遊戯王 ビルドモンスターズ   作:最近の虫野郎

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23ターン目 「『遊戯』だからこそ」

 はっ、と。思わず、顔を上げて、隣を見る。

 欄干に腕をかけ。眼鏡越しに此方を見る委員長の瞳は――とても、透き通っている。こんな愚痴っぽい事を聞かされた事に、負の感情を一切感じているようには、見えない。

 ただ、俺の事を真っすぐに、見ていた。

 

「委員長……」

「勝ちたいと思うのは当然の事よ。でも今のアンタは『ガンプラバトルに勝ちたい』って事に拘り過ぎてる気がする」

 

 くるりと振り返り。持っていたマグカップを、そっと室内に置き直してから……委員長はさっきよりも一歩。詰めた距離に、ゆっくりと体を寄り掛からせた。

 

「拘り過ぎてる……?」

「アンタ達は、ガンプラバトルっていう枠の外から来た。従来のガンプラバトル、その重力に魂を引かれてなかった」

 

 ……まぁ、そりゃあそうだ。俺達は元々畑違いで、ガンダムの事を勉強したって言ってもガンプラバトルのセオリーだとか、そう言う基礎的な所を固めてる暇はなかったし。経験の浅さは間違いなくある。

 

「私たちみたいな、『ガンダム』っていう常識に浸かり切ったファイターを、旧来の……『オールドタイプ』とするなら。アンタ達は……『ニュータイプ』って言い換えてもいいかもしれない……新たなフロンティアにも対応できるような」

 

 ニュータイプ。それは……知ってる。機動戦士ガンダムに出てくる重要な単語の一つ。

確か宇宙での生活に適応し、争う事なく他者と分かり合える……そんな『新人類』を指す言葉だっただろうか。そんな大層なもんでもないのだが、我。

 

「その発想にはガンプラバトルで勝つっていう前提の『枷』は無かった……私達からすればあり得ない、と思うような戦術や改造は、ガンプラバトルの重力の中で育った強敵達にも通じた。ウォドムにレイダー、どれも常識外の改造ばっかりで」

「い、いや……RⅡは兎も角、ウォドムは」

「武器腕に加え、頭までマグナムにするのの何処がトンチキじゃないっていうの?」

 

 ……そう言われてしまうと、ニュータイプって言葉になんか『トンチキ野郎』っていう意味が含まれている様に聞こえてくるんだけど。流石にちょっとクるぞ? 今だったらどんな言葉だって対して効果が無い訳ではないぞ?

 

 ――でも、と。

 委員長は、そこで言葉を区切り。少しだけ……困ったように眉を下げて、ふにゃっと笑って見せる。ちょっとドキッとした。そんな可愛い顔、出来たんだ。

 

「それが、凄かった……ううん、だから凄かった」

「え……」

「ドキッとしたよ。誰にも出来ない様な『ガンプラバトル』で魅せてくれて……何よりあの日、アンタ達二人が一番、ガンプラバトルを――キラキラした顔で、『楽しい』って顔して遊んでた」

 

 ……何も言えなかった。

そんな風に思ってた、なんて思わなかった。委員長に負けた戦いは、俺達にとっても未熟さを痛感する戦いで。楽しかった思い出だけど、苦い思い出でもある。

そんなしょうもない戦いを見せられて。でも委員長は優しいから、俺達の努力は認めてくれて、それで付き合ってくれて――そう思ってた。

 

「アンタ達はあの時の敗北から『勝ち』を求めてるんだと思う……ううん。ガンプラバトルに打ち込む中で、『勝つ事』に終始し始めてる」

「それは……」

「勝ちを求めようと悩むのは悪い事じゃないよ、当たり前の事だと思う」

 

 でも。それだけだったのだろうか。

 『好き』で付き合ってる、って言う委員長の言葉に、嘘が無いのだとしたら……

 

「でもそれだけってのはちょっとアンタらしくないし……寂しいなって思った。あんなに楽しそうにガンプラバトルしてたのに。だんだん余裕とか、遊びとかが消えてくのは」

「委員長……」

「私は、楽しかったよ。アンタと久しぶりに遊べて……夢中で色々するの」

 

 見つめる瞳同士が、ぱちっと合う。

 

 解けた黒髪を揺らしながら微笑む委員長はまるで……昔に戻ったようだった。

リュウザキと俺と遊んでいた頃。俺達がめっちゃ迷惑かけてて……それでも、最後には笑って付いて来てくれたあの頃。本当にちっちゃい子供の頃のように――その優しい微笑みが月明かりの中で、とても綺麗に見えて。

 

「最初に自分のガンプラで戦った時は、どうだった? 自分の『遊戯王』っていう世界をガンプラで表現して、私とやりあった時……そんな辛そうな顔、してなかった」

「……」

 

 ――ふと、思い出す。

 

 ウォドム・リボルヴを動かしていた時。そんなの、直ぐに分かる。初めっからこんな余裕もなく必死になって戦ってたら、勝ちたいと思わなかっただろうし。真剣にやってみたいとは思えなかっただろう。

 じゃあ……どうだったか? そんなの、俺が一番よく覚えている。

 

「……そうだよ。楽しかったけど、でも」

「楽しかった? 過去形じゃダメでしょ。アンタは。それこそ……『好き』って物を追及してたじゃない――ずっと、私に怒られても、なんでも」

 

 ……自分でギミックを考えて、作って、動かして。何よりもそれが楽しかった。

 何よりも楽しかったあの時に。有効か、通用するか、何よりも勝てるか――そんな事を考えていたか? いや、考えてはいただろうけど。

それよりも何よりも。

 

「俺の『好き』を最優先してた……」

 

そんな俺の初めてのデュエリストの『好き』を形にしたのが。初めての愛機、ウォドム・リボルヴだった。

命中精度に汎用性、あらゆるモノを度外視し、再現性と、何よりもカッコよさを追求したギミックと改造。自分の頭に思い描いたモンスターが形を成した時、どうしてあんなに嬉しかったんだろう?

 

 翻って、今の自分はどうだろうか。

マジで勝ちに行って、一切の余裕も見せない、フェイバリットカードを活躍させる為のデッキを作って、最後にフェイバリットカードを抜いて完成だとか……そんなテンションになってやしないか?

 

『好き』って気持ちを、過去形にしちゃいないか?

 

「勝つことは当然、大切よ。でもあんたの根本はそこじゃない――『好き』を追い求める事が、アンタの『原動力』なんじゃない?」

 

 そんな俺の気持ちを察しているかのように……委員長は、そう口にした。

 

「ガンプラバトルは『戦い』じゃない。『遊び』なの――何よりも『好き』で『楽しむ』事が一番だから」

 

 ……戦いじゃない。遊戯。

 遊戯王だってそうだ。顔向き合わせてデュエルしてりゃ、ともすれば言い争いに発展する位に熱が入ってしまう事なんて幾らだってある。それだけ真剣になれる。

 

 『勝ちだけ』に徹するなら、どんなやり方だって取れる。先行ワンキル、グッドスタッフデッキ、全ハンデス……それこそ、相手が悲鳴上げて遊戯王を止める様なえげつない戦術ばかりだ。さらに遊戯王のルールを悪用して、反則勝ち――なんて例もあった。

 

 俺が楽しくやってる遊戯王は……そんなに殺伐としたカードゲームだろうか。

いいや、違う。自分の使いたいカードを活かす構築で大事故余裕、開幕の五枚ドローでは二人して汎用札塗れの手札を引いて『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!』とか叫んで、後は只管ドローフェイズに坊主めくり。漸く引けた展開札一枚に一喜一憂する……

 

そういうのが、一番楽しいんじゃないか。

 

「アンタが真剣にやりたいと思ったなら。勝ちたいと思ったなら……先ずは――」

「――『好き』を何よりも優先しないと……か」

 

 自然と、その次を継ぐように、言葉はあふれ出た。

 

 顔を上げる。

 委員長と視線を合わせる。

 一瞬の間が空いてから……お互いに、ニヤッと笑った。

 

「……はっ、なんか。遊戯王でも似たような事に陥った事あるなぁ、俺。分かりやすい」

「なんでもそうよ。真剣にやりたいと思って余裕が抜けて、『好き』を忘れる。私も昔はそんな時期、あったもの」

「そうか、委員長もかぁ……」

 

 ほっと一息を吐く。

 喉の奥に詰まっていた悪いものが、そこからすぅーっと抜けていくような気がする。

 

 まだ『切り札』の問題が解決した訳でも無いけれど、

 コレから自分が、どっちへと進んで行けばいいのか。それだけは、先ずはっきりと見えてきた。

 

「自由にやんなさい。楽しんで。自分の『好き』でも押し付けるくらいが、ちょうどいいんじゃないの。アンタなら」

「そーだな……うん。きっとそうだ」

 

 今なら――アイデアが思い浮かぶ。幾らでも。

 

 向かうべき方向が見えたなら。この足は何処までも動く。さっきまで全然、何も見えなかったのに……一つデッキのテーマを決めたなら。そこから、するするとデッキの大枠が出来上がっていくように。

 曲者揃いの世界大会にも負けない。曲者どころか『常識外れ』のアイデアが、湯水の如くに。あぁ、こりゃあいかん。湧き出過ぎて、泡みたく消えて行っちまうじゃねぇか……!

 

「――委員長! ホワイトボードに書いてたアイデア全部消してくれ! 今浮かんでる奴を全部外に向けて『掻き出す』! チリみたいなアイデアでも残したくない!」

「……はいはい。やる気になったと思ったらこれなんだから。ホント、昔っからこうと決めたら猪よね、アンタは」

 

 自分のマグカップを、委員長の奴の隣に置いてから、室内へと踏み込む。

 呆れたような声に背中を押され、やる気のままに、ホワイトボードの横に立てられたペンをひっつかんで、蓋を開ける。思い浮かべるのは――最強のマイフェイバリットの姿。

ガンプラとしてではなく……『遊戯王』として!

 

 

 

 

 

 

 

「……イオリ君達に言わなくて良かったの?」

「何言ってんだよ。これからイオリ先生たちは白熱の決勝戦だ! その予定苦しくさせてまで見送りに来て貰うのも申し訳ないさ」

「せやせや。それにこういうのは、誰も知られない内に、世界で活躍して戻って来て――圧倒的な成長を見せつけるって言うのが、お約束なんやで?」

 

 空港のロビー。

荷物をパンパンに詰めたスーツケースを片手に、見送りの委員長に向けて二人して不敵に笑う。正直、『新作』の調整をしなきゃならんところで見送りに来て貰うのも申し訳なかったが――流石に無粋だと思って、その言葉は飲みこんだ。

 

「知らないわよそんなの……じゃあまぁ、帰って来た時に、イオリ君もレイジ君も、纏めて度肝抜く位の成長、見せて来なさいな――行って来なさい!」

 

 リュウザキと共に、ばしんと肩を叩かれる。

 気合十分。勝利の女神の勝気な笑みも選別に頂いた――向かうとしよう。

 

「おう!」

「世界のロクデナシ共相手に、腕磨いて来たるわ!!」

 

「「いくぜぇ(でぇ)、エジプトぉ!! WWF(ワールドワイドファイターズ)!!」」

 

 一足お先に、世界へ!

 

 ……さて、姉貴に連絡しよ。俺達の乗る飛行機どの便か忘れちまったし。絶対怒られるだろうなぁ。

 

 

 

 

 

 

「――ったく。ホントあいつ等は」

 

「あ……もしもし? うん。二人とも行ったよ……付いていかなくて良いのかって? 私は私で準備しなきゃいけないの知ってるでしょ。調整だってあるんだし。手伝ってよ」

「それで……うん。そっか。ラルさんがお知り合いに頼んでくれたんだ……それなら取り敢えず安心かな。公正審判員の誰かとか? え、違う? そう……」

 

「うん。それじゃ。『WWF』の事とか、色々教えてくれてありがとう。そっちも『ネメシス』……だっけ。その件頑張ってね、『お母さん』」

 




世界で行われる性質上表に出にくい大会の詳しい治安とか、日本の一学生がそう知ってる訳もないですし。まぁそれについて良く知ってる大人が近くに居るだろうという事で……一応元ネタは遊戯王からになるとは思います。
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