遊戯王 ビルドモンスターズ   作:最近の虫野郎

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22ターン目 「挑むのならば」

「……」

 

 話し合いに話し合いを重ねた。

 途中、気分を変えるだとか、アイデア出しだとか、色んな言い訳を重ねながら遊戯王に興じ、委員長に後頭部と鼻っ柱を一発ずつシバかれたりもしながら……それで出たアイデアも何と言うか……あと一歩足りないモノばかり。

 

 分かりやすく言えば、『行き詰まった』と言う奴で。そんな状態で、委員長の家のベランダから、真っ暗な空を見つめてる。

 

「さぁて……どうしたもんかね、コイツは」

 

 最高。無敵。理想……そんな言葉ばっかが頭を過って、その具体的案が出てこなくて。ガンプラ、遊戯王。その融合は、出来た。更にそこから……自分達だけの展開ルートを構築するのに、めっちゃ苦しんでる。

 

「……アレだけのファイター、そしてビルダーが作り上げた、全力のガンプラか」

 

 ……結局、俺も見せてもらった。ガンダムX魔王。

 見るだけでも強さが分かる、なんざ何の眉唾かと思ったが……いや、全く以て否定できなかったというか。全身の作り込みは言わずもがな。各所に光るビルダーの『遊び心』と『実用性』の融合。ビルダーとして腕を上げたからこそ、唸らされてしまった。

 

 遊戯王の中でも極まり切った連中は、相手と自分の初手の手札を見るだけでも、その後の勝敗までが分かる……それと同じだった。イかれてる、と誰が言えるだろうか。あのガンプラをもし、マオ君が使っていた場合……

 

『――ボロ負け、とは言わんが……負けは、免れへんな』

 

 肩を落とし、奥歯を噛んで。リュウザキはそう口にした。

 

 自分のガンプラが。世界に通じるレベルまで研ぎ澄ましたその牙が……それでも、あと一歩届かないと分かってしまうのは、俺達がある程度ガンプラに精通して来たから。

 分かる位に成長できている、という嬉しさと。そして、まだ足りないという認識できてしまった事実が、まぜこぜになって……察するまでもなく、同じ気持ちだ。

 

 ため息一つ。気分が沈む。自然と、視線も、宙から、地面に。余計に、頭に靄がかかって来る。こんなんじゃ、良いアイデアなんざ到底……

 

「――ほら」

「……んっ?」

 

 ――閉じかけられた視界の中に、すっと差し込まれる白いカップ。中のブラウンの液体は、ほんの僅かに甘く、香ばしい香りを漂わせている。コーヒー……ではない。ココアの様だ。

 

「この季節でも、ずっと外に出てたら冷えるでしょ」

「……だからってココアかよ。汗かいちまうんだが?」

「ホットじゃなくて、ぬるめに作ってあるわよ。そこまで馬鹿じゃない」

 

 そのカップから、持った手をなぞるように、横を向く。

キッチリと制服を着こなす普段とは違う、ラフなTシャツ姿の委員長は、呆れたように俺を見てる。伸ばした手からカップを受け取ると、俺の隣に並んで欄干に体を預けた。

 

「温かい飲み物は、気持ちを落ち着ける。糖分は、疲れた頭に効く。今のアンタには、どっちも必要でしょ」

「……っは、ぐうの音も出ねぇ。流石は委員長だな……リュウザキは?」

「部屋の中でつぶれてる。とっくの昔にココアを飲み干してね。お代わりまでしたわよ」

「そっか」

 

 そんで、今度は部屋から出て行って全く帰ってこない俺と言う訳だ。

 本当に……小さい頃に俺達がヤンチャしたら真っ先に叱って来るし、こうやって世話を焼いてくれる事もあったし……昔っから面倒見が良すぎるんだ。

 軽くため息を吐く彼女の、その横顔を見ながらそう思う。

 

 夜風に、ちりん、と涼やかな音が響く。横顔を見つめる視界の中に耳の傍で揺れている『迷』と『宮』と刻まれた球体の耳飾り。

 もうそれも、一体何年前に送ったもんだろうか……とか思ってたら、こっちの視線に気が付いたのか、怪訝な表情と共に、ジト目が飛んでくる。

 

「何よ」

「ああいや。まだ使ってくれてんのなって思ってさ……てっきり、もう別のアクセとか買ってさ、捨ててるかと思って。ガキでも買えた安物だしさ」

「……送られた物だし、割と気に入ってるし。安物だからって捨てる理由は無いわね」

 

 そう言いながら、彼女は指先でくるくると、耳飾りを回す。

 慣れた仕草。そこにあるのが当然とでも言いたげな指の動きだ。気に入っている、と言う言葉は嘘じゃない、と言うのが分かる……そんな、動きだ。

 ……なんだか嬉しい。彼女にそう思って貰ってるのが。さらりとそういう事が言えるのは流石にイイ女過ぎる、とも思う。

 

 ……あぁそうだ。だから余計に、彼女に付き合わせてるっていうのが――

 

「これだって、好きで使ってるし……んでこうやってアンタに付き合うのも私の好きでやってる事なのよ。だから、そんなしょぼくれた顔されても困るの」

「――」

「どうせ、これだけ一緒に頑張ってくれてるのに、良いアイデアが出ない、とか考えてるんでしょ?」

 

 ……返答すら出来ない位。その言葉は図星を得ていた。

 

「顔見れば分かりやすいのは相変わらずね」

「……しょうがねぇだろ。こんなワガママに付き合わせてんだから……不甲斐ない事になってたら申し訳ない、くらいは思うってんだ」

 

 ……元々、俺達は。

 世界大会に出て、遊戯王を宣伝する……そのつもりでガンプラを始めた。出るだけでも御の字……位の気持ちだった筈だった。テレビに映れば宣伝に位はなるだろうな、っていう。酷く気軽な思い付きで。

 俺達はもとより異物、挑戦者の立場と自覚もしていたというのに。本来の俺達の目的を果たすだけなら、『今の出来』で出場しても、良い筈なのに。

 

 今……俺の胸には、シンプルな欲望が、渦巻いて。今なお、その欲望はさらに加速して止まらない。制御も何も効きやしないのだ――増Gを先んじて打たれたとて、ロマンコンボデッキでの先行ワンターンキルが見えるなら、止まるかと言う話だ。デュエリストが。

 

「我が儘じゃない。だって……当然じゃない」

「……」

「やるからには、勝ちたい、なんて」

 

 ……あぁ、そうだ。

 

 今更、そう思ってしまったんだ。俺は。

 

 出場して宣伝したい、とかじゃなくて。いい勝負が出来ればいいな、なんて段階を越えてそう――勝ちたい、と。

 ガンプラバトルの頂点……世界選手権で、俺の『理想』で勝ち抜いてやりたい、どんなガンプラだってなぎ倒して、俺の『最強』が一番なんだという事を証明してやりたい……世界レベルの最強が揃うその中で。

 そんな、欲望が抑えきれなくなっちまった。

 

「……初めは、そうじゃなかった癖によぉ。こうやって、ガンプラに熱中して。遊戯王のモンスターが再現出来て……」

 

 だって、そりゃあそうだ。俺達の理想の遊戯王のマイフェイバリットモンスターをガンプラを通して『ビルド』し、自分達で戦えるなんて。

 

「楽しかった! あァ……クソほどなァ!」

 

 俺が初めて、ウォドム・リボルヴを動かしたあの時。

 自然とテンションは高揚し、アイツを動かしてほぼ初めての『実戦』だったというのに緊張するどころか、ノリノリで戦えていたあの瞬間――正直に言おう。

 脳内麻薬ドバドバ、脳味噌までアドレナリン漬け、マジで『気持ちが良かった』。楽しいのと同じくらい、『快楽』に酔っていた。

 

『――負けたなぁ』

『負けたわ』

 

 そして……同じくらい。

 

『次は……勝ちてぇな』

『おう。俺も、見てるだけでも、勝ちたいって思えたわ……!』

 

 勝ちたい。負けたくない。俺の、俺の『最強』が一番なんだって。委員長に連れてかれたあの後に……鍛えると言われた後に思ったのだ。

男の子だから。

 駆け出しとはいえ、ビルダーでファイターだから……そして何よりも。

 

 俺達は元から……真剣勝負に飢えたカード野郎、『決闘者』だから。

 

「だったら、欲しくなっちまうよ。こんな楽しい『遊戯』の……『王座』をなぁ……!」

 

 自分の『マイフェイバリット』が。最強なのだと。吠えたてたいと思った。

 だから。妥協なんて、出来なくなった。

 

 誰が相手でも、絶対に負けない。どんな状況でも、覆す札がある。そうなるように、俺が組み上げた、魂のデッキの様に。

 俺の全てを込めた……魂の、ガンプラを。

 世界に自分の輝きを見せつけて、そして……強敵達の渾身の一作とも、心置きなく鎬を削れるような。そんな、ガンプラを、作りたくなった。

 

「あァ分かってる、無謀だって事くらいなァ! んぐっ……っはぁ……それが……ワガママ以外の、なんだってんだよォ……!」

 

 やけ気味に、温めのココアを煽る。気遣いの甘さが、今は酷く……沁みる。顔が歪む。醜い顔になってんだろうなっていうのが、簡単に想像つく。

 

 良い所で妥協しておけばいい筈なのに。変な風に火が付いて……『予選突破』を成し遂げて、俺達と同じくらい……いや、それ以上に忙しい筈の委員長にまで、こうして時間取らせて。そんなの、エゴ以外の何者でもないのに。

 だから、せめて……せめて、委員長に突き合わせた分くらいには、良いアイデアを出そうと思った。だってのに。

 

「……アンタ、そういう所、変にストイックだよね」

「やるからには全力、当然だろ」 

 

 パーツの作り込み? 当然やってる。デッキに組み込むカードの一枚一枚まで、じっくりと選定するのはデュエリストの基本だ。

 全体のバランス調整? 何度でも繰り返してる。カードがどのように噛み合って回るかはデッキを汲む時の醍醐味、手抜きなんかできない。

 機体の実戦練習? やらない理由はなかった。デッキを回して、手に馴染ませて、手札だけでどういうルートを通るか、手札誘発のケアの方法まで頭の中で構築できてこそ、一流のデュエリストってもんだ。

 

 そこから生まれた課題も、何もかも……詰める、詰める、詰める、詰める詰める詰めて詰めて詰め切って……そして。それでも尚。

 

「王座には、届くって言いきれないのが、悔しい?」

「あぁ……頂点の奴らと勝負する為の、最低限で……最後の一ピースが、足りねぇ」

 

 エースは用意した。サーチカードで周りも固めた。手札誘発も積んだ。

 ……では、後は何が必要だ。必要なのは……一手で戦場を覆す様な、一枚で成立する様なパワーカードだ。そう、サンダーボルト、ハーピーの羽箒、ライトニングストームに冥王結界波。先行のスキルドレイン、後攻からの拮抗勝負……そんな、ともすればインチキと言われかねない様な、絶対的なパワーカード。

 

 ……それが無くても、デッキは成立するだろう。

 だがしかし、さらに一歩上に行くには、いざと言う一戦を制すためには。必要になるのは間違いない。エースとはまた別の確かな『切り札』が欲しい。

 

 膠着した状況を打開するまくり札でもあり。

 幾つも仕掛けられた罠を突破する詰ませ札でもあり。

 使うタイミングによっては囮札としても使える……如何様にも活かせる、相手に警戒させるだけの強い一手が、足らない。見いだせない。

 

「……不甲斐ない。委員長に手伝って貰って、『最高のガンプラ』は出来つつあるってのに肝心の俺が……『ガンプラを作る』本人が、画竜点睛を欠いてんだ……っ!」

 

 それが、ただただ、苦しい。こんなにいい友人に迷惑かけて、それでも尚、最高の切り札に思い至らない自分が、情けない。空になったマグカップを、両手で握りしめて八つ当たりする事しか、出来ない。

 

 俯いた顔が上げられなかった。

きっと今、俺は誰よりもしょぼくれた顔をしてる。こんな情けない面は、流石に彼女に見せられない。

 

 ……それから暫く。

 無言の時間が続いた。

 今、口を開いたら、もっと情けない泣き言が溢れそうだったから。必死になって、何か別の言葉を探そうとして……見つからなくて。

 

「……さっきも言ったけど」

 

 そんな中で。やっぱり先に口を開いたのは、委員長だった。

 

「コレは私が『好き』で付き合ってる事だから、そこは気にしなくていい。そんなものを負い目に感じて、余計に苦しまれてもこっちは困るだけ」

「……っ、それは……」

 

 ……言葉通りの意味なのは、分からない訳がない。勝手に苦しんでるだけ。勝手に迷惑かけてると感じてるだけ。俺の心が弱ってるのが、原因だ。普段はそんな迷惑なんざ考えず好き勝手やってるくせに。

 でも。今の俺は……『答え』を出せないと、そんな温かな励ましの言葉でも、立ち直れる気がしない。

 

「――その上で。私が言う事を、良く聞きなさい」

 

 だけど。

 委員長の、その静かな言葉は。何故か、その時だけ酷く、よく聞こえた気がした。

 




ヒロイン回にしようと思ったら主人公が出しゃばって来て笑うんすよね……今日はこれで良いか(満足)
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