遊戯王 ビルドモンスターズ 作:最近の虫野郎
――黒い火球が、どんどん膨らんでいく。
ガンダムの歴史の中でも、最高クラスの火力を誇る砲を持つMS。相対するは、暗い空の中においても更に黒く輝く鋼の竜。双方共に、必殺の火力を持つガンプラ。今から放たれようとしているのは、その二つのぶつかり合いだ。
「どっちが勝つんだろう」
ラルさんとイオリ先生の間に立つチナちゃんが、そう言う疑問を抱くのも分かる。彼女はガンプラ初心者で、二つのガンプラの事を詳しく把握して出来ている訳でもないから、尚更に……両脇のガンプラの専門家二人ですら、そのチナちゃんの疑問に直ぐに答えを返せないというのだから。
「……詳しいのは、恐らく君達だろう。ミヤノくん。マリク君。意見を聞かせてくれないだろうか」
ラルさんの言葉に、委員長が此方を向く。一つ息を吐いてから、口を開いた。
「俺的には……互角、だと思いたいですがね。RⅡプラフスキー粒子を応用する力と言う単純なパワーは、DXにも負けてない」
「プラフスキー粒子を炎に変える、って言ってたよね……具体的には?」
「ま、未来世紀とソレスタルビーイングの技術の合わせ技って所さ」
……プラフスキー粒子。
ガンプラを動かし、そしてガンプラバトルを構築する未知の粒子。ビームからミサイルの爆発のエフェクトまで、プラフスキー粒子が無ければ成立しない、バトルにとっては欠かせない要素なのだが。
『――これからはそのプラフスキー粒子を利用し、ガンプラに更なる革新を起こす新世代が、ガンプラバトルを切り開く……ユウキ先輩から、そう聞いたわ』
その世界を構築する未知の物質を理解し、利用し、そして『世界の振る舞い』すらも身に着けた、新世代の猛者たちが、これから世界大会に向けて現れる……委員長は、ユウキ先輩の言葉を借りて、そう言った。
世界大会に挑むのであれば……これから俺達が作るガンプラにも、プラフスキー粒子を上手に利用する為の仕掛けが必要になって来る、と。
『せやったら……丁度ええわ! ガンプラの常識っちゅうもんをぶち破る一番槍、俺がもろたで!!』
その話に、真っ先にリュウザキは食らいついた。
元から、リュウザキの再現しようとしていた『真紅眼の黒竜』を再現するには、『黒炎弾』と言う最大の難点が立ち塞がっていた――これを、プラフスキー粒子を味方に付ける事で、既存のガンダムの枠組みから脱却し、再現しようと試みた。
そしてリュウザキが目を付けたのが、『粒子を扱う』というその一点。
もし現実のこの世に存在しない筈のガンダム世界の『粒子』の代わりを、そのプラフスキー粒子が果たしているというのなら……と、そこをリュウザキは突破口とした。
「……ソレスタルビーイング……あ、そっか! GN粒子!」
のだが。イオリ先生、そこは説明せずとも理解できたらしい。流石ガンダムオタクでガンプラオタクでガンプラバトルのビルダー。良く分かってる。
「太陽炉から生成されているのも、本物のGN粒子じゃない。プラフスキー粒子によって生み出されたものか、もしくは――」
「その代わりを、『プラフスキー粒子が担っている』かのどっちか」
前者ではなく、もしGN粒子の仕組みが後者であるならば――ガンプラバトル内のクラビカルアンテナに限って言えは、それを制御する為のアンテナとして機能している。プラフスキー粒子にすら干渉するだけのポテンシャルがあると、リュウザキは考えた。
本来、想定されているのとは違う使い道――例えば遊戯王に置いて、特定のテーマをサポートする為に作られたカードが、想定外のカードをサーチしてしまう事態とかは、デュエリストにとっては日常茶飯事。
故にこそ、クラビカルアンテナの本来の役割を超えた応用も、思いついたのだ。
「ドラゴンガンダムの角を造形するのに、ジンクスのクラビカルアンテナを流用した。大型で、粒子の操作能力も高い。結果――『黒炎弾』の完成をもって、俺達の想像は証明された訳だ」
「とはいえ、内部なら兎も角、周りの粒子を無条件に操れるわけじゃないし、フルに使ってもあの竜の顎から粒子を吸収する事が精いっぱいだけど」
「でも……一度粒子を内部に取り込んでしまえば、それを『黒炎弾』の強化に回す事はいくらでもできるって事、だよね?」
探る様なイオリ先生の視線に、ちょっと笑顔を返す。ちょっと鼻高々になってしまったのは、リュウザキのガンプラの作成をバリバリに手伝った身だからか。ソイツの性能がイオリ先生に認められている様な気がして。
「だから、粒子の吸引機構を持ってるこの機体の最高出力も、DXには負けてないし。なんなら理論上は勝ってる筈……なんだけれども」
「けども?」
「……実践投入はコレが初なんだよなぁ……RⅡの」
……ビルダーとしての経験ありありのイオリ先生が天を仰いだ。うん。作ったガンプラが思わぬ動きして、一番『う゛ぇえええ……』と吐きたくなるのはビルダー当人だ。何処を間違ってそう言う事になったのか、必死こいて機体のバグ取りに腐心する事になる。
単純な出力は負けていないかもしれない。しれないのだが……こっちは不安要素をたっぷり抱えている上に、試運転で最大出力なんて出した事ないし、なんだったらアレ多分だけど、想定してる最大出力を遥かに超えてると思う。
「――へへっ、準備、整ったで……!!」
……まぁテンションガン上げ状態のリュウザキはそんなこと気にも留めていないと思うけれども。それに、もうここまで来たら。
「コレがお待ちかねのフルパワーの……『黒炎弾』や!」
止まれない。
既に、RⅡの体躯にすら匹敵する程のサイズの大火球となった黒炎弾は、今更発射を止められないフェイズに来ている。ここまで来たら、後はお互いの全力をぶつけ合うだけ。
……不安は、本当に今更だが、生えてきた。だけど、折角相手が全力を出せる状況を整えてくれたというのに、ここで引いては、その時点で負けが決まったも同然。
勝つことを諦めないためにも。そして何より、俺達のガンプラは世界にも通じる――そう示す為にも。ここは、突っ張る時だと俺が。そして誰よりもアイツが……リュウザキが分かっている。
「……後は、俺の黒炎弾と、そっちのサテライト……どっちが強いか、や」
「コレがワイのDXやったら、胸張ってこっちの方が強いて言えたんやけど……でも敢えて言わせてもらいますわ、これだけは。受けて立つ!!」
勝負は至極簡単だ。
二人の放った何方かの大技が相手のソレを飲みこみ、お互いを焼き尽くすか。
双方、共に放つのは文句なしの必殺の大技だ。通れば何方かのガンプラが粉々になるのは必至である。『ALL or NOTHING』の勝負。
……否、あるいは――
「飛び切りアツいの! 行きますよ!!」
「バトルフェイズや、RⅡガンダムの攻撃――!!」
――いずれにせよ、勝負は一瞬でつく。
全員がそれを理解しているから生まれる、西部の早撃ち勝負みたいな緊張感。誰かが唾を飲む音がした。何処かから、ばちりと爆ぜるような音がする。何時、二つの引き金が落ちる音がするのか、喉が渇きそうな程に空気が張り詰めて。
二つの砲口に、蒼い燐光が灯る。
黒い炎は、暗い宙を焦がして止まらない。
「ツインサテライトキャノン!! 発射ぁ!!!」
「黒 炎 弾!!」
解き放たれる――青白いエネルギーの奔流と、赤黒い焔。
宇宙を裂く二つの光が接近し、そして激突するまでの時間は、本当にほんのちょっとの筈だった――だけど、俺には衝突するまでのほんの僅かな時間が、酷く長く感じられて。おかしな話だが……もどかしく感じられる。
縮んでいく。もう少し。触れそうな距離。触れる。触れる、触れる触れて――!!
ゴ バ ァ ン !!
「「――っ!?」」
――弾けた!
思わず、身がすくんでしまった。
触れて、弾けて、混ざって……一瞬、収束して。そこから、広がるのも、同じく一瞬だった。なんていう……なんだアレは、もう、太陽とかそんなレベルの……!
ガンプラバトルのスケール超えて来てる。耳にビリビリ来るような爆音と、目を細めてないと見てられない閃光。特大のクラッカーとか閃光弾とかもうそんな感じじゃないかもうこれは……!
何事もなかったかのように立っているのは、ラルさんだけだ。残りの観客纏めて手を翳して光を遮るほど、萎縮させちまってる。なんていうド迫力!!
「相殺……っ!?」
「双方の射撃の威力は、比肩していたか!」
……何方も大火力の機体なら、あり得ない可能性ではないと思っていた。
だけども、それにしたって、この爆発力は……二機を纏めて飲みこむとは……! 間違いなく何方かが砕け散ると思っていたが、それどころかどっちも無事じゃすまないレベルだぞこいつは!
「――DXは! RⅡはどうなった!?」
咄嗟に、収まっていく光の中に、二機を探す。
白から塗り替わっていく黒の中――先ず目線に引っ掛かったのは、目立つ白い機影。DXの方だった、一瞬、原型を保っている事は確認できた、が。
「……うぉぉっ……!」
思わず、呻き声が漏れてしまった。
暗闇に映える白の装甲。
そこに混じってる、黒と灰色は、それ全てが爆風を受けて出来た細かい傷と焦げだ。アフター・ウォーの技術の結晶のガンダムDXの全身は、傷付いてない所がどこにもない。
しかし……それよりも目立つのは、DXの代名詞たるダブルサテライトキャノンの惨状だった。
二本の砲台は、半ばから曲がって折れて、もう使い物にならないだろう。
……大破、って言っていいと思う程のダメージだ。寧ろ、ここまで行って原型を保っていた辺り、委員長のガンプラの作り込みの高さが光っていると言える。
「……あぁ」
僅かに、漏らす様な声が聞こえた。
「借り物のガンプラ……こんなに良く出来たガンプラを、こんなにしてまうやなんて。情けないわ……こりゃあ、ワイの負けかいなぁ」
悔しさの滲む声だった。見えていなくても……手元で、強く、握りこぶしを作っているのが分かる程に。ヤサカ君の、一流としてのプライドが、そして、ビルダーとしての魂がそう口にさせたのか……けど。
「――オイ自分。何、勝手に負けを認めとんねん」
「……リュウザキはん?」
俺の視線の先……そこに佇む、黒い機影を見てしまっては。それは的外れな落ち込みと言うしかないだろう。
一つ。ため息を落とす。残念ながら、この勝負で軍配が上がったのは……ヤサカ少年らしい。
黒い宙域に浮かび上がる、メタリックなフォルム――メタル化して、エネルギーの余波を少しでも軽減しようとしたのだろうRⅡはしかし……そのつややかな装甲煤けさせて微動だにせず佇んでいる。
全身のダメージ。ここまでは、DXと同じだが……しかし。
「――RⅡの関節が……っ!?」
「まぁ、火花あげちゃってる」
イオリ先生とリン子さんの言う通り。
RⅡの関節部は、既に崩壊寸前と言ってよかった。火花を上げ、ひび割れて、かけている部分もある……ちょっとした衝撃で、軽く千切れそうな有様だった。
「どうして……?」
チナちゃんの疑問も当然。二つの力は拮抗して、そして何方も致命的なダメージは負っていなかった……だというのに、あの爆発に巻き込まれた後のダメージは、明らかにRⅡの方が酷い。だが。
「恐らくは、変型機故のジレンマが原因だろう」
「ジレンマ?」
「うむ」
……流石はラルさん。一目見ただけで見抜いたか。大正解。
ビルダーとして変形ギミックを持つ機体を作って分かったのだが……ああいう機体というのは、得てして複雑な関節の機構をしている。それ故に、耐久性は普通のガンプラよりも劣っている場合が多いのだ。
「RⅡガンダムは元から変形機だった処に、更なるギミックを仕込んだ故に更に関節部の脆弱性が上がっていた――マリク君が言っていた機体の限界を超えた出力に、脆くなった部分が耐えきれなかった、と言ったところか」
「そんな事が」
「私が見た限り――大火球、即ちは黒炎弾を発射した直後には、既にRⅡガンダムの関節部は、悲鳴を上げ始めていたように見えた」
……重ねて流石。あの爆発内でも冷静に状況を見ていたラルさんは、RⅡの異変に気が付いていたか。余りにも流石過ぎて不気味だよもう、この人、実際ガチでガンプラ操ったらバケモンみたいに強いんじゃなかろうか。
まぁそれは兎も角として。ラルさんの言う通り。
まだギリ動くかもしれないDXと違い、最早RⅡは羽ばたく事もままならないような状態であり……勝敗は明確に決まっていた。
「勝ちを持ってったのはそっちや……俺の負けまで、奪ってくれるなや」
我ながらかなり綺麗な負け方を書けたと思ってます(自画自賛)