遊戯王 ビルドモンスターズ   作:最近の虫野郎

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24ターン目 「エジプトよこんにちは」

 ――エジプトッ!!

 

 嘗て、アフリカはナイル川付近に栄えた偉大な文明の末裔! ピラミッド、スフィンクスとかが有名! 世界で一番降水量が少ない国でもある……らしい(宿泊先ホテルにて入手した手元のパンフレット参照)

 遊戯王原作においてはかの三幻神や、名もなきファラオの出身がここである。その物語の中でも、かなり重要な場所であり、キーポイントとしても名高いっ!! 

 

 そして!

 

「……姉ちゃんマジで置いてくじゃんかよ。全く」

「しゃあないやろ。用事があるっちゅうんやから……まぁこっちには、地元出身のマリクがおるから百人力や! ホテルからの案内、頼むでエジプト出身のジャパニーズ!」

「あー……うん。えっと……」

 

 我ら姉弟の出身地、実家なのである。此方、エジプトは。

 まぁ、WWF今回の開催地である、エジプト第三の都市であるギーザと比べれば、ちょっと比べるのが双方に申し訳ないレベルで余りにもド田舎で辺境である……『らしい』。我が実家がある場所は。まぁ、墓しかないレベルのド田舎らしいし。姉の話が本当なら。

 

 乾燥地帯に対応してなのか、日本よりもちょっと濃い茶色で統一された色の建物群が並ぶ十字路――その先に、堂々と見えるピラミッド。距離的にも、文化的にも、地理的にも日本とは遠くかけ離れたこの地で、俺は生まれた。

 

「……」

「……なんや? どないしたマリク」

「いや、覚悟を決めてただけだ……行くぞリュウザキ。ここから会場までの道のりだけは何とか昨日頭に叩き込んでおいた……っ!」

「ちょお待てぇやおい」

 

 ……尚、生まれただけであり、特段ここらへんに詳しいという事は決してない。

 

「どない言う事や。ここ生まれや言うとったやないか」

「生まれたのはここだ……が、物心つく前に姉と俺と両親は日本へと引っ越して、俺が育ったのは殆ど日本なんだ……っ!」

「本当に生まれたのがここってだけかい!!!」

 

 さよう。

 と言う事で、俺はエジプトにクソほど詳しくない。多分新任どころか教育途中のガイドさんよりも浅い知識しか持ち合わせていない。当然、ここら辺の道なんざ欠片も分かる訳もなく、散歩でもしたら七割くらいの確率で迷う。

 

 ……と言う事で、時差ボケを解消する為の一日の間に、今日に向け最低限の挨拶と道のりだけは全て叩き込んで来た。なおヒノキの棒よりも頼りないレベルなのは否定できない。

 

「なんちゅうこった……宝玉獣の展開の確約度より頼りないやんけ……!」

「自覚はしてる。だが仕方ないんだリュウザキ、ここは異国、俺達の手で切り開かない事には誰も助けちゃくれない……っ!」

 

 もしかしたらホテルの入り口の前に立ってる、『あれ、大丈夫かな』とちょっと不安そうな顔をしている優しそうなボーイさんに声をかければ何とかなるかもしれないが……もしガチガチの現地の言語が飛び出そうものならデッキの上に手を置いてサレンダーするしかないので、流石に頼る訳には……っ!

 

「――失礼。其方のお二方」

「何ぃっ!? エジプトのボーイが日本語をぉっ!?」

「ちゃうちゃうマリク、後ろや後ろ」

「えっ、あっ」

 

 ……とか色々葛藤していた所にかかる突然の母国の言葉……が、どうやら背後のボーイが超絶有能ホテルマンだったわけではなく。リュウザキの言葉に、背後を振り返れば。何時の間にか、俺達の後ろにスーツ姿の精悍なおじさまが立っていらっしゃった。

 

「イセタ・マリク選手とセコンドのリュウザキさんでお間違いありませんか」

「えっと……は、はい」

「そうですけど……」

「あぁ、良かった。お待ちしておりました、お二人とも。お迎えに上がりました」

 

 そう言って、ゆっくりとおじさまは綺麗なお辞儀を一つ。釣られて、俺もリュウザキもお辞儀を披露しそうになって……そこでハッとなる。

 俺達はここのホテルに泊まるだとか言うのは誰にも教えてない。そもそも、ホテルの予約をしたのはWWFの方で、セキュリティの万全な宿泊場所を向こうで用意してくれるという話だった筈。

 それが、俺達が出てくるのを待ち伏せてる、だなんて……露骨に怪し過ぎる!

 

「誰だアンタっ!」

「噂のガンプラマフィアかいな!」

「俺達、特に金目のものは持ってませんでお手柔らかにお願いします!」

「……自己紹介が遅れまして申し訳ない。私はWWF運営委員会の者です。お二人を会場へご案内するようにと申し付かっております」

「「えっ」」

 

 思わず間抜けな声が漏れる。

 ぱちくりと目をさせると……手渡される名刺。PPSE社の名前と、おじさまの名前(磯野っていうらしい)と、PPSEの『警備部』所属である事が、バッチリと記されていた。

 

ちらり、とおじさまの後ろを見てみると……逆にツヤツヤし過ぎて無いのが高級感マシマシの、黒塗りの高級車が一台停められているのが見えた。

そして車の側面後方辺り、小さく、目立たぬようにだが、PPSE社のロゴが、白文字で描かれているのも見えた。えっ……マジの『お迎え』……?

 

「さ、お早く此方へ――B1。これより車両にお二人を案内する。警戒を怠るな」

「えっ、えっ、えっ? はっ? ほへっ?」

「……ドッキリ? えっ、マジ? マジなんコレ?」

 

 呆然として、反応も返せないで……取り敢えず、促されるがままに、目の前の高級車に向けて、足を進めていくと……誰も触れていないのに、勝手に扉が開くのが見える。

 いや、同じようなスーツを着込んだ男の人が中から扉を開けてるんだ。あぁ、運転席にももう一人いる、三人態勢? いや、連絡取ってる人も別にいるみたいだし……なんこの厳重に固められた送迎。えっ、俺って何時の間に海馬社長になった? いや、あの人だったら護衛なんてお邪魔引き攣れず単独行動重点か……じゃなくて!

 

「さ、此方に」

「は、はぁ……」

「失礼します……?」

 

 車に乗り込む。嫌な臭いもしない。籠った感じも無い。車酔いしないタイプの、いい車だというのを、ここで改めて感じつつ……リュウザキと共に、取り敢えず詰めて座ると、それを確認したかのように、静かに、しかし素早く後部座席の扉が閉められた。

 それから磯野さんが、前の助手席に座って、扉を閉めると……それを合図にしたかのように車が静かにスタート。車に座って発進するまで、凡そ三十秒もかかっていない。スムーズで、凄い、プロって感じがする……のは、イイんだが。

 

「……あ、あの~……磯野、さん?」

「なんでしょうか」

「あの、俺達って、一般の参加者で……PPSE社にホテルの選定とかはして貰ったんですけれども……そんな、あの、マジで、ただの学生で」

「そ、そうなんです。別にVIPとかそういうんちゃうんです」

 

 うん。こんな一般学生が、ガチの高級車に乗せられて、身辺警護付きで会場まで送られるって言うのは……えっ、あの、まだ状況呑み込めてないんですけどオイラ達。

 

「何なら護衛とかも……」

「いえ。コレは一般参加者の皆様全てにご提供しているサービスです」

「「全てぇっ!?」」

「はい。嘆かわしい事ですが、本大会の現在の性質上、一般参加の敷居は高くなってしまいまして……それでも正しく我々の商品を愛してくださっている方にご参加いただける事は我が社にとっても大変喜ばしく、その感謝を形にしていると思って頂ければ」

 

 その言葉に、二人して顔を見合わせる。

 委員長から、大会の内情は聞いてはいる……いたのだが。しかし、一般の参加の方が流石に多いだろうと、二人して何処か楽観視していた。

 ……が、にこやかな磯野さんの表情を見る限り、俺達の認識は甘かったらしい。

 

「……な、なぁ」

「おう。なんや、暗雲立ち込めて来たのう……」

 

 隣に座る屈強な男の人を眺めつつ。

 若干、エジプトに降り立ったことを後悔しそうになっていた。

 

 

 

 

 

 

「――此方です」

「いやぁ、なんかすみませんね。案内まで」

「いえいえ。この会場から、ホテルまで改めて送り届けるまで、しっかりとお供させて頂きますので」

「……ガンプラバトルって、こんな物騒なんやな」

 

 結局、磯野さんはそこからPPSE社のエジプト支部、そこに設営された会場、更にはその中での案内も請け負ってくれた。

結構大きな集合場所の建物の周りは、出店と言うか、露店に溢れてお祭り会場の様になっており。ガンプラバトルの人気をひしひしと感じるアレだけの混雑……彼がいなければ迷っていたかもしれなかった。そう言う意味で、本当にありがたいと思ったものだ。

 

「さ、この先が会場です。受付を済ませた後、概要の説明まではご自由に。中でのトラブル等は、我々が常に目を光らせ、対処いたしますので」

「あ、どうも」

「ありがとうございました?」

 

 ……まぁ。それは兎も角。

 エジプトの砂色な景色から一転し、白く清潔感に溢れた廊下。明かりは灯っていない暗がりを、磯野さんの先導で真っすぐに進みながら……感じている。俺の心臓が、分かりやすく高鳴っていくのを。

 

 扉が見えてくる。それと同時に耳に僅かに届いたのは――人のざわめき。

 この先で待っているのだろう……WWFに野望を賭ける、荒くれ共たちが。

 

「B1より連絡。警護対象が会場に入る。念を入れ警戒を怠るな――ではどうぞ」

 

 襟元のマイクに向け一言。その後に、のっぺりと飾り気のない扉、そのドアノブに手をかけてから……磯野さんがゆっくりと奥へと、開いてくれた。

 

「――いくぞ」

「おう――叩き潰したる」

 

 その先から溢れ出す光に、リュウザキと目を合わせ。共に頷いてから……お互いに合わせるように、二人で一歩を踏み出す。一瞬の躊躇すらない。

 

 この先は――『世界レベル』の為の舞台だ。

 曲がりなりにも、世界大会への切符を求めて来た猛者共の巣窟だ。そこへ踏み込むこの一歩すら躊躇うようなら、勝つものだって勝てないだろう。

 

 ならば。止まっちゃいけない。いっそ無鉄砲なくらい、真っすぐに、扉の先へ――

 

「「――っ」」

 

 ――差し込む光。

 

 暗がりに目が慣れていたから、目がくらむ。天井からの明かりを手で遮りつつ、もう一歩を踏み出せば……耳に聞こえるざわめきが、波が引いていくように収まっていくのを感じる。僅かに眉を顰めながら。ゆっくりと、目を開く。

 

 滲む視界が、だんだんとハッキリと見えてくるようになっていって……

 

「――うぉおおっ……!」

「こ、これがっ……!」

 

 思わず、呻き声が漏れた。

 

 日本でいう所のビッグサイトの様な,多目的アリーナの様なだだっ広いコンクリート打ちっ放しの空間。その中に……いるわいるわ。

 黒のトレンチコートにサングラスを身に着けた、明らかに『裏』って顔のオッサン。

 頭に鉢巻を巻いたり、肩に揃いの刺青入れたりと、堅気には見えないチンピラの集団。

 髪を短く刈り込んで、若干でこっぱちだけど顔の彫りが深くてちゃんと怖いおじ様。

 

「おるおる……何ちゅう数……!」

 

 思わず、と言った様子で仰け反りそうな勢いで慄いているリュウザキの気持ちも分からんでもない。俺も若干腰が引けそうになってる。

 パッと目についたそう言った濃いメンツの他にも色々と、ガラの悪そうなお兄さん方がそんな無機質な色の会場いっぱいに詰まっているのが……その数、恐らく三桁は下らないだろう。

 

 ……集まっている奴のガラの悪さも驚いたが、しかし、それ以上に驚くべきは、そんなアウトロー共が、この会場を埋め尽くす位に集結しているというその事実だ。

 ここにいる奴らは、委員長の話が正しければ、ガンプラで悪い事をしている――逆に言えば、それが許されてるレベルの兵ばかりだ。

 

 『小世界大会』……かつてそう呼ばれていた頃もある、とラルさんは言っていたけれども。その頃のレベル、もしや今でも全然健在なのではないだろうか、コレ。単にガラの悪い奴らが集まる様になっただけで……

 

「……と、取り敢えず、受付行くか」

「……せやな」

 

 周辺から飛んで来る視線が、まるでバーンデッキのように自分の心をゴリゴリと削っていく。若干吞まれそうになっている自分を『頑張れ今ここで逃げるのはちょっとスピリットモンスターより場持ちが悪いぞ』と鼓舞しつつ。

会場へと……非情に重たくなってしまった足を一歩、踏み出した。

 




自分のエジプトのイメージは、ジョジョと遊戯王で構成されております。
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