遊戯王 ビルドモンスターズ   作:最近の虫野郎

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26ターン目 「悪の見本市」

「――待たせたな、ヒヨッコ共」

 

 一歩。

 

「「……はえっ?」」

 

その一歩に、思わず二人して、もう一度背後へと振り返ってしまう。

 颯爽とした足取りだった。背筋を伸ばし、キビキビとした迷いのない歩みのまま、俺達二人の間を通り抜けて……強面親父は、目の前の強面二人の前に、なんて事の無いように歩み出ていく。

 

 ……突然の日本語。ひよっこ共って誰だ。いや、そもそも今は出て行ったら危ない。

色々な事が過って頭の中が上手く纏まらない。取り敢えず、磯野さんを呼ばないといけない事だけは分かるのだけど。このおっさん放っておいて離れるのは流石に――

 

『――馬鹿な……!』

『なんでテメェがっ!』

 

――と、思っていた……んだけども。

 

「……あれ?」

「……ビビっとる?」

 

 これが意外な事に……二人組の方なのである。顔顰めたり、青くなったりして、動揺してるのは。もう俺達なんか眼中にもない。

いや、二人だけじゃない。周りの奴らもざわつきながら、中心のおっさん……いや、おじさんを指さし、神妙そうに頷き合ったりしてる。

 

「どないなっとんねん……?」

「知り合い、とかかな」

「ビビる必要あるか? せやったら」

「……ない、よな?」

 

 リュウザキと顔を見合わせる。当然ながら二人して置いてけぼりである。全く知らない人が、全然知らない無い輩を睨むだけで怯ませてる……分かるのは取り敢えずそれだけ。

 

『――下らん嫌がらせは止せ。貴様らも『ファイター』としてここに参加しているのであれば、せめて舞台に上がって競い合う事だ……それとも貴様らお得意の『商品』について、今からでも追及して欲しいのか?』

『……っ!』

『チッ……!』

 

 ……全く状況は理解できていない。

 が、俺達が呆然としているその間にも……目の前の男一人の一睨みで、じわり、と二人組のチンピラも、周りの強面達も僅かに後退していく。

 

 空気が一変していた。さっきまでの此方を威圧する嫌な感じはもう何処にもない。

突然巻き起こった一陣の風が、吹き散らしてしまったようで――今やこの空間は、目の前のおじさんによって支配されている。

 

『――覚えとけよ。欧州の骨董品が!』

『バトルで会ったら容赦しねぇ……! 覚悟しろ『ヨーツンヘイム』……!』

 

 そして遂に……その空気に耐え切れなくなったののだろうか。それぞれ舌打ちやら、捨て台詞か何かを言い捨てて、散り散りになっていってしまう。ヨーツンヘイム、っていう名前だけは聞き取れたが……何の話だったんだマジで。

 呆然とする事しか出来なかった。色んな事が目の前で起きすぎてて、脳味噌の処理が追い付かない。ただ……分かる事は二つ。

 

 危機的な状況から、俺達は何とかぎりっぎりで助かったっていう事と――

 

「――平気か?」

「……あっ、えっ……は、はいっ!」

「大丈夫ですっ! うっす!」

「宜しい。ならさっさと受付を済ませてこい――そうしたら、そうだな。私がエスコートしてやろう。ヒヨッコの面倒を見るのも、上官の仕事だからな」

 

 目の前で、ニヤリと不敵に笑う『おじ様』は……間違いなく、この曲者揃いの会場内でも格が違う『レジェンド』なんだろうなって言う事くらいだった。

 

 

 

 

 

 

 ――無事、受付も終えて。

 

「――ホント、助けてもらって……ありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

 

 改めてリュウザキと共に、取り敢えずお辞儀と共にお礼を。声を張り上げたのは、せめてこっちの感謝の気持ちが伝わる様にと願っての事。いや、今更ながら、助けて貰えたって言う感謝の実感が凄いのだ本当に……

 

「うむ。良い一礼だ。ヒヨッコにしては礼儀もなっているな」

「「ハイッ! ありがとうございます!」」

「宜しい――後について来い。この辺りにいたら、またトラブルに巻き込まれかねん」

「「ハイッ!」」

 

 返事を返し、先んじて歩き出すその背に続く。

 

 ……うーん。かっけぇ。背がピシッとしてる。

 最初に見た時は『キツそうなおっさんいるなー……』位しか思わなかったのだが。先程の光景を見た後だと、背から覗くそのキツそうな表情も、なんていうか、『渋カッコ良さの極』っていう感じに見えて来て……いかんいかん影響されやすい中坊か俺は。

 いやでもなぁ……実はこういう、いぶし銀的なカッコ良さって、実は触れるの初めてなんだよなぁ。遊戯王って実はイケおじキャラ意外にも存在しないというか……

 

声一つ取っても、腹にずしんと響く低めのそこから、オーラというか、カリスマというか、此方を引き付けるカッコよさが滲み出てる気がして。

このタイプのカッコよさは、多分牛尾さんとか最終形態ボーマンくらいしかいないし、彼らもまぁ『渋み』って言う点ではちょっとだけ、ね。と言う事で、初めて触れたこのカッコ良さに惹かれるのは、仕方なくない?

 

「いやー、ホンマ助かりましたわ……えっと」

「『大佐』だ。知り合いからは、そう呼ばれている」

「はい大佐ぁ!」

 

 いやもうリュウザキに至っては手遅れになってるし。諸々の格付け的なものが終わってしまってやしないか。なんだお前はその人の直属の部下か何か? 

……いや、仕方ないか。あんなスタイリッシュに、そして自信たっぷりに助け出されたなら誰だってそうもなる。俺だって大佐って呼びたい。

 

 それにしても……大佐、か。ラルさんが、ガンプラバーの人たちに『ラル大尉』って呼ばれてて、慕われたのを思い出す。そう考えると、この人もその類だろうか。

 

「……それにしても、敵からも恐れられるレベルってなると」

 

 もしかして今、自分が想像してる以上にこの人って大物? どうなんだろう。

 

 ガンプラ有名人関係はラルさんか委員長が詳しそうだし、今度日本に戻って見たら聞いてみるのもいいかもしれない……と思っていたら、何時の間にか、自分らと似た様な雰囲気の人達が集まっている所に辿り着いていた。大分壁際だな、ここ。

 

「――よし、ここまで来れば安心だろう」

「おぁ~っ! 生き残ったぁ!!」

「アレがマジモンのガンプラマフィアって奴なのか……」

 

 兎も角、何はともあれ助かった事を喜ぼう。

 いやホントあのまま捕まってたら長野の山奥辺りにガッツリと埋められて、纏めてワイトとしてキングの攻撃力を上げる墓地肥やしにされていた可能性も否めない。いや、外国の方だから日本の山じゃなくて外国の何処かではあるんだろうが。

 

 まあでも。こうして落ち着いてから思い出してみると……なんか想像の中のマフィアの印象とは、やっぱり違う気がする。

 

「……怖かったのはホントそうだけど、でもチンピラ臭いというか」

「そっちの方がリアルっちゃリアルやけど……幻想崩れるわー」

「もうちょっと、それこそ大佐の三分の一くらいに大人の渋さがなぁ――」

 

 いやぁ、調子乗ってるのは分かってる。でも漸く緊張が緩んで、余裕も出てきたらこうもなるさ――なんて、二人してケラケラ笑っていられたのは、そこまでだった。

 

「……貴様ら、何を勘違いしているのか知らんが。アレはガンプラマフィアとは別口だ」

「「え゛っ」」

「更に言うならば、マフィアはマフィアでキッチリと会場にいる。あのコートの男などそうだな。まぁ渋さであれば……そこそこか」

「「エ゛ェ゛ッ!?」」

 

 思わず大佐の指差した先に視線を向ける。最初に会場に入った時に見たコートの男。確かにアレは、俺達のイメージするマフィア像そっくりではあるが……じゃなくて!! 別口だとォ!?

 思わずリュウザキと顔を見合わせてしまうのも不思議じゃないだろう。ガンプラマフィアとかのワルが集ってるっていう言う話は聞いてたけど。だからって別のワルグループまで集う事ないでしょうが。

 

「童実野町かここは!?」

「サテライトやろこの末法感!」

「クラッシュタウンと言う可能性も……くっ、何という地獄……っ!」 

「お前達は何を言っているんだ」

 

 あ、すみません我々の知る地獄を羅列してしまって……ははは。

 

 まぁまぁ落ち着け。大佐さんの言う通りマフィアじゃないってんなら、寧ろそこまでビビる事もない。流石にグールズ(国際カード密売組織)とかデュエルアカデミア(融合次元の姿)とか程に気合いの入った悪党って訳じゃ……

 

「……まぁいい。脅威とは認識できている様だからな。あのゴロツキ共は『ダークモビル同盟』、と自らを名乗っている。大層な名前をしているが、要するにちょっとした軍隊程度の規模のストリートギャングだ」

「いやそこまで気合いの入ったバッドボーイおらんわぁ!!」

「軍隊規模はちょっとしたじゃねぇよぉ……」

 

 ナマ言ってすいませんでした。

 なんだよ、想像をはるかに超えてデカいじゃねぇか……! 少なくとも三桁以上の人が集まらないと軍隊規模って言わないよね多分!? あのかなりゴッツイ札付きっぽい人達が!? いや全員いる訳じゃないんだろうけど!

 思わず頭を抱えてしゃがみこむ。想像しただけでもちょっと泣きそうだが……なんというか委員長の言っていた意味を、漸く肌身で理解した気がする。正しく悪の巣窟。想像の三倍近く気合いの入ったワルが大量にいらっしゃる。

 

「それだけではない。違法な賭け試合で勝ち続けて財を築いた熟練のファイター。ルール無用、地下トーナメント連覇を成し遂げたチャンピオン。表舞台で栄華を極めたが、ほんの少しの不運から裏世界に滑落せざるを得なかった、嘗てのガンプラバトルのエース達……」

「ひょぇぇぇえええええっ……」

「こわい……こわいのじゃ……」

 

 量どころの騒ぎじゃなかった。質もバッチリだった。思わず心がのじゃロリになるのを抑えきれない。助けてセキュリティ。いやアレも役に立つかどうか……ガンプラ専門の警察とか居ねぇのかなぁ。

 

「ここは、表舞台の水面下。ほんの僅か、薄皮一枚隔てたその先に隔離されていた化け物共が集う、文字通りの修羅の地……どうだ。少しは危機感が芽生えて来たか、ひよっこ共?」

 

 そう口にした『大佐』の瞳……そのなんと鋭い事か。もうなんて言うかリュウザキと抱き合って子羊の様に震えるしかのうございます。

 全員がユウキ先輩やらイオリ先生レイジコンビやらを超えるレベルで化け物揃い……とは言えないけれども、それに類するレベルのゴッツイお方ばかりしかいないとか。委員長の言った言葉が『遠慮』しての言葉だと漸く理解出来た。

 

「は、はいぃ……」

「いやって程に芽生えましてございますぅ……」

 

 ……漏れ出した声が、あんまりに情けなく震えてしまっているのは、ちょっとだけ……許して欲しかった。

 




ダークモビル同盟はオリジナルではなく、元ネタがあります。
我が心の聖典……試みは良かったと今でも思っています。はい。
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