら警戒する必要のない遠距離からのバラマキ射撃を。
「――げげっ!?」
RⅡガンダムは――大げさに捻る様に。回避してしまった。
「……あれ?」
「避けた……だと?」
これに反応したのは、イオリ先生とラルさん。手に汗握る表情をしているのは、チナちゃんとリン子さん……まぁ、ガンダムの知識を有しているのならば、そりゃあ『アレ?』ともなるだろう、この謎現象。
PS装甲ありなら、全く脅威にすらならない、それを……当たるのがマズい、と言わんばかりに、必死に。
「――……っ」
「やっぱり。危うく、騙されるとこでしたわ」
動きを止め、空中に留まっているRⅡ。余りにも大きな、その隙に対して。追撃するまでも無く……悠然と『余裕』をもって、RⅡを見つめる、DXガンダム。
……明確に。
今、状況がひっくり返る、そんな音を聞いた。
「――RⅡガンダム。竜の形態の攻勢時の圧倒的な性能が光り、MS形態時は小回りと接近戦への対応能力の上昇が著しい。それに加えて、ビームと実弾、何方に対しての高い対応能力をも備えた高次元なガンプラ……そう、見せかけてはる」
「せやけど――実際には違います!」
……びしり、と。器用に、一本だけ伸ばされたDXの人差し指が、力なくDXに向き合う、RⅡガンダムの竜の頭に向けて、突きつけられる。
「その竜形態は、実際は『攻撃にしか向いていない』対ビーム形態、一方MS形態は『攻撃も防御も中途半端な』対実弾形態……ちゃいますか?」
「……」
黙りこくるリュウザキ。ため息を吐く委員長に合わせ……俺も思わず、天を仰いでしまう。あぁ、完全にバレてる。若干雑な解説だが、しかしRⅡガンダムの要点を完璧に見抜いたセリフと言えるだろう。
小首を傾げるチナちゃん。雰囲気の変わった逆転のパートに大興奮のリン子さん。そんな二人の隣で……イオリ先生も、ラルさんもはっとした様に目を見開いているのが分かりやすかった。
「……やっぱ、『MS形態になってもバスターライフルを使った』んは、それを確かめる為かいな……はっ、やるやんけ」
「当たり前や。ガンプラ心形流舐めたらあかん言うたやろ?」
――その通り。
RⅡガンダムのビーム反射装甲と、PS装甲は……実は両立できていない。竜の形態は実弾に弱く、逆にMS形態ではビームを散らす事なんて出来やしない。MS形態のみに現れる体の銀のラインが、その証拠だ。
変形時、色や柄が大きく変わるあの一瞬の出来事を、ヤサカ少年も見ていた。そしての違和感を確かめる為に……バスターライフルを織り交ぜて射撃していたのだろう。
同じPS装甲持ちの変型機イージスガンダムは、変形時でもPS装甲を維持できている故に、色は変わらないが……RⅡガンダムは、竜から人に、人から竜に、形を変えるときに色が変貌するという、明確な『違い』が存在する……その違和感を、見逃さなかった。
よしんば違和感が気のせいなら、バスターライフルの無駄撃ちでも構わない位の気持ちで、そこを確かめる為に、ぶっ放したのだ。
RⅡが保っていた、ドラゴンアームのリーチなら届く距離、至近距離とは微妙に言えない、ビームが弾かれるかもしれないそんな距離からも、何発か……それもRⅡは『丁寧に躱していた』。
「んで。お得意の、竜の首から吐き出す炎は、MS形態では使用できへん……態々、掉尾に固定されて、取り回しの悪い『ツォーン』の方を使ったのが、その証拠や」
それも、正解。
RⅡガンダムは、MS形態時に使える、幾つかの武装を仕込んではいる。しかし、それはRⅡガンダム最大の特徴である『黒炎弾』を補うための武装だ。
本来は、様々な武装を披露して、『黒炎弾』を使うまでもない、と思わせるのが必要なのだが……リュウザキには、それが出来なかった。
ファイターとしての腕が。やはり、あと一歩。足りなかった。複数の武装を手足の様に扱う事が、出来なかった。
「……ぺらぺらと。言わんでもええことを」
「言う必要もありますわ――これだけそっちの手の内は分かった。後は、そこを突いて削っていくのは難しくない……それを、踏まえて貰わんといかん」
……ベールは、剥がされた。
俺と同じ。初見殺しで圧し切れるのは、ここまでだ。
「――アンタは、ガンプラをフルに生かして、戦いました」
ガチャン、と。断頭台の刃が上るが如く。再びDX最大の武装――ツインサテライトキャノンが、その羽を、砲塔を、展開していく。
「ドラゴン形態で初めにビームを弾いて見せたんも、強く反射装甲を印象付けて、こっちに勘違いさせる為の作戦。ワイが気づかなかったら……ビームも実弾も効かんと思い込んどったままやったら……勝負は、分からんかった」
「……おいおい。俺の手の内、そんなバラすなや」
「勢い任せ、性能任せに見えて、その実、自分のガンプラの性能を活かしたブラフで動きを止めて、『格上』相手にも勝ち筋を用意できる――リュウザキはん、アンタはクレバーなファイターで、自分のガンプラの事をよう分かっとる、立派なビルダーや」
胸のコアに、再び月光が落ちる。
弾丸装填、完了。準備を終えたガンダム界最強の火砲が今一度、その牙をRⅡガンダムに向ける。ギラリと輝く無骨な砲口が、まるで刃の切っ先に見えてしまう。
凄い圧力。されど――発射は未だ、されない。
「そんな尊敬できるビルダー相手に、弱点付いて勝った、みたいな狡い勝ち方、出来ません。ただでさえ借りもんのガンプラ使ってるのに後悔しとるっちゅうのに……せやったら最後は――真っ向勝負で、ケチの付き用もない位、やり合いたいんです!!」
「――ヤサカ……はん」
「撃ちあいましょうや。お互いの最高火力……DXのツインサテライトキャノン。RⅡガンダムの『黒炎弾』で!!」
……初見殺しはここまで。後は――単純な、自力の勝負。
ヤサカ少年が選んでくれたやり方は、愚かしい程の、真っ向勝負。互いの最大出力をぶつけ合うやり方。
リュウザキの未熟な部分を突くのではなく。長所同士を激突させて雌雄を決する、とんでもないストロングスタイルだった。
「――この、ドラゴンヘッドは」
ごくり、と。イオリ先生が唾を飲むのが聞こえた。
その言葉に対し、リュウザキが取った行動は――静かにレッドアイズの顎を開き、その口内に、大量の黒炎を貯め込む事。
すなわちは……RⅡ最大の必殺技である、黒炎弾の発射準備である。
「射撃兵器とちゃう。竜として相手に食らいつく近接武装としての役割と……変換器としての役割を持つ」
「変換器?」
「RⅡガンダムのエネルギーをプラフスキー粒子の炎に変えて、放つためのな――ツォーン、PS装甲、その他、移動するのに必要なエネルギーを除いて……全部や」
しかし、そのサイズは、先ほどまでに撃たれた二発とは、比べ物にならない程に……大きく燃え盛り、輝いている。下手すれば、RⅡガンダムの身の丈程にも迫る程の、特大の大火球であった。
「その意味が、分かるかいな」
「……」
「やろうと思えば、RⅡガンダムに残った
「こいつは――果たして、どんくらいのエネルギーを注ぎ込んでるんやろなぁ……!!」
それは文字通り。
RⅡガンダムの残るすべての力を殆ど注ぎ込んだ、最後の輝きである。
先日は、誤った投稿をしてしまい、大変申し訳ありませんでした。
これからはああいった事がない様に、努めて気を付けたいと思います。
それは兎も角、割とこのシーンを書きたくて頑張って来た節があります。はい。