遊戯王 ビルドモンスターズ 作:最近の虫野郎
……落ち着け。今は兎も角、最優先でやるべきは俺達の受付だ。大会に参加しなけりゃそもそも戦いの舞台にも立てん。切り替え切り替え。
くるりと周りを見回す。
受け付けは……あった。っていうか、ご丁寧に日本語でも書いてあった。
しかし、態々大会参加するって連絡した俺達にホテル用意してくれるなら、その時点で大会参加登録してくれてもいいと思うんだけども……まぁ自分の意志でここまできて、現状を見てそれでも受付したっていうのが大切なんだろう。多分。
「名前、日本語で良さそうだな」
「用意しとった英語表記は無駄になりそうでなによりや……」
置いてある名簿を遠くに見ても……やっぱり、国際色豊かな文字が並んでいるのは何となく分かる。言語を統一しなければならない、と言う話でもなさそうだ。
日本語という身近な文化を見たおかげか。歩みを進める間にも、二人して、若干落ち着きを取り戻せた。単純だけど、こういうのって結構大切なんだなぁ、と。
『――へへへ』
『おいおい、待ちなよ坊や達』
思ったところで、だった。
俺達の進む先に、二人組の男達が割り込んで来た。
ポケットに両手を突っ込んで、若干の前傾姿勢でこっちを睨む、禿げた頭にバンダナの水兵崩れ風と、威圧的にこっちを見下ろす、ゴツイ肉体にミリタリー風の下、上はタンクトップオンリーの髭モジャ。
周りの強面の中でも、まぁわっかりやすくチンピラ雰囲気が溢れだしている二人組。おっコレは意外にも親切な外国人さん枠――な訳ないよな。うん。すっげぇ小馬鹿にされてるのが分かり易いニヤニヤ笑いだし。
……流石に良く観察しなくても分かるオラオラ系の輩。ちょっとした『洗礼』って奴だろうか。が、ここで変にビビってはいけない。
無駄に暴れるだけの厄介者なら、とっくに磯野さん達PPSE社の人達に摘まみ出されてるだろう。つまり、この会場で大喧嘩を仕掛けない位の理性はあると判断しても大丈夫じゃないか……と言う事で、選択肢は一つ。
「どうも――それじゃ」
「邪魔するで~」
ここはスルー一択高校である。
俺達受付しに行くだけだし。別にこの怖いおっさん達に関わったりとかする必要も特にない。取り敢えず、今はちょっと頭だけ下げて、脇を抜けようとして――
『っとっとっとぉ、待ちなっての』
『Hey……ツれねぇな』
しかし、失敗。俺の目の前に水兵崩れ、リュウザキの目の前に軍人擬きが、改めて歩みを阻む様に立ちはだかる。うーん、失敗……やっぱダメか。これで『あ、はいそれじゃあ』で通れたら最早コントだし。
……っていうか、うわ。なんか他にも集まって来てる。十人くらいか。こいつらの脇を固める様にしてる辺り、流石に知り合いじゃないってことは無いだろうが。
うーん。これは本格的に通れなくなってしまったようだ。今度は脇を駆け抜けて逃げるつもりだったが、こうなるとそれも無理だ。くっ、デュエリストたるもの、勝負を挑まれれば逃げる事は許されないのか……なんという因果……! いや勝負ですらないけども。
『あ~ん、ハイスクールくらいかぁ? 自慢のガンプラを試してみたいってか? イイねぇ若いねぇ……ケツの青いガキ共のションベン臭い夢の匂いがプンプンするぜェ、ひひっ』
『ここは子供の遊び場じゃねぇぞ、ジャパニーズ。さっさと帰ってママのおっぱいでも吸うか、アイドルの写真でマスでもかいて寝てるんだな』
とか考えていると。げらげら、と。二人組はこれまた悪意たっぷりに顔を歪めて笑い出した。おお、すげえ分かり易い嘲笑だコレ。
吐き出された笑い声に合わせるみたいにして、周りにいた男達も一緒に笑いだす。見下ろすって言うか、もう見下すレベルの視線の雨あられと共に、歯を剥き出しにした笑顔は、どれもこれも『悪役』そのもの。
委員長が此処を勧めなかった理由も改めて分かる気がした。ここじゃ大会参加者への『ちょっとした』恫喝くらいは、日常茶飯事なんだろうな、と。向こうに取っちゃそれで数が減れば御の字と言う事だ。
顔を見合わせ、肩をすくめる。
「……馬鹿にされとるなぁ、こりゃ」
「だろうな……」
まぁ、俺達みたいな若い学生がこんな所に来るって事自体が向こうさんからすりゃあお笑い種って奴であろう事は分かるし……こうやって適当にビビらせりゃ退散するだろうと思われても仕方ないし。うん。それは、察しが付く。
「……まぁ、残念な事に」
「それくらいしか分からんのやけどな。うん」
……が。こちとら日本の男子高校生である。そこしか察しは付かん。
教科書レベルの、とっても聞き取りやすい英語ならまだしも……明らかに分からん単語とかが混ざりまくった現地の英語なんざ、ハッキリ言おう。
サッパリと分からん!!
何だったら単語の一つも聞き取れん!!
更に何処で区切って聞いていいかも分からん!!
ジャパニーズ、とか、一部の単語だけならギリギリ聞き取れたけど、それ以外は言語として認識できてるかも怪しいくらいで。まぁだから、向こうの挑発の効果もなんていうか、半減も良い所って言うか。なんか良く分からん事を、聞こえる前提でべらべらと喋ってるだけにしか聞こえないから寧ろ逆効果って言うか……
「……どないする?」
「いやぁ……どうするって言ってもな」
適当に返事しても意味ないし……というか、文句言いたい訳でもないし。退いて欲しいだけなんだよなこっちは。だが明らかに悪意を持って通せんぼされた事は、先方の反応で凡そ分かる訳で。
……これトラブル扱いで良いのかな。いやでも、目の前のこいつ等もここにいるって事は参加者なんだろうし、流石に通せんぼされただけで呼びましたとか、こっちが文句言われるまであるんじゃねぇのかなぁコレ。
つまりこれは……自力解決案件って奴か!
「……取り敢えず退いて欲しい事だけ伝えておこうぜ。それでダメなら磯野さん呼ぼう」
「せやな……って、そうは言うけどや。英語で言えるんか?」
「バカにすんな。流石に日常会話で使える英語くらい覚えて来てるってんだよ」
――エジプトに渡るにあたって、流石に世界共通言語と言っても良い英語くらいは習得して来てる。相手も英語使ってるし、流石に意味も分かるだろう……うん。
えーっと、あんまり長い単語を言うのも失敗しそうでやだし……『move』だけでも退いて欲しい意は伝えられるんだっけか。で、流石にこれだけだと短すぎるし……『please』がお願いしますって言う意味なのは知ってる。じゃあ、これと組み合わせて。後、聞こえ易いように、一つ一つ強調する感じで。
『――退け。オ・ネ・ガ・イ・シ・マ・スから』
っと……こんな感じか多分。ちゃんと言えたかな。
『『……』』
「……どうかな」
「ええんちゃう? 聞こえ易かったわ。俺でも聞き取れたで!」
「そっかそっか! なら良かった……?」
……あれ?
な、なんだ? 周りの男達が急に真顔に……っていうか、アレ? なんか、全方位から睨まれてないかコレ? 冷えてる? もしかして俺の周りの空気、冷え切ってる? なんで? 俺ちゃんとお願いしたよな!?
『――このガキ。舐めた口を』
『中々言うじゃねぇかジャパニーズ……! ママのおっぱいなんざもったいねぇ、その減らず口に靴先をぶち込んでやるよ……!』
「いやいやいや!? どうして怒ってんの!? ちゃんとお願いしたよね!?」
「知らんわぁ!? なんでゲンコツ鳴らしとんねんこのオッサン!?」
ち、チクショウっ……迂闊に使いなれてない言語を使ったのが敗因かっ……説得失敗で後はバイオレンスしか待ってねェ!! パンピーの俺ら圧倒的不利! 先行番長の癖に魔法カードしか来なかったラビュリンスレベルで不利!
クソ、受付がしたかっただけだというのに……いったいどうしてこんな事に……俺達が一体何をしたってんだ! ブッダは寝ているのですか!
「しゃーねぇ一旦逃げるぞ!」
「磯野さん探すしかないか!?」
「情けねぇが、参加する前にノックアウトされるよりは――」
『――そこまでだ』
……が。
振り返った先を塞ぐように――もう一人。
「「うげっ……!?」」
『……ふん。随分と生意気な口を叩いたものだ』
見覚えがあるのは、眉間の皴。
間違いない……さっき会場で見た、神経質そうな男。こいつらの仲間だったのか。
退路を断たれた……が、それでも相手はたった一人。こっちは二人。俺もリュウザキよりもタッパはあるが、それでもどっちもまとめて抑える程にデカいって訳じゃない。。
何とか押し通れないか――と思った、が。
「うっ」
踏み出そうとした足が、止まる。
正直、見た目は比較的普通だ。
後ろに撫でつけられた黒髪に、キツそうな面。
皴一つ、染み一つない真っ白なワイシャツに、片手だけに付けた黒手袋。グレーのズボン。そして黒のブーツ……目の前の奴らよりも、圧倒的にどシンプル。
だってのに……なんて言えば良いのか。抜けられる気が、しない。こういうのを、『隙が無い』って言うのだろうか。
あの、欧州系の彫りの深い瞳に睨まれると……射竦められたみたいに体が動かなくなる。
俺は特に感が良いとかじゃない。けど。肌がびりびりするような……この男の全身から発せられる、この異様な迫力は分かる。間違いない。このオッサン、後ろの二人とは『格』ってもんが違う。
『そこを動くなよ――』
一歩、一歩と……男は此方へと、堂々とした足取りで。進んで来る。
ごきり、と。片手から音が鳴るのが聞こえた。
やられる。
咄嗟に、目を閉じて、顔に飛んでくるかもしれない衝撃に備えようとして――
「――待たせたな! ヒヨッコ共!」
……ぎゅっと目をつぶった、その瞬間。
ぽふ、という軽い音と共に頭に置かれたのは、酷く優しく、力強い掌の感触。目を見開いて、ぱちくりとさせてしまう。
ちらりとリュウザキを見る――どうやら向こうも同じようされたらしく、呆けた様な面をしてるのが見えた。とてもこっちに敵意やら何やらがある様な手つきじゃない。
まるで――そう。後輩を褒めるオヤジ店長みたいな、そんな優しさすら、感じた。
そのまま男はするり、と俺達の隣をすり抜けてから。
此方へと迫ろうとしていた、チンピラ達の前に、立ち塞がったのだった。
俺にとっての大佐は『情けない奴!』ではなくこっちの御方だァ!!!
ぶっちゃけ逆シャアの総帥時代が一番カッコいいんだよね、赤い彗星……